異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

文字の大きさ
100 / 184
第七章

地下ダンジョンから脱出します 2

しおりを挟む
 方針さえ決まれば、あとは入念な打ち合わせなど必要なかった。

 大宴会場の直径は、およそ5キロメートル。最悪それだけの距離に、敵がひしめいている可能性もあるわけだ。
 仮に途中で交戦状態になったとして、たったふたりで数多の敵の相手などできるものではないし、現実的ではない。

 ならば取れる手はただひとつ――一気呵成に突っ切るのみだ。

 徒歩ならば到底無理だし、速度で劣れば追い縋られる。行く手を遮られでもしたら、なおのこと。
 ただし幸運なことに、こちらにはそれらすべてをクリアできる疾風丸がある。
 空中を滑空する時速100キロオーバーの物体に追いつける生物はいない。いかに地を覆い尽くされようとも、宙にいれば関係ない。

 懸案事項のコントロールについても、精霊魔法の熟達のデッドさんがいる。
 今度こそ、前回のなす術なく墜落したときのような無様を晒すこともないだろう。

 想定通りにいけば、至極単純で簡単な作戦だが――反面、アクシデントで続行困難となった場合が、取り返しのつかない危険な策でもある。

 唯一にして最大の問題点は、地竜の存在だ。
 あの巨体では、進路を妨害されてしまう事態が起こり得る。
 それにブレス――遠距離、広範囲のあれを喰らっては、直撃せずとも巻き込まれて操縦不能に陥ってしまう可能性が充分にあるだろう。

 都合よく、その場に地竜がいるのかいないのか――そればかりは運を天に任せるしかない。

 俺とデッドさんを乗せた疾風丸は、すでに大宴会場の目前まで迫っていた。
 これまでは、精霊魔法の『精霊の隠れ蓑』による隠密効果で、無難にやり過ごすことができている。
 ここからが正念場だ。

 大宴会場は、静まり返っており、今のところ生命の息吹は感じられない。
 地表に近いからか、これまでの通路に比べるとずいぶんと明るいほうだ。

 しかしながら、広さが広さだけに奥まで見渡せるほどではない。
 視界に納まる範囲では、荒れた岩肌の地面が見えるだけだ。

「やっぱ、暗視と遠視でも、先まで見通すことはできねえか……今んとこ、地竜がいそうな気配はねえけどな。さーて、鬼が出るか蛇が出るか」

「俺は竜さえ出なければ、どちらでもいいですけど」

「にひひ、言えてんな!」

 今回はデッドさんが前座席、俺が後座席に陣取っている。
 軽量のデッドさんが、万一にも振り落とされる危険性を軽減するためだ。

「んじゃ、そろそろいくとするかね。精霊よ!」

 デッドさんが軽く地面を蹴ると、疾風丸のタイヤが地から離れた。
 車体は緩やかに上昇し、地上5メートルばかりの位置で静止する。

 ぷかぷかと水面に浮かぶボートに乗っているような感覚の中、汗ばむ掌を服で拭ってから……俺はハンドルを握り直した。

「では――行きます!」

 疾風丸の最後尾に据えつけられたふたつの風の魔法石のうち、ひとつを起動させる。

 久々に体感する爆発的な加速度――真後ろに噴射された突風に後押しされ、宙に浮いていた疾風丸の車体が猛然と前方に向けて射出された。

 普通なら風圧で弾かれそうなものだが、それも事前に精霊魔法で中和されている。
 疾風丸は薄明かりの大気を切り裂き、怒涛の勢いで疾走した。

 あまり速度を出しすぎるとミスを誘発する危険性が増すため、ふたつの風の魔法石を交互に使い分けて、スピードを慎重にコントロールする。
 加速には大きな衝撃音を伴なっており、隠しようのない爆音が閉鎖空間に木霊している。

 地上を見下ろせば、音に釣られたのか、どこからともなくぞろぞろと多種多様な生き物が現われつつあった。
 もし、これらすべてを相手にするとなると、さすがにぞっとしない。

 しかし、連中にはこちらを見上げるだけで為す術がない。
 時折、飛びかかってこようとするものもいるが、こちらの速度にまったく付いていけてない。

(いける――!)

 たしかな手応えに、ガッツポーズしたい気分だった。
 1分ほども直進し、大宴会場の中央付近に差し掛かった頃――前に座るデッドさんの舌打ちが聞こえた。

「――ちっ、最悪だ! この先の『地竜の通り道』のところに、地竜が1匹居座ってやがる!」

「……! 通り抜けられそうですか!?」

「駄目だ! 馬鹿でかいのが、進路を完全に塞いでやがる! 仕方ねえが、こうなったら出直しだ! アキ、いったん退いて――」

 振り返って俺の肩越しに後方を窺ったデッドさんの顔色が変わる。

「いんや、続行だ。後ろにも地竜3匹追加でご来客ときたもんだ。こっちも見事に退路を塞いでやがる。どんな連携だよ――ってな!」

 にわかにデッドさんが座席の上に立ち上がる。背後の俺に身体を預けて固定させ、即座に弓を構えて矢を番えていた。

「あ、危なっ! ちょ、なにやってんですか、デッドさん!? 前が見えないですって!」

 ふらつきそうになる車体の姿勢を維持するだけで精一杯だ。
 顔面に臀部を押しつけられたかたちで身動きが取れない上、視界も遮られている。これではとてもじゃないが、運転どころの騒ぎではない。

「我慢してじっとしてろ! 女王の尻なんだから、ご褒美だろが!」

「んな無茶苦茶な!」

 どうにか顔をずらして、前方の視界だけでも確保する。

「風よ集いて巻き上がれ、吹き荒ぶ竜巻となりて風穴を穿て――穿孔螺旋射!」

 デッドさんの弓から矢が放たれた。
 青白く輝く光に包まれた鏃は、猛烈な勢いを以って回旋し――一直線に遥か前方の地竜に向けて飛び去った。

 矢は飛距離が増すごとに、明らかに初速を上回る加速を見せている。
 渦巻きながら矢を追うように尾を引く光の帯が、尋常ではない回転を生み出していることが見て取れた。

 目視するのも困難な距離のはずなのに、矢は吸い込まれるように地竜の眉間辺りにまで到達した。
 先端が接触したと思しき瞬間――地竜の強固な鱗の表皮と、猛回転する鏃が反発しているのか、盛大な火花を散らせている。

 矢は着弾してからも、しばらく火花を放ちながら回転を続けていたようだったが――耐久力が持たなかったのか、あえなく火の粉となって砕け散った。

 対する地竜は微動だにしていない。遠目にはダメージのほどは窺えなかった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

処理中です...