異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

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第五章 回想編

辺境の勇者 3

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「まことに、すまんかった!」

 征司は真実を知って、怒るというより気落ちしていた。

「もういいさ、じっさま。まあ、堂々と使えなくなったのは残念ではあるが」

「気にしとるのは、そっちなのか……」

「ん?」

「いいや、なんでも」

「それはそうと、魔法石が防御に使えそうなのはわかった。でもよ、こんな程度の防御壁で、魔法を防げるかね?」

 征司が念じると、周囲に半円球の炎の壁が現われてすぐに消えた。

 実際に中級魔族の魔法を体験した征司にしてみると、火の魔法ひとつにしても天を衝かんばかりの炎の柱のようだった。
 下級魔族の魔法ですら相当な熱量になる。
 規模からして、この魔法石の力では、到底及びそうにない。

「仕方ないじゃろ。それはもともと護身用、その中では逸品じゃがな。もっと本格的なものになると値が張るし、こんな辺境での入手は不可能じゃろうな。良品は中央で買い占められ、軍事利用とされておるしのう」

「じっさまの店でも無理となると、このカルディナではどうにもならないってことか。魔法具があてにならないなら、別の手段を考えるしかないなあ」

「諦めるのはまだ早い。手はないでもない。おまえさんは『並列魔法』を聞いたことは?」

「あ~……前に共闘したエルフのねーちゃんが使ってたやつか? 嫌な記憶だけどよ」

「……嫌な? よくわからんが、エルフとなれば、そいつはたぶん『精霊魔法』じゃな。こちらは『並列魔法』。その名の通り、並列して魔法を使う手法じゃ。この場合は魔法石じゃな。仮に、火と風の魔法を同時に使用すると、風に煽られた火は熱風渦巻く炎の竜巻となり、水と土では大地を底なし沼と化す。要は相乗効果じゃな。防御壁でも、火と壁と水の壁を二重に張れば、大抵の火も水も防げるとは思わんかの?」

「なるほどね。それならいけそうだ。で、どうやるんだ?」

 期待に声が大きくなる征司に対し、対照的にガトーの声のトーンがやや下がった。

「問題は、これがとても難しい。かなりの訓練が必要じゃな。なにせ、魔法石を同時にふたつ使うということは、ふたつのことを同時に考えると同義。人間の脳は、そうそう都合よくはできとらん」

 ガトーはいったん席を離れると、店のカウンターから紙と筆を持って戻ってきた。
 征司から隠して紙に筆でなにかを綴り、裏にしてテーブルに伏せる。

「これはわしが考えた並列思考の練習法でな。いいかの、やってみるぞ?」

 ガトーは紙をひっくり返すと同時に、

「15+42+6+11+24=?」

 と訊いてきた。
 紙にもまた、似たような計算式が書いてある。

「とまあ、簡単な足し算じゃが、目で見るのと耳で聞くのを同時に行ない、それぞれを並列して暗算するという訓練法じゃ。難点は、ひとりではできない――」

「98と72だろ?」

 顎に手を添えていた征司は、あっさりと答えた。
 ほぼ即答といってもいい。

「……ん? 間違ってた?」

 無言のまま反応がなかったために征司が訊ねると、ガトーは思い出したように返事をした。

「……いいや、合っとるな。というか、なぜできるのじゃ?」

「2桁の暗算だぞ? できるだろ、普通」

「できないじゃろ、普通」

 同じ単語を用いているのに、ふたりの間には隔絶があった。

 何度か同じように繰り返したが、征司はそのすべてに即答で正解した。

 試しとばかり、ガトーは店のショーケースの中から3つの魔法石を持ち出し、征司に渡してきた。

 征司は床に座り、その前に3つの魔法石を置く。
 そして目を閉じて念じると、水・土・風の3つの魔法石が見事に同時に発動した。

 ガトーも腰砕け気味に床に座り込み、驚嘆の息を漏らしていた。

「規格外とは思っとったが、ここまでとは。いやはやたまげた」

「もしかして、これって普通じゃなかったりするのか……?」

「当たり前じゃ! そうそうこんな真似ができるわけなかろうが!」

 思い返せば、征司には思い当たる節がある。
 まんがを読みながら音楽耳コピしたり、授業聞きながらゲームしたりと、他人から不思議がられていたのは、どうやらそういうことだったらしい。

 どうりで、周囲と話が合わなかったりしたわけだ。
 物心ついたときから征司にとっては当たり前のことだったので、他の人も同じと思い込み、自分が特殊などとは露ほども想像していなかった。

「おまえさんのそれは先天的なものじゃろうな……その感じじゃと、3つが限界とも思えんわい。なんにせよ、魔法石を使う上で、その能力はこの上ないものじゃ。使い方次第では、絶対の盾にも矛にもなるじゃろうな……」

 ガトーがしみじみと言う。

 征司自身はというと、あまり理解してはいなかったが。
 生粋の戦士だったはずが、最上の魔法使いでもありましたと言われて、すんなりと実感できるわけがない。

「そうそう、ちょっと待っておれ」

 ガトーはいきなり起き上がると、そそくさと店の奥へと引っ込み、ある大きな包みを引きずり出してきた。

 征司も手伝って封が解かれ、その中から出てきたのは、色鮮やかなブルーメタリックの鎧だった。

「おお、なんかすごいのが出てきたな!」

「これは酔狂な貴族の好事家が、以前わしに製作を依頼してきたものでな。レアメタルをふんだんに使った鎧自体も秀逸じゃが、各部に6大系統の魔法石をはじめとした複数の魔石を埋め込んであり、卓越した防御力を誇る自信作じゃったが……ほれ、持ってみい」

 ガトーに促されて、征司は鎧を持ち上げてみた。
 豪腕の征司にして片手ではままならないほどの、かなりの重量である。

「凡人では身に纏うことすらままならん。というわけで、突き返されてしまってのう」

 そのまま文字通りに、お蔵入りしていたわけだ。

「これをおまえさんにやろう。おまえさんなら、鎧の能力を最大限に役立ててくれそうじゃからの」

 物は試しと、さっそく征司は鎧を装着してみた。

 確かに通常の鎧に魔石の重量が付加されている分、並みの鎧の重量ではない。
 だが征司なら、若干動きづらいことはあっても、阻害されるには至らない。
 なにより、あつらえたようにサイズがぴったりだった。

「じっさま、遠慮なんてしねえからな?」

「おお、持ってけ持ってけ! 武具なんて、使われてなんぼじゃろ!」

「だな! ありがたく使わせてもらうとするぜ! はっはっ!」

 その後、ブルーメタリックの鎧に巨大な大鉈を担いだ『辺境の勇者』の名声は、ますます高まっていくことになった。
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