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第五章 回想編
獣人の戦奴たち 2
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「セージの兄ちゃん、はっけーん!」
「とっかーん、とっかーん!」
「あたいも、あたいもー」
「えーい、まとわりつくなあ! ガキども!」
訓練施設に向かう道すがら、征司の姿を発見した獣人の子供たちが、手足にしがみついてくる。
子供とはいえ、獣人の10歳程度ともなれば人間に比べて力も強く、引っぺがすにも体力を消耗する。
これから鍛錬を行なうというのに、事前にへばっては意味がない。
それでも、征司は子供たちを引きずったまま、訓練施設まで到達した。
いつもの守衛の獣人が、格子の向こうから、親しげに呼びかけてきた。
「なんだ、セージ。また鍛錬か? おまえも好きだねぇ」
「まーな。また厄介になるよ」
「いいって、いいって。おめーさんなら大歓迎だ。若い奴らの刺激にもなるしよ! ほれ、ガキども! こっから先は立ち入り禁止だ!」
守衛に叱られると、征司に貼りついていた子供たちが、蜘蛛の子を散らすようにいっせいに逃げ出した。
「あ~、まだなんもしてない内から疲れた。あいつら、首におもくそ抱きつきやがって……あたた……首が」
首を擦りながら征司が施設に入ると、訓練していた獣人たちから次々と声が掛けられた。
「セージ、また後で組手に付き合ってよね!」
「おう、後でなー」
「来やがったな、セージ! 今度こそは勝ち越してやる」
「望むところだ。また黒星増やしてやるから覚悟しとけよ」
「セージ、いいところに! 模擬戦のメンバーが足りないのよ、手伝って! ね?」
「いつものメニューをこなしてからな」
「あ、セージ! てめえ、昨日勝ったからっていい気になんなよ!? 今日こそリベンジかませてやる!」
「返り討ちにしてやんよ。はっはっ」
応対しつつ、征司は移動しながらウォーミングアップをすませた。
まずは肩慣らしに武器を使った素振りで汗を流す。
次いで、実戦形式の訓練に混じっての鍛錬。
そして、相手を見つけての手合わせを行なう。
だいたいそれが、一連の流れとなる。
ただ手合わせについては、挑まれることのほうが増えてきたため、率先して相手を探す必要がなくなってきた感はある。
「よーう、お疲れ」
「はぁい、セージ」
征司の進行方向に、男女ふたりの獣人が躍り出た。
男のほうが青狼族のラッシで、女のほうが森豹族のリムだ。
最近は、鍛錬以外のことでもよく話すようになった間柄だ。
「表での見てたぜ。相変わらずガキに懐かれてんなあ」
「だったら、少しは助けろよ」
「セージったら、結局構ってあげるもんだから、子供にも人気者なんだよねー」
「言ってろ」
征司はふたりを通り過ぎ、素振り用の剣を構えて、さっそく素振りを始めた。
ラッシとリムは、慣れた様子で征司を挟んで両脇の地面に座り込む。
ふたりはサボりの常習犯で、暇潰しと称しては征司によくちょっかいをかけてくる。
「でさー。地猫族のアレミアちゃん、俺に気があると思うんだけど、どうかなー?」
「ええ~、そりゃないでしょ~。あんた軽薄だし、弱いし」
「そっかなー。セージはどう思う?」
「そのアレミアちゃんとやらが、どんな娘か知らんし」
「は? 一昨日、セージと対戦してたじゃねーか。ほら、あの赤っぽい毛並みで、グラマーでチャーミングな顔してた娘だよ」
「……すまん。忘れたわけじゃないが、誰のことかわからん」
征司は素振りを続けつつ、思い出そうとしたものの、ついには徒労に終わった。
確かに、赤毛の娘はいた――ように記憶している。
だが征司にとって、相手は異種人であり、外国人が同じ顔に見えるに等しい。
ましてや相手は獣人。ただでも見慣れない獣面で、しかも顔も身体も大部分が体毛に覆われてしまっている。
そのため、獣人の種族自体は区別しやすいが、個々の顔立ちまで判別となるとさっぱりだった。
実際、特定の数人以外は、顔と名前が一致しないのが現状である。
ただ、ふたりにとっては単なる四方山話だったようで、気にすることなく、すぐに次の話題に移り替わっていた。
「あ、終わった? お疲れー」
規定回数の素振りをこなしたのを見計らって、ラッシがタオルを放ってきた。
それを受け取り、征司もふたりに倣って腰を下ろす。
「ふ~」
征司が汗を拭いていると、リムがしな垂れかかってきた。
というか、頭の上に乗っかってきた。
「ええい! 頭に乳を乗せんな!」
「やんっ。セージってば、相変わらずお堅いのねー。きゃは!」
言いつつ、長い尻尾を征司の首筋に絡め、尻尾の先で頬をくすぐってくる。
いつものことなので、征司も今さらその程度では動じない。
面倒臭そうに手の甲で払っている。
「あたいはいつでもOKよん?」
「あ、俺は俺は?」
「あんたはパス! 無理!」
ラッシがリムに、ばっさりと斬り捨てられていた。
まるっきりの漫談に、征司もどっと疲れが増す。
「初日に感じた、獣人たちのあのストイックな雰囲気はなんだったんだ」
頭を抱え、ついついぼやいてしまう。
この獣人という種族は、好戦的で強さを第一に置いている傾向はある。陽気で仲間意識も高い、それはいい。
しかし、根本として享楽的で開放的、はっきり言ってしまうと性格がやたら軽いのだ。
戦闘から一歩離れてしまうと、だいたいは皆このふたりのような感じである。
