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+B/冷えた犯人
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――布団に入り眠りに着いた。
店長は不敵な笑みを浮かべている。
一回目の食中事件の後、店始まって以来の大問題に頭を抱えた店長は、店内の清掃・消毒・従業員の体調管理等、完璧に管理するべく、衛生管理表を作り直すことにした。というか、実際それくらいしかできることは無いと思ったのだ。
いくら入念に店を管理しようとしても、自分一人ではとても手が回るはずもない――そもそも既にずっと忙しい。従業員に作業の徹底を呼びかけたところで、ちゃんとやってくれるのかはわからない――殆ど人間不信だ。かといって、何もしないわけにはいかなかった。
必要な提出書類の作成と、対策書、衛生管理表に従業員名簿……。やたらと書類が多いが、三日も店が止まるので十分だと思った。むしろ、椅子に座って作業できると楽ができると思っていたようだ――相当参っている。
結果は、店に泊まり込み、ほぼ寝ずの作業だった。
新しい管理表は、できる限り簡素化し、見やすく、それでいて誰が、いつ、どのような作業をしたのか、などがとても見やすく管理しやすいように作られていた。
実際はとても一から作るのでは間に合わないと判断して、インターネットで公開されているフリーの素材に、多少改良を加えただけのものだったのだが、以前よりはかなりよいものに仕上がっていた。
営業静止初日から店内の消毒作業が始まっていた。シフトが入っていない者も急遽駆り出され、総動員で店の清掃がされた。隅々まで清掃され、食器や調理器具といった物まで、ありとあらゆる物がきれいに消毒された。店をまるごと消毒液に付けたかのような、そんな清潔さに仕上がったと言っていいだろう。
……だが、実際に働いている従業員の心はとてもじゃないが、そんな清々しいものではなかった。
ある者は無断で休み、ある者は退職届を持参した。集まった従業員も特に会話もなく、ただ店長の指示を粛々と進めていた。
せっかく鏡のように磨かれたテーブルも、映るのは暗い顔ばかりである。
三日後。営業停止命令が解かれ、開店した。
予想通り、客足は殆どなかった。
従業員の提案で、店で流す曲を変える事になった。従業員のストレス緩和と営業コストをできるだけ抑えるためだ。
それと、無期限の割引サービスをすることになった。目に見える対策が一番効果的だとは考えた店長だが、方法としてはこれ以上の対策はないと決定した。
できるかぎりの策を講じた。
後は時間が解決してくれるのを待つしかなかった。
だが無理だった。
わずか数日で二回目の食中毒が発生した。
原因は意外なものだった。
自動製氷機の氷である。
食器や調理器具の消毒、食品の衛生管理は徹底した。しかし、もう一つの重要な『従業員同士の確認』がほとんどされなかった為、製氷機に入った氷の交換を誰もしなかった。誰かがやったものだと誰もが思った。問題の原因なんて意外とそんなものである。
正確にいえば、製氷機自体が経年劣化の末トラブルを起こしたので、内部の清掃程度では、遅かれ早かれ問題は発生したと考えられる。
最初から詰んでいたのだ。
間もなく店は営業を終了した。二度と営業を再開することは無いだろう。
店内にある物の殆どは売却され、建物と敷地も買い手がつくのを待つばかりである。
ボコボコにされた製氷機を除いて。
店長は不敵な笑みを浮かべている。
一回目の食中事件の後、店始まって以来の大問題に頭を抱えた店長は、店内の清掃・消毒・従業員の体調管理等、完璧に管理するべく、衛生管理表を作り直すことにした。というか、実際それくらいしかできることは無いと思ったのだ。
いくら入念に店を管理しようとしても、自分一人ではとても手が回るはずもない――そもそも既にずっと忙しい。従業員に作業の徹底を呼びかけたところで、ちゃんとやってくれるのかはわからない――殆ど人間不信だ。かといって、何もしないわけにはいかなかった。
必要な提出書類の作成と、対策書、衛生管理表に従業員名簿……。やたらと書類が多いが、三日も店が止まるので十分だと思った。むしろ、椅子に座って作業できると楽ができると思っていたようだ――相当参っている。
結果は、店に泊まり込み、ほぼ寝ずの作業だった。
新しい管理表は、できる限り簡素化し、見やすく、それでいて誰が、いつ、どのような作業をしたのか、などがとても見やすく管理しやすいように作られていた。
実際はとても一から作るのでは間に合わないと判断して、インターネットで公開されているフリーの素材に、多少改良を加えただけのものだったのだが、以前よりはかなりよいものに仕上がっていた。
営業静止初日から店内の消毒作業が始まっていた。シフトが入っていない者も急遽駆り出され、総動員で店の清掃がされた。隅々まで清掃され、食器や調理器具といった物まで、ありとあらゆる物がきれいに消毒された。店をまるごと消毒液に付けたかのような、そんな清潔さに仕上がったと言っていいだろう。
……だが、実際に働いている従業員の心はとてもじゃないが、そんな清々しいものではなかった。
ある者は無断で休み、ある者は退職届を持参した。集まった従業員も特に会話もなく、ただ店長の指示を粛々と進めていた。
せっかく鏡のように磨かれたテーブルも、映るのは暗い顔ばかりである。
三日後。営業停止命令が解かれ、開店した。
予想通り、客足は殆どなかった。
従業員の提案で、店で流す曲を変える事になった。従業員のストレス緩和と営業コストをできるだけ抑えるためだ。
それと、無期限の割引サービスをすることになった。目に見える対策が一番効果的だとは考えた店長だが、方法としてはこれ以上の対策はないと決定した。
できるかぎりの策を講じた。
後は時間が解決してくれるのを待つしかなかった。
だが無理だった。
わずか数日で二回目の食中毒が発生した。
原因は意外なものだった。
自動製氷機の氷である。
食器や調理器具の消毒、食品の衛生管理は徹底した。しかし、もう一つの重要な『従業員同士の確認』がほとんどされなかった為、製氷機に入った氷の交換を誰もしなかった。誰かがやったものだと誰もが思った。問題の原因なんて意外とそんなものである。
正確にいえば、製氷機自体が経年劣化の末トラブルを起こしたので、内部の清掃程度では、遅かれ早かれ問題は発生したと考えられる。
最初から詰んでいたのだ。
間もなく店は営業を終了した。二度と営業を再開することは無いだろう。
店内にある物の殆どは売却され、建物と敷地も買い手がつくのを待つばかりである。
ボコボコにされた製氷機を除いて。
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