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第九章
終幕 1
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征司、自宅の居間にて。
征司の対面の席に、神妙な面持ちで座する男がいた。
ダナン・ゴーン。ベルデン騎士団の副団長である。
「この度は、ほんっに迷惑をかけた! すまん!」
ダナンは居間のテーブルに両手を突いて、伏していた。
今日のダナンの服装は、騎士の鎧姿でも団の制服でもない。つまり、私事として征司宅を訪れているのだった。
「あー、いいっていいって」
謝罪を受けるほうの征司は、さして興味がなさそうに手をひらひらと振っている。
「にしても、いきなり騎士団引き連れて、懐かしい顔がいると思ったら……なんだったんだ、あのクッサイ猿芝居は?」
「……そんなに臭かったかの?」
ダナンがテーブルからちらりと上目遣いに征司を見上げ、ポツリと漏らした。
「ああ、かな~り。笑えるくらいには。我慢するこっちの身にもなれってんだ。しかも、自分とこの騎士団員を全員のしちまえとか、ついに気でも触れたかと思ったぜ。ってか、いつまでそんな殊勝そうにしてんだよ? 柄でもねえだろうに。おーい、リィズ、頼むわ」
征司が手を挙げると、リィズがエールの大ジョッキ2杯とつまみの乗った皿を運んできた。
「ごゆっくりどうぞ」
「これはこれは、すみませぬなぁ。奥方殿」
「んじゃ、乾杯」
征司はダナンが持つのを待たずに、勝手にジョッキを合わせると、ほぼ半分のエールを豪快に一息で飲み干した。
「ま、だいたいの予想はついてるけどよ」
「出征を止めるに及ばぬは、わしの不徳よ。団長が倒れ、マドルク殿が出征を強調し、若が承認してしまったからには、もはやどうにもできんかった。さりとて、今回の出征は臭すぎた。それこそ、わしの芝居張りにな」
「いや、そんな自虐ギャグはいらねーから。昔から言ってんだろ、面白くねーって」
征司は頬杖を突き、明後日のほうを向きながら、枝豆をぽりぽり齧っている。
「むう、そうか」
ダナンが残念そうに呟く。
「とにかく、あのままサレブ地方に騎士団を向かわせるわけにはいかなかった。ならば、いっそ行けなくしてしまえばいい。傍若無人な副団長が先走り、勇者の逆鱗に触れてしまい、あおりを食った騎士の騎馬隊が壊滅した――となれば、出征の中止もやむを得ない。なにせ、あの勇者好きで有名な若さまだ、一番穏便に済む。とまあ、そんなとこだろ?」
征司がダナンの台詞を引き継いだ。
「さすがはセージよな。付け加えると、相手があの勇者となれば、余計な風評で騎士団の名に傷が付くわけでもなし。さらには実戦を知らない若手の騎士たちに、真の強さのなんたるかを身を以って教え込ませる良い機会ともなる――というような意図もあったがの。一挙四徳くらいかの?」
「まったく抜け目のない、食えない爺さんだ」
「……しかし、よもやあのようなことになるとはのう。魔族の中に、記憶を盗むような輩がおるとは想定外よ。マドルク殿は血気盛んで情に厚く、若いながらに騎士道を心得た見込みのある若者だったが……惜しい人物を亡くしたものよ……」
ダナンはしんみりとエールのジョッキに口をつけた。
先の争いの折、リオに顔面を引っかかれた口元の傷にエールが染みたようで、苦い顔をしている。
ただ、目尻にわずかに光るものが浮かんでいるのは、傷の痛みのせいではないだろう。
「アキト殿にも伝えておいてもらえぬか? 申し訳ないことをしたと。演技とはいえ、騎士にあるまじき狼藉を働き、粗暴な言動で不快な思いをさせてしもうた。それから礼も。アキト殿から貰った月光灯花のエキスのおかげで団長は命を取りとめ、あの場に駆けつけることもできた。ベルデン騎士団を代表して、心より感謝いたす、と」
征司の対面の席に、神妙な面持ちで座する男がいた。
ダナン・ゴーン。ベルデン騎士団の副団長である。
「この度は、ほんっに迷惑をかけた! すまん!」
ダナンは居間のテーブルに両手を突いて、伏していた。
今日のダナンの服装は、騎士の鎧姿でも団の制服でもない。つまり、私事として征司宅を訪れているのだった。
「あー、いいっていいって」
謝罪を受けるほうの征司は、さして興味がなさそうに手をひらひらと振っている。
「にしても、いきなり騎士団引き連れて、懐かしい顔がいると思ったら……なんだったんだ、あのクッサイ猿芝居は?」
「……そんなに臭かったかの?」
ダナンがテーブルからちらりと上目遣いに征司を見上げ、ポツリと漏らした。
「ああ、かな~り。笑えるくらいには。我慢するこっちの身にもなれってんだ。しかも、自分とこの騎士団員を全員のしちまえとか、ついに気でも触れたかと思ったぜ。ってか、いつまでそんな殊勝そうにしてんだよ? 柄でもねえだろうに。おーい、リィズ、頼むわ」
征司が手を挙げると、リィズがエールの大ジョッキ2杯とつまみの乗った皿を運んできた。
「ごゆっくりどうぞ」
「これはこれは、すみませぬなぁ。奥方殿」
「んじゃ、乾杯」
征司はダナンが持つのを待たずに、勝手にジョッキを合わせると、ほぼ半分のエールを豪快に一息で飲み干した。
「ま、だいたいの予想はついてるけどよ」
「出征を止めるに及ばぬは、わしの不徳よ。団長が倒れ、マドルク殿が出征を強調し、若が承認してしまったからには、もはやどうにもできんかった。さりとて、今回の出征は臭すぎた。それこそ、わしの芝居張りにな」
「いや、そんな自虐ギャグはいらねーから。昔から言ってんだろ、面白くねーって」
征司は頬杖を突き、明後日のほうを向きながら、枝豆をぽりぽり齧っている。
「むう、そうか」
ダナンが残念そうに呟く。
「とにかく、あのままサレブ地方に騎士団を向かわせるわけにはいかなかった。ならば、いっそ行けなくしてしまえばいい。傍若無人な副団長が先走り、勇者の逆鱗に触れてしまい、あおりを食った騎士の騎馬隊が壊滅した――となれば、出征の中止もやむを得ない。なにせ、あの勇者好きで有名な若さまだ、一番穏便に済む。とまあ、そんなとこだろ?」
征司がダナンの台詞を引き継いだ。
「さすがはセージよな。付け加えると、相手があの勇者となれば、余計な風評で騎士団の名に傷が付くわけでもなし。さらには実戦を知らない若手の騎士たちに、真の強さのなんたるかを身を以って教え込ませる良い機会ともなる――というような意図もあったがの。一挙四徳くらいかの?」
「まったく抜け目のない、食えない爺さんだ」
「……しかし、よもやあのようなことになるとはのう。魔族の中に、記憶を盗むような輩がおるとは想定外よ。マドルク殿は血気盛んで情に厚く、若いながらに騎士道を心得た見込みのある若者だったが……惜しい人物を亡くしたものよ……」
ダナンはしんみりとエールのジョッキに口をつけた。
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ただ、目尻にわずかに光るものが浮かんでいるのは、傷の痛みのせいではないだろう。
「アキト殿にも伝えておいてもらえぬか? 申し訳ないことをしたと。演技とはいえ、騎士にあるまじき狼藉を働き、粗暴な言動で不快な思いをさせてしもうた。それから礼も。アキト殿から貰った月光灯花のエキスのおかげで団長は命を取りとめ、あの場に駆けつけることもできた。ベルデン騎士団を代表して、心より感謝いたす、と」
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