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4章 新しい住人

事故物件の入居者が恋したのは、自殺した女性・・・

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 夕方、マンションに帰り、カーテンを開けると、向かいの部屋に変化があった。
 積んであったダンボール箱が無造作に床に置かれ、その幾つかはすでに開封されているようだった。
 さらに向かって左隅に、縦長に足つきのベッドが組まれている。

(やっとご本人様の登場か・・・)

 部屋の中を見渡したが、人影は見えない。

(あれ? 又、お出かけか・・・)

 だが、すぐに奥の玄関が開いて、一人の男性が入ってきた。上下紺のジャージ姿のように思われる。見つからないように、僕はカーテンを少し閉め、その隙間から覗くようにして観察し始めた。

(これじゃ、覗き魔か刑事の張り込みだな・・・)
 
 心の中で苦笑した。そして、何でこんなことをしているのかもわからない。単なる興味本位なのだろうか・・・

 住人はこちら向きに床に座ると、ダンボール箱から本を何冊かまとめて取り出し、床に積み重ねていく。

 顔の表情まではさすがに覗えないが、見たところ、自分と同じ年くらいの年齢に思える。もしかしたら、自分と同じように進学で東京へ出て来たのかもしれない。
 事故物件なんて全く気にしない人もいる。学生なら、少しでも安い方がいいと考えても不思議はない。

(ただ・・・あの歪んだように感じた空気感・・・あれは何なのか・・・
彼もそれを感じるのだろうか・・・
あのご婦人が言っていた、入居者はいたけれども、いろいろあった、と・・・
やっぱり、地縛霊でも出るのではないだろうか・・・
だとすれば、遅かれ早かれ彼も出て行ってしまうのだろうか・・・)

 それこそ余計な心配というものだ。

 僕は少し閉めたカーテンをそのままにして、近くのコンビニへ今夜の夕食を買いに出た。
 夕食と言ってもコンビニ弁当だ。栄養バランスや節約を考えたら、自炊がいいのだろうが、かなり面倒くさい。僕はそれほど料理好きでもない。

 マンションへ戻り、暫くしてからシャワーを浴び、1人用の小さいテーブルに座り、買ってきた弁当を食べる。何気なく、明かりのついた向かいの部屋へ目をやると、向かいの住人もどこかで買ってきたであろう弁当を、ダンボール箱をテーブル変わりにして食べているようだ。まだ、細かい片付けが終わっていないのだろう。

 ただこれからは今までのように、朝晩覗くわけにはいかない。そんな行為を向かいの住人に気づかれたら、気まずい雰囲気になるし、覗いている理由とて言えない。

(とりあえず、朝はカーテンを開ける時は見えるし、それに向かいの部屋もいずれカーテンをかけるに違いない。見えにくくなれば、僕の方もあまり気にかけなくなるかもしれない・・・)

 僕は勢いよくカーテンを閉めた。


  4章 新しい住人 完 続く
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