鏡面惑星/ライズ・アンド・フォール

二市アキラ(フタツシ アキラ)

文字の大きさ
13 / 14
第2章 聖剣の行く方/放伐

13: 試合のルール

しおりを挟む
    イーズルの西の外れには居留区と呼ばれるヒューマンフォージャリー達の集落があり、東の外れにはイーズルを外の脅威から守る為の壁である"アイギス"の中心部分がある。
 全体としてのアイギス壁は、左翼右翼の高低差を持ちながらも鶴翼の形でイーズルを包み、右翼はその高さをヒューマンフォージャリー集落で0とした。
 左翼西側の壁が最後まで高いのは「フォージャリー集落」という外界への緩衝地帯がないからだ。
   この残酷さには、フォージャリー達が棄民だと云う前提もあるが、それだけではなく集落にはフォージャリー用の別形態防御フィールドが埋設されているという説が主にある。


 この分厚いアイギス外壁の内側空間は、人間達の日常における必要度が低い様々な設備に転用されていた。
 例えば、美術館や博物館などがそうだ。
 ただ、それらの内容を充実させる為に必要な人間の歴史や文化などの蓄積はこの星には殆どなく、その結果、施設の中身は貧弱なものになっていた。
 そこにあるのは、ただ立派な外側をもつ入れ物だけだ。
 それでも人々がこういった施設をわざわざアイギス壁の内側に造る造るのは、母星文化への郷愁と国内経済循環の為だった。
 従って観覧の為の人出は殆どない。

 ただ、こういう施設だからこその、他の隠れた使い道はあった。

 日が落ちてから外壁に近づく人間はいない。
 アイギス壁の外に広がる外界の恐怖がそうさせるのだ。
 ましてやその外壁内にあるのは、普段の生活とは縁遠い施設だった。
 そんな施設の一つである『"ユミルの睫毛"国立美術館』が、聖剣争奪戦の会場に選ばれていた。

 ここに暮神と鹿島、そしてドナーの三人が集まっていた。
 彼らが顔を合わせた場所は、この催しの為に臨時に作られた観客席だ。
 観客席と言っても劇場のような設えではなく半分はパーティー会場のようなものだ。
 彼らの仲間であるアンジェラは、今回、競技参加者として違う場所にいる。

 パーティードレスで着飾った豪族の若い娘達は、少し離れたところから彼ら三人を憧れの眼差しで見つめていた。
 もちろん彼女達も、豪族のハイソサエティ内で育っているから、暮神達の事は子供の頃から知っているのだが、今まで彼らのグループは、どちらかと言うと目立たない存在だったのだ。
 少女達の恋愛対象としては、少年たちの中で一番目立っていたバンクス家のレナードなどが注目されていた。
 それが成人してみると、この三人はそれぞれ違った個性を発揮する魅力的な男性に成長していたのだ。

 ただそんな彼らが、三人で固まっていると、若い娘達には気後れが生まれるのか、遠巻きに見ているしかなかったようだ。
 ハンサムな男が三人で濃密につるんでいては、そこに一人や二人で気安くモーションをかけられる訳がないのだ。
 それに他の若い男達は中世貴族風の仮装を楽しんでいたが、彼らは一部の隙もないスーツ姿だった。
    もちろんそれは、暮神らの異端を装った気取りだったが…。


「いつもなら、ここにレナードの馬鹿もいる筈だけどな。そしてあのフォージャーの格好を見て悪口をまき散らしていただろうさ。」
 アドン鹿島が、わざわざレナードの名前を持ちだしたのは、暮神らが引き起こした事件の愚かさを彼らに思い出させる為だった。
 アドンは、昔からこのグループの中で、そういうご意見番めいた立ち位置にいたのだ。
 ドナーは恥ずかしそうに下を向いたが、暮神はこの当てつけにも平気だった。

「何が言いたいんだ、アドン?お前ならあの情況を変えられたとでも言いたいのか?確かにお前が見せる判断はいつも正しいさ。でもお前は、あの夜、あの場所にいなかったんだぜ。」
 暮神は平然としている。
 『起こってしまった事は全て受けいれる、その後の反省は全て無意味だ。人間の過ちは、いくら後で学ぼうが、後悔しようが、未来でもやはり回避出来ない。回避できるように思うのは錯覚だ。』
 ある時から彼はそう考えるようになっていた。
 自分のすることには常に覚悟が決まっていると言えば聞こえは良いが、それは一種の虚無主義だった。

「まあいいじゃないか二人とも。レナードの怪我なんて直ぐに治るさ。彼の処置の部位が増えるだけだ。」
 ドナーが二人の仲を取り持つように言った。
 だがドナーは、二人のことをさほど心配しているわけではない。
 アドンと莞爾(かんじ)の間にはいつも緊張があるが、この二人はお互いを嫌い合ってはいないからだ。
 親友とはちょっと違うが、それに近い。
 二人は、それぞれ違う意味で、親友をつくらない。
 それでも二人の結びつきが強いのを、ドナーは長年の付き合いで知っていた。

「それにしても驚いたよな、アンジェラのやつ。自分の代わりにあのフォージャーをたてて争奪戦に参加するなんて。それもあの格好だ。彼女にどういうつもりで、あのフォージャーに女性が身に付けるような、いや女性でもあんなエロいの身に付けないだろうけど、、鎧を着けさせたんだって聞いたら、チャイナが私の代わりだからって言ってたよ