昔の友は…

ゆきもと けい

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昔の友は…

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さて、私が30年以上前に体験した奇妙な出来事のお話をしてみたいと思います。
ほんの少しだけ、お時間を頂けたら幸いです。

当時の私は東京の大学を卒業し、東京の少し名の知れた商事会社の営業部に就職して5年が過ぎた頃の話です。

 あの頃はバブル景気の真最中で、牛若丸三郎太さんの歌った「勇気のしるし」という歌の歌詞に“24時間戦えますか?”という言葉が使われるくらい、仕事にも遊びにも、世の中がおかしくなっていた時代です。
ちょうど、神宮外苑のイチョウ並木が見頃になった頃、私は東海地方に出張へ行くことが決まり、商品管理部のAさんと外商部担当のBさんと3人での出張になりました。3人とも同期入社ということもあり、普段から仲の良い気の置けない同僚でした。
だからこの出張を少し楽しみにしていたのも事実です。

 本来なら新幹線で行くのですが、その時はいろいろな業者さんを回る都合上、営業車で行った方が便利だろうという事でそうなりました。営業車と言っても、景気の良かった当時は高級車を営業車として使っていました。
出張は2泊3日。予定通りの行動を終え、ある程度の収穫もあり、満足して帰路に着きました。
高速道路に乗ったのはたぶん夜の9時を過ぎていた頃だと思います。途中休憩しながら帰ると、東京に着くのはおそらく、始発電車が走り始める、そんな時間だったと思います。

 高速道路に入るとすぐの電光掲示板に「3Km先事故 走行注意」と表示されていました。
「早速に事故か…でも渋滞はしてなさそうだな…」運転をしているAが呟やき、「でも注意はした方がいいぜ」Bが続けた。「事故をおこしたら何にもならないからな」さらに私も続けた。

 Aは運転好きで復路の運転はAがすることになっていた。乱暴な運転はしないが、かといって慎重派でもない。彼女とドライブに行くと、「制限速度超えてない???」と言われる事もあるらしい…
以前に「制限速度内で走っているやつなんかいないよな」と同意を求められたことがあるような気がする。
Bが助手席に座り、私がその後ろに座りました。

 3Kmほど進むと路肩に赤色灯が回っていました。事故と言っても、バイクの単独事故のようでした。交通量もそれほど多くなく私たちはその状況を横目で見ながら通り過ぎました。バイクの運転手が手振りで何かをお巡りさんに説明している風でした。
しばらくは他愛もない話をしながら走っていたと思いますが、今ではどんな話をしていたかまでは記憶に残っていません。たぶん、女の話とか、どこのディスコにいい曲がかかるとか、そんな話をしていたのでしょう。

 東海方面から東京へ帰る高速道路には2つのルートがあるが、我々は山間のルートを選んだ。
道路は混んでいない。ある意味、飛ばし放題だった。
「あまり飛ばすなよ」Bが軽く忠告するが車の性能が高いせいで、すぐに速度で出てしまう。それは往路の時も同じだったが往路は私とBが交代で運転し、復路はAが一人で運転する約束になっていたのだ。
暫く走ると又、電光掲示板に「20Km先事故 走行注意」と表示されていた。「又、事故か…」Bがボソッと呟き、私が「速度出し過ぎじゃないのか?」と続けた。Aは何も言わなかったような気がする。

 ちなみに、山間の高速道路に設置されているオービスは、120Kmを超えて通過すると反応するらしい。
それから10Kmぐらい走ると、Bが「先にオービスがあるから速度落とさないとマズイぜ」とAに忠告したが、Aはなぜかそのままの速度で走行し、オービスに撮られてしまった。

「だから言ったじゃん」Bはあきれた感じで言った。
あの時Aは何か小声で言っていたような気もするが、良く聞き取れなかったのでわからない。
少し重い空気が流れたと思うし、みんな無口になったような気もする。
交通量は相変わらず少なかったと思う。

 私は後部座席でぼんやりと流れゆく窓の外を眺めながら、ふと呟いた言葉を、今でもはっきりと覚えている。
「そろそろ事故現場あたりじゃないか」
「ああ、そうだったな」Bが思い出したように言った。
しかし、事故があったであろう辺りにはその痕跡は全くなかった。
車も普通に流れている。
事故処理が終わった後なのだろうと、私は思った。

 とその時、突然バーンと大きな音がして、我々の乗っている車の
助手席側のタイヤがバーストした。高速走行でのバーストは命取りになる。車は制御がきかないまま、吸い寄せられるように路側帯の壁に正面から激突、大破した。
私は薄れゆく意識の中で気付いた。
(そうか…あの掲示板の事故表示…事故を起こすのはこの車だったのか…)
と…



(そうそう、あの後暫くして警察に呼ばれたよ。助かったのが俺だけだったからな。
そしてお前が撮られたオービスの写真を見せられたよ。事故直前のお前の様子も訊かれた。
そりゃそうだよな、だって写真に写っていたお前はハンドルにうつ伏して、すでに死んでいるように見えるもんな。だとしたら、最後に運転していたのは誰なんだ?

 まったくわからないまま30年以上が経過したから、この手記を投稿してみることにしたんだ。

 もしかしてお前、投稿されて怒っているか?
 そうだったら、今度お前と会うとき一杯おごってやるからそれで許してくれよ。
 そして又3人で楽しく飲もうや。

 その時はちゃんと説明してくれよな…)



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