転生勇者二世の苦悩

曇戸晴維

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第一章 少年は旅立つ

2.少年の苦悩2

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「完全に迷った……」
 
 日も落ちかけて薄暗くなり始めた森で独りつぶやく。
 里林を抜けて家に帰る予定が、どうにも方角を間違えて森に入っていたらしい。
 いつの間にか、猟師達が使う目印も見つからなくなり、それを探してさらに迷うという始末。
 林を抜けて里に降りるなんて、幼少期から慣れ親しんだものと思ってたけれど、それは父さんや他の誰かと一緒にだったからで、もうすぐ十ニ歳になる僕にもまだ早かったみたいだ。
 あっという間に暗くなった森は、凍えるような冷たさが立ち込めて、そこかしこでよくわからない音がして、今にも何かに食い殺されそうで。

「そういえば、魔物が出たって……」

 獣ならまだしも、魔物が出ると聞いたのは、つい昼間の里でのことだった。
 僕は午前中の授業が終わって、父さんの許可をとってから昼過ぎに出かけた。
 里の雑貨屋の息子のドリーと遊びたかったからだ。

 十二歳の誕生日を迎えて、父さんの授業はどんどん難しくなって、ここのところずっと里には行けてなかった。
 僕の家は里に対して森を挟んだ反対側の開けた丘にある。
 そんな辺鄙なところに住まなくても、なんて、たまに来る父さんの友人たちは言うけど、父さんと僕はその辺鄙な丘を気に入っていた。
 だって、そこは母さんの大好きだった花畑があるから。

 僕の母さんは、僕を生んで死んだ。
 その事実に悩んで悲しんだときもあったけど、母さんは、死んででも僕を無事に生みたかったみたいで、たくさんの日記と本を残してくれた。
 だから、その悩みは次第に消えていった。
 日記には僕への愛情が溢れていたから。
 それと同時に、父さんへの反発は増えていった。

 授業だって、僕にはなんで必要なのかよくわからない。
 
「十二歳ともなれば、少しは大人にならなければならない。中等教育に入る」
 
 父さんはそれだけ言って、当たり前のように授業を始めた。
 里のみんなから聞いた話だと、普通は十歳にもなれば家業を覚え始めたり、家を出て徒弟として職人を目指したり、女の子は家仕事を覚えたり、大人になるための準備をするらしい。
 僕は、そんなみんなとは違って、六歳の頃から基礎の勉強をして、十二歳からはまた難しい応用の勉強をしている。
 これはギムキョウイクって言って、父さんは本当は国中にこのギムキョウイクを浸透させたいみたい。
 それがなんなのかは僕にはよくわからないけど。
 そのギムキョウイクとかいうのが終わるとまた何年ももっと難しいことをするらしい。
 そうして基礎を身に着けて、自分の得手不得手を見つけて磨いて。
 将来はそういう人たちがもっと勉強したり研究したりできるようにするのが父さんの夢なんだって。
 僕の家にやってくる人たちは、しきりに

 「お前の父親はすごい」
 「革新的な知識をいくつも知っている」
 「将来は父親のようになれ」

 と言ってくるから、きっとこれもすごいことなんだろう。
 そして、これは正しいのだろう。
 父さんの友人たちは、王宮や各地から付き人を従えてくる偉い人。
 そんな人たちが言っているのだから、これは素晴らしいことなのだろう。
 父さんは偉大ですごい人なのだろう。
 
 だって、僕の父さんは勇者なのだから。
 あの魔王を倒した勇者なのだから。
 二十年前――僕が生まれるずっと前だ――父さんは魔王と戦った。
 母さんはそのときの仲間だった。
 そして見事、魔王を討滅して王様から勇者の称号を授かった。
 
 そして、これは秘密なんだけど、父さんはテンセイシャというものらしい。
 おとぎ話に出てくるような神様の時代を生きていた人の生まれ変わりで、記憶を持っている。
 だから、今にはない知識をいっぱい持っているんだって。

 だから、僕は父さんの言う事を聞いて、真面目に勉強してたんだ。
 
 
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