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第五章 回想編
誓い
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「で? いい考えは浮かんだか?」
大の字に横たわる征司の顔に、グリズが濡れたタオルを放ってきた。
冷えた水分が腫れた傷に染み渡って気持ちがいい。
征司は仰向けでタオルを額に載せたまま、天井を見上げていた。
「なあ、おっさん。手助けしたい奴がいる、でもそいつから助けを求められているわけじゃない。もしかしたら、助けを求めるどころか、望んでそうしているのかもしれない。そんなとき、どうすればいいんだろうな? 手前勝手にかかわるのは、やっぱ迷惑なだけかな?」
「なんだ。なにを悩んでいるかと思ったら、リィズのことか。女のことで悩むとは、青いなセージ?」
一発でばれていた。
「わからいでか。おぬしがそこまで親身になるといったら、ここではアレくらいなものだろう? おおかた、『半端者』が肩身の狭い思いをしているのではないか、どうにかしてやりたい、などとでも考えているのだろう、違うか?」
妖怪か、あんたは。
「まあ、100%その通りなんだけどよ」
征司は観念して、グリズに洗いざらい話すことにした。
征司自身は、困難には真正面からぶつかり、乗り越えるタイプだ。
そのため、他人のことも自分を基準に考えてしまいがちになる。
しかし今回ばかりは、問題の本質がリィズの心根の深いところにある。
そんな機微に安易に踏み込んでいいものかと思う反面、だったら他の誰が踏み込めるんだ、という気持ちもある。
だからこそ、どうしても煮え切らない。
グリズは真剣に耳を傾けつつも、どこか楽しげだった。
そして、話を聞き終えて一言、
「放っておけ」
あっさりと言い切った。
「それじゃあ、なにも解決しないじゃねえか!」
思わず詰め寄る征司だが、グリズは飄々としたものだった。
「なんだ、おぬしが解決する必要などあるのか? 自分でも言っていただろう、迷惑じゃないかと? ああ、迷惑だな。なにも知らない者の、したり顔の物言いほど腹立たしいことはない。おぬしは喧嘩ひとつしたことない小僧に、本で読みかじった格闘法を講釈されたらどうする?」
「……とりあえず腹パンかな」
「だろう? わしだったら5日は物が食えないようにしてやるところだ」
えげつない。
「それくらい、今のおぬしがアレにどれほど言葉を重ねても、これっぽっちも響きはせんよ。むしろ逆効果だろう。それだけ、おぬしの世間は狭い。おぬしが考えている以上に、この問題は深く暗い。アレが背負っているものもな」
「けっ、そうかよ」
征司にも自覚はあった。
気持ちばかり先走るが、現実問題として征司には術がない。
経験を伴わない知識は、ただの知ったかぶりだ。
理解はしているつもりでも、実体験として識っているわけではない。
そもそも征司はまだ17歳の若輩。
狭い環境で生まれ育ち、経験も知識もまるで足りていない。
「おっさんだったら、どうなんだよ?」
「わしか? わしは生粋の獣人だ。それこそ、アレが抱いた気持ちを真の意味で推し量ることはできまいよ」
「じゃあ、結局は放っておけってのかよ」
「だから最初からそう言っておるだろうに、わからん奴だな。『今のおぬしには』できることはなにもない」
「だけどよ……ん? 『今の俺』には?」
ようやく気づいたか、とばかりに、グリズが相好を崩した。
「簡単なことだ。経験がなければ体験すればいい。知らなければ実際に見聞きすればいい。世界を歩き、見識を広めて、自分の言葉に相手を納得させるだけの説得力を持たせればいい――セージ、おぬしは『冒険者』を知っているか?」
グリズは銀虎の獣面を、征司の鼻先まで近づけて言った。
「どうした、セージ様? 今日は身体の動きが鈍いな」
「いやあ、ちょっと虎のおっさんと派手にやりあってな。何気にぼろぼろ」
村に通うようになってからも、征司とリィズの夕食前の鍛錬は継続していた。
戦績はいまだに芳しくないが、今日に限ると重要なのはそこではない。
この時間がほぼ唯一といってもいい、リィズとの語らいの場なのだ。
リィズは相も変わらず、鍛錬の後は黙々と食事を取り、すぐに寝室に引っ込んで寝てしまう。
そして、朝は征司が起きる前に、ひとりで村へと出かけてしまう。
今日のこの時間を逃すと、次の機会は明日になる。
それでは意味がない。
鍛錬を終えて家の中に入ろうとしたリィズを、征司は呼び止めた。
「俺は冒険者になることにした」
前置きもなくそう唐突に切り出した征司の宣言に、リィズは意表を突かれたのか、ドアのノブを握ったままの格好できょとんとしていた。
「ここから北上したところに、カルディナって人口1000人ばかりの、大きめの町があるらしいんだ。町には冒険者ギルドがあって、虎のおっさんの紹介で行ってみるつもりだ。知ってたか? あのおっさん、若い頃は名うての冒険者だったそうだぞ?」
「……どうしてまた急に?」
「理由はいくつかあるな」
征司は右手を掲げ、人差し指を立てた。
「まずはひとつ目は、真っ当――かどうかは知らないが、自分で金を稼ぐためだ。いつまでも居候生活は、かっこ悪いからな」
次いで中指を立てる。
「ふたつ目は、強くなるためだ。冒険者は危険と隣り合わせと聞いた。だったら、腕を磨くにも最適だろう? 実戦に勝る訓練はないって言うしな。村で鍛錬するのもいいが、人間である俺を戦場に連れて行くのは、どうあっても無理らしいからな」
さらに薬指を立てる。
「みっつ目は、俺はこの世界を見て回りたい。この世界がどんなものか、どうしても知りたくなった! はっはっ!」
最後に、征司は3本立てた指を握り拳にして、リィズに差し出した。
リズは特になにも答えなかったが、征司にはそれでも充分だった。
これは征司なりの決意表明だ。
力になりたい少女がいる。すべてはそのために。
大の字に横たわる征司の顔に、グリズが濡れたタオルを放ってきた。
冷えた水分が腫れた傷に染み渡って気持ちがいい。
征司は仰向けでタオルを額に載せたまま、天井を見上げていた。
「なあ、おっさん。手助けしたい奴がいる、でもそいつから助けを求められているわけじゃない。もしかしたら、助けを求めるどころか、望んでそうしているのかもしれない。そんなとき、どうすればいいんだろうな? 手前勝手にかかわるのは、やっぱ迷惑なだけかな?」
「なんだ。なにを悩んでいるかと思ったら、リィズのことか。女のことで悩むとは、青いなセージ?」
一発でばれていた。
「わからいでか。おぬしがそこまで親身になるといったら、ここではアレくらいなものだろう? おおかた、『半端者』が肩身の狭い思いをしているのではないか、どうにかしてやりたい、などとでも考えているのだろう、違うか?」
妖怪か、あんたは。
「まあ、100%その通りなんだけどよ」
征司は観念して、グリズに洗いざらい話すことにした。
征司自身は、困難には真正面からぶつかり、乗り越えるタイプだ。
そのため、他人のことも自分を基準に考えてしまいがちになる。
しかし今回ばかりは、問題の本質がリィズの心根の深いところにある。
そんな機微に安易に踏み込んでいいものかと思う反面、だったら他の誰が踏み込めるんだ、という気持ちもある。
だからこそ、どうしても煮え切らない。
グリズは真剣に耳を傾けつつも、どこか楽しげだった。
そして、話を聞き終えて一言、
「放っておけ」
あっさりと言い切った。
「それじゃあ、なにも解決しないじゃねえか!」
思わず詰め寄る征司だが、グリズは飄々としたものだった。
