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第九章
合わせ鏡の悪魔 2
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「なるほど。では、そちらは私のほうで調べてみよう」
返事をしたのは意外にもラスクラウドゥさんで、椅子から音もなく立ち上がっていた。
どういうわけか普段の鉄仮面に、わずかな感情らしきものが浮かんでいる。
「任せる」
お互いの意思疎通は完了しているらしく、すでに居間から出て行こうとしているラスクラウドゥさんを、叔父は素っ気なく見送っていた。
「待ってください、ラスクラウドゥさん!」
咄嗟にラスクラウドゥを呼び止めていた。
「……なにか?」
まだ頭の中はまとまっていない。
だが、これだけは訊いておかないといけない気がした。
「あの……以前、魔族に『人間への戦闘行為の厳禁』を約束されていると聞きました。これは、『人間側が魔族の領内に侵攻した場合』にも適用されますか?」
「含まれない。あくまで人間の現領土内に限られる。外敵に対して腑抜ける者が居ようものなら――この私が手ずから滅してくれよう」
ラスクラウドゥさんは顔色ひとつ変えず、淡々とした口調で即答する。
わずかに横目で向けられた眼光に、背筋が凍りつく思いだった。
銀光放つ銀色の瞳――魔族の証。この瞳に敵意が宿れば、凡庸な人間など刹那も生きてはいられないだろう。
「では、失敬する」
長い銀髪をはためかせ、ラスクラウドゥさんは今度こそ居間を後にした。
「……ラスクにそんな質問をしたってことは、秋人も感じるものがあったようだな?」
「……うん。俺も魔族と人間の二分で考えてた。人間側だけの事情だと、また魔族が……みたいな感じに思えてたけど、叔父さんからの魔族側の事情を聞いたら、魔族と人間のどちらの陣営にも属さない第三勢力が見えてきた気がする。第三勢力というよりは、傍観者――いや、ゲームで言うところのプレイヤーかな? ちょっと引いたところから、いろいろイベントを発生させて、なんだかゲームメイクを楽しんでいるみたいな」
ゲームだったら想像がつく。
一見して意味がなさそうなことでも、その過程が楽しいのだ。
ガチガチの攻略も楽しいが、さまざまなイベントをこなし、経過自体を楽しみ、もたらされる結果を予想し夢想することもゲームの遊び方のひとつだ。
俺も後者派で、のんびりゲームライフが好みだった。
早解きよりは、ステータスカンストやコレクションコンプリートで延々と遊び尽くすような。
「ゲームね。言い得て妙だな。奴らもよく『遊戯』という言葉を口にしていた」
「奴らって、さっきも言ってた?」
「そう。合わせ鏡の悪魔――冒険者の間でそう囁かれていた魔族で、心底、最低の連中だ」
叔父が吐き捨てる。
名前を口にしただけで、明らかにその気配が変わっていた。
独特の凄みに、俺まで身震いするほどだった。
「神出鬼没で、自身はほとんど表に出ず、裏で配下の魔族を操って遊ぶ最上級魔族だ」
最上級魔族。
叔父からの受け売りだが、魔族には階級があるという。
一般的に大多数を占める兵士クラスの下級魔族。
指揮官クラスの中級魔族。
上級魔族あるいは大魔族と呼ばれる司令官クラスの魔族。
さらにその上に、全魔族を統括する立場の序列を冠する10名の最上級魔族が存在する。
その最上級魔族ということは、つまりはあのラスクラウドゥさんにも比肩するということだ。
「連中ってことは、その、合わせ鏡の悪魔とやらは複数……?」
「ああ。見た目は若い男女ふたり組だな。見目麗しい、って言葉がしっくりくる奴らだが、見た目に反して性格は最悪だ。無邪気に虫を殺す自我の薄い幼子が、そのまま大人になったような酷薄さで、行動原理の大半は、『面白そうだから』『楽しそうだから』とくる。親友や恋人を罠に嵌めて仲違いさせ、憎み殺し合うように仕向けたりもする悪趣味っぷりだ。そのときの動機がなんだったと思う? 「人の絆とやらの強さをたしかめたかった」だとさ。その結果、「絆とは思いのほか脆いものだな」とか残念そうにほざきやがる。人の命をなんだと思ってやがる――ふざけんなっ!」
叔父の叩き下ろした拳で、テーブルが軋む。
「うえ……それはいくらなんでも……」
まるでマンガやゲームに出てきそうな、絵に描いたような悪党だ。
人情に厚い叔父が憤るのもよくわかる。
きっと身近な人物が、実際に巻き込まれて命を落としたのだろう。
そんなとき、そんな台詞を聞かされたら――どう絶望するのかということも。
「アールズ家のフェブラント坊主の両親――あの人たちも、合わせ鏡の悪魔の被害者だ」
「…………え?」
突然の台詞に息を飲んだ。
思いがけないところから出てきた知り合いの名に、言葉は認識できても理解が遅れた。
「今回の一件、まだ調べてみないことには断定はできないが……仮に奴らが関わっているのならば、秋人にも一働きしてもらう必要がある。言っても聞いても決して楽しい話じゃないが、秋人も知っておいたほうがいいだろう」
そう前置いてから、叔父は静かに語り出した。
「フェブラント坊主の親にして、じっさまの息子夫婦は、かつて勇者と呼ばれた人たちだったんだ……」
返事をしたのは意外にもラスクラウドゥさんで、椅子から音もなく立ち上がっていた。
どういうわけか普段の鉄仮面に、わずかな感情らしきものが浮かんでいる。
「任せる」
お互いの意思疎通は完了しているらしく、すでに居間から出て行こうとしているラスクラウドゥさんを、叔父は素っ気なく見送っていた。
「待ってください、ラスクラウドゥさん!」
咄嗟にラスクラウドゥを呼び止めていた。
「……なにか?」
まだ頭の中はまとまっていない。
だが、これだけは訊いておかないといけない気がした。
「あの……以前、魔族に『人間への戦闘行為の厳禁』を約束されていると聞きました。これは、『人間側が魔族の領内に侵攻した場合』にも適用されますか?」
「含まれない。あくまで人間の現領土内に限られる。外敵に対して腑抜ける者が居ようものなら――この私が手ずから滅してくれよう」
ラスクラウドゥさんは顔色ひとつ変えず、淡々とした口調で即答する。
わずかに横目で向けられた眼光に、背筋が凍りつく思いだった。
銀光放つ銀色の瞳――魔族の証。この瞳に敵意が宿れば、凡庸な人間など刹那も生きてはいられないだろう。
「では、失敬する」
長い銀髪をはためかせ、ラスクラウドゥさんは今度こそ居間を後にした。
「……ラスクにそんな質問をしたってことは、秋人も感じるものがあったようだな?」
「……うん。俺も魔族と人間の二分で考えてた。人間側だけの事情だと、また魔族が……みたいな感じに思えてたけど、叔父さんからの魔族側の事情を聞いたら、魔族と人間のどちらの陣営にも属さない第三勢力が見えてきた気がする。第三勢力というよりは、傍観者――いや、ゲームで言うところのプレイヤーかな? ちょっと引いたところから、いろいろイベントを発生させて、なんだかゲームメイクを楽しんでいるみたいな」
ゲームだったら想像がつく。
一見して意味がなさそうなことでも、その過程が楽しいのだ。
ガチガチの攻略も楽しいが、さまざまなイベントをこなし、経過自体を楽しみ、もたらされる結果を予想し夢想することもゲームの遊び方のひとつだ。
俺も後者派で、のんびりゲームライフが好みだった。
早解きよりは、ステータスカンストやコレクションコンプリートで延々と遊び尽くすような。
「ゲームね。言い得て妙だな。奴らもよく『遊戯』という言葉を口にしていた」
「奴らって、さっきも言ってた?」
「そう。合わせ鏡の悪魔――冒険者の間でそう囁かれていた魔族で、心底、最低の連中だ」
叔父が吐き捨てる。
名前を口にしただけで、明らかにその気配が変わっていた。
独特の凄みに、俺まで身震いするほどだった。
「神出鬼没で、自身はほとんど表に出ず、裏で配下の魔族を操って遊ぶ最上級魔族だ」
最上級魔族。
叔父からの受け売りだが、魔族には階級があるという。
一般的に大多数を占める兵士クラスの下級魔族。
指揮官クラスの中級魔族。
上級魔族あるいは大魔族と呼ばれる司令官クラスの魔族。
さらにその上に、全魔族を統括する立場の序列を冠する10名の最上級魔族が存在する。
その最上級魔族ということは、つまりはあのラスクラウドゥさんにも比肩するということだ。
「連中ってことは、その、合わせ鏡の悪魔とやらは複数……?」
「ああ。見た目は若い男女ふたり組だな。見目麗しい、って言葉がしっくりくる奴らだが、見た目に反して性格は最悪だ。無邪気に虫を殺す自我の薄い幼子が、そのまま大人になったような酷薄さで、行動原理の大半は、『面白そうだから』『楽しそうだから』とくる。親友や恋人を罠に嵌めて仲違いさせ、憎み殺し合うように仕向けたりもする悪趣味っぷりだ。そのときの動機がなんだったと思う? 「人の絆とやらの強さをたしかめたかった」だとさ。その結果、「絆とは思いのほか脆いものだな」とか残念そうにほざきやがる。人の命をなんだと思ってやがる――ふざけんなっ!」
叔父の叩き下ろした拳で、テーブルが軋む。
「うえ……それはいくらなんでも……」
まるでマンガやゲームに出てきそうな、絵に描いたような悪党だ。
人情に厚い叔父が憤るのもよくわかる。
きっと身近な人物が、実際に巻き込まれて命を落としたのだろう。
そんなとき、そんな台詞を聞かされたら――どう絶望するのかということも。
「アールズ家のフェブラント坊主の両親――あの人たちも、合わせ鏡の悪魔の被害者だ」
「…………え?」
突然の台詞に息を飲んだ。
思いがけないところから出てきた知り合いの名に、言葉は認識できても理解が遅れた。
「今回の一件、まだ調べてみないことには断定はできないが……仮に奴らが関わっているのならば、秋人にも一働きしてもらう必要がある。言っても聞いても決して楽しい話じゃないが、秋人も知っておいたほうがいいだろう」
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