13 / 15
第1章 アバター:シノヤ
第13話 嘲り
しおりを挟む
城砦の中庭は、兵たちでごった返していた。
それこそ、お祭り騒ぎである。
なにせ、公爵並びに総司令官という城内最高権者公認とあって、仕事そっちのけで我先にと見物に詰め掛けている。
中庭だけでもかなりの広さがあるにもかかわらず、立ち見どころか、入り切れずにあぶれた者は、植木の上に陣取ったり、城壁に上ったりと、呆れるほどの盛況ぶりだった。
兵どころか、およそ城内人員すべてが集まっていそうだ。
中庭では、中央を丸く囲った見物人たちで、即席の闘技場が出来上がっていた。
最前列を勝ち取って、でんっとふんぞり返る兵たちの中には、密かに酒を持ち込んで、すでに出来上がっている者たちまでいる。
どれだけ鬱憤が溜まっていたかは知らないが、まだ始まってもいないのに、やれ殺っちまえだ、○○潰しちまえだの、場は大いに温まっていた。
そんな中、空白地帯となった中庭の中央に、独りぽつんとシノヤは佇んでいる。
アウェー会場どころか処刑場さながらの風景である。
歴戦の勇士も裸足で逃げ出したくなるような状況だが、シノヤに焦りや戸惑いはなく、呑気にウォーミングアップを行なっていた。
(あれから10年ぶりのA.W.Oでの戦闘か……)
中学以降、他のVRMMORPGに手を出したことはあったが、どれもハマり具合としてはいまいちだった。
VRゲーム業界の各ジャンルが充実しはじめて、プレイするゲームが広く浅くがなったこともあるが、A.W.O廃止によるトラウマに近い感情があり、無意識にRPGを避ける傾向があったのかもしれない。ゲーム人生で、あれほどに熱中したことなど、他になかったのだから。
A.W.Oは昨今のゲームとしては珍しくなったレベル制を採用している。A.W.Oが昔のゲームなので、当然だろうが。
特にRPGのジャンルにおいては、プレイ時間=強さになりやすいため、新規プレイヤーが介入しにくい。それを防ごうと、近年ではアイテムによる武装をはじめとするアイテム類、スキルによってアバターを強化するのが通例だ。
ちなみに、そのほうが運営会社としては課金で潤うという大人の事情的な面もある。
シノヤとしては、ログイン時に大部分のアイテムを経年ロストしてしまったため、A.W.Oがレベル制で大いに助かったことになる。
(レベルは999だから、身体能力としては問題なし。じゃあ、他は、と――げ)
生産を捨てての戦闘オンリーだっただけに、戦闘で役立ちそうなパッシブスキルやアクティブスキルに不足はない。むしろ過分といっていいだろう。
回復魔法や回復スキル、補助系が少ないのも、前衛職だっただけに仕方ないこともある。そういったものはアイテムで代用できるため、さほど苦慮しなかったのも事実だ。
そして、メインクラス『魔闘士』に、サブクラス『闇魔導士』。これはまだいいとしよう。メインに近距離を据えて、サブに遠距離を持ってくるのは、戦闘職としてのセオリーでもある。
しかしがながら、極めつけは、称号『堕ちた神徒』――
『魔』『闇』『堕』 との揃い踏み。当時の自分がなにを目指していたかよくわかる。取得したスキルや魔法にも、ソレ系の文字が含まれるのが多い。
さらに称号にいたっては、課金称号のはずだ。オリジナル称号を作ろう!とかいう課金制の記念イベントで。大層な字面の称号だが、付与効果としては一律に身体能力+1%。カンストしたレベル999では、今さらな効果だろう。
(あ痛たたたた……痛すぎるよ。過去の俺)
なんという黒歴史。
記憶の狭間に封印した若き日の過ちと、大人になってこうして邂逅しようとは。
肝心の戦闘が始まる前に、シノヤはメンタル大ダメージでがっくりと片膝を突いた。
「静まれぇい!」
怒号と共に、中庭を見下ろす位置になる一段高いバルコニーに、3つの人影が姿を見せた。
カレッド将軍とナコール公爵、それに姫騎士ことエリシアの3人である。
怒声を発したカレッド将軍は、さすがの貫禄で、あれだけ騒いでいた荒くれ者の兵たちが、瞬く間に静かになった。
不安そうに見つめるエリシアの手前、シノヤも情けない姿を晒してはいられない。
