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果物屋の長男兼跡継ぎ
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その人の第一印象は、「冷たい人」だった。高身長で薄い金色の髪と小さい顔に碧目。一見は端整だが性格のキツさが美しさを妨害しているといえる。彼は果物屋の長男兼その跡継ぎで、弟妹は五人もいるらしい(ミラ情報)。私が彼と初めて会ったのは(って言ったら現恋人みたいだけど)、商店が陳列している商店街っぽいところにミラに連れていかれたからだった。果物屋の前でウロウロと不審な動きをしていたとき、怪訝そうに声を掛けられたのだ。声を掛けられたといっても、「どうかしましたか」や「何か用ですか」とニコリともせず真顔で言われただけで。その理由としては数年前に発生した家畜虐殺事件がここ最近、少しずつ再発し始めているからで、私が怪しい動きをしていたから声を掛けたのだと思う。家畜虐殺事件が再発しつつあるのは超情報通のミラから聞いた。
不審者でもないですし、家畜殺しの犯人でもありません、と必死に弁解していると人々が騒ぎを聞きつけたのか、私を囲む様にしてヒソヒソ話をしている。面倒臭い客でも扱うように彼はため息をつき、私の腕を引っ張って人混みを抜け少しの所にある丘に連れていった。
「噂好きのババア共の声で聞こえなかった。まず、お前の名前と年齢は?」
丘に着いた瞬間に手を突然離してき、バランスを崩して尻餅をついてしまった私のことなど眼中にないかのように背を向けて立ったまま、とんでもない暴言を当たり前のように交えながら、ぶっきらぼうに聞いてくる。
「な、名前は……三谷 浩香です、十四歳です」
そう言うと彼は振り返って少しニヤつきながら目を逸らして目の前に座った。
「ふうん。その歳で犯罪はしないよな、普通。俺はニック、歳は十七。何でこんな寂れた国に来たんだ?」
さっきとは打って変わった態度にまだ動揺しているが、向かえに胡座をかいているニックは聞く。寂れた国とかよく知らないが気付いた時にはこの国にいたのだから、そんなのことを聞かれても正直返答に困る。少し黙りこくっているとニックは困ったように頭を掻き、
「言えない理由なら言わなくていいけど、俺なら言いずらいか? なんなら、お前と同い年の妹呼ぶか?」
と言ってきたので首を左右に激しく振り、拒否の意向を見せた。(迷惑は掛けられない)
ニックは不思議そうに私を見て、
「まあ、いいや。この機会だし家族を紹介するわ」
と家族の元へ連れていくのだという。「いや、いいです。あの、いいです」と全力で拒否したのだが、「大人しくついてこいよ」と半脅迫され、恐怖で腕を引っ張られるがままになっていた。
ニック家は、父、母、ニック、妹のリリー、三つ子の弟のジャス、ジェイス、ジョイ、末っ子の妹のサラ、で構成されている。ニックは十七、リリーは十四、三つ子は九、サラは六歳なのだという。ニックがさっき紹介したいと言っていた妹というのは、リリーのことで、リリーは普段は周りの空気が読める大人っぽい子なのだけれど、たまに吐き捨てる言葉が凄く毒舌なクールな子だとニックが話してくれた。リリーのことを話すニックはとても幸せそうで、何故だか優越感に浸っているみたいだった。自分の妹のギャップに萌えているのかもしれない。ニックはリリーをべた褒めしていて、自覚はないようだけれど、シスコンに思えた。
ニック家は果物屋の二階にあり、一階では父を主として経営しており、ニックは会計、リリーは美少女なので店の看板、母と三つ子は果物の仕入れを手伝っている。ちなみにサラは近所に一人で遊びに行っている。
「長男、帰りました」
ニックがそう言い、果物屋の店の奥に入っていくので私もついて行くと、木製の椅子に座ったリリーらしき人が驚いたように立ち上がった。リリーはニックにとても似ていて、背丈以外は同じ特徴がある。金髪の長髪に碧目、顔は小さく、色も白い。目の前に立つのも躊躇するくらいの美少女だ。その美少女は完全に敵視、警戒した目で私を睨みつけて、ニックに問うた。
「この女の子は誰? 付き合ってるとか言うんじゃないでしょうね」
