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A面/因果応報?
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「まさか自分だけあんな目に合うとは……」
あいつは不敵な笑みを浮かべている。
鈴木 隼は変わっている。
俺――多田野 広人――とは小学生からの付き合いになるけど、最初からあんなに変わったやつだったわけではない。俺が思うに、確か中学生くらいから始まった気がする。
きっかけはわからないが、やたらと大人ぶるようになった。社会人ならいざ知らず、一人称が『私』というのは、中学生の男子で――少なくとも自分の周りではあいつしかいなかった。
高校生になる少し前だったか、自動販売機でブラックコーヒーを買っていた。
何でブラックコーヒーなのか聞いたら『大人はブラックコーヒーが飲めないといけないものだ』と言い出した。いったい誰の――何の影響なのだろうかと思ったが、まぁ誰かに迷惑をかけているわけでもなかったので、特に心配するようなこともなかった。あいつの考えは俺にはわからない。
そんな変わったやつと一緒にいたせいか――いや、こんな言い方ではあいつに悪いか。しかし、あいつ意外に友達と呼べる人間がいないことに気づいた。類は友を呼ぶと言うけれど、俺みたいな面倒見の良いやつなんて、そうそういない筈だから仕方ないのかもしれないが。
――腹が減ったから何か食いに行こう。
そんな話になり、さてどこへ行こうかと考えていたら、久しぶりにファミレスに行こうと言い出したのは、あいつだった。
最寄りのファミレスといえば一軒しかない。
そのファミレスはつい先週、食中毒事件が発生した店舗だ。
まさか、あれだけクラスでも話題になったのに知らないはずもないだろう。と思いつつも、友達のいないあいつのことだかその可能性も満更否定できないのが、なんとも悲しい。まぁ、俺もクラスの連中が喋っているのを聞いただけなのだが……。
『ここのドアは無駄に重いよな』と、こちらを向きながらドアを開け先に入ったあいつは、ドアに貼ってあった事件の謝罪文に気づかなかったのだろうか。
本当に視野が狭いなとつくづく思った。
レジ付近に貼ってあるポップによれば、どうやら全品割引サービス中らしい。自分たちのような学生にはうってつけだ。流石に営業停止明けだし、衛生面についてはより徹底した対策をしだのだろう。隅々まで掃除されているようだった。
店内は思った通り、殆ど客の姿がなかった。いつもなら俺たちのような学生や、それこそ子供連れの家族なんかも居るはずなんだけど……。
こっちの気も知らずさっさと、何故か一番奥の席まで行ってしまったあいつの後を追う。すぐ近くの席が空いているのに、わざわざ奥まで行く意味がわからない。
席に着きメニュー表に目を通す。
なんだかんだここまで来たものの、少し不安になってきた。何も頼まないというのも手だが、流石にそれは失礼すぎる。かといって万が一ということもあるしなぁ……。
と、必死で考えていたところ、あいつが煽ってきた。何も知らないやつは呑気でいい。どうせまた、いつもと同じようなメニューしか頼まないのだろう。
周りを見回すと、たまたまこちらを見た店員と目が合った。軽くコクッとうなずくと注文を取りに来た。一見普通に見えるが内心とても穏やかではないだろう。
とりあえず、ある程度火が通っていれば大丈夫だろうと思って焼きカレーにした。大きさも小さいサイズがあったので、コストとリスク対策は万全だ。ただ、熱いだろうから冷たいコーラも注文した。攻守抜群の陣形。全くスキがない。……別に戦いに来たわけではないのだけれど。
人の声はほとんど聞こえず静かすぎる店内には、BGMのピアノの音が流れている。優雅さの演出、というより、まるで不安を拭おうとしている意図があるような気もしなくもない。そんな事を考えているうちに料理が届いた。想定より早かったので少なからず警戒したのだが――大丈夫そうだ。しっかり火が通っている。猫舌でなくとも普通にやけどしそうなくらいだ。
元々量が少なかったので、あっという間に平らげてしまった。普通に美味しかった。
いつも通りスマートフォンで食後の写真を撮っていたら、あいつに怪訝な顔をされたので説明したが、全く伝わっていないようだった。こっちからすれば、いつまで経っても注文品に手を付けないでいるお前の方がよっぽどおかしく見えるのだが。
先にレジに向かったのはあいつだった。いつも思ったらすぐに行動する、そのフットワークの軽さは見習わなければならないかもしれない。
会計を済ませ、あいつは外に出た。
ということはいよいよ貼り紙に気づくかもしれない。
いったいどんな反応をするのだろうか。
考えただけで顔が緩むのを抑えきれなかった。
