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第1章 アバター:シノヤ
第15話 イベントクリア
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そんな隙というにはあんまりな好機を見逃されるわけがなく、対戦相手の戦斧が、3mほどの高さから、シノヤの脳天目がけて一直線に叩き降ろされた。
どおんっ!
地響きしたと錯覚するような勢いで、戦斧が地面に突き刺さる。
戦斧の超重量に加え、相手の並外れた膂力、目にも留まらぬ落下速度と、どれをとっても必殺となり得る一撃が、確実にシノヤの脳天から胴体、股間までを通過していた。
VRMMOの世界では、血は流れない。
これは、グロテクスな表現の描写規制によるものだが、血が流れようとも流れずとも、HPゲージを失った者に待つのは”死”である。
見守る観客のすべてが、シノヤの死を確信していた。
こうしている間にも、すぐさまHPゲージが一気に減って尽き、その身体が光の塵となって砕け散ると。
やがて、シノヤのHPゲージが減り始め――と思った途端、ほんのわずかに減ったゲージが、瞬く間に元に戻った。
回復したのは、シノヤのパッシブスキル<自然治癒>の恩恵で、減った量も全体から見ると1/100もなく、常人でいうと、深爪をしたときに負う程度のダメージだ。
シノヤ以外の全員が、唖然として声を失った。
そのときになってようやく、シノヤは戦闘中だったことを思い出した。
しかし、懸念事項が発生した今、こんな消化試合に悠長に付き合っている暇もなく、シノヤはさっさとけりをつけるべく、無造作に対戦相手に詰め寄った。
大男は、得体の知れない相手に完全にビビッていたが、戦士の条件反射か、近づいてくるシノヤに、苦し紛れに戦斧を振り下ろしていた。
「邪魔」
シノヤは、迫りくる戦斧の切っ先に、自分から頭をぶつけていった。
いわゆるヘッドバットだが、その一撃だけで、重厚な戦斧が光となって飛び散る。
武器破壊――本来は耐久度の高い盾などの防具をもって、防御時にあえて相手の武器に叩きつけることで耐久度を減らし、反対に攻撃側の武器を破壊するという技である。
それを、シノヤはレベル999の身体能力任せに自らの頭部で行なったわけだ。
武器も失って尻餅をついた相手の額がちょうどいい位置にあったので、シノヤは軽くデコピン(といっても、相手のHPゲージの大半を減らしていたが)をかませて沈黙させた。
そして、即座にバルコニーに振り向く。
([魔族の花嫁]イベントは、家人に化けた魔族が屋敷に潜り込み、令嬢をかどわかそうとする話だった)
バルコニーには、3人――ナコール公爵、カレッド将軍、エリシアがいる。
「真実の眼スキル実行」
『真実の眼スキルを実行します』
視界に一瞬だけノイズが走った後、クリアになる。
そこに広がる情景は、先ほどまでとはひとつだけ異なる点があった。
シノヤは神剣アーバンライツを投擲の要領で構えた。
「そりゃあ、人族も滅びそうになるわな。こんな要人に魔族が成り代わっているんじゃあな」
シノヤの手からアーバンライツが放たれる。
神速の矢と化して飛ぶアーバンライツは、エリシアの脇をすり抜け、ナコール公爵を掠めながら、その後方にいたカレッド将軍の肩口を打ち抜き、そのまま背後の石壁に縫い付けた。
「ぎぃぃやあぁー!」
人のものとは違う声がし、神剣アーバンライツから光が迸る。
カレッド将軍だったものの表皮にひびが入って裂け落ち、黒い体皮と角を持つ、歪な矮躯をあらわにした。
「ひ、ひいっ! ま、魔族!?」
その正体は、インプと呼ばれる小悪魔の一種だ。幻覚や悪夢を見せ、人の心を惑わせる。
ゲーム中では雑魚に属する敵だが、こういった搦め手で攻めてくるので、耐性スキルや看破スキルを持たない者には厄介な存在だ。
今回のイベントでは、神剣アーバンライツのイベント専用スキル<真実の眼>が看破スキルの役割を果たしてくれたのだろう。
失禁でもしそうな狼狽振りで、腰を抜かしたナコール公爵の目の前で、神剣アーバンライツの光に呑まれ、インプは音もなく塵となって崩れ去った。
『イベントクリア! コングラチュレーション!』
誰しも身動きするのも忘れ、静寂の支配する中――シノヤだけが鳴り響くファンファーレを聞いていた。
どおんっ!
