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第1章 アバター:シノヤ
第13話 嘲り
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城砦の中庭は、兵たちでごった返していた。
それこそ、お祭り騒ぎである。
なにせ、公爵並びに総司令官という城内最高権者公認とあって、仕事そっちのけで我先にと見物に詰め掛けている。
中庭だけでもかなりの広さがあるにもかかわらず、立ち見どころか、入り切れずにあぶれた者は、植木の上に陣取ったり、城壁に上ったりと、呆れるほどの盛況ぶりだった。
兵どころか、およそ城内人員すべてが集まっていそうだ。
中庭では、中央を丸く囲った見物人たちで、即席の闘技場が出来上がっていた。
最前列を勝ち取って、でんっとふんぞり返る兵たちの中には、密かに酒を持ち込んで、すでに出来上がっている者たちまでいる。
どれだけ鬱憤が溜まっていたかは知らないが、まだ始まってもいないのに、やれ殺っちまえだ、○○潰しちまえだの、場は大いに温まっていた。
そんな中、空白地帯となった中庭の中央に、独りぽつんとシノヤは佇んでいる。
アウェー会場どころか処刑場さながらの風景である。
歴戦の勇士も裸足で逃げ出したくなるような状況だが、シノヤに焦りや戸惑いはなく、呑気にウォーミングアップを行なっていた。
(あれから10年ぶりのA.W.Oでの戦闘か……)
中学以降、他のVRMMORPGに手を出したことはあったが、どれもハマり具合としてはいまいちだった。
VRゲーム業界の各ジャンルが充実しはじめて、プレイするゲームが広く浅くがなったこともあるが、A.W.O廃止によるトラウマに近い感情があり、無意識にRPGを避ける傾向があったのかもしれない。ゲーム人生で、あれほどに熱中したことなど、他になかったのだから。
A.W.Oは昨今のゲームとしては珍しくなったレベル制を採用している。A.W.Oが昔のゲームなので、当然だろうが。
特にRPGのジャンルにおいては、プレイ時間=強さになりやすいため、新規プレイヤーが介入しにくい。それを防ごうと、近年ではアイテムによる武装をはじめとするアイテム類、スキルによってアバターを強化するのが通例だ。
ちなみに、そのほうが運営会社としては課金で潤うという大人の事情的な面もある。
シノヤとしては、ログイン時に大部分のアイテムを経年ロストしてしまったため、A.W.Oがレベル制で大いに助かったことになる。
(レベルは999だから、身体能力としては問題なし。じゃあ、他は、と――げ)
生産を捨てての戦闘オンリーだっただけに、戦闘で役立ちそうなパッシブスキルやアクティブスキルに不足はない。むしろ過分といっていいだろう。
回復魔法や回復スキル、補助系が少ないのも、前衛職だっただけに仕方ないこともある。そういったものはアイテムで代用できるため、さほど苦慮しなかったのも事実だ。
そして、メインクラス『魔闘士』に、サブクラス『闇魔導士』。これはまだいいとしよう。メインに近距離を据えて、サブに遠距離を持ってくるのは、戦闘職としてのセオリーでもある。
しかしがながら、極めつけは、称号『堕ちた神徒』――
『魔』『闇』『堕』 との揃い踏み。当時の自分がなにを目指していたかよくわかる。取得したスキルや魔法にも、ソレ系の文字が含まれるのが多い。
さらに称号にいたっては、課金称号のはずだ。オリジナル称号を作ろう!とかいう課金制の記念イベントで。大層な字面の称号だが、付与効果としては一律に身体能力+1%。カンストしたレベル999では、今さらな効果だろう。
(あ痛たたたた……痛すぎるよ。過去の俺)
なんという黒歴史。
記憶の狭間に封印した若き日の過ちと、大人になってこうして邂逅しようとは。