このときは、まさか自分だけ食中毒になるなんて思ってもみなかった。
あいつは不敵な笑みを浮かべている。
鈴木 隼は変わっている。
俺――多田野 広人――とは小学生からの付き合いになるけど、最初からあんなに変わったやつだったわけではない。俺が思うに、確か中学生くらいから始まった気がする。
きっかけはわからないが、やたらと大人ぶるようになった。社会人ならいざ知らず、一人称が『私』というのは、中学生の男子で――少なくとも自分の周りではあいつしかいなかった。
高校生になる少し前だったか、自動販売機でブラックコーヒーを買っていた。
何でブラックコーヒーなのか聞いたら『大人はブラックコーヒーが飲めないといけないものだ』と言い出した。いったい誰の――何の影響なのだろうかと思ったが、まぁ誰かに迷惑をかけているわけでもなかったので、特に心配するようなこともなかった。あいつの考えは俺にはわからない。
そんな変わったやつと一緒にいたせいか――いや、こんな言い方ではあいつに悪いか。しかし、あいつ意外に友達と呼べる人間がいないことに気づいた。類は友を呼ぶと言うけれど、俺みたいな面倒見の良いやつなんて、そうそういない筈だから仕方ないのかもしれないが。
――腹が減ったから何か食いに行こう。
そんな話になり、さてどこへ行こうかと考えていたら、久しぶりにファミレスに行こうと言い出したのは、あいつだった。
最寄りのファミレスといえば一軒しかない。
そのファミレスはつい先週、食中毒事件が発生した店舗だ。
まさか、あれだけクラスでも話題になったのに知らないはずもないだろう。と思いつつも、友達のいないあいつのことだかその可能性も満更否定できないのが、なんとも悲しい。まぁ、俺もクラスの連中が喋っているのを聞いただけなのだが……。
『ここのドアは無駄に重いよな』と、こちらを向きながらドアを開け先に入ったあいつは、ドアに貼ってあった事件の謝罪文に気づかなかったのだろうか。
本当に視野が狭いなとつくづく思った。
レジ付近に貼ってあるポップによれば、どうやら全品割引サービス中らしい。自分たちのような学生にはうってつけだ。流石に営業停止明けだし、衛生面についてはより徹底した対策をしだのだろう。隅々まで掃除されているようだった。
店内は思った通り、殆ど客の姿がなかった。いつもなら俺たちのような学生や、それこそ子供連れの家族なんかも居るはずなんだけど……。
こっちの気も知らずさっさと、何故か一番奥の席まで行ってしまったあいつの後を追う。すぐ近くの席が空いているのに、わざわざ奥まで行く意味がわからない。
席に着きメニュー表に目を通す。
なんだかんだここまで来たものの、少し不安になってきた。何も頼まないというのも手だが、流石にそれは失礼すぎる。かといって万が一ということもあるしなぁ……。
と、必死で考えていたところ、あいつが煽ってきた。何も知らないやつは呑気でいい。どうせまた、いつもと同じようなメニューしか頼まないのだろう。
周りを見回すと、たまたまこちらを見た店員と目が合った。軽くコクッとうなずくと注文を取りに来た。一見普通に見えるが内心とても穏やかではないだろう。
とりあえず、ある程度火が通っていれば大丈夫だろうと思って焼きカレーにした。大きさも小さいサイズがあったので、コストとリスク対策は万全だ。ただ、熱いだろうから冷たいコーラも注文した。攻守抜群の陣形。全くスキがない。……別に戦いに来たわけではないのだけれど。
人の声はほとんど聞こえず静かすぎる店内には、BGMのピアノの音が流れている。優雅さの演出、というより、まるで不安を拭おうとしている意図があるような気もしなくもない。そんな事を考えているうちに料理が届いた。想定より早かったので少なからず警戒したのだが――大丈夫そうだ。しっかり火が通っている。猫舌でなくとも普通にやけどしそうなくらいだ。
元々量が少なかったので、あっという間に平らげてしまった。普通に美味しかった。
いつも通りスマートフォンで食後の写真を撮っていたら、あいつに怪訝な顔をされたので説明したが、全く伝わっていないようだった。こっちからすれば、いつまで経っても注文品に手を付けないでいるお前の方がよっぽどおかしく見えるのだが。
先にレジに向かったのはあいつだった。いつも思ったらすぐに行動する、そのフットワークの軽さは見習わなければならないかもしれない。
会計を済ませ、あいつは外に出た。
ということはいよいよ貼り紙に気づくかもしれない。
いったいどんな反応をするのだろうか。
考えただけで顔が緩むのを抑えきれなかった。
このときは、まさか自分だけ食中毒になるなんて思ってもみなかった。
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