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第八章
鍛冶屋のお仕事 3
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「鎧は男のロマンっす!」
「なーにが、ロマンだい。どうせ鎧を作るなら、まともなもんを作れってんだよ。なに、その無駄な装飾とか」
部分部分に無意味に文様が彫られていたり、実用性皆無な装飾などが付けられているが――単純にいうと、かっこいい。
他にもいろいろ置いてあるので、次々に手に取っていく。
「装甲もぺらっぺらっで弓矢の1本も防げそうにない。ついでに大事な箇所を防護すらしていない鎧に、なんの価値があるんだい? 練習用のくず鉄だって、タダじゃないんだ。もっと真面目にやりな!」
たしかに肩や胸の装甲はあっても腹部が丸出し、装甲と装甲の隙間が妙に広く、明らかに外見重視の形状は実用的ではない。実用性を重んじるこの世界では邪道の極みだろう。
「極めつけは、これ! 鎧を舐めてんのかい?」
チナツ姐さんが爪先で小突くビキニアーマーなど、決して理解されることもないだろう。
この異世界ならば。しかし!
「あんちゃーん! ひどいと思わないっすか、この言い様!? かっこいいと思うっすよね? ね?」
「……正直、思う」
「あんちゃんまでひどいっす~……って、かっこいい? 本当すか!?」
よほど、これまで同意を得られたことがないのだろう。問いかけたナツメのほうが驚嘆していた。
実際、ナツメの感性は、現代世界というか現代日本のファンタジー好きの趣向にマッチしている。
ディティールもなにかの作品の主人公が着てそうなハイクオリティなものばかりだ。異世界の感性では「?」にしかならないものばかりだろうが。
それらの鎧はもとより、独学でビキニアーマーまで到達した感性にも恐れ入る。
というか、思わず引く。
「いやー。こんなところに同志が居てくれて嬉しいっす! 理解してくれたのは、あんちゃんでふたり目っすよ~」
感涙しそうな勢いで、ナツメがすがり付いてきた。
よほど嬉しかったらしい。
「ふたり目って、ひとり目は?」
「ひとり目っていうか、その人が元祖なんすけどね~。昔、自分が子供の頃にウチに来ていたお客さんで、顔も覚えてはないんすけど、地面にいろんな鎧や武器を描いて遊んでくれて! 落書きとは思えないやけに緻密な絵で、もう一瞬で虜になっちゃったんすよ~。こんな斬新な鎧があるのかって。子供心に衝撃を受けたのは忘れられないっす~」
オチが読めた。どうりで現代日本ふうなわけだ。
そういえば、15年くらい前の、あの国民的人気シリーズのゲームに出てくるような鎧だな、これ。
あとこっちは、あの作品かな? 見覚えがある。
とはいえ、そんな元ネタがあったとしても、作品としてここまで昇華させたのはナツメの感性と鍛冶の腕によるものだろう。
「これって、塗装とかできるのかな? さすがに地金のままだとなんともわびしい……」
「できるっすよ。塗るのは得意っす。でも、地金に直接塗れる塗料って、いいもんがないんすよ……一度やろうと思って、余計に見栄え悪くなったんで、やめたっす」
金物への塗装は実用性がないので、異世界での塗料の発展はそんなものだろう。
塗料はあちらのものを使うとして解決できる。
「ここは黒でこっちは全面的な白……ここは青かな? でもって、こっちを赤のワンポイント入れるといいかも」
「お、あんちゃん。わかってるっすね~。でもここは、意外性の黄色をお勧めするっす」
「なるほど、さすがだ」
「いえいえ~」
試作の鎧の山を前にして、やいのやいのはしゃぐ男ふたりを前に、チナツ姐さんは呆れた様子で頭を掻いていた。
「ちなみに、ナツメ。これの製作っていくらぐらいかかってる? 製作期間は?」
「そうすね~。材料は、他の依頼品を作った余りで出たものっすから……まあ、格安のくず鉄の部類っすからね。正規の値段に直すと……5000ゼンくらいっすかね。製作期間は、他の仕事をサボって3日くらいだったっす」
「サボってんじゃないよ」
「痛いっす」
チナツ姐さんに拳骨を喰らっていた。
それにしても、思ったよりも材料費が安い。
大量購入なら、まだ安価も可能かも。
手も早く、このクオリティで3日なら、塗装も含めて1週間でお釣りが来そうだ。
「チナツ姐さん、折り入ってご相談が」
「な、なんだい、アキ坊。気持ち悪いね」
「ナツメの作る鎧を、ウチに卸してもらえないでしょうか? 材料費と塗料についてはウチで持ちますんで、ひとつ当たりの報酬はこれくらいで」
掌に指で数字をなぞると、チナツ姐さんの目が見開かれた。
「……本気かい?」
「おおマジです」
「ナツメ、でかした!」
「痛いです!」
ナツメがチナツ姐さんに盛大に背中を張られていた。
ものすごい音がしたので変な口調になっている。
ナツメは背中を押さえて、床に撃沈していた。
褒められても怒られても結局は叩かれるんだな。
気の毒にナツメ……合掌。
「あんたは、いつかはやる男だと思っていたが、今だったか! いや、めでたい! 親父様にも報告してこないと!」
チナツ姐さんは大股でばたばたと工房のほうに去って行ってしまった。
ともかくこれで、目処が立った。
既製品の革鎧でさえ、一部層には大好評だったのだ。
今度はオーダーメイドも可能となれば、かの一部層に受けないはずがない。
しかも、このディティールとクオリティ――なにせ、こちらは本職なのだ。並大抵の自作のものに引けを取るとは思えない。
しかも大手はコストの面から製品化は難しいだろう。なんというニッチ市場。
さっそく、塗装を済ませた分をサイトにアップすると――瞬く間に買い手がついた。
もともと革鎧の件で一部からの評価は高かったらしい。
今回からはオークションやフリマのみならず、通販サイトにも登録してある。
オーダーメイドなら、さぞかし喜ぶ人も多いだろう。
――その後。
鎧の匠と呼ばれるショップが一部で話題となったが、それはまた別のお話。
「なーにが、ロマンだい。どうせ鎧を作るなら、まともなもんを作れってんだよ。なに、その無駄な装飾とか」
部分部分に無意味に文様が彫られていたり、実用性皆無な装飾などが付けられているが――単純にいうと、かっこいい。
他にもいろいろ置いてあるので、次々に手に取っていく。
「装甲もぺらっぺらっで弓矢の1本も防げそうにない。ついでに大事な箇所を防護すらしていない鎧に、なんの価値があるんだい? 練習用のくず鉄だって、タダじゃないんだ。もっと真面目にやりな!」
たしかに肩や胸の装甲はあっても腹部が丸出し、装甲と装甲の隙間が妙に広く、明らかに外見重視の形状は実用的ではない。実用性を重んじるこの世界では邪道の極みだろう。
「極めつけは、これ! 鎧を舐めてんのかい?」
チナツ姐さんが爪先で小突くビキニアーマーなど、決して理解されることもないだろう。
この異世界ならば。しかし!
「あんちゃーん! ひどいと思わないっすか、この言い様!? かっこいいと思うっすよね? ね?」
「……正直、思う」
「あんちゃんまでひどいっす~……って、かっこいい? 本当すか!?」
よほど、これまで同意を得られたことがないのだろう。問いかけたナツメのほうが驚嘆していた。
実際、ナツメの感性は、現代世界というか現代日本のファンタジー好きの趣向にマッチしている。
ディティールもなにかの作品の主人公が着てそうなハイクオリティなものばかりだ。異世界の感性では「?」にしかならないものばかりだろうが。
それらの鎧はもとより、独学でビキニアーマーまで到達した感性にも恐れ入る。
というか、思わず引く。
「いやー。こんなところに同志が居てくれて嬉しいっす! 理解してくれたのは、あんちゃんでふたり目っすよ~」
感涙しそうな勢いで、ナツメがすがり付いてきた。
よほど嬉しかったらしい。
「ふたり目って、ひとり目は?」
「ひとり目っていうか、その人が元祖なんすけどね~。昔、自分が子供の頃にウチに来ていたお客さんで、顔も覚えてはないんすけど、地面にいろんな鎧や武器を描いて遊んでくれて! 落書きとは思えないやけに緻密な絵で、もう一瞬で虜になっちゃったんすよ~。こんな斬新な鎧があるのかって。子供心に衝撃を受けたのは忘れられないっす~」
オチが読めた。どうりで現代日本ふうなわけだ。
そういえば、15年くらい前の、あの国民的人気シリーズのゲームに出てくるような鎧だな、これ。
あとこっちは、あの作品かな? 見覚えがある。
とはいえ、そんな元ネタがあったとしても、作品としてここまで昇華させたのはナツメの感性と鍛冶の腕によるものだろう。
「これって、塗装とかできるのかな? さすがに地金のままだとなんともわびしい……」
「できるっすよ。塗るのは得意っす。でも、地金に直接塗れる塗料って、いいもんがないんすよ……一度やろうと思って、余計に見栄え悪くなったんで、やめたっす」
金物への塗装は実用性がないので、異世界での塗料の発展はそんなものだろう。
塗料はあちらのものを使うとして解決できる。
「ここは黒でこっちは全面的な白……ここは青かな? でもって、こっちを赤のワンポイント入れるといいかも」
「お、あんちゃん。わかってるっすね~。でもここは、意外性の黄色をお勧めするっす」
「なるほど、さすがだ」
「いえいえ~」
試作の鎧の山を前にして、やいのやいのはしゃぐ男ふたりを前に、チナツ姐さんは呆れた様子で頭を掻いていた。
「ちなみに、ナツメ。これの製作っていくらぐらいかかってる? 製作期間は?」
「そうすね~。材料は、他の依頼品を作った余りで出たものっすから……まあ、格安のくず鉄の部類っすからね。正規の値段に直すと……5000ゼンくらいっすかね。製作期間は、他の仕事をサボって3日くらいだったっす」
「サボってんじゃないよ」
「痛いっす」
チナツ姐さんに拳骨を喰らっていた。
それにしても、思ったよりも材料費が安い。
大量購入なら、まだ安価も可能かも。
手も早く、このクオリティで3日なら、塗装も含めて1週間でお釣りが来そうだ。
「チナツ姐さん、折り入ってご相談が」
「な、なんだい、アキ坊。気持ち悪いね」
「ナツメの作る鎧を、ウチに卸してもらえないでしょうか? 材料費と塗料についてはウチで持ちますんで、ひとつ当たりの報酬はこれくらいで」
掌に指で数字をなぞると、チナツ姐さんの目が見開かれた。
「……本気かい?」
「おおマジです」
「ナツメ、でかした!」
「痛いです!」
ナツメがチナツ姐さんに盛大に背中を張られていた。
ものすごい音がしたので変な口調になっている。
ナツメは背中を押さえて、床に撃沈していた。
褒められても怒られても結局は叩かれるんだな。
気の毒にナツメ……合掌。
「あんたは、いつかはやる男だと思っていたが、今だったか! いや、めでたい! 親父様にも報告してこないと!」
チナツ姐さんは大股でばたばたと工房のほうに去って行ってしまった。
ともかくこれで、目処が立った。
既製品の革鎧でさえ、一部層には大好評だったのだ。
今度はオーダーメイドも可能となれば、かの一部層に受けないはずがない。
しかも、このディティールとクオリティ――なにせ、こちらは本職なのだ。並大抵の自作のものに引けを取るとは思えない。
しかも大手はコストの面から製品化は難しいだろう。なんというニッチ市場。
さっそく、塗装を済ませた分をサイトにアップすると――瞬く間に買い手がついた。
もともと革鎧の件で一部からの評価は高かったらしい。
今回からはオークションやフリマのみならず、通販サイトにも登録してある。
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