転生勇者二世の苦悩

曇戸晴維

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第一章 少年は旅立つ

14.勇者の義務3

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 里が燃えている。
 木々の先に見える空は赤々とそれを物語っていた。

「ウェダ。身体強化だ。足に掛けろ。できるな?すぐに向かうぞ」

 僕はこくこくと頷くと呪文を唱える。

「疾風。誰よりも疾く」

 拙い呪文で魔法を掛ける。
 父はなにか言いたげに――それを振り払うように呪文を紡いだ。
 
「疾風。旋風。我らを運べ」

 風が舞う。
 父が得意な風の魔法。
 拙い僕の呪文だけでは僕がついてこれないと思ったのだろう。

「行くぞ」
「はい」

 瞬間、走り出す。
 木立を抜け、枝を払い、ときには屈み、跳ねながら。
 父の魔法の効果は絶大で、時折当たりそうになる小枝は風によって折られ曲げられ切り落とされる。
 ただ地形に沿って走ればいい。
 僕がこれを使えたら、きっと――

 そんなことを考えている間に里林を抜ける。
 そして目の前に現れたのは、地獄だった。

 燃える家々。
 無数の声。
 悲鳴。
 時折、魔物の声。
 鬨の声。
 また、悲鳴。
 子どもの泣き声。
 助けを呼ぶ声。
 咀嚼音。

「ドリー!!!アン!!!」

 気付けば、僕は駆け出していた。

「ウェダ!待ちなさい!」

 静止する父の声など無視して。

  走る。
 燃え盛る民家を無視して。

 あれはカシウスおじさんの家だ。
 木工が得意で、たまに玩具を作ってくれた。

 走る。
 悲鳴を上げる人を無視して。

 あれは毎年、この時期に里へ来る行商人のロッツだ。
 色んな地方の話をしてくれた。

 走る。
 絶望の表情で僕に手を伸ばす人を無視して。

 あれはミンおばさんだ。
 ミンおばさんのジャムは絶品だった。

 井戸がある通りを抜けて、近道をして。
 僕は走る。
 走り抜ける。

 あの角を曲がった先に、アンの両親がやっている宿屋がある。
 きっとあそこには無事な人が残っている。
 ドリーやアンだってきっと無事だ。
 ほら、剣戟が聞こえる。
 村に残った冒険者が戦っている。
 だから、大丈夫。

 そうして見えた光景は凄惨だった。

「くそっ!数が多……ぎゃっ!」
「この子だけは……この子だけは」
「助け……いやだあ!」


 ぐああああおおおおおおおお!!!

 大きな咆哮と共に、次々とやられる。

 くるる……ぴちゃ……

 腹を掻っ捌かれても子を守る親がいる。
 その子の頭はもうない。

 くるるるるる……

 足を掴まれ、叩きつけられている人がいる。

 僕はその光景に、立ち止まってしまう。
 その時だった。

「来るな!来るな来るな来るな!」

 裏手のほうだ。
 あれはドリーの声だ!
 急いで僕は駆け出した。

 
 小さな物置小屋の前で、ドリーは誰かが使っていただろう片手剣を手に、ふらふらと立っていた。
 その目の前には、オオカミの魔物。
 ドリーの後ろにはアンとアンのお母さん――女将さんが抱き合って震えていた。

 ああ、ドリー。
 なんて勇気のある奴なんだ。

 僕はその勇敢な姿と行動、生き延びてくれていたことに目頭が熱くなった。
 それどころじゃない。

 僕は駆け出す。
 父の魔法はまだ途切れていない。
 魔物が、飛びかかる体勢に入った。
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