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第三章

跡地にて

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 颯真が意識を取り戻したのは、丸一日もの時が経過した後だった。

 本人にはそれだけの時間が経ったという自覚はない。
 颯真の記憶では、塔の頂上でマザーに呑み込まれそうになった――その辺りで意識が途絶えてしまっている。
 どのような経緯で、今こうして独り地面に投げ出されているのか、現状がどうにも把握できていない。

 なにかを誰か大勢と話し合ったような気もするが、起きたら醒める夢の出来事のようにおぼろげで、よく覚えてもいない。はて。

 颯真は自分の状態を確認してみた。
 いつもながらの艶やかなワインレッドのスライムボディだ。傷ひとつないつるんつるんのぷるんぷるん美肌ボディ。

 ただ、虚脱感が物凄い。
 何度も擬態を繰り返したときの魔力欠乏の気だるさが、全身を襲っている。

(あー。だりぃ。動けそうにねー。腹減った)

 周囲には食べられそうなものはなにもない。
 草木ひとつない無機質な地面が広がっている。

(そういや、ここどこだ? マザーはどうしたんだろ?)

 塔もなければ森もない。あのマザーの巨体なら、どこにいても目立ちそうなものだが、見当たらない。

(……ん? ちょっと待てよ)

 遠くの景色を眺めてみて、颯真ははたと気づいた。
 よくよく見ると、この景色には見覚えがある。

(まさか、そんな……でもなぁ)

 颯真は空腹感と虚脱感を強引に無視して、根性でフクロウ形態に擬態した。
 懸命に羽ばたいて、上空に昇って見下ろすと――

 そこは闇昏き森デ・レシーナだった。
 景色から位置を推測するに、颯真が目覚めた場所にはマイホームがあったはずだが、周辺もろともごっそりとしてしまっている。
 倒壊などではないことは、破片のひとつも転がっていないことからも明らかだ。
 塔どころか、森の木々も、小高い丘陵も、その地形ごと軒並み削り取られてしまっている。
 塔のあった場所を中心に、放射状に広がった大地を抉る爪痕が、遥か彼方まで続いていた。この分では、リジンの町まで届いているのではあるまいか。

 闇昏き森デ・レシーナは見渡せぬほどの広大な森だ。さすがにその全域まで被害は至っていなかったが、それにしてもあまりにあまりな常軌を逸した破壊の痕跡だった。

(……をいをい。いったいなにがあった? ○ジラでも出て暴れたか?)

 空腹が限界まで達したこともあり、颯真は空中で擬態が解けて、墜落した。

 辛うじて、木々が残っている場所に落下できたのは、幸いだった。
 ここでしばらくは植物でも齧って飢えをしのいで回復を待つしかない。

(その間、他の動物とかに襲われないといいけどなぁ)

 それは実際のところ、まったくの杞憂だった。
 昨日のあの瞬間から、少なくとも半径数十Kmに至るまで、すべての生物は森の奥深くに逃げ出してしまっていることなど、今の颯真には知る由もない。

(……とにかく、マイホームも無くなっちまったし……なんかここ、物騒なモノも居るみたいだし。さっさと他所にでも引っ越すかな……)

 颯真は木の枝に引っ掛かり、葉っぱをむしゃむしゃ消化し食べながら、呑気にそんなことを考えていたのだった。
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