異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

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第七章

助っ人登場 1

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 後退しつつ、最寄の敵から順に撃退していく。
 光明など見えない、絶望的な戦闘の始まりだ。

 よくもこれほどの種族が集まったと感心する。
 穴倉だけあって、トカゲや蛇などの爬虫類系の生物が大半を占めているが、以前に見たような猛獣系も多い。
 同じような系統の生物でも見た目がずいぶん違うので、固有名称でわけるととんでもない数になりそうだ。

 しかし今は、それをいちいち気にしているほどの余裕がない。
 どいつもこいつも獰猛で、やたらと体躯も大きい。この苛烈な生存競争を生き抜いてきただけのことはある。

 最大の脅威である地竜は、他のすべての生物からも脅威であり、地竜のそばが一番敵の数は少ない。
 そして、地竜から距離を取れば取るだけ、他の敵の数が増えていく。

 要は単体の脅威か、集団の脅威かということになるが、どちらにしても碌でもない。
 現状は、とりあえず対抗手段のない地竜を避けているだけという、急場しのぎでしかない。

 真っ先に地面を這って近寄ってきたトカゲもどきの群れを、デッドさんの弓が即座に打ち抜く。

 爬虫類系は特に本能に忠実なようで、最短距離を一直線に向かってくる。
 その点、猛獣系は慎重なようで、威嚇をして距離を取る傾向にあるが、わずかでも隙を見せると途端に攻撃に転ずる。
 上空から襲ってくる蝙蝠も厄介だ。おかげで四方だけではなく、頭上にも警戒を払う必要がある。

 単一種族の群れであれば、ある程度の数を倒すと戦意も衰えてくるのだろうが、ここに集まっているのはしょせん多種族の集合体。脱落していった生物は、途端に他の種族の餌となる。
 倒せば倒すほど、逆に戦意が上がっているように感じるのは気のせいではないだろう。

 敵もそうだが、一番の問題はこちら側だ。
 デッドさんは歴戦の冒険者にして精霊魔法使い。対して俺は戦闘訓練すら受けたことのない、魔法石を少し扱えるだけのただの凡人だ。そもそも、その魔法石とて、もとはただの護身用でしかない。

 本来は、ふたり居れば連携して戦力アップしそうなものだが、俺にはその知識も技量もない。
 デッドさんは主戦力としての役割のほかに、こちらの援護役にも回らざるを得ない。結果、どうしてもデッドさんの負担が増えて、攻撃の手が鈍ってしまう。
 1+1=2どころか、1に満たない完全な足手まといだ。

 デッドさんの矢も無限ではない。精霊魔法で一度放った矢が回収できるといっても、矢の耐久力には限度があり、すでにかなりの本数の矢が損傷して失われていた。
 精霊魔法を要とする戦闘方法は、常に気力も消耗する。なによりデッドさんは華奢なだけに、体力的にも長期戦向きではない。

 百発百中だった弓が、外れる場面も多くなってきた。
 平気そうな顔をしているが、顔色が悪く息も荒い。あれほど俊敏を誇っていた動きにも、キレがなくなってきている。
 限界が近いのは、素人の俺ですら容易に見て取れた。

 いざとなったら身体を張って盾になろう、と決めている。単なる時間稼ぎに過ぎないとしても。
 それで仮に俺が命を落としたとしても、身軽なデッドさんひとりならば、精霊魔法を駆使してこの包囲網からも脱出は可能だろう。

 デッドさんの手傷も増えつつある。
 もちろん俺に至っては重傷こそないだけで、満身創痍と言っていいレベルだ。全身で痛まない箇所がない。破れた服は血で滲み、頭から流血しているのか視界の半分も赤っぽい。

 敵の数は増加の一方。減らす以上に増えていっている。
 この大宴会場中の生物が集まってきているように錯覚するほどだ。

 さらにはこの騒動だけに、天井の落盤まで相次いで起こってきている始末。
 敵が落盤に巻き込まれるのはありがたいが、同時に負うリスクは同じだ。こちらの頭上に落ちてきたときは、同じように押し潰されて一瞬で終わってしまう。

 すぐ近くでも大規模な落盤があり、巨大な岩石が降ってきた。
 天井を見上げると、ぽっかりと穴が開いていて、その先に空間が窺える。
 おそらくは、この大宴会場の真上にある階層だろう。地図上では、大宴会場と地表との間には、ふたつの階層があったはずだ。

 地表への直通路の『地竜の通り道』が占拠されている今、この穴を使って上層に逃れられるなら、助かるかもしれない。
 ただし、天井までの距離は20メートルはゆうにある。俺には到底、跳躍不可能な高さだろう。

 ――だが、デッドさんだけならば。

「――なぁんて、馬鹿なこと考えてる面だな、おい」

 当のデッドさんに、思い切り鼻を弾かれた。

「デッド姐さんを舐めんなよ。んなピンチくれー、冒険者ン百年もやってりゃあ、何度もあったつーの!」

 飛び掛かってきた大蛇の頭を射抜きながら、デッドさんは状況にそぐわない笑みを浮かべていた。
 エルフの代名詞たる尖がり耳が、ぴくぴくと上下に揺れている。

「それに落ちてくるのは、なにも岩ころばかりたぁ限らねえみたいだぜ?」

 真意を理解するのに、大して時間は要しなかった。
 上層の穴から零れ落ちてくる岩石に交じって、人影が一緒に落ちてくる。

 その人影は落下途中の手近な岩を即席の足場とし、落石の間を器用に跳び渡りながら、落下速度を調節して地面に着地した。

 距離があり、顔までは見分けられないが、振り乱される腰まで伸びた長髪はピンク色。
 普段の清楚なワンピースではなく、太腿まで剥き出しにしたホットパンツにジャケット姿というラフな格好だが、あの髪色と獣耳に尻尾は見間違えようがない。
 ここには決しているはずがない人――

 落下地点は敵の集結する渦中だったため、落石の圧壊から逃れた敵が、新たな乱入者に即座に牙を剥く。

 腰に巻かれたベルトに備わったホルダーから、大振りのナイフが2本抜き放たれた。それを逆手と順手、各々の手に握る。
 とても洗練された静かな動作で、四方から猛然と襲いくる敵との対比がすごい。そこだけ時間が止まっているかのようだった。

 敵地に佇むその姿が、不意にぶれる。

 直後に、近くまで迫っていた敵の1体が血飛沫をあげて昏倒した。
 それは1体だけに留まらず、彼女の通る先から次々と血の噴水が舞っている。
 断末魔の声さえもなく、一息に命を刈り取られる様が繰り広げられた。

 とにかく挙動の緩急の差が激しく、一瞬立ち止まる隙につられて敵が襲いかかったところを、即座に神速の動きに転じて斬りかかり、すれ違いざまに止めを刺している。
 相手にしてみれば、目の前で獲物が消えたかのような印象だろう。

 こちらからは遠目なのでどうにか目で追えているが、あれを目前でやられて反応できるとは到底思えない。

 盛大に血を撒き散らしつつも返り血の1滴すら浴びず、彼女はこちらまで辿り着いた。

 俺が声を発するより先に、無言で頭を抱き締められる。
 俺のほうが身長があるので、お互いに不恰好なポーズになったが、彼女はまったく気にしていないようだった。余裕がなかったというべきかもしれない。

「ちょ、リィズさん……俺、血だらけだから、汚れますって……」

 返答はなく、代わりに頭に回された腕に、ぎゅっと力が籠められた。

「……だから、リィズさん、あの……俺、汚いから……離れたほうが……」

 言葉とは裏腹に、俺は成すがままだった。
 頬に押しつけられた胸の奥から、温もりと心臓の鼓動が伝わってくる。

 それ以上はなにも言えなかった。
 口を開くと、言葉以外のものまで溢れでてしまいそうだった。

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