5 / 38
第一章 少年は旅立つ
2.少年の苦悩2
しおりを挟む
「完全に迷った……」
日も落ちかけて薄暗くなり始めた森で独りつぶやく。
里林を抜けて家に帰る予定が、どうにも方角を間違えて森に入っていたらしい。
いつの間にか、猟師達が使う目印も見つからなくなり、それを探してさらに迷うという始末。
林を抜けて里に降りるなんて、幼少期から慣れ親しんだものと思ってたけれど、それは父さんや他の誰かと一緒にだったからで、もうすぐ十ニ歳になる僕にもまだ早かったみたいだ。
あっという間に暗くなった森は、凍えるような冷たさが立ち込めて、そこかしこでよくわからない音がして、今にも何かに食い殺されそうで。
「そういえば、魔物が出たって……」
獣ならまだしも、魔物が出ると聞いたのは、つい昼間の里でのことだった。
僕は午前中の授業が終わって、父さんの許可をとってから昼過ぎに出かけた。
里の雑貨屋の息子のドリーと遊びたかったからだ。
十二歳の誕生日を迎えて、父さんの授業はどんどん難しくなって、ここのところずっと里には行けてなかった。
僕の家は里に対して森を挟んだ反対側の開けた丘にある。
そんな辺鄙なところに住まなくても、なんて、たまに来る父さんの友人たちは言うけど、父さんと僕はその辺鄙な丘を気に入っていた。
だって、そこは母さんの大好きだった花畑があるから。
僕の母さんは、僕を生んで死んだ。
その事実に悩んで悲しんだときもあったけど、母さんは、死んででも僕を無事に生みたかったみたいで、たくさんの日記と本を残してくれた。
だから、その悩みは次第に消えていった。
日記には僕への愛情が溢れていたから。
それと同時に、父さんへの反発は増えていった。
授業だって、僕にはなんで必要なのかよくわからない。
「十二歳ともなれば、少しは大人にならなければならない。中等教育に入る」
父さんはそれだけ言って、当たり前のように授業を始めた。
里のみんなから聞いた話だと、普通は十歳にもなれば家業を覚え始めたり、家を出て徒弟として職人を目指したり、女の子は家仕事を覚えたり、大人になるための準備をするらしい。
僕は、そんなみんなとは違って、六歳の頃から基礎の勉強をして、十二歳からはまた難しい応用の勉強をしている。
これはギムキョウイクって言って、父さんは本当は国中にこのギムキョウイクを浸透させたいみたい。
それがなんなのかは僕にはよくわからないけど。
そのギムキョウイクとかいうのが終わるとまた何年ももっと難しいことをするらしい。
そうして基礎を身に着けて、自分の得手不得手を見つけて磨いて。
将来はそういう人たちがもっと勉強したり研究したりできるようにするのが父さんの夢なんだって。
僕の家にやってくる人たちは、しきりに
「お前の父親はすごい」
「革新的な知識をいくつも知っている」
「将来は父親のようになれ」
と言ってくるから、きっとこれもすごいことなんだろう。
そして、これは正しいのだろう。
父さんの友人たちは、王宮や各地から付き人を従えてくる偉い人。
そんな人たちが言っているのだから、これは素晴らしいことなのだろう。
父さんは偉大ですごい人なのだろう。
だって、僕の父さんは勇者なのだから。
あの魔王を倒した勇者なのだから。
二十年前――僕が生まれるずっと前だ――父さんは魔王と戦った。
母さんはそのときの仲間だった。
そして見事、魔王を討滅して王様から勇者の称号を授かった。
そして、これは秘密なんだけど、父さんはテンセイシャというものらしい。
おとぎ話に出てくるような神様の時代を生きていた人の生まれ変わりで、記憶を持っている。
だから、今にはない知識をいっぱい持っているんだって。
だから、僕は父さんの言う事を聞いて、真面目に勉強してたんだ。
日も落ちかけて薄暗くなり始めた森で独りつぶやく。
里林を抜けて家に帰る予定が、どうにも方角を間違えて森に入っていたらしい。
いつの間にか、猟師達が使う目印も見つからなくなり、それを探してさらに迷うという始末。
林を抜けて里に降りるなんて、幼少期から慣れ親しんだものと思ってたけれど、それは父さんや他の誰かと一緒にだったからで、もうすぐ十ニ歳になる僕にもまだ早かったみたいだ。
あっという間に暗くなった森は、凍えるような冷たさが立ち込めて、そこかしこでよくわからない音がして、今にも何かに食い殺されそうで。
「そういえば、魔物が出たって……」
獣ならまだしも、魔物が出ると聞いたのは、つい昼間の里でのことだった。
僕は午前中の授業が終わって、父さんの許可をとってから昼過ぎに出かけた。
里の雑貨屋の息子のドリーと遊びたかったからだ。
十二歳の誕生日を迎えて、父さんの授業はどんどん難しくなって、ここのところずっと里には行けてなかった。
僕の家は里に対して森を挟んだ反対側の開けた丘にある。
そんな辺鄙なところに住まなくても、なんて、たまに来る父さんの友人たちは言うけど、父さんと僕はその辺鄙な丘を気に入っていた。
だって、そこは母さんの大好きだった花畑があるから。
僕の母さんは、僕を生んで死んだ。
その事実に悩んで悲しんだときもあったけど、母さんは、死んででも僕を無事に生みたかったみたいで、たくさんの日記と本を残してくれた。
だから、その悩みは次第に消えていった。
日記には僕への愛情が溢れていたから。
それと同時に、父さんへの反発は増えていった。
授業だって、僕にはなんで必要なのかよくわからない。
「十二歳ともなれば、少しは大人にならなければならない。中等教育に入る」
父さんはそれだけ言って、当たり前のように授業を始めた。
里のみんなから聞いた話だと、普通は十歳にもなれば家業を覚え始めたり、家を出て徒弟として職人を目指したり、女の子は家仕事を覚えたり、大人になるための準備をするらしい。
僕は、そんなみんなとは違って、六歳の頃から基礎の勉強をして、十二歳からはまた難しい応用の勉強をしている。
これはギムキョウイクって言って、父さんは本当は国中にこのギムキョウイクを浸透させたいみたい。
それがなんなのかは僕にはよくわからないけど。
そのギムキョウイクとかいうのが終わるとまた何年ももっと難しいことをするらしい。
そうして基礎を身に着けて、自分の得手不得手を見つけて磨いて。
将来はそういう人たちがもっと勉強したり研究したりできるようにするのが父さんの夢なんだって。
僕の家にやってくる人たちは、しきりに
「お前の父親はすごい」
「革新的な知識をいくつも知っている」
「将来は父親のようになれ」
と言ってくるから、きっとこれもすごいことなんだろう。
そして、これは正しいのだろう。
父さんの友人たちは、王宮や各地から付き人を従えてくる偉い人。
そんな人たちが言っているのだから、これは素晴らしいことなのだろう。
父さんは偉大ですごい人なのだろう。
だって、僕の父さんは勇者なのだから。
あの魔王を倒した勇者なのだから。
二十年前――僕が生まれるずっと前だ――父さんは魔王と戦った。
母さんはそのときの仲間だった。
そして見事、魔王を討滅して王様から勇者の称号を授かった。
そして、これは秘密なんだけど、父さんはテンセイシャというものらしい。
おとぎ話に出てくるような神様の時代を生きていた人の生まれ変わりで、記憶を持っている。
だから、今にはない知識をいっぱい持っているんだって。
だから、僕は父さんの言う事を聞いて、真面目に勉強してたんだ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる