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第四章
魔王の事情 2
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「……なんで?」
なに、その超展開。
「だろ? そう思うよな普通? 俺も、なにトチ狂ってんだ、こいつ?――なんて思ったもんだが」
「なにを言う。”魔王”とは最も強き者の称号だ。先代魔王は歴代最強と呼ばれていた。その男を一騎打ちで降したのならば、倒した者が新たな魔王となるのは道理であろう?」
ラスクラウドゥさんは至極当然とばかりに断言して、飲み干した湯飲みをテーブルに置いた。
「一言一句まんまってのが嫌味っぽいな。それでまあ、こいつがあまりにもしつこいんで、引き受ける代わりに『人間への戦闘行為の厳禁』を約束させたってわけだ。ついでに、実質的な魔族の管理もしない。配下の動向の管理はラスクの仕事だ。こういうのなんて言ったっけ、名義貸し?」
魔王のイメージがいきなり俗っぽくなったが、こういうのも『君臨すれど統治せず』ってことになるのだろう。
人間側にとってはいいことずくめだ。なにせ、メリットはあってもデメリットがない。
あるとすれば、実害のない新魔王の存在に怯えるくらいか。それぐらいなら無いにも等しい。
でも、実際、魔族にとってはどうなのだろう。
ラスクラウドゥしか実体を知らない正体不明の魔王。
魔族は力社会だからこそ、ナンバー2のラスクラウドゥさんに盲目的に従っているのかもしれないけど――まさかトップの魔王が人間にすげ替わってるとは、夢にも思ってないんじゃないだろうか。
「今回の件についても、ラスクの管理不行き届きだな」
「蒸し返さないでもらいたい。謝罪はした、と言ったはずだが?」
あれ。
「ほほう? 魔王様にそんな口の利きかたをしていいのかよ?」
「魔王である貴方のことは尊重しよう。だが、わたしが意志を曲げるかどうかは別問題だ」
なんか、険悪な雰囲気が。
「だったら、ここで俺を倒して意志を貫いてみるってか?」
「いいだろう。いずれ貴方と魔王の座を争う身だ。ここで試すも一興」
ちょちょちょ、待って――
「はい、お茶のお代わりをどうぞ」
リィズさんが急須でお茶を注いで回った。
ふたりは椅子から上げかけた腰を再び下ろして、お茶を啜っていた。
リィズさんが去り際に、「あのふたり、とても仲がいいんですよ」と小声で耳打ちしてくれた。
じゃれ合ってただけとは、はた迷惑な。
勇者(魔王)と魔族ナンバー2の諍いなんて、洒落にもならない。
「ま、冗談はさておき、これからも頼むぞ? また人間と魔族の全面戦争だなんて、勘弁だからな」
「留意しよう。しかし、あれはあれで今後の離叛の戒めにもなっただろうが」
「気楽なもんだ。今回は偶然、姪っ子捜しの情報網に引っかかったからいいようなものを……」
不意に話の途中で叔父が口を閉ざした。
「……ん~? んん? なんだっけかな、これ? なーんか、もやっと。なあ?」
今度はしきりに首を捻っている。
「なに、また?」
そういえば、街で会ったときにも同じようなことをしていた。
あのときは結局、思い出せなかったようだが。
腕組みしてうんうん唸り続けること、十数秒。
いきなり叔父は顔を上げ、景気よく自分の膝頭を叩いた。
「ああ、そうか! 思い出した! 秋人、スマホ貸せ! リィズ、悪いが紙とペン持ってきてくれ!」
リィズさんが持ってきたリオちゃんのお絵かき用の画用紙を受け取り、叔父はどういうわけかいきなりスケッチを始めた。
描いているのは、俺のスマホのメモリにあった、妹・春香の写真の似顔絵だ。
ただし、妹の写真は、およそ4年前――俺がまだ実家にいた頃に、妹の高校進学が決まり、制服を見せびらかすために自撮りで送られてきたものが唯一だ。
このときはまだ中学生だけに、表情の端々に幼さの残った顔立ちをしている。
ものの十分もしないうちに、叔父は似顔絵を描き上げた。
正直、引くくらいに繊細なタッチでリアルに描かれていた。
なんだ、この才能過多の人。
「これが4年前だから……この時期の女の子だと、こうこう、こんな感じか? ふ~む」
周囲が見守る中で、描き足され修正され――絵の中の妹が成長していた。
顔立ちをメインに、ふっくらとした幼いイメージから輪郭をシャープに、鼻を少し高く、目尻を整えて、髪型もいじる。
絵の妹はどんどん成長し、世間一般的な今の18の実年齢に近づいた容姿になってきていた。
俺も妹とは電話で声を聞くのがせいぜいで、3年近くも実物とは会っていないが、それでもこれこそが現在の妹の姿だと直感できる。
ここまでくると、なんかもう特殊な技能に見えてくるんだけど!
「完成! そーいうことか、なるほどなぁ。すっきりした。はっはっ!」
叔父は絵の出来にひとり納得して、何度も頷いていた。
叔父以外は完全に置いてけぼりである。
ラスクラウドゥさんはそもそも興味すら示していなかった。
「秋人、よかったな。姪っ子、見つけたぞ!」
叔父は一方的に告げると、俺の膝で寝ていたリオちゃんを抱き上げて、上機嫌で寝室のほうへと消えていってしまった。
寝かしつけに行ったのだろうが、
「……そーいうことって、どーいうこと?」
いきなり放置気味に取り残されて、今度はこちらが首を捻る番だった。
なに、その超展開。
「だろ? そう思うよな普通? 俺も、なにトチ狂ってんだ、こいつ?――なんて思ったもんだが」
「なにを言う。”魔王”とは最も強き者の称号だ。先代魔王は歴代最強と呼ばれていた。その男を一騎打ちで降したのならば、倒した者が新たな魔王となるのは道理であろう?」
ラスクラウドゥさんは至極当然とばかりに断言して、飲み干した湯飲みをテーブルに置いた。
「一言一句まんまってのが嫌味っぽいな。それでまあ、こいつがあまりにもしつこいんで、引き受ける代わりに『人間への戦闘行為の厳禁』を約束させたってわけだ。ついでに、実質的な魔族の管理もしない。配下の動向の管理はラスクの仕事だ。こういうのなんて言ったっけ、名義貸し?」
魔王のイメージがいきなり俗っぽくなったが、こういうのも『君臨すれど統治せず』ってことになるのだろう。
人間側にとってはいいことずくめだ。なにせ、メリットはあってもデメリットがない。
あるとすれば、実害のない新魔王の存在に怯えるくらいか。それぐらいなら無いにも等しい。
でも、実際、魔族にとってはどうなのだろう。
ラスクラウドゥしか実体を知らない正体不明の魔王。
魔族は力社会だからこそ、ナンバー2のラスクラウドゥさんに盲目的に従っているのかもしれないけど――まさかトップの魔王が人間にすげ替わってるとは、夢にも思ってないんじゃないだろうか。
「今回の件についても、ラスクの管理不行き届きだな」
「蒸し返さないでもらいたい。謝罪はした、と言ったはずだが?」
あれ。
「ほほう? 魔王様にそんな口の利きかたをしていいのかよ?」
「魔王である貴方のことは尊重しよう。だが、わたしが意志を曲げるかどうかは別問題だ」
なんか、険悪な雰囲気が。
「だったら、ここで俺を倒して意志を貫いてみるってか?」
「いいだろう。いずれ貴方と魔王の座を争う身だ。ここで試すも一興」
ちょちょちょ、待って――
「はい、お茶のお代わりをどうぞ」
リィズさんが急須でお茶を注いで回った。
ふたりは椅子から上げかけた腰を再び下ろして、お茶を啜っていた。
リィズさんが去り際に、「あのふたり、とても仲がいいんですよ」と小声で耳打ちしてくれた。
じゃれ合ってただけとは、はた迷惑な。
勇者(魔王)と魔族ナンバー2の諍いなんて、洒落にもならない。
「ま、冗談はさておき、これからも頼むぞ? また人間と魔族の全面戦争だなんて、勘弁だからな」
「留意しよう。しかし、あれはあれで今後の離叛の戒めにもなっただろうが」
「気楽なもんだ。今回は偶然、姪っ子捜しの情報網に引っかかったからいいようなものを……」
不意に話の途中で叔父が口を閉ざした。
「……ん~? んん? なんだっけかな、これ? なーんか、もやっと。なあ?」
今度はしきりに首を捻っている。
「なに、また?」
そういえば、街で会ったときにも同じようなことをしていた。
あのときは結局、思い出せなかったようだが。
腕組みしてうんうん唸り続けること、十数秒。
いきなり叔父は顔を上げ、景気よく自分の膝頭を叩いた。
「ああ、そうか! 思い出した! 秋人、スマホ貸せ! リィズ、悪いが紙とペン持ってきてくれ!」
リィズさんが持ってきたリオちゃんのお絵かき用の画用紙を受け取り、叔父はどういうわけかいきなりスケッチを始めた。
描いているのは、俺のスマホのメモリにあった、妹・春香の写真の似顔絵だ。
ただし、妹の写真は、およそ4年前――俺がまだ実家にいた頃に、妹の高校進学が決まり、制服を見せびらかすために自撮りで送られてきたものが唯一だ。
このときはまだ中学生だけに、表情の端々に幼さの残った顔立ちをしている。
ものの十分もしないうちに、叔父は似顔絵を描き上げた。
正直、引くくらいに繊細なタッチでリアルに描かれていた。
なんだ、この才能過多の人。
「これが4年前だから……この時期の女の子だと、こうこう、こんな感じか? ふ~む」
周囲が見守る中で、描き足され修正され――絵の中の妹が成長していた。
顔立ちをメインに、ふっくらとした幼いイメージから輪郭をシャープに、鼻を少し高く、目尻を整えて、髪型もいじる。
絵の妹はどんどん成長し、世間一般的な今の18の実年齢に近づいた容姿になってきていた。
俺も妹とは電話で声を聞くのがせいぜいで、3年近くも実物とは会っていないが、それでもこれこそが現在の妹の姿だと直感できる。
ここまでくると、なんかもう特殊な技能に見えてくるんだけど!
「完成! そーいうことか、なるほどなぁ。すっきりした。はっはっ!」
叔父は絵の出来にひとり納得して、何度も頷いていた。
叔父以外は完全に置いてけぼりである。
ラスクラウドゥさんはそもそも興味すら示していなかった。
「秋人、よかったな。姪っ子、見つけたぞ!」
叔父は一方的に告げると、俺の膝で寝ていたリオちゃんを抱き上げて、上機嫌で寝室のほうへと消えていってしまった。
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