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第2章 聖剣の行く方/放伐
14: 父親達
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莞爾達が固まっている場所から少し離れた貴賓席に、トレバー・リンカーンと暮神英機(ひでき)がいた。
剣士のオーナーは、闘技の血飛沫がかかるような闘技ステージ間近にいなければならないが、今回の剣士の名目上のオーナーはアンジェラで彼女は決まり通りその場所にいてトレバーは関われない。
しかもアンジェラは自ら望んで、そうしているのだ。
トレバーが考えていた聖剣奪取プランにはフォージャリーを使う事が含まれていたが、そのフォージャリーは娘のフォージャリーである必要などなかった。
それをアンジェラが、自分はリンカーン家の跡取り娘だから自分の代理としてチャイナレディをこの試合に出すと言い出したのだ。
娘なりに家の事を思っていっているのか、それとも自分への当てつけの為に、そんな事をやろうとしているのか、トレバーにはそれさえも良く分からなくなっていた。
ただ一つはっきりしていたのは、そんな娘の申し出を撥ね付けられる理由がトレバーにはないと言う事だった。
トレバーは複雑な思いで、自分の娘がドレス姿でセコンド席に座っているのを見た後、次にリングを挟んで娘と向かい合った場所にいる張に視線を移した。
張は他の中世貴族風の仮想に対抗して、昔の中華商人のような格好をしていたが、それがよく似合っていた。
張は自分を見ているリンカーンの視線に気がついたのか、軽く会釈を送って来た。
トレバーも、それに会釈を返した。
会場内の雰囲気は、来る決勝戦に向けて期待と興奮が高まり今にも爆発しそうだった。
観客達は、今までにない剣士達を擁したこの聖剣争奪戦に酔っているのだ。
「張は余裕だな。」
セコンド席で悠然と構えている張の様子を見て暮神英機は言った。
英機は、口ひげが似合っている厳つい身体をした壮年の男で、その姿は渋い好漢であるトレバーとよく釣り合っている。
彼の息子の莞爾の顔は細面だから、莞爾は母親似なのだろう。
「出して来た剣士も凄い。ユミルにもまだあんな人材がいて、それをこの試合に持ってこれる張はやはり侮れんな。それにあの剣の切れ味、出処は特異点テクノロジーかな?ただの後付のブレードではなさそうだ。聖剣は柄に値打ちがあるというのに…人をくった事をする人物だ。」
余裕といえば、トレバーも張に負けず余裕があった。
チャイナレディを試合に出すのには抵抗はあったが、チャイナレディ自体の能力には自信があったからだ。
「、、、剣の方は詳しくは解らんが、剣士の方は知っている。奴と会う場所がここでないなら、儂が捕えなくてはならん男だ。」
暮神英機が面白そうに言った。
「あの剣士、犯罪者か?」
「ああ、すこぶるつきのな。殺し屋だよ。金で人を殺す。殺すときの獲物は、毒薬からライフルまで、時と場合で何でもありだと聞いている。分かっているが、証拠を残さないから捕まえられない。張は、そう言う人間をここに送り込んだんだ。しかし、それはお前も同じだな。この場にあのフォージャリーを出場させるとはな、驚いたものだ。」
楽しくて仕方がないというふうに、暮神英機がトレバー・リンカーンに言った。
それがこの男の腹の太さだった。
「そう言うな。決まりは各家から一人剣士をだす。それだけだったろう。その家の血の濃い人間を、というのは、出来ればの話の筈だ。だが私の家には、一人娘しかない。それにこれは元々、我々のお遊びから始まったものだ。」
「確かにな、あの母星神が悪戯心を出して、このゲームにちょっかいを出さない内は、平和なものだったな。、、しかし、うちの倅が今回の試合を辞退していて良かった。殺し屋はさておき、さすがにお前のところのフォージャリー相手ではな。あのフォージャリー、バンクスの息子の足を食い千切ったそうじゃないか?」
「挑発をしたのはレナード・バンクスの方だ。それはバンクス君も認めているよ。」
「認めている?相手がお前だからだろう?リンカーン家じゃなければ、今頃、両家は戦争になってる。しかし強気に出たな。先方に全て非があると言いきっただろう。何事に対しても慎重なお前が、そう出るとはな。今回の試合への参加にしたってそうだ。いよいよやる気なのか?」
「ああ。腹を決めた。私がこの国をまとめ上げ外の世界に打って出る。ほって置けば、この国は遠からず滅びる。だから聖剣も必要だ。私自身は、聖剣の値打ちなど信用していないが、周囲はそうじゃない。覇者になるには、それなりの飾りが必要だ。、、しかし、聖剣争奪戦の有力候補である君とは戦いたくなかった。でも暮神家は自ら降りてくれた。その事については感謝しているよ。しかも、あの負けん気の強い莞爾君が自ら退いてくれるとはな。」
「リンカーン家が出るんだ。そのあたりは莞爾も考えるさ。それに兄の瑛爾が奪った聖剣の本数は1本、莞爾は2本。兄を超える…この方面では莞爾はもう望みを達成しておる、、。そして倅は元からこの試合自体に興味があるわけじゃない。」
「、、瑛爾君の事は気の毒だったな。立派な跡取りになっただろうに。」
「それを言うな、、儂には、まだ莞爾が残っておる。」
暮神英機は顔に似合わない悲しげな表情を浮かべた。
剣士のオーナーは、闘技の血飛沫がかかるような闘技ステージ間近にいなければならないが、今回の剣士の名目上のオーナーはアンジェラで彼女は決まり通りその場所にいてトレバーは関われない。
しかもアンジェラは自ら望んで、そうしているのだ。
トレバーが考えていた聖剣奪取プランにはフォージャリーを使う事が含まれていたが、そのフォージャリーは娘のフォージャリーである必要などなかった。
それをアンジェラが、自分はリンカーン家の跡取り娘だから自分の代理としてチャイナレディをこの試合に出すと言い出したのだ。
娘なりに家の事を思っていっているのか、それとも自分への当てつけの為に、そんな事をやろうとしているのか、トレバーにはそれさえも良く分からなくなっていた。
ただ一つはっきりしていたのは、そんな娘の申し出を撥ね付けられる理由がトレバーにはないと言う事だった。
トレバーは複雑な思いで、自分の娘がドレス姿でセコンド席に座っているのを見た後、次にリングを挟んで娘と向かい合った場所にいる張に視線を移した。
張は他の中世貴族風の仮想に対抗して、昔の中華商人のような格好をしていたが、それがよく似合っていた。
張は自分を見ているリンカーンの視線に気がついたのか、軽く会釈を送って来た。
トレバーも、それに会釈を返した。
会場内の雰囲気は、来る決勝戦に向けて期待と興奮が高まり今にも爆発しそうだった。
観客達は、今までにない剣士達を擁したこの聖剣争奪戦に酔っているのだ。
「張は余裕だな。」
セコンド席で悠然と構えている張の様子を見て暮神英機は言った。
英機は、口ひげが似合っている厳つい身体をした壮年の男で、その姿は渋い好漢であるトレバーとよく釣り合っている。
彼の息子の莞爾の顔は細面だから、莞爾は母親似なのだろう。
「出して来た剣士も凄い。ユミルにもまだあんな人材がいて、それをこの試合に持ってこれる張はやはり侮れんな。それにあの剣の切れ味、出処は特異点テクノロジーかな?ただの後付のブレードではなさそうだ。聖剣は柄に値打ちがあるというのに…人をくった事をする人物だ。」
余裕といえば、トレバーも張に負けず余裕があった。
チャイナレディを試合に出すのには抵抗はあったが、チャイナレディ自体の能力には自信があったからだ。
「、、、剣の方は詳しくは解らんが、剣士の方は知っている。奴と会う場所がここでないなら、儂が捕えなくてはならん男だ。」
暮神英機が面白そうに言った。
「あの剣士、犯罪者か?」
「ああ、すこぶるつきのな。殺し屋だよ。金で人を殺す。殺すときの獲物は、毒薬からライフルまで、時と場合で何でもありだと聞いている。分かっているが、証拠を残さないから捕まえられない。張は、そう言う人間をここに送り込んだんだ。しかし、それはお前も同じだな。この場にあのフォージャリーを出場させるとはな、驚いたものだ。」
楽しくて仕方がないというふうに、暮神英機がトレバー・リンカーンに言った。
それがこの男の腹の太さだった。
「そう言うな。決まりは各家から一人剣士をだす。それだけだったろう。その家の血の濃い人間を、というのは、出来ればの話の筈だ。だが私の家には、一人娘しかない。それにこれは元々、我々のお遊びから始まったものだ。」
「確かにな、あの母星神が悪戯心を出して、このゲームにちょっかいを出さない内は、平和なものだったな。、、しかし、うちの倅が今回の試合を辞退していて良かった。殺し屋はさておき、さすがにお前のところのフォージャリー相手ではな。あのフォージャリー、バンクスの息子の足を食い千切ったそうじゃないか?」
「挑発をしたのはレナード・バンクスの方だ。それはバンクス君も認めているよ。」
「認めている?相手がお前だからだろう?リンカーン家じゃなければ、今頃、両家は戦争になってる。しかし強気に出たな。先方に全て非があると言いきっただろう。何事に対しても慎重なお前が、そう出るとはな。今回の試合への参加にしたってそうだ。いよいよやる気なのか?」
「ああ。腹を決めた。私がこの国をまとめ上げ外の世界に打って出る。ほって置けば、この国は遠からず滅びる。だから聖剣も必要だ。私自身は、聖剣の値打ちなど信用していないが、周囲はそうじゃない。覇者になるには、それなりの飾りが必要だ。、、しかし、聖剣争奪戦の有力候補である君とは戦いたくなかった。でも暮神家は自ら降りてくれた。その事については感謝しているよ。しかも、あの負けん気の強い莞爾君が自ら退いてくれるとはな。」
「リンカーン家が出るんだ。そのあたりは莞爾も考えるさ。それに兄の瑛爾が奪った聖剣の本数は1本、莞爾は2本。兄を超える…この方面では莞爾はもう望みを達成しておる、、。そして倅は元からこの試合自体に興味があるわけじゃない。」
「、、瑛爾君の事は気の毒だったな。立派な跡取りになっただろうに。」
「それを言うな、、儂には、まだ莞爾が残っておる。」
暮神英機は顔に似合わない悲しげな表情を浮かべた。
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