異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

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第八章

双子の妖精さん 2

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 レプラカーン。
 たしか、別名『妖精の靴屋』。悪戯好きの妖精。

「なるほどね」

 変化した双子の姿を見つめながら、ひとりごちる。

 靴の代わりに刺繍を縫うのが趣味。
 で、悪戯が大好きと。まんまだね。

 ふたりの話によると、街の中には人間族以外にも、結構、別種族がいるそうで。
 大抵はふたりのように人間に化けており、姿を晒すことは滅多にないが、別種族間では、なんとなくわかるものらしい。

 ふたりの場合、正体を隠してまでどうして人間の街にいるかというと、単なる知的好奇心からということだった。
 他種族にしてみれば、人間はとても不思議な思考と行動をする生き物で、興味は尽きないらしい。
 最初はちょっとのつもりだったが、なんだかんだで居心地がよく、居ついてしまったそうだ。

 両親――といっても、本当の両親ではないが、宿屋の主人たちは、当然このことを知っており、知った上で家族として暮らしているらしい。
 理由を訊くと、『パパとママとの約束だから』と教えてはくれなかった。
 まあ、事情はさまざまなのだろう。

 それにしても。
 双子を見てから安堵の息を漏らす。

 双子の正体が、見た目変わらなくてほんとよかったと思う。
 これで、実は小さいおっさんでした――とかなったら、いろいろと悲惨すぎる。

「あ、またアキトが変な目をしているよ?」
「妖精と知って欲情したんだ」
「「アキトはやっぱり変態だ!」」

 ずびし!と指差される。

「子供が欲情とか言わない!」

 妖精だろうと人間だろうと双子は双子。
 いい性格はまったく変わらないらしい。

「「きゃははっ」」

 双子は声を合わせて楽しげに笑っていた。

 からかわれるのはいつものことだが、相手が妖精と思うと、それはそれで感慨深い。

「で、いつまでもその格好でいいの、ふたり共? 他のお客は居ないけど、まだ通りには通行人も多いから、外から見られるとまずいんじゃあ?」

「うん、そうだね」
「いちおー内緒だからね」
「「よいしょっと」」

 瞬きする間に、ふたりの姿は元に戻っていた。
 幻術のようなものだろうか。便利なものだ。

 外見に大した違いがないとはいえ、慣れた姿のほうがやはり落ち着くものではある。

「それで、アキトはどうして精霊を連れてるの?」
「そうだよ。前は居なかったよね? なんで?」
「誘拐?」
「略奪?」

 今度はこっちが質問攻めに遭う番だった。

「不穏なこと言うのはやめてね。ふたりの秘密を教えてくれたんだし、こっちもきちんと説明はするから」

 エルフと会い、北妖精の森林に行くことになったこと。

 道中の成り行きで精霊の加護を得たこと。

 ついでに、帰り道でいろいろあったこと。

 若干割愛はしたものの、相手も妖精なので、ナツメや他の皆にするよりはやや詳細に説明した。
 さすがに、大峡谷でのことはぼかしたが。

 ふたりは椅子に座る俺の両脇にそれぞれ陣取り、「はあ~」だの「ほお~」だの「ほえ~」だのと、感嘆を交えながら大人しく聞いていた。

「噂には聞いてたけど、北エルフの女王って変わってるんだね」
「うん、変わり者って本当だね」

 妖精間でもそんな噂が立っているとは。なにをやってるんだ、あの人は。
 同意はするけど。

「ボクはアキトが精霊とそんなに仲がいいのが驚き」
「ボクも。初めて会ったときから、親しみやすそうな人間だなーとは思ってたけど」
「そうだね。精霊や妖精と相性がいいのかも」
「人間では珍しいよね」

 あれ。もしかして褒められてる?

「やっぱり、ほっとくと危なっかしいからかな?」
「手がかかるほど可愛いってやつだよね」

 褒められてなかった。
 むしろ、精神的に下に見られていた。
 大人なのに。

「ねえねえ、アキト。さっきから気にはなってたんだけど」
「ボクも気になってたんだけど、アキト」
「「あれなーにー?」」

 双子が棚を見上げて言った。

 棚の上に据えられているのは、例の卵のたまごろーだ。

「ああ、これ? 帰り道のごたごたで手に入れて、そのまま持って帰ってきちゃったって言うか……なんの卵からは俺もよくわかってないんだけど、孵化すればいいなーと思ってるんだけどね。それがどうかした?」

 双子は『ふ~ん』と唸りながら、いろいろな角度から卵を観察していた。

 そして、急に俺に背を向けてしゃがみ込み、またもやなにやら密談をはじめた。

 普段はわざと声を漏らして話すのだが、今回は文字通り小声で声を忍ばせている。
 時折、横目でちらちら見られるのが、妙にそわそわする。

「あの、なにか問題でも……?」

 不安に駆られ、恐る恐る訊ねると、双子は立ち上がって並び、天使の笑顔でにこっと微笑んだ。

 ……それだけだった。

(いや、余計に気になるんだけど)

 妙に悪戯っぽい眼差しをしていたのは、見間違いと信じたい。

 結局、双子は最後まで教えてはくれなかったが、本当に問題があることなら黙ってはいないだろう、と自分を納得させることにした。

「そろそろ帰らなくちゃ」
「パパたちも待ってるしね」
「「じゃあまたね~」」

 双子は刺繍用の新色の糸を購入し、普段通りの様子で手を振って帰っていった。

 双子が妖精だということには驚かされたが、案外、言われてみると、胸にすとんと落ち着いた。
 まあ、ここは異世界、知人が実は妖精だった、たまにはそんなこともあるだろう。

 ……ないか。

 うん、やはりいろいろ麻痺しているのかもしれない。
 それよりも、双子が変な興味を示したたまごろーのほうが、そこはかとなく気にはなる。

「大丈夫だよな、おまえ?」

 たまごろーの殻の表面をぺしぺしと叩きながら、嘆息する。

 台詞とは裏腹に、大丈夫ではなさそうな気がするのは、気のせいのはずだ。
 気のせいであってほしい。
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