肝心の戦闘が始まる前に、シノヤはメンタル大ダメージでがっくりと片膝を突いた。
「静まれぇい!」
怒号と共に、中庭を見下ろす位置になる一段高いバルコニーに、3つの人影が姿を見せた。
カレッド将軍とナコール公爵、それに姫騎士ことエリシアの3人である。
怒声を発したカレッド将軍は、さすがの貫禄で、あれだけ騒いでいた荒くれ者の兵たちが、瞬く間に静かになった。
不安そうに見つめるエリシアの手前、シノヤも情けない姿を晒してはいられない。
気を取り直して直立し、まっすぐにバルコニーを見上げる。
「ほっほっほっ」
満を持してとばかりにバルコニーの最前に歩み出たナコール公爵は、中庭にいるシノヤを見下ろして、芝居がかった態度で大仰に紹介を始めた。
「そこにある者は、シノヤ殿と申す者。皆、すでに聞き及んでいるかもしれませんが、なんとあの、神代に名を馳せた神人なのです!」
見物人の中には、理由も知らずにとりあえず集まった者も多いらしく、真に受けてざわつく者と失笑を漏らす者とで、だいたい半々ほどだった。
「……まあ、『ただの服』しか身に着けていない、神人がいれば、の話ですが?」
小馬鹿にしたにやけ顔の公爵の物言いに、真意を悟った全員から、いっせいに大爆笑が舞い起こる。
「シノヤ様に対してそれはあまりに――将軍!?」
抗議しかけたエリシアだが、カレッド将軍の無言の圧力に阻まれる。
それどころか、ナコール公爵は前に出たエリシアの腰に手を当て、さらに前面に押し出した。
「神人を捜し出す大偉業を成し得たのは、ここに居られる姫騎士ことエリシア様です! 皆も賞賛を!」
エリシアの名前が出たことで、バツが悪い顔をした者も多かったが、全体の流れは変わらない。
さらにはナコール公爵が拍手したことで、全員がこぞって大きな拍手を贈っていた。
エリシアは、羞恥か屈辱か、紅潮した顔を俯けて拳を握り締めている。
「おお~い、太鼓腹のおっさん!」
その台詞に、場を支配していた喧騒が一気に静まった。
場の空気ににそぐわない言葉を吐いたのは、シノヤだった。
それこそ、お祭り騒ぎである。
なにせ、公爵並びに総司令官という城内最高権者公認とあって、仕事そっちのけで我先にと見物に詰め掛けている。
中庭だけでもかなりの広さがあるにもかかわらず、立ち見どころか、入り切れずにあぶれた者は、植木の上に陣取ったり、城壁に上ったりと、呆れるほどの盛況ぶりだった。
兵どころか、およそ城内人員すべてが集まっていそうだ。
中庭では、中央を丸く囲った見物人たちで、即席の闘技場が出来上がっていた。
最前列を勝ち取って、でんっとふんぞり返る兵たちの中には、密かに酒を持ち込んで、すでに出来上がっている者たちまでいる。
どれだけ鬱憤が溜まっていたかは知らないが、まだ始まってもいないのに、やれ殺っちまえだ、○○潰しちまえだの、場は大いに温まっていた。
そんな中、空白地帯となった中庭の中央に、独りぽつんとシノヤは佇んでいる。
アウェー会場どころか処刑場さながらの風景である。
歴戦の勇士も裸足で逃げ出したくなるような状況だが、シノヤに焦りや戸惑いはなく、呑気にウォーミングアップを行なっていた。
(あれから10年ぶりのA.W.Oでの戦闘か……)
中学以降、他のVRMMORPGに手を出したことはあったが、どれもハマり具合としてはいまいちだった。
VRゲーム業界の各ジャンルが充実しはじめて、プレイするゲームが広く浅くがなったこともあるが、A.W.O廃止によるトラウマに近い感情があり、無意識にRPGを避ける傾向があったのかもしれない。ゲーム人生で、あれほどに熱中したことなど、他になかったのだから。
A.W.Oは昨今のゲームとしては珍しくなったレベル制を採用している。A.W.Oが昔のゲームなので、当然だろうが。
