異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

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第八章

ギルドからの呼び出しです 1

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 素材シラキ屋の運営は、かつてないほど順調だった。

 大きな要因としてはふたつある。

 まずひとつ目は、疾風丸が復帰してから、物資の運搬が格段に楽になったことだ。
 これまでは徒歩2時間の道のりを大八車でえっちらおっちらと運んでいて、体力面からも安全面からもどうしても制限はあったが、疾風丸ならばその両面をクリアできた。
 重ねて叔父に荷台部分も改良を施してもらっているため、かなり大量の荷物を積むことも可能だ。頼りになる文明と魔法の利器である。

 ただし、ロケットモードは封印し、きちんと地に足(タイヤ)を着けた運用を行なっている。
 飛行モードではなく、ロケットモードなのは自戒を込めた命名である。

 疾風丸はタイヤの回転を動力とする車ではなく、言わば風の魔法石の推進力で進むジェット機のような機構なのだが、運転中の安定感は抜群だ。
 ちょっとでも急ハンドルを切れば、容易く推進力に車体が振り回されそうなものだが、それもない。
 操縦に慣れてきた以上に、おそらく精霊のアシストが大きい。もともと同じ風由来の属性だけに、相性もいいのだろう。
 近頃、明らかに精霊の存在を感じることも多くなった。

 機会があったときに、レプラカーンの双子のペシルとパニムに相談してみたのだが、これは以前よりも着実に風の精霊との親密性が向上しているためらしい。
 そのうち、精霊の姿も見えるようになるのでは、とは双子の言だ。
 近しい知人に妖精がいたのは幸運だった。今では双子は、すっかり精霊関連の相談役である。

 ふたつ目は、円の財源確保に尽きる。
 これは、ナツメさまさまだろう。

 鎧をはじめとした防具の反響は上々で、これまでの製作済の品に関しては、ネットショップにアップした途端に完売した。
 追加注文やオーダーメイドも多く、小物の防具や装飾などは、ニッチの割に手頃な値段とクオリティの高さでリピーターやファンも多い。

 現在は予約待ちの状況だ。
 ワンオフということでレア度も高いのだろう。
 なにせ、ナツメのひとつひとつの手作りなのだから、当然そうなってしまう。

 当のナツメ本人は、ここ数日、店のほうに姿を見せていない。
 というか、見せていたときはサボっているときだったため、サボる暇もないということだろう。

 聞いた話では、姉で工房主のチナツ姐さんが自ら付きっ切りで監督(監視?)にあたっているらしい。
 なんでも、これまで怠けた分を取り戻させるためだとかなんとか。
 先日、工房までアイス珈琲のボトルを差し入れに行ったら、ものすごい喜ばれた。
 ここまで貢献してくれているのだから、そのうち工房にナツメ専用の珈琲サーバーを用意してもいいくらいだ。

 発注主の俺としては、ショップでは受注発注の手作りを謳ってあり、客にはあらかじめ日数が掛かることの了承を受けているので、それほど急がせるつもりはないのだが……『酔いどれ鍛冶屋』としてはこの好機を微塵も逃すつもりはないらしい。主に経理も担っているチナツ姐さんが。
 引退した親父さんまで投入して、工房一丸となって事にあたっているそうだ。

 小型の簡単な品で数時間、鎧でも丸1日で仕上げてきたのにはさすがに驚かされた。
 しかも、鎧はロマンと言い切るだけあって、手抜き一切なしのクオリティ。

 ただ唯一の心配は――過労死するなよ、ナツメ。

 そういった背景があり、シラキ屋としてもここいらで、ちょっとした取扱商品の拡張をすることにした。

 とはいえ、大げさなことはできない。
 金儲けだけなら、現代世界から様々な便利商品を持ち込むだけで事足りるが、それではこちらの世界の文明をかき乱してしまう。
 それは避けたいとの、叔父との共通認識でもある。

 基本的に、道具類や製品は取り扱わない。
 だからこその素材屋で、それ単体で商品となるものは避け、それを用いて新たななにかに加工される、利用される、そこらへんをラインとしている。
 そして、新素材も避けて、こちらの世界に既存するものに限定する。

 これまで取り扱ってきた素材は、大別すると主に4種。
 砂糖や塩などの各調味料に加え、粉物などの食料品関連。最近では少量ずつ蜂蜜も置くようにした。
 生地や縫い糸などの縫製素材。生地自体は布メインで、染色に幅を持たせることに重点を置いている。
 ガラス片や木材、石材など。運搬や陳列の問題から建築用ではなく、あくまで工芸用素材として。
 残りは、叔父の収集してくる素材である。主に魔法具素材だが、多用途な素材となるものも複数あり、意外に幅広い。

 大まかにはこのくらいで、後は少量でもあると便利そうな物――通販ショップで目についたり、ホームセンターで見かけた物が並ぶ、といった感じだ。

 そして、想定される問題を回避する目的で、同じような商品でもリサーチして価格は相場よりも高めに設定している。
 現代社会のほうが質がいいのは当然のため、質がよく安いでは買い物客からはともかく、同業者からはいらぬ妬みを買ってしまう。
 仕入れ方法が方法だけに、内情を探られるのも痛い。悪目立ちは最も避けたいところだ。

 専属販売、大量販売もしていない。あくまで質がよく少々お高い物を取り扱う小売業として位置づけている。
 それらを踏まえ、考えあぐねた末、今回はこれらに加えて紙用品を取り扱ってみることにした。

 こちらの世界では、紙は一般にも安価で流通している庶民的なものだ。
 ただし、質がかなりいまいちで、ざらざらで手触りも悪く、なによりも破れやすい。
 使い捨ての認識なので当然かもしれないが、現代日本で普通とされている紙質と歴然の差があるのは否めなかった。
 そこで、いくつかの紙用品を仕入れて売ってみたのだが――これがまた、飛ぶように売れた。

 ノート、画用紙、ティッシュペーパー、キッチンペーパー、トイレットペーパー、果ては業務用のペーパーロールから折り紙まで。
 もちろん価格は高めに設定していたのだが、陳列即完売状態となった。
 朝から陳列をはじめ、最初に興味を示して購入した客が退店してから1時間後には、紙を求める客で順番待ちができるほどになっていた。
 初日ということもあり、腐るものでもないので多めには仕入れてあったが、正午を待たずしてあっけなく在庫切れである。
 異世界でも口コミはかくも強力なことを痛感する出来事だった。

 描書用は筆の乗りの良さ、他は手触り肌触りの心地よさと、きれいに収納されて必要分だけ使える使い勝手のよさが、顧客のニーズとマッチしたらしい。

 それ以降、街ではちょっとした紙ブームとなってしまった。
 広場のファーストフード店で、包み紙にトイレットペーパーが使われていたのには、ちょっと引いた。
 ポリエチレンはまずいだろうと、用途を記載したビニール包みを剥がして販売したので、こちらのせいかもしれないが。
 まあ、たしかに元の用途を知らなければ、柔らかく汁汚れも吸い取り、ミシン目で切れやすく、置き場所も取らないので便利そうではあった。

 紙用品は、相場よりは高く設定したものの、そもそもの単価自体がさほど高くない。
 とはいえ、もともと仕入れが安かったこともあり、こちらでの販売価格を上げている分、売れた総数でかなりの粗利を稼ぐ結果となった。
 売り切れにもかかわらず、次から次へと客が詰め寄せるさまは、日頃、あまり賑わうことのないシラキ屋にとって、思い出深い日となった。


 そんな騒動から数日後。
 シラキ屋の俺のところに、所属する商人ギルドからの呼び出しがかかった。
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