特に酒が入ると、男女問わずに猥談とか普通に飛び出す。
あの厳格そうなグリズまでもが、酒の席で嬉々として脱ぎはじめたときには、正直どん引いた。
「とっかーん、とっかーん!」
「あたいも、あたいもー」
「えーい、まとわりつくなあ! ガキども!」
訓練施設に向かう道すがら、征司の姿を発見した獣人の子供たちが、手足にしがみついてくる。
子供とはいえ、獣人の10歳程度ともなれば人間に比べて力も強く、引っぺがすにも体力を消耗する。
これから鍛錬を行なうというのに、事前にへばっては意味がない。
それでも、征司は子供たちを引きずったまま、訓練施設まで到達した。
いつもの守衛の獣人が、格子の向こうから、親しげに呼びかけてきた。
「なんだ、セージ。また鍛錬か? おまえも好きだねぇ」
「まーな。また厄介になるよ」
「いいって、いいって。おめーさんなら大歓迎だ。若い奴らの刺激にもなるしよ! ほれ、ガキども! こっから先は立ち入り禁止だ!」
守衛に叱られると、征司に貼りついていた子供たちが、蜘蛛の子を散らすようにいっせいに逃げ出した。
「あ~、まだなんもしてない内から疲れた。あいつら、首におもくそ抱きつきやがって……あたた……首が」
首を擦りながら征司が施設に入ると、訓練していた獣人たちから次々と声が掛けられた。
「セージ、また後で組手に付き合ってよね!」
「おう、後でなー」
「来やがったな、セージ! 今度こそは勝ち越してやる」
「望むところだ。また黒星増やしてやるから覚悟しとけよ」
「セージ、いいところに! 模擬戦のメンバーが足りないのよ、手伝って! ね?」
「いつものメニューをこなしてからな」
「あ、セージ! てめえ、昨日勝ったからっていい気になんなよ!? 今日こそリベンジかませてやる!」
「返り討ちにしてやんよ。はっはっ」
応対しつつ、征司は移動しながらウォーミングアップをすませた。
まずは肩慣らしに武器を使った素振りで汗を流す。
次いで、実戦形式の訓練に混じっての鍛錬。
そして、相手を見つけての手合わせを行なう。
だいたいそれが、一連の流れとなる。
ただ手合わせについては、挑まれることのほうが増えてきたため、率先して相手を探す必要がなくなってきた感はある。
「よーう、お疲れ」
「はぁい、セージ」
征司の進行方向に、男女ふたりの獣人が躍り出た。
男のほうが青狼族のラッシで、女のほうが森豹族のリムだ。
最近は、鍛錬以外のことでもよく話すようになった間柄だ。
「表での見てたぜ。相変わらずガキに懐かれてんなあ」
「だったら、少しは助けろよ」
「セージったら、結局構ってあげるもんだから、子供にも人気者なんだよねー」
「言ってろ」
征司はふたりを通り過ぎ、素振り用の剣を構えて、さっそく素振りを始めた。
ラッシとリムは、慣れた様子で征司を挟んで両脇の地面に座り込む。
ふたりはサボりの常習犯で、暇潰しと称しては征司によくちょっかいをかけてくる。
「でさー。地猫族のアレミアちゃん、俺に気があると思うんだけど、どうかなー?」
「ええ~、そりゃないでしょ~。あんた軽薄だし、弱いし」
「そっかなー。セージはどう思う?」
「そのアレミアちゃんとやらが、どんな娘か知らんし」
「は? 一昨日、セージと対戦してたじゃねーか。ほら、あの赤っぽい毛並みで、グラマーでチャーミングな顔してた娘だよ」
「……すまん。忘れたわけじゃないが、誰のことかわからん」
征司は素振りを続けつつ、思い出そうとしたものの、ついには徒労に終わった。
確かに、赤毛の娘はいた――ように記憶している。
だが征司にとって、相手は異種人であり、外国人が同じ顔に見えるに等しい。
ましてや相手は獣人。ただでも見慣れない獣面で、しかも顔も身体も大部分が体毛に覆われてしまっている。
そのため、獣人の種族自体は区別しやすいが、個々の顔立ちまで判別となるとさっぱりだった。
実際、特定の数人以外は、顔と名前が一致しないのが現状である。
ただ、ふたりにとっては単なる四方山話だったようで、気にすることなく、すぐに次の話題に移り替わっていた。
「あ、終わった? お疲れー」
規定回数の素振りをこなしたのを見計らって、ラッシがタオルを放ってきた。
それを受け取り、征司もふたりに倣って腰を下ろす。
「ふ~」
征司が汗を拭いていると、リムがしな垂れかかってきた。
というか、頭の上に乗っかってきた。
「ええい! 頭に乳を乗せんな!」
「やんっ。セージってば、相変わらずお堅いのねー。きゃは!」
言いつつ、長い尻尾を征司の首筋に絡め、尻尾の先で頬をくすぐってくる。
いつものことなので、征司も今さらその程度では動じない。
面倒臭そうに手の甲で払っている。
「あたいはいつでもOKよん?」
「あ、俺は俺は?」
「あんたはパス! 無理!」
ラッシがリムに、ばっさりと斬り捨てられていた。
まるっきりの漫談に、征司もどっと疲れが増す。
「初日に感じた、獣人たちのあのストイックな雰囲気はなんだったんだ」
頭を抱え、ついついぼやいてしまう。
この獣人という種族は、好戦的で強さを第一に置いている傾向はある。陽気で仲間意識も高い、それはいい。
しかし、根本として享楽的で開放的、はっきり言ってしまうと性格がやたら軽いのだ。
戦闘から一歩離れてしまうと、だいたいは皆このふたりのような感じである。
特に酒が入ると、男女問わずに猥談とか普通に飛び出す。
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