異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

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第八章

鍛冶屋のお仕事 1

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 さて。では、なにを売ればいいものか?
 文明レベルは現代世界のほうが遥かに上のため、悩みどころではある。

 食料品や薬品類は、衛生面や許可といったものがあるので避けたい。
 生き物やそれらの部位、毛皮や牙などは、規制や条約や条例もある。
 植物や鉱山資源は、あちらにない新種発見にでもなったら厄介だ。

 それらを踏まえると、以前にフリマアプリで出展した革鎧はよかった。
 特定のニッチな層に人気があり、それなりの値もつく。まあ、仕入れ値もそれなりになるわけだけど。
 ただ、数を売るには限界があり、問題点としてはあまりに実用的過ぎるため万人受けしない。そもそも、こちらでは実用を前提として作っているわけだし。

 次点としては衣類や工芸品かな。
 ただし、それらは一般的すぎて、あちらの世界でも多種多様なものが溢れている。
 単価と数量の確保、クオリティとしてのハードルも高く、考慮すべき点が多々あってなかなかに難しい。

 それが午後一からカルディナの街を練り歩き、いろいろな店舗を見て回った上での結論である。

 異世界といえば剣や魔法。
 魔法石はとんでもないことになるので真っ先にアウト。剣などの武具は銃刀法違反で捕まりそう。
 ならば、やはり最後は防具あたりに行き着くわけだ。

 先に挙げた問題点もそうだが、魔族との戦時中だったときはともかく、なにぶん街には武具屋がほとんどない。
 そもそも既製品では問題点を回避できないため、できればこちらの要望で設計から製造までしてくれるところがあればベターだろう。

 そうなると、アテもなくツテもない俺にとっては、余計に選択肢が狭まって難しくなる。
 叔父の名を使えば可能かもしれないが、無論、論外だ。

「あんちゃん、難しい顔してどうしたんすか?」

 シラキ屋に戻ってきて、カウンターでうんうん唸っていたら、ナツメが声をかけてきた。

 今日もまた、ある意味専用席となってしまった客の休憩用テーブルに座り込み、ナツメは優雅に珈琲を啜っている。

 かなり今さらだけど、いつもいるね、ナツメ。
 そんなに家業の鍛冶屋は暇なのか。いや、忙しいからこそ、こうして逃げてきてサボっているのかもしれないけど。

(……ん? 鍛冶屋?)

 そういえば、鍛冶屋とは実際にどんなことをするのだろう?
 当初、修理全般を引き受けると聞いたような気がするが、金物には武具や防具も含まれるのだろうか。

 なんて考えていると、けたたましい音を立てて店の扉が開いた。

「またここにいたか! この、ぼんくら!」

「げげ! 姉ちゃん!」

 登場したのは、180近い長身で、短く刈りあげた髪型が印象的な女性だ。
 ナツメの家の長姉、チナツである。

 ナツメは三男坊であり、ふたりの兄とさらにその上にこの姉がいる。
 兄たちは修業のために余所の鍛冶屋に出張しており、家業の『酔いどれ鍛冶屋』は父親が高齢で引退した後、彼女が取り仕切っているらしい。

 鍛冶一家の長子だけあって自身も鍛冶を生業としており、タンクトップから剥き出しになった肩から上腕にかけての筋肉の盛り上がり具合がすごい。
 豊満でありながら引き締まった肢体は野性味に溢れており、日焼けならぬ火焼けで赤黒い肌、快活としていて『姉さん』というより、まさに『姐さん』といった風格だ。

「や~。またウチのぼんくらが迷惑かけちまって済まないね、アキ坊」

「ははっ。ま、いつものことですよ、チナツ姐さん」

 お互いに面識を得ることになった初対面は、今の状況と変わらない。仕事を抜け出してサボっているナツメを見つけて、チナツ姐さんが怒鳴りこんできたかたちだ。
 なにせ竹を割ったような気さくな性格なので、打ち解けるのも一瞬だった。
 そのときから、俺は坊や扱いされている。どちらかというと童顔なだけに、ナツメと同世代と見られたらしい。そもそも実際に10近い年の差があるため、子供扱いされても仕方ないのかもしれないが。
 俺としても、親戚の姉のように親しげに接してくるチナツ姐さんには、そう呼ばれるほうがしっくりくる感もある。

「毎度毎度、あんたも懲りないねえ。ここでサボってると、いの一番に見つかっちまうのは、わかりきっているだろうに。我が弟ながら呆れちまうね、あたしゃ」

「だって、ここにしか珈琲がないっすからね。必然的に」

 チナツ姐さんはナツメの後頭部をわっしと握り締めて片手で持ち上げている。
 持ち上げられているナツメも、身体をぷらぷらしながら平然としていた。
 すでに見慣れた光景だが、なんともシュールだ。

「なにを偉そうに。そんなに好きかね、それ。……どれ」

 テーブルに置かれたままの飲みかけの珈琲を、チナツ姐さんが一口であおった。

「ぺっぺっ! やっぱ苦っ! よく飲むね、こんなの」

「この大人の苦味がわからないとは、姉ちゃんもまだまだ子供すね! もうすぐ30の大台に乗るとは思えな――痛たた、やめてやめて。脳みそやその他もろもろが飛び出しそうっす~」

 チナツ姐さんの壮絶な笑顔が眩しかった。
 ナツメの頭を握る腕に血管が浮き出しており、こちらにまでぎりぎりと音がしてくるようだった。

「馬鹿な軽口ばっか叩いてないで帰るよ! あんたまた課題をほっぽりだしてきたろ? 親父様、カンカンだったよ。そんなんじゃ、いつまで経っても立派な鍛冶職人にはなれないよ? あんた、才能はあんだから」

「ええ~。一応、言われた分の課題はこなしてきたんすけど?」

「あんな碌でもないもんは、こなしてきたとは言わない!」

 チナツは後頭部を掴んだまま、ずるずるとナツメを引きずって退店していく。
 ナツメは引きずられながらも、こちらに手など振っていた。

 いつもの風景を見送ろうとして――不意に思い立ち、ふたりを呼び止めた。

「ちょっと待って! よかったら、これから鍛冶屋の仕事を見学させてもらえないかな?」

「「はあ?」」

 ふたりの声がハモる。
 姉弟だけあって、きょとんとした顔の面差しがよく似ていた。
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