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第二章

魔力

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「あの。あらためまして、ネーア・シープルと言います」

 ネーアが深々とお辞儀する。素直そうないいだ。どこぞのスリッパ娘と違って。

「ネーアはわたしの幼馴染なのよ。遠戚でもあるんだけどね。10歳くらいまでは、姉妹同然に育ったんだから。でも、ネーアに魔力適正が認められて、王都に連れられていってからは少し疎遠になっちゃったけどね。今では宮廷魔術師にまでなって、自慢の親友よ!」

「そんな……宮廷魔術師といっても、ようやく見習い期間が終わっただけの新人なんだから」

「それでも、100人しかいない宮廷魔術師の一員なんだから、充分すぎるほどすごいじゃない!」

 瞳を輝かせながら褒め称えるレリルに、ネーアは赤面してうつむいてしまっている。

「わたしのことはもういいから……颯真さん、でしたよね? 颯真さんは本当に魔術士ではないんですか?」

 話をすげ替えるつもりでもないだろうが、ネーアが話の矛先を颯真に向けてきた。

「さっきのおっさんも言ってたよな。だから、なんで?」

 不思議そうにする颯真に、ネーアは口を手で抑えて驚きに目を丸くしている。

「そのあふれ出る膨大な魔力――もしかして、ご自身で気づいてないんですか?」

「「は? 魔力?」」

 異口同音に発したのは、颯真とレリルだ。

「ええ!? ちょっとレリルちゃん、あなたまで気づいてなかったの? レリルちゃんは魔力あるから感じるはずでしょう?」

「ええーと。苦手なんだよね、魔力探査とか。結構、集中しなくちゃできなくて……んーと」

 レリルは眉間に人差し指を当て、気難しい顔で一心に颯真を睨みガンつけた。

「え゛。なにこの、馬鹿げた魔力! あんた、おかしいわよ!?」

 指差すな。

「遅いよ。レリルちゃん……」

 肩を落とし、嘆息するネーア。

 2人に指摘されるということは、異常な魔力を持つというのは本当のことなのだろう。
 庭先で宮廷魔術師の面々に訝られたことや、先ほどカミランの妙な視線といい、この魔力のせいだったと考えると納得できる。
 なるほど、魔術が専売特許の連中の前に、そんな魔力を持った身元不明者が現われれば、疑念視するのも当然か。颯真は独りごちた。

「はっきり言いまして、その魔力は宮廷魔術師クラスを凌駕しています。著名な魔術士か魔導士かとお見受けしたのですが、颯真さんの名は聞いたことがありません。あなたはいったい……」

 魔術。自然現象に近い魔法に、規則性を持たせ、術式として完成させたもの。魔術を行使するものを一般的に魔術士と呼ぶ。
 魔導。魔法や魔術、それに関する道具を含めた広い範囲を指して魔導と称する。主に研究職であり、それを生業とする者が魔導士と呼ばれる。

(ごくろー。脳内さん)

 とにかく、颯真にはどちらも当て嵌まらない。
 魔力があるのは、単に魔物スライムだからだろう。

「俺の場合は生まれつきじゃないかな? 魔術なんて、ただの1個も使えないし」

「1個も? でも、日常魔術くらいは使えますよね?」

 日常魔術――ああ、火を熾したり、水を出したり、日常生活用の初級魔術ね。

「使ったことがないけど」

「ああ……あなたはどこの秘境で暮らしてきたというのですか……」

 失敬な。近代日本社会ですが。

 がっくりと床に手をつき、ネーアがうな垂れた。
 重力に従った乳が実に絶景だった。

「……どこ見てるの、颯真?」

 殺風景――もとい、レリルの視線が冷たい。

「いや、スライムたち同族との語らいをだな」

「訳わからないけど、とりあえず殴っとくね」

 うん、いい笑顔だ。
 颯真はまたスリッパで豪快にはたかれた。
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