124 / 184
第九章
伯爵家の御曹司 2
しおりを挟む
右を見ても左を向いても、天井を見上げてさえも、叔父・叔父・叔父のオール叔父。
劇画タッチのポスターや、アニメチックなポスターもあれば、人形やぬいぐるみ、フィギュアと呼べそうな精巧な物まで整然と飾ってあった。
中にはあまりにデフォルメしすぎて、もはやなにがなにやら判別できないものすらある。
奥の壁にはどういうわけか、紙幣が20枚ほど、きれいにピンで貼りつけてあった。
「あ。それですか? 1000枚に1枚くらい、肖像画がちょっと違っているものがあるんですよ! これなんて、ほら、笑っているみたいでしょう? こっちなんて、しかめっ面! あはは」
たしかにお札の叔父の肖像画の一部が、わずかに歪んでいる。エラー紙幣というやつか。
製紙印刷技術が低いこちらでは、起こりやすいこともあるかもしれない。
ただ、1000枚に1枚ということは、20枚揃えるために少なくとも2万枚以上は集めて確認したということで。
壁に貼っている紙幣の総額だけでも、50万ゼン=50万円は超えていそうだ。
金持ちってやつは。
「見てください、これなんて! かの魔族100体斬りを成したときに、砕けた盾の破片ですよ!? すごいと思いません!?」
フェブラント少年が引き出しから取り出した箱に収められていたのは、小さな金属片だった。
仮にそれが本物の盾の破片だとして、どうやって証明できるのだろうか……?
「こっちなんて、大物ですよ!?」
そう言って奥の暗がりから引っ張り出してきたのは、首なし獣の剥製だった。
(怖っ!)
「勇者さまが首を刎ね飛ばして倒した魔獣なんです!」
いや、それ、もはや勇者とほとんど関係ないよね?
嬉々として解説を続けるフェブラント少年を前にして、悟らざるを得なかった。
こいつは勇者オタクであると!
冗談はさておき、ここまでの勇者好きが俺を呼び出したとなると、意味合いが変わってくるだろう。
「……話を戻しますけど、俺が呼ばれた理由はなんでしょう?」
両手いっぱいに次なるグッズを抱えていたフェブラント少年の動きが、にわかに止まった。
「……そうでした! ボクって、勇者さまのことになると、ちょっぴり我を忘れる傾向がありまして!」
(ちょっぴり……?)
大事そうにグッズを元の場所に戻してから、フェブラント少年は俺と向い合せに正座した。
「ボクは日頃から、勇者さまのグッズだけでなく、勇者さま自身の情報も集めているのです。魔王を倒されてからは、あの方は姿を消してしまわれて……たまにある目撃証言も、あてになるのかならないのか、不明瞭なものばかり。――ですが!」
うつむき加減だった顔を、握り拳と共にがばっと上向けた。
「先日の魔族によりカルディナの街が卑劣な襲撃を受けた際――勇者さまがどこからともなく駆けつけ! 魔族の軍勢を! ことごとく! 倒してしまわれたではないですか! げほげほっ!」
興奮しすぎてむせていたので、その背中をさすってやる。
「これはどうもご丁寧に。その際には、アキトさまも奮闘なされたと聞き及んでおります。直接統治していないとはいえ、我がアールズ家の領地たるカルディナのために尽力していただき、アールズ家の末席に名を連ねる者として心よりの感謝を。また、助力に駆けつけることができなかった不甲斐なさをお詫びいたします」
殊勝に頭を下げられる。
俺も貴族についてゲーム以上の知識はないが、ノブレス・オブリージュくらいは知っている。
きっと良いか悪いかで言うと、平民にも感謝し、非を認め、頭を垂れることができるこの子は良い貴族なのだろう。
つまり、そういった教育を施してきたアールズ家という貴族が。
ただ、現状でフェブラント少年が伝えたいこととはそんなことではないはずだ。
奮闘し尽力したのは街の他の皆も同じ。勇者は別としても、俺だけが特別活躍したわけじゃない。
となれば、これらはすべて前置きで、ここから先が本題ということになる。
「ボクは領主家として詳細を知るべく……いえ、ここはもう認めましょう。ボクは個人的な趣味として、勇者さまの動向に興味があり、その一挙手一投足を知るべく、日頃から勇者さまに関する情報があればつぶさに収集しておりました。そして今回のカルディナの騒乱で、ある方から勇者さまに関する有力な情報を得たのです!」
ほらきた。
「アキトさま! あなたは勇者セージさまの血族の方ですね!?」
ババーン!と効果音が鳴りそうな勢いで指を突きつけられた。
いかにもなドヤ顔だが、正直なところ、この部屋を見た瞬間から結末は予想できていた。
というか、示唆されていたようなものだ。そうでもないと、逆にここまで歓待されて懐かれる理由がない。
血族なんて大層な呼ばれ方をするのはこれで2回目だ。
白木家の一族なんて、叔父以外は特筆すべきもない一般人ばかりなのに。
「……あ、あれ?」
あちらは想定外だったのだろう。
さして反応を示さない俺の様子に、フェブラント少年は焦り気味にまくし立ててきた。
「騒動のさなか、あなたと勇者さまが、親しげにしていたという有力情報が!」
挫けず、再び指を突きつけられる。
他人を指さすのは、貴族というか礼儀としてどうかと思わないでもない。
とりあえず、無言のまま穏やかに微笑み返しておくことにした。
劇画タッチのポスターや、アニメチックなポスターもあれば、人形やぬいぐるみ、フィギュアと呼べそうな精巧な物まで整然と飾ってあった。
中にはあまりにデフォルメしすぎて、もはやなにがなにやら判別できないものすらある。
奥の壁にはどういうわけか、紙幣が20枚ほど、きれいにピンで貼りつけてあった。
「あ。それですか? 1000枚に1枚くらい、肖像画がちょっと違っているものがあるんですよ! これなんて、ほら、笑っているみたいでしょう? こっちなんて、しかめっ面! あはは」
たしかにお札の叔父の肖像画の一部が、わずかに歪んでいる。エラー紙幣というやつか。
製紙印刷技術が低いこちらでは、起こりやすいこともあるかもしれない。
ただ、1000枚に1枚ということは、20枚揃えるために少なくとも2万枚以上は集めて確認したということで。
壁に貼っている紙幣の総額だけでも、50万ゼン=50万円は超えていそうだ。
金持ちってやつは。
「見てください、これなんて! かの魔族100体斬りを成したときに、砕けた盾の破片ですよ!? すごいと思いません!?」
フェブラント少年が引き出しから取り出した箱に収められていたのは、小さな金属片だった。
仮にそれが本物の盾の破片だとして、どうやって証明できるのだろうか……?
「こっちなんて、大物ですよ!?」
そう言って奥の暗がりから引っ張り出してきたのは、首なし獣の剥製だった。
(怖っ!)
「勇者さまが首を刎ね飛ばして倒した魔獣なんです!」
いや、それ、もはや勇者とほとんど関係ないよね?
嬉々として解説を続けるフェブラント少年を前にして、悟らざるを得なかった。
こいつは勇者オタクであると!
冗談はさておき、ここまでの勇者好きが俺を呼び出したとなると、意味合いが変わってくるだろう。
「……話を戻しますけど、俺が呼ばれた理由はなんでしょう?」
両手いっぱいに次なるグッズを抱えていたフェブラント少年の動きが、にわかに止まった。
「……そうでした! ボクって、勇者さまのことになると、ちょっぴり我を忘れる傾向がありまして!」
(ちょっぴり……?)
大事そうにグッズを元の場所に戻してから、フェブラント少年は俺と向い合せに正座した。
「ボクは日頃から、勇者さまのグッズだけでなく、勇者さま自身の情報も集めているのです。魔王を倒されてからは、あの方は姿を消してしまわれて……たまにある目撃証言も、あてになるのかならないのか、不明瞭なものばかり。――ですが!」
うつむき加減だった顔を、握り拳と共にがばっと上向けた。
「先日の魔族によりカルディナの街が卑劣な襲撃を受けた際――勇者さまがどこからともなく駆けつけ! 魔族の軍勢を! ことごとく! 倒してしまわれたではないですか! げほげほっ!」
興奮しすぎてむせていたので、その背中をさすってやる。
「これはどうもご丁寧に。その際には、アキトさまも奮闘なされたと聞き及んでおります。直接統治していないとはいえ、我がアールズ家の領地たるカルディナのために尽力していただき、アールズ家の末席に名を連ねる者として心よりの感謝を。また、助力に駆けつけることができなかった不甲斐なさをお詫びいたします」
殊勝に頭を下げられる。
俺も貴族についてゲーム以上の知識はないが、ノブレス・オブリージュくらいは知っている。
きっと良いか悪いかで言うと、平民にも感謝し、非を認め、頭を垂れることができるこの子は良い貴族なのだろう。
つまり、そういった教育を施してきたアールズ家という貴族が。
ただ、現状でフェブラント少年が伝えたいこととはそんなことではないはずだ。
奮闘し尽力したのは街の他の皆も同じ。勇者は別としても、俺だけが特別活躍したわけじゃない。
となれば、これらはすべて前置きで、ここから先が本題ということになる。
「ボクは領主家として詳細を知るべく……いえ、ここはもう認めましょう。ボクは個人的な趣味として、勇者さまの動向に興味があり、その一挙手一投足を知るべく、日頃から勇者さまに関する情報があればつぶさに収集しておりました。そして今回のカルディナの騒乱で、ある方から勇者さまに関する有力な情報を得たのです!」
ほらきた。
「アキトさま! あなたは勇者セージさまの血族の方ですね!?」
ババーン!と効果音が鳴りそうな勢いで指を突きつけられた。
いかにもなドヤ顔だが、正直なところ、この部屋を見た瞬間から結末は予想できていた。
というか、示唆されていたようなものだ。そうでもないと、逆にここまで歓待されて懐かれる理由がない。
血族なんて大層な呼ばれ方をするのはこれで2回目だ。
白木家の一族なんて、叔父以外は特筆すべきもない一般人ばかりなのに。
「……あ、あれ?」
あちらは想定外だったのだろう。
さして反応を示さない俺の様子に、フェブラント少年は焦り気味にまくし立ててきた。
「騒動のさなか、あなたと勇者さまが、親しげにしていたという有力情報が!」
挫けず、再び指を突きつけられる。
他人を指さすのは、貴族というか礼儀としてどうかと思わないでもない。
とりあえず、無言のまま穏やかに微笑み返しておくことにした。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。
黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。
そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。
しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの?
優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、
冒険者家業で地力を付けながら、
訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。
勇者ではありません。
召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。
でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる