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7章 何かの始まり・・・

事故物件の入居者が恋したのは、自殺した女性・・・

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 彼があの部屋に入居して1か月以上が経つ。

 彼をスーパーで見かけてから10日ほど経つが、僕はまだ実家のカレーの作り方を訊いていない。やはり面倒くさい・・・

 気づいたことがある。

(しかし、よくもまぁ、1日中、カーテンを閉め切っていられるもんだなぁ・・・)

 朝、カーテンを開けると、向かいの真っ赤なカーテンが目に入ってくる。僕はある意味、感心した。
 最近は殺風景な部屋の時とは違い、それほど注意深く見ているわけではないが、殆どの時間、カーテンが閉まったままでいる。

(大学へ行っているのかもしれないが、それでももう少し換気した方がいいのではないか・・・)

 余計な心配をしてしまう。カーテンが開くのは洗濯物を干す時だけのようだ。
 真っ赤なカーテンの中・・・
 あの真っ赤なカーテンでは部屋の中も、かなり強い色になっているに違いない。

(締め切ったままだと、落ち着かない気もするが・・・)

 ついでにそんなことも思ってしまう。

 ある日の休日。
 ここ数日、天気が悪く雨模様だったが、今日は朝から雲一つない晴天になった。朝カーテンを開けると、清々しい気分になる。
 今日は大学へ行く必要もないので、僕は溜まっていた洗濯物を一気に片付けることにした。
 ワンルームマンションなので、干せるスペースがそれほど広くはないので、2回に分けて洗濯することにした。

 向かいの部屋はまだカーテンが閉まったままだが、もし在宅していれば、洗濯物を干すことは間違いないだろう。

 僕は1回目の洗濯をベランダに干し終え、一旦部屋に戻り、2回目の洗濯機を回した。ベランダの洗濯物が乾くまで、テーブル上のノートパソコンでアルバイト情報を検索し始めた。
 大学にも慣れ、そろそろ何かアルバイトを始めようと思っている。具体的な職種に絞って探しているわけではなく、どんなアルバイトを募集しているのか、調べているといった感じだ。
 食べ物の配達、現場仕事、運送の手伝いなど、様々な職種があるようだ。

「すべてが未経験なので、いろいろやってみるのも楽しいかもしれない・・・」

 画面をスクロールしながら、一人呟く。
 まだ初夏でもないが、強い日差しなので、2時間ほどしてベランダへ洗濯物の乾き具合を確認しに出た。

 向かいの部屋のベランダにも多くの洗濯物が干されていた。

(今日は洗濯日和だな・・・)

 僕は向かいのベランダに干されている、タオルやシャツなどをぼんやり見ながら心の中で呟いた。
 だが・・・

(んん?)

 僕は自分の目を疑った。

 男物の洗濯物の中に明らかに女性物と思われるアンダーウェアが干されているのだ。

(女性用の下着???)

 僕は再び確認するように目を凝らした。それは間違いなく、1組の女性用のピンク系のアンダーウェアだ。

(どうしてそんな物が干されているんだ・・・)

 僕は頭の中が混乱しそうになった。だが、考えられない話でもない。彼の趣味がそういうモノであるなら、不思議ではないが・・・

 だが、僕の脳裏の彼と女装している彼の姿が結びつかない。

(だとすれば・・・)

 もうひとつ考えられるのは、彼女が遊びに来て忘れていったか・・・だが、それはさすがに無理があるだろう・・・と思う。

 ではいったい誰の・・・?

 真っ赤なカーテンは閉まっている。

(あの部屋の中は・・・?)

 僕は奇妙な感覚に囚われた。


  7章 何かの始まり・・・ 完 続く
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