特にRPGのジャンルにおいては、プレイ時間=強さになりやすいため、新規プレイヤーが介入しにくい。それを防ごうと、近年ではアイテムによる武装をはじめとするアイテム類、スキルによってアバターを強化するのが通例だ。
ちなみに、そのほうが運営会社としては課金で潤うという大人の事情的な面もある。
シノヤとしては、ログイン時に大部分のアイテムを経年ロストしてしまったため、A.W.Oがレベル制で大いに助かったことになる。
(レベルは999だから、身体能力としては問題なし。じゃあ、他は、と――げ)
生産を捨てての戦闘オンリーだっただけに、戦闘で役立ちそうなパッシブスキルやアクティブスキルに不足はない。むしろ過分といっていいだろう。
回復魔法や回復スキル、補助系が少ないのも、前衛職だっただけに仕方ないこともある。そういったものはアイテムで代用できるため、さほど苦慮しなかったのも事実だ。
そして、メインクラス『魔闘士』に、サブクラス『闇魔導士』。これはまだいいとしよう。メインに近距離を据えて、サブに遠距離を持ってくるのは、戦闘職としてのセオリーでもある。
しかしがながら、極めつけは、称号『堕ちた神徒』――
『魔』『闇』『堕』 との揃い踏み。当時の自分がなにを目指していたかよくわかる。取得したスキルや魔法にも、ソレ系の文字が含まれるのが多い。
さらに称号にいたっては、課金称号のはずだ。オリジナル称号を作ろう!とかいう課金制の記念イベントで。大層な字面の称号だが、付与効果としては一律に身体能力+1%。カンストしたレベル999では、今さらな効果だろう。
(あ痛たたたた……痛すぎるよ。過去の俺)
なんという黒歴史。
記憶の狭間に封印した若き日の過ちと、大人になってこうして邂逅しようとは。
肝心の戦闘が始まる前に、シノヤはメンタル大ダメージでがっくりと片膝を突いた。
「静まれぇい!」
怒号と共に、中庭を見下ろす位置になる一段高いバルコニーに、3つの人影が姿を見せた。
カレッド将軍とナコール公爵、それに姫騎士ことエリシアの3人である。
怒声を発したカレッド将軍は、さすがの貫禄で、あれだけ騒いでいた荒くれ者の兵たちが、瞬く間に静かになった。
不安そうに見つめるエリシアの手前、シノヤも情けない姿を晒してはいられない。
気を取り直して直立し、まっすぐにバルコニーを見上げる。
「ほっほっほっ」
満を持してとばかりにバルコニーの最前に歩み出たナコール公爵は、中庭にいるシノヤを見下ろして、芝居がかった態度で大仰に紹介を始めた。
「そこにある者は、シノヤ殿と申す者。皆、すでに聞き及んでいるかもしれませんが、なんとあの、神代に名を馳せた神人なのです!」
見物人の中には、理由も知らずにとりあえず集まった者も多いらしく、真に受けてざわつく者と失笑を漏らす者とで、だいたい半々ほどだった。
「……まあ、『ただの服』しか身に着けていない、神人がいれば、の話ですが?」
小馬鹿にしたにやけ顔の公爵の物言いに、真意を悟った全員から、いっせいに大爆笑が舞い起こる。
「シノヤ様に対してそれはあまりに――将軍!?」
抗議しかけたエリシアだが、カレッド将軍の無言の圧力に阻まれる。
それどころか、ナコール公爵は前に出たエリシアの腰に手を当て、さらに前面に押し出した。
「神人を捜し出す大偉業を成し得たのは、ここに居られる姫騎士ことエリシア様です! 皆も賞賛を!」
エリシアの名前が出たことで、バツが悪い顔をした者も多かったが、全体の流れは変わらない。
さらにはナコール公爵が拍手したことで、全員がこぞって大きな拍手を贈っていた。
エリシアは、羞恥か屈辱か、紅潮した顔を俯けて拳を握り締めている。
「おお~い、太鼓腹のおっさん!」
その台詞に、場を支配していた喧騒が一気に静まった。
場の空気ににそぐわない言葉を吐いたのは、シノヤだった。
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