「まさか。俺の恋愛対象は小学校低学年以外だって、前も言っただろ。こいつはヒロカ。お前と同い歳だから仲良くしてやれよ」
ニックから聞き捨てならない言葉が発せられたが、すぐに腕を引っ張られて二階に連れていかれたので、二階の扉から出て来た三つ子の勢いでそれは忘れ去っていた。三つ子はニックの開けた玄関扉から勢いよく飛び出してきて、さっと慣れたように避けたニックの代わりに、私のお腹に三人で頭突きしてきて、私は尻餅をついた。
「おい、ジャス、ジェイス、ジョイ。お客にはそれやっちゃいけないって言っただろ? お客さんに謝りなさい」
ニックが三つ子の頭に軽くゲンコツして怒ると、三つ子はぺこりと同時に頭を下げ、
「ごめんなさーい」と抜けた前歯を見せて人懐っこく笑った。
ニックによると三つ子は玄関の足音を聞きつけ、その人がドアを開けた瞬間に一気に飛び出して頭突きをする、という遊びが三つ子内で流行っているらしい。その遊びのせいで親戚の何人もが被害にあっているのだが、子供ということもあって大体が許されるらしい。ちなみに足音の聞き分けは出来ないんだそう。
ニックに案内されてリビングのソファーに座り、飲み物を淹れてきてくれるというニックが席を離れるのと同時に小さな女の子が私の膝の上に座ってきた。あたふたとしていると、女の子が話し掛けてきた。
「お兄ちゃんの彼女?」
「えっ……あ、違います。ただの知り合いです」
「ふうん。何才?」
「あっ、今年十四になりました。もしかして、サラちゃんですか?」
「うん」とサラちゃんは答える。六歳だというが、舌っ足らずなだけで、大人と話しているようだ。肩までの金色の髪に緑目、頬骨辺りにそばかすがある。六歳といえばもっと子どもっぽいのかと思っていたが、最近の六歳は精神的に結構大人なのかもしれない。
「あ、サラ。起きたのか?」
後ろからニックの声が聞こえ、サラが肯く。ニックからコーヒーカップを受け取ると、
「これ、俺の手作りりんごティーなんだぜ。朝食のあまりだから、温めただけだけど。うまい?」
と飲むように促された。ひと口飲むと口の中にりんごの風味が広がり、ひと口、またひと口と飲みたくなるような、本当に美味しい紅茶だった。その気持ちをどう伝えたら良いのか分からなかったけれど、とりあえず一言、
「美味しい」と伝えたら、膝の上に座っているサラが飲みたがり、ふー、と息を吹きかけてから飲ませてあげた。
ひと口飲んだサラは、続けて私のりんごティーを全て飲み干し、ニックの方のりんごティーにも手を出し、全部飲み干してしまった。
「そんなに俺のりんごティーが美味かったか?」
ニックがサラに問うと、サラはそっぽ向き、言った。
「ロリコンの作ったりんごティーなんか美味しくない」
不審者でもないですし、家畜殺しの犯人でもありません、と必死に弁解していると人々が騒ぎを聞きつけたのか、私を囲む様にしてヒソヒソ話をしている。面倒臭い客でも扱うように彼はため息をつき、私の腕を引っ張って人混みを抜け少しの所にある丘に連れていった。
「噂好きのババア共の声で聞こえなかった。まず、お前の名前と年齢は?」
丘に着いた瞬間に手を突然離してき、バランスを崩して尻餅をついてしまった私のことなど眼中にないかのように背を向けて立ったまま、とんでもない暴言を当たり前のように交えながら、ぶっきらぼうに聞いてくる。
「な、名前は……三谷 浩香です、十四歳です」
そう言うと彼は振り返って少しニヤつきながら目を逸らして目の前に座った。
「ふうん。その歳で犯罪はしないよな、普通。俺はニック、歳は十七。何でこんな寂れた国に来たんだ?」
さっきとは打って変わった態度にまだ動揺しているが、向かえに胡座をかいているニックは聞く。寂れた国とかよく知らないが気付いた時にはこの国にいたのだから、そんなのことを聞かれても正直返答に困る。少し黙りこくっているとニックは困ったように頭を掻き、
「言えない理由なら言わなくていいけど、俺なら言いずらいか? なんなら、お前と同い年の妹呼ぶか?」
と言ってきたので首を左右に激しく振り、拒否の意向を見せた。(迷惑は掛けられない)
ニックは不思議そうに私を見て、
「まあ、いいや。この機会だし家族を紹介するわ」