「なんだ、おぬしが解決する必要などあるのか? 自分でも言っていただろう、迷惑じゃないかと? ああ、迷惑だな。なにも知らない者の、したり顔の物言いほど腹立たしいことはない。おぬしは喧嘩ひとつしたことない小僧に、本で読みかじった格闘法を講釈されたらどうする?」
「……とりあえず腹パンかな」
「だろう? わしだったら5日は物が食えないようにしてやるところだ」
えげつない。
「それくらい、今のおぬしがアレにどれほど言葉を重ねても、これっぽっちも響きはせんよ。むしろ逆効果だろう。それだけ、おぬしの世間は狭い。おぬしが考えている以上に、この問題は深く暗い。アレが背負っているものもな」
「けっ、そうかよ」
征司にも自覚はあった。
気持ちばかり先走るが、現実問題として征司には術がない。
経験を伴わない知識は、ただの知ったかぶりだ。
理解はしているつもりでも、実体験として識っているわけではない。
そもそも征司はまだ17歳の若輩。
狭い環境で生まれ育ち、経験も知識もまるで足りていない。
「おっさんだったら、どうなんだよ?」
「わしか? わしは生粋の獣人だ。それこそ、アレが抱いた気持ちを真の意味で推し量ることはできまいよ」
「じゃあ、結局は放っておけってのかよ」
「だから最初からそう言っておるだろうに、わからん奴だな。『今のおぬしには』できることはなにもない」
「だけどよ……ん? 『今の俺』には?」
ようやく気づいたか、とばかりに、グリズが相好を崩した。
「簡単なことだ。経験がなければ体験すればいい。知らなければ実際に見聞きすればいい。世界を歩き、見識を広めて、自分の言葉に相手を納得させるだけの説得力を持たせればいい――セージ、おぬしは『冒険者』を知っているか?」
グリズは銀虎の獣面を、征司の鼻先まで近づけて言った。
「どうした、セージ様? 今日は身体の動きが鈍いな」
「いやあ、ちょっと虎のおっさんと派手にやりあってな。何気にぼろぼろ」
村に通うようになってからも、征司とリィズの夕食前の鍛錬は継続していた。
戦績はいまだに芳しくないが、今日に限ると重要なのはそこではない。
この時間がほぼ唯一といってもいい、リィズとの語らいの場なのだ。
リィズは相も変わらず、鍛錬の後は黙々と食事を取り、すぐに寝室に引っ込んで寝てしまう。
そして、朝は征司が起きる前に、ひとりで村へと出かけてしまう。
今日のこの時間を逃すと、次の機会は明日になる。
それでは意味がない。
鍛錬を終えて家の中に入ろうとしたリィズを、征司は呼び止めた。
「俺は冒険者になることにした」
前置きもなくそう唐突に切り出した征司の宣言に、リィズは意表を突かれたのか、ドアのノブを握ったままの格好できょとんとしていた。
「ここから北上したところに、カルディナって人口1000人ばかりの、大きめの町があるらしいんだ。町には冒険者ギルドがあって、虎のおっさんの紹介で行ってみるつもりだ。知ってたか? あのおっさん、若い頃は名うての冒険者だったそうだぞ?」
「……どうしてまた急に?」
「理由はいくつかあるな」
征司は右手を掲げ、人差し指を立てた。
「まずはひとつ目は、真っ当――かどうかは知らないが、自分で金を稼ぐためだ。いつまでも居候生活は、かっこ悪いからな」
次いで中指を立てる。
「ふたつ目は、強くなるためだ。冒険者は危険と隣り合わせと聞いた。だったら、腕を磨くにも最適だろう? 実戦に勝る訓練はないって言うしな。村で鍛錬するのもいいが、人間である俺を戦場に連れて行くのは、どうあっても無理らしいからな」
さらに薬指を立てる。
「みっつ目は、俺はこの世界を見て回りたい。この世界がどんなものか、どうしても知りたくなった! はっはっ!」
最後に、征司は3本立てた指を握り拳にして、リィズに差し出した。
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