地響きしたと錯覚するような勢いで、戦斧が地面に突き刺さる。
戦斧の超重量に加え、相手の並外れた膂力、目にも留まらぬ落下速度と、どれをとっても必殺となり得る一撃が、確実にシノヤの脳天から胴体、股間までを通過していた。
VRMMOの世界では、血は流れない。
これは、グロテクスな表現の描写規制によるものだが、血が流れようとも流れずとも、HPゲージを失った者に待つのは”死”である。
見守る観客のすべてが、シノヤの死を確信していた。
こうしている間にも、すぐさまHPゲージが一気に減って尽き、その身体が光の塵となって砕け散ると。
やがて、シノヤのHPゲージが減り始め――と思った途端、ほんのわずかに減ったゲージが、瞬く間に元に戻った。
回復したのは、シノヤのパッシブスキル<自然治癒>の恩恵で、減った量も全体から見ると1/100もなく、常人でいうと、深爪をしたときに負う程度のダメージだ。
シノヤ以外の全員が、唖然として声を失った。
そのときになってようやく、シノヤは戦闘中だったことを思い出した。
しかし、懸念事項が発生した今、こんな消化試合に悠長に付き合っている暇もなく、シノヤはさっさとけりをつけるべく、無造作に対戦相手に詰め寄った。
大男は、得体の知れない相手に完全にビビッていたが、戦士の条件反射か、近づいてくるシノヤに、苦し紛れに戦斧を振り下ろしていた。
「邪魔」
シノヤは、迫りくる戦斧の切っ先に、自分から頭をぶつけていった。
いわゆるヘッドバットだが、その一撃だけで、重厚な戦斧が光となって飛び散る。
武器破壊――本来は耐久度の高い盾などの防具をもって、防御時にあえて相手の武器に叩きつけることで耐久度を減らし、反対に攻撃側の武器を破壊するという技である。
それを、シノヤはレベル999の身体能力任せに自らの頭部で行なったわけだ。
武器も失って尻餅をついた相手の額がちょうどいい位置にあったので、シノヤは軽くデコピン(といっても、相手のHPゲージの大半を減らしていたが)をかませて沈黙させた。
そして、即座にバルコニーに振り向く。
([魔族の花嫁]イベントは、家人に化けた魔族が屋敷に潜り込み、令嬢をかどわかそうとする話だった)
バルコニーには、3人――ナコール公爵、カレッド将軍、エリシアがいる。
「真実の眼スキル実行」
『真実の眼スキルを実行します』
視界に一瞬だけノイズが走った後、クリアになる。
そこに広がる情景は、先ほどまでとはひとつだけ異なる点があった。
シノヤは神剣アーバンライツを投擲の要領で構えた。
「そりゃあ、人族も滅びそうになるわな。こんな要人に魔族が成り代わっているんじゃあな」
シノヤの手からアーバンライツが放たれる。
神速の矢と化して飛ぶアーバンライツは、エリシアの脇をすり抜け、ナコール公爵を掠めながら、その後方にいたカレッド将軍の肩口を打ち抜き、そのまま背後の石壁に縫い付けた。
「ぎぃぃやあぁー!」
人のものとは違う声がし、神剣アーバンライツから光が迸る。
カレッド将軍だったものの表皮にひびが入って裂け落ち、黒い体皮と角を持つ、歪な矮躯をあらわにした。
「ひ、ひいっ! ま、魔族!?」
その正体は、インプと呼ばれる小悪魔の一種だ。幻覚や悪夢を見せ、人の心を惑わせる。
ゲーム中では雑魚に属する敵だが、こういった搦め手で攻めてくるので、耐性スキルや看破スキルを持たない者には厄介な存在だ。
今回のイベントでは、神剣アーバンライツのイベント専用スキル<真実の眼>が看破スキルの役割を果たしてくれたのだろう。
失禁でもしそうな狼狽振りで、腰を抜かしたナコール公爵の目の前で、神剣アーバンライツの光に呑まれ、インプは音もなく塵となって崩れ去った。
『イベントクリア! コングラチュレーション!』
誰しも身動きするのも忘れ、静寂の支配する中――シノヤだけが鳴り響くファンファーレを聞いていた。
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