気を取り直して直立し、まっすぐにバルコニーを見上げる。
「ほっほっほっ」
満を持してとばかりにバルコニーの最前に歩み出たナコール公爵は、中庭にいるシノヤを見下ろして、芝居がかった態度で大仰に紹介を始めた。
「そこにある者は、シノヤ殿と申す者。皆、すでに聞き及んでいるかもしれませんが、なんとあの、神代に名を馳せた神人なのです!」
見物人の中には、理由も知らずにとりあえず集まった者も多いらしく、真に受けてざわつく者と失笑を漏らす者とで、だいたい半々ほどだった。
「……まあ、『ただの服』しか身に着けていない、神人がいれば、の話ですが?」
小馬鹿にしたにやけ顔の公爵の物言いに、真意を悟った全員から、いっせいに大爆笑が舞い起こる。
「シノヤ様に対してそれはあまりに――将軍!?」
抗議しかけたエリシアだが、カレッド将軍の無言の圧力に阻まれる。
それどころか、ナコール公爵は前に出たエリシアの腰に手を当て、さらに前面に押し出した。
「神人を捜し出す大偉業を成し得たのは、ここに居られる姫騎士ことエリシア様です! 皆も賞賛を!」
エリシアの名前が出たことで、バツが悪い顔をした者も多かったが、全体の流れは変わらない。
さらにはナコール公爵が拍手したことで、全員がこぞって大きな拍手を贈っていた。
エリシアは、羞恥か屈辱か、紅潮した顔を俯けて拳を握り締めている。
「おお~い、太鼓腹のおっさん!」
その台詞に、場を支配していた喧騒が一気に静まった。
場の空気ににそぐわない言葉を吐いたのは、シノヤだった。
それこそ、お祭り騒ぎである。
なにせ、公爵並びに総司令官という城内最高権者公認とあって、仕事そっちのけで我先にと見物に詰め掛けている。
中庭だけでもかなりの広さがあるにもかかわらず、立ち見どころか、入り切れずにあぶれた者は、植木の上に陣取ったり、城壁に上ったりと、呆れるほどの盛況ぶりだった。
兵どころか、およそ城内人員すべてが集まっていそうだ。
中庭では、中央を丸く囲った見物人たちで、即席の闘技場が出来上がっていた。
最前列を勝ち取って、でんっとふんぞり返る兵たちの中には、密かに酒を持ち込んで、すでに出来上がっている者たちまでいる。
どれだけ鬱憤が溜まっていたかは知らないが、まだ始まってもいないのに、やれ殺っちまえだ、○○潰しちまえだの、場は大いに温まっていた。
そんな中、空白地帯となった中庭の中央に、独りぽつんとシノヤは佇んでいる。
アウェー会場どころか処刑場さながらの風景である。
歴戦の勇士も裸足で逃げ出したくなるような状況だが、シノヤに焦りや戸惑いはなく、呑気にウォーミングアップを行なっていた。
(あれから10年ぶりのA.W.Oでの戦闘か……)
中学以降、他のVRMMORPGに手を出したことはあったが、どれもハマり具合としてはいまいちだった。
VRゲーム業界の各ジャンルが充実しはじめて、プレイするゲームが広く浅くがなったこともあるが、A.W.O廃止によるトラウマに近い感情があり、無意識にRPGを避ける傾向があったのかもしれない。ゲーム人生で、あれほどに熱中したことなど、他になかったのだから。
A.W.Oは昨今のゲームとしては珍しくなったレベル制を採用している。A.W.Oが昔のゲームなので、当然だろうが。
特にRPGのジャンルにおいては、プレイ時間=強さになりやすいため、新規プレイヤーが介入しにくい。それを防ごうと、近年ではアイテムによる武装をはじめとするアイテム類、スキルによってアバターを強化するのが通例だ。
ちなみに、そのほうが運営会社としては課金で潤うという大人の事情的な面もある。
シノヤとしては、ログイン時に大部分のアイテムを経年ロストしてしまったため、A.W.Oがレベル制で大いに助かったことになる。
(レベルは999だから、身体能力としては問題なし。じゃあ、他は、と――げ)
生産を捨てての戦闘オンリーだっただけに、戦闘で役立ちそうなパッシブスキルやアクティブスキルに不足はない。むしろ過分といっていいだろう。
回復魔法や回復スキル、補助系が少ないのも、前衛職だっただけに仕方ないこともある。そういったものはアイテムで代用できるため、さほど苦慮しなかったのも事実だ。