と家族の元へ連れていくのだという。「いや、いいです。あの、いいです」と全力で拒否したのだが、「大人しくついてこいよ」と半脅迫され、恐怖で腕を引っ張られるがままになっていた。
ニック家は、父、母、ニック、妹のリリー、三つ子の弟のジャス、ジェイス、ジョイ、末っ子の妹のサラ、で構成されている。ニックは十七、リリーは十四、三つ子は九、サラは六歳なのだという。ニックがさっき紹介したいと言っていた妹というのは、リリーのことで、リリーは普段は周りの空気が読める大人っぽい子なのだけれど、たまに吐き捨てる言葉が凄く毒舌なクールな子だとニックが話してくれた。リリーのことを話すニックはとても幸せそうで、何故だか優越感に浸っているみたいだった。自分の妹のギャップに萌えているのかもしれない。ニックはリリーをべた褒めしていて、自覚はないようだけれど、シスコンに思えた。
ニック家は果物屋の二階にあり、一階では父を主として経営しており、ニックは会計、リリーは美少女なので店の看板、母と三つ子は果物の仕入れを手伝っている。ちなみにサラは近所に一人で遊びに行っている。
「長男、帰りました」
ニックがそう言い、果物屋の店の奥に入っていくので私もついて行くと、木製の椅子に座ったリリーらしき人が驚いたように立ち上がった。リリーはニックにとても似ていて、背丈以外は同じ特徴がある。金髪の長髪に碧目、顔は小さく、色も白い。目の前に立つのも躊躇するくらいの美少女だ。その美少女は完全に敵視、警戒した目で私を睨みつけて、ニックに問うた。
「この女の子は誰? 付き合ってるとか言うんじゃないでしょうね」
「まさか。俺の恋愛対象は小学校低学年以外だって、前も言っただろ。こいつはヒロカ。お前と同い歳だから仲良くしてやれよ」
ニックから聞き捨てならない言葉が発せられたが、すぐに腕を引っ張られて二階に連れていかれたので、二階の扉から出て来た三つ子の勢いでそれは忘れ去っていた。三つ子はニックの開けた玄関扉から勢いよく飛び出してきて、さっと慣れたように避けたニックの代わりに、私のお腹に三人で頭突きしてきて、私は尻餅をついた。
「おい、ジャス、ジェイス、ジョイ。お客にはそれやっちゃいけないって言っただろ? お客さんに謝りなさい」
ニックが三つ子の頭に軽くゲンコツして怒ると、三つ子はぺこりと同時に頭を下げ、
「ごめんなさーい」と抜けた前歯を見せて人懐っこく笑った。
ニックによると三つ子は玄関の足音を聞きつけ、その人がドアを開けた瞬間に一気に飛び出して頭突きをする、という遊びが三つ子内で流行っているらしい。その遊びのせいで親戚の何人もが被害にあっているのだが、子供ということもあって大体が許されるらしい。ちなみに足音の聞き分けは出来ないんだそう。
ニックに案内されてリビングのソファーに座り、飲み物を淹れてきてくれるというニックが席を離れるのと同時に小さな女の子が私の膝の上に座ってきた。あたふたとしていると、女の子が話し掛けてきた。
「お兄ちゃんの彼女?」
「えっ……あ、違います。ただの知り合いです」
「ふうん。何才?」
「あっ、今年十四になりました。もしかして、サラちゃんですか?」
「うん」とサラちゃんは答える。六歳だというが、舌っ足らずなだけで、大人と話しているようだ。肩までの金色の髪に緑目、頬骨辺りにそばかすがある。六歳といえばもっと子どもっぽいのかと思っていたが、最近の六歳は精神的に結構大人なのかもしれない。
「あ、サラ。起きたのか?」
後ろからニックの声が聞こえ、サラが肯く。ニックからコーヒーカップを受け取ると、
「これ、俺の手作りりんごティーなんだぜ。朝食のあまりだから、温めただけだけど。うまい?」
と飲むように促された。ひと口飲むと口の中にりんごの風味が広がり、ひと口、またひと口と飲みたくなるような、本当に美味しい紅茶だった。その気持ちをどう伝えたら良いのか分からなかったけれど、とりあえず一言、
「美味しい」と伝えたら、膝の上に座っているサラが飲みたがり、ふー、と息を吹きかけてから飲ませてあげた。
ひと口飲んだサラは、続けて私のりんごティーを全て飲み干し、ニックの方のりんごティーにも手を出し、全部飲み干してしまった。
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