不思議の国のわたし

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はじまりとともだち

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  カリカリと左の耳の穴を掘られている気がして、私は目を覚ました。背の高い木の間から差してくる太陽の光に目を細めながら、上半身だけ起き上がって左を見下ろすと、ギョっとした顔のリスと目が合った。全体的に茶色。ほどなくしてそのリスの声が聞こえてきた。
 (巣穴だと思ったじゃねーか。チッ、邪魔してくれやがって)
 その言葉に今度はこっちがギョっと目を剥いたが、リスは気にする様子もなく、スタコラサッサと木の上へ逃げてしまった。状況理解が出来ないまま呆然としていたら、膝の上に別のリスが現れ、話し掛けてきた。
 (あなた誰? 見知った顔じゃないけれど……迷子?)
 リスはこちらを向いたままつぶらな瞳を輝かせている。
 私が戸惑いながらもコクリと頷くと、彼女は、
 (そう! なら案内してあげる。ここにくるのは初めて?)
 と再度問うてきた。肩に乗った彼女の案内通りに歩くと、すぐに森を抜けられた。

 私は現代の日本で生まれた、十四歳の中学二年生。幼い頃から人見知りで友達が少なくて、中学生になった今も人見知りは改善されることはなく、学校では浮いた存在だった。毎日登校することは苦痛でしかなかったけれど、不登校になったら人生が終わる、と両親に言われ、いままで行き(生き)続けていた。正直生きていること自体苦痛だった。理由はわからないけれど、とにかく人間に生まれてきたことを恨んでいた。話が出来る動物に何回か訊いてみたことがあるけれど、みなが共通の答えを出した。「人間なんかに生まれなくて良かった」と。その言葉を聞いて確信した。今日、死のう、って。死んで、人間以外の生き物になるんだって。
 自殺しようとして睡眠薬を大量に飲んで寝たら、目が覚めると森の中にいた。


 森の近辺にあった、現代でいう居酒屋(?)に案内してくれたリス。店内は茶色を基調とした落ち着いた雰囲気で、どうしていいかわからなくてキョロキョロと不審に辺りを見回していると、薄汚れたエプロンをしている女性が店の奥から出てきた。
「あらまぁ、こんな汚い格好して。迷子?」
「あ……あの、その、違います。 あれ、私、迷子……?」
 ほぼ独り言のような微妙な返事をすると、親切に二階の部屋に案内してくれ、服も貸していただいた。
「この部屋は私の部屋なんだけどね、お母さん見つかるまで自由に使っていいから」
 そう言った店主の女性は「お店があるから」とさっさと部屋から出ていき、部屋には私と肩乗リスだけが残された。親切すぎて頭も上がらない。__とりあえず今夜の宿泊場所はリスのおかげで見つかった。(野宿じゃない!)
 部屋は失礼だけれど非常に殺風景で、薄汚れた白いベッドと古い茶色の机しかなく、どことなく悲壮感が漂っている。肩に乗っていたリスはベッドに飛び移り、言い訳をするように言った。
 (ここの店主はお節介だから、こうなることは計算済みだったのよ。でもまさかこんな部屋だったとはね……)
 その言葉には苦笑するほかなかった。リスは隣に座るよう促してきて、横に座るとリスは言い聞かせるようにこの国について説明してきた。
  この国はアルマディア共和国という国らしい。国の面積が狭いため人口も少なく、犯罪も少ない住みやすい国だという。国民も穏やかな性格と平和主義者が多く、動物にもとても優しい。でもそんな平和な国で、数年前、家畜が大量に虐殺され、国自体が騒然とした時期があったのだという。犯人は未だに捕まっていないらしいが、国民は忘れ去っている。でもリスや小動物界では大変有名な事件で、大人を見ると(特に男性)一目散に逃げるらしい。
 この店の店主はヘラリドさんといって、夫が亡くなってからは店を一人で切り盛りしているという努力人。子供もいなかったため、子供を見るとついお節介を焼いてしまうのだと。だから私の場合、住まわせてくれることになったのだと。ついでに肩乗リスは「ミラ」さっき森の中で耳の穴をほじくってきた失礼なリスは「ミル」という名前だというそう。ミルは言葉遣い的に男の子かと思っていたが男勝りな女の子だそう。こちらもミラに自己紹介して、ちっちゃな手と握手をして公式な友達になった。

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