そして、メインクラス『魔闘士』に、サブクラス『闇魔導士』。これはまだいいとしよう。メインに近距離を据えて、サブに遠距離を持ってくるのは、戦闘職としてのセオリーでもある。
しかしがながら、極めつけは、称号『堕ちた神徒』――
『魔』『闇』『堕』 との揃い踏み。当時の自分がなにを目指していたかよくわかる。取得したスキルや魔法にも、ソレ系の文字が含まれるのが多い。
さらに称号にいたっては、課金称号のはずだ。オリジナル称号を作ろう!とかいう課金制の記念イベントで。大層な字面の称号だが、付与効果としては一律に身体能力+1%。カンストしたレベル999では、今さらな効果だろう。
(あ痛たたたた……痛すぎるよ。過去の俺)
なんという黒歴史。
記憶の狭間に封印した若き日の過ちと、大人になってこうして邂逅しようとは。
肝心の戦闘が始まる前に、シノヤはメンタル大ダメージでがっくりと片膝を突いた。
「静まれぇい!」
怒号と共に、中庭を見下ろす位置になる一段高いバルコニーに、3つの人影が姿を見せた。
カレッド将軍とナコール公爵、それに姫騎士ことエリシアの3人である。
怒声を発したカレッド将軍は、さすがの貫禄で、あれだけ騒いでいた荒くれ者の兵たちが、瞬く間に静かになった。
不安そうに見つめるエリシアの手前、シノヤも情けない姿を晒してはいられない。
気を取り直して直立し、まっすぐにバルコニーを見上げる。
「ほっほっほっ」
満を持してとばかりにバルコニーの最前に歩み出たナコール公爵は、中庭にいるシノヤを見下ろして、芝居がかった態度で大仰に紹介を始めた。
「そこにある者は、シノヤ殿と申す者。皆、すでに聞き及んでいるかもしれませんが、なんとあの、神代に名を馳せた神人なのです!」
見物人の中には、理由も知らずにとりあえず集まった者も多いらしく、真に受けてざわつく者と失笑を漏らす者とで、だいたい半々ほどだった。
「……まあ、『ただの服』しか身に着けていない、神人がいれば、の話ですが?」
小馬鹿にしたにやけ顔の公爵の物言いに、真意を悟った全員から、いっせいに大爆笑が舞い起こる。
「シノヤ様に対してそれはあまりに――将軍!?」
抗議しかけたエリシアだが、カレッド将軍の無言の圧力に阻まれる。
それどころか、ナコール公爵は前に出たエリシアの腰に手を当て、さらに前面に押し出した。
「神人を捜し出す大偉業を成し得たのは、ここに居られる姫騎士ことエリシア様です! 皆も賞賛を!」
エリシアの名前が出たことで、バツが悪い顔をした者も多かったが、全体の流れは変わらない。
さらにはナコール公爵が拍手したことで、全員がこぞって大きな拍手を贈っていた。
エリシアは、羞恥か屈辱か、紅潮した顔を俯けて拳を握り締めている。
「おお~い、太鼓腹のおっさん!」
その台詞に、場を支配していた喧騒が一気に静まった。
場の空気ににそぐわない言葉を吐いたのは、シノヤだった。
0
あなたにおすすめの小説
親がうるさいのでVRMMOでソロ成長します
miigumi
ファンタジー
VRが当たり前になった時代。大学生の瑞希は、親の干渉に息苦しさを感じながらも、特にやりたいことも見つからずにいた。
そんなある日、友人に誘われた話題のVRMMO《ルーンスフィア・オンライン》で目にしたのは――「あなたが求める自由を」という言葉。
軽い気持ちでログインしたはずが、気づけば彼女は“ソロ”で世界を駆けることになる。
誰にも縛られない場所で、瑞希は自分の力で強くなることを選んだ。これは、自由を求める彼女のソロ成長物語。
毎日22時投稿します。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。
西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ?
なぜです、お父様?
彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。
「じゃあ、家を出ていきます」
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる