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第七章
地下ダンジョンから脱出します 2
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方針さえ決まれば、あとは入念な打ち合わせなど必要なかった。
大宴会場の直径は、およそ5キロメートル。最悪それだけの距離に、敵がひしめいている可能性もあるわけだ。
仮に途中で交戦状態になったとして、たったふたりで数多の敵の相手などできるものではないし、現実的ではない。
ならば取れる手はただひとつ――一気呵成に突っ切るのみだ。
徒歩ならば到底無理だし、速度で劣れば追い縋られる。行く手を遮られでもしたら、なおのこと。
ただし幸運なことに、こちらにはそれらすべてをクリアできる疾風丸がある。
空中を滑空する時速100キロオーバーの物体に追いつける生物はいない。いかに地を覆い尽くされようとも、宙にいれば関係ない。
懸案事項のコントロールについても、精霊魔法の熟達のデッドさんがいる。
今度こそ、前回のなす術なく墜落したときのような無様を晒すこともないだろう。
想定通りにいけば、至極単純で簡単な作戦だが――反面、アクシデントで続行困難となった場合が、取り返しのつかない危険な策でもある。
唯一にして最大の問題点は、地竜の存在だ。
あの巨体では、進路を妨害されてしまう事態が起こり得る。
それにブレス――遠距離、広範囲のあれを喰らっては、直撃せずとも巻き込まれて操縦不能に陥ってしまう可能性が充分にあるだろう。
都合よく、その場に地竜がいるのかいないのか――そればかりは運を天に任せるしかない。
俺とデッドさんを乗せた疾風丸は、すでに大宴会場の目前まで迫っていた。
これまでは、精霊魔法の『精霊の隠れ蓑』による隠密効果で、無難にやり過ごすことができている。
ここからが正念場だ。
大宴会場は、静まり返っており、今のところ生命の息吹は感じられない。
地表に近いからか、これまでの通路に比べるとずいぶんと明るいほうだ。
しかしながら、広さが広さだけに奥まで見渡せるほどではない。
視界に納まる範囲では、荒れた岩肌の地面が見えるだけだ。
「やっぱ、暗視と遠視でも、先まで見通すことはできねえか……今んとこ、地竜がいそうな気配はねえけどな。さーて、鬼が出るか蛇が出るか」
「俺は竜さえ出なければ、どちらでもいいですけど」
「にひひ、言えてんな!」
今回はデッドさんが前座席、俺が後座席に陣取っている。
軽量のデッドさんが、万一にも振り落とされる危険性を軽減するためだ。
「んじゃ、そろそろいくとするかね。精霊よ!」
デッドさんが軽く地面を蹴ると、疾風丸のタイヤが地から離れた。
車体は緩やかに上昇し、地上5メートルばかりの位置で静止する。
ぷかぷかと水面に浮かぶボートに乗っているような感覚の中、汗ばむ掌を服で拭ってから……俺はハンドルを握り直した。
「では――行きます!」
疾風丸の最後尾に据えつけられたふたつの風の魔法石のうち、ひとつを起動させる。
久々に体感する爆発的な加速度――真後ろに噴射された突風に後押しされ、宙に浮いていた疾風丸の車体が猛然と前方に向けて射出された。
普通なら風圧で弾かれそうなものだが、それも事前に精霊魔法で中和されている。
疾風丸は薄明かりの大気を切り裂き、怒涛の勢いで疾走した。
あまり速度を出しすぎるとミスを誘発する危険性が増すため、ふたつの風の魔法石を交互に使い分けて、スピードを慎重にコントロールする。
加速には大きな衝撃音を伴なっており、隠しようのない爆音が閉鎖空間に木霊している。
地上を見下ろせば、音に釣られたのか、どこからともなくぞろぞろと多種多様な生き物が現われつつあった。
もし、これらすべてを相手にするとなると、さすがにぞっとしない。
しかし、連中にはこちらを見上げるだけで為す術がない。
時折、飛びかかってこようとするものもいるが、こちらの速度にまったく付いていけてない。
(いける――!)
たしかな手応えに、ガッツポーズしたい気分だった。
1分ほども直進し、大宴会場の中央付近に差し掛かった頃――前に座るデッドさんの舌打ちが聞こえた。
「――ちっ、最悪だ! この先の『地竜の通り道』のところに、地竜が1匹居座ってやがる!」
「……! 通り抜けられそうですか!?」
「駄目だ! 馬鹿でかいのが、進路を完全に塞いでやがる! 仕方ねえが、こうなったら出直しだ! アキ、いったん退いて――」
振り返って俺の肩越しに後方を窺ったデッドさんの顔色が変わる。
「いんや、続行だ。後ろにも地竜3匹追加でご来客ときたもんだ。こっちも見事に退路を塞いでやがる。どんな連携だよ――ってな!」
にわかにデッドさんが座席の上に立ち上がる。背後の俺に身体を預けて固定させ、即座に弓を構えて矢を番えていた。
「あ、危なっ! ちょ、なにやってんですか、デッドさん!? 前が見えないですって!」
ふらつきそうになる車体の姿勢を維持するだけで精一杯だ。
顔面に臀部を押しつけられたかたちで身動きが取れない上、視界も遮られている。これではとてもじゃないが、運転どころの騒ぎではない。
「我慢してじっとしてろ! 女王の尻なんだから、ご褒美だろが!」
「んな無茶苦茶な!」
どうにか顔をずらして、前方の視界だけでも確保する。
「風よ集いて巻き上がれ、吹き荒ぶ竜巻となりて風穴を穿て――穿孔螺旋射!」
デッドさんの弓から矢が放たれた。
青白く輝く光に包まれた鏃は、猛烈な勢いを以って回旋し――一直線に遥か前方の地竜に向けて飛び去った。
矢は飛距離が増すごとに、明らかに初速を上回る加速を見せている。
渦巻きながら矢を追うように尾を引く光の帯が、尋常ではない回転を生み出していることが見て取れた。
目視するのも困難な距離のはずなのに、矢は吸い込まれるように地竜の眉間辺りにまで到達した。
先端が接触したと思しき瞬間――地竜の強固な鱗の表皮と、猛回転する鏃が反発しているのか、盛大な火花を散らせている。
矢は着弾してからも、しばらく火花を放ちながら回転を続けていたようだったが――耐久力が持たなかったのか、あえなく火の粉となって砕け散った。
対する地竜は微動だにしていない。遠目にはダメージのほどは窺えなかった。
大宴会場の直径は、およそ5キロメートル。最悪それだけの距離に、敵がひしめいている可能性もあるわけだ。
仮に途中で交戦状態になったとして、たったふたりで数多の敵の相手などできるものではないし、現実的ではない。
ならば取れる手はただひとつ――一気呵成に突っ切るのみだ。
徒歩ならば到底無理だし、速度で劣れば追い縋られる。行く手を遮られでもしたら、なおのこと。
ただし幸運なことに、こちらにはそれらすべてをクリアできる疾風丸がある。
空中を滑空する時速100キロオーバーの物体に追いつける生物はいない。いかに地を覆い尽くされようとも、宙にいれば関係ない。
懸案事項のコントロールについても、精霊魔法の熟達のデッドさんがいる。
今度こそ、前回のなす術なく墜落したときのような無様を晒すこともないだろう。
想定通りにいけば、至極単純で簡単な作戦だが――反面、アクシデントで続行困難となった場合が、取り返しのつかない危険な策でもある。
唯一にして最大の問題点は、地竜の存在だ。
あの巨体では、進路を妨害されてしまう事態が起こり得る。
それにブレス――遠距離、広範囲のあれを喰らっては、直撃せずとも巻き込まれて操縦不能に陥ってしまう可能性が充分にあるだろう。
都合よく、その場に地竜がいるのかいないのか――そればかりは運を天に任せるしかない。
俺とデッドさんを乗せた疾風丸は、すでに大宴会場の目前まで迫っていた。
これまでは、精霊魔法の『精霊の隠れ蓑』による隠密効果で、無難にやり過ごすことができている。
ここからが正念場だ。
大宴会場は、静まり返っており、今のところ生命の息吹は感じられない。
地表に近いからか、これまでの通路に比べるとずいぶんと明るいほうだ。
しかしながら、広さが広さだけに奥まで見渡せるほどではない。
視界に納まる範囲では、荒れた岩肌の地面が見えるだけだ。
「やっぱ、暗視と遠視でも、先まで見通すことはできねえか……今んとこ、地竜がいそうな気配はねえけどな。さーて、鬼が出るか蛇が出るか」
「俺は竜さえ出なければ、どちらでもいいですけど」
「にひひ、言えてんな!」
今回はデッドさんが前座席、俺が後座席に陣取っている。
軽量のデッドさんが、万一にも振り落とされる危険性を軽減するためだ。
「んじゃ、そろそろいくとするかね。精霊よ!」
デッドさんが軽く地面を蹴ると、疾風丸のタイヤが地から離れた。
車体は緩やかに上昇し、地上5メートルばかりの位置で静止する。
ぷかぷかと水面に浮かぶボートに乗っているような感覚の中、汗ばむ掌を服で拭ってから……俺はハンドルを握り直した。
「では――行きます!」
疾風丸の最後尾に据えつけられたふたつの風の魔法石のうち、ひとつを起動させる。
久々に体感する爆発的な加速度――真後ろに噴射された突風に後押しされ、宙に浮いていた疾風丸の車体が猛然と前方に向けて射出された。
普通なら風圧で弾かれそうなものだが、それも事前に精霊魔法で中和されている。
疾風丸は薄明かりの大気を切り裂き、怒涛の勢いで疾走した。
あまり速度を出しすぎるとミスを誘発する危険性が増すため、ふたつの風の魔法石を交互に使い分けて、スピードを慎重にコントロールする。
加速には大きな衝撃音を伴なっており、隠しようのない爆音が閉鎖空間に木霊している。
地上を見下ろせば、音に釣られたのか、どこからともなくぞろぞろと多種多様な生き物が現われつつあった。
もし、これらすべてを相手にするとなると、さすがにぞっとしない。
しかし、連中にはこちらを見上げるだけで為す術がない。
時折、飛びかかってこようとするものもいるが、こちらの速度にまったく付いていけてない。
(いける――!)
たしかな手応えに、ガッツポーズしたい気分だった。
1分ほども直進し、大宴会場の中央付近に差し掛かった頃――前に座るデッドさんの舌打ちが聞こえた。
「――ちっ、最悪だ! この先の『地竜の通り道』のところに、地竜が1匹居座ってやがる!」
「……! 通り抜けられそうですか!?」
「駄目だ! 馬鹿でかいのが、進路を完全に塞いでやがる! 仕方ねえが、こうなったら出直しだ! アキ、いったん退いて――」
振り返って俺の肩越しに後方を窺ったデッドさんの顔色が変わる。
「いんや、続行だ。後ろにも地竜3匹追加でご来客ときたもんだ。こっちも見事に退路を塞いでやがる。どんな連携だよ――ってな!」
にわかにデッドさんが座席の上に立ち上がる。背後の俺に身体を預けて固定させ、即座に弓を構えて矢を番えていた。
「あ、危なっ! ちょ、なにやってんですか、デッドさん!? 前が見えないですって!」
ふらつきそうになる車体の姿勢を維持するだけで精一杯だ。
顔面に臀部を押しつけられたかたちで身動きが取れない上、視界も遮られている。これではとてもじゃないが、運転どころの騒ぎではない。
「我慢してじっとしてろ! 女王の尻なんだから、ご褒美だろが!」
「んな無茶苦茶な!」
どうにか顔をずらして、前方の視界だけでも確保する。
「風よ集いて巻き上がれ、吹き荒ぶ竜巻となりて風穴を穿て――穿孔螺旋射!」
デッドさんの弓から矢が放たれた。
青白く輝く光に包まれた鏃は、猛烈な勢いを以って回旋し――一直線に遥か前方の地竜に向けて飛び去った。
矢は飛距離が増すごとに、明らかに初速を上回る加速を見せている。
渦巻きながら矢を追うように尾を引く光の帯が、尋常ではない回転を生み出していることが見て取れた。
目視するのも困難な距離のはずなのに、矢は吸い込まれるように地竜の眉間辺りにまで到達した。
先端が接触したと思しき瞬間――地竜の強固な鱗の表皮と、猛回転する鏃が反発しているのか、盛大な火花を散らせている。
矢は着弾してからも、しばらく火花を放ちながら回転を続けていたようだったが――耐久力が持たなかったのか、あえなく火の粉となって砕け散った。
対する地竜は微動だにしていない。遠目にはダメージのほどは窺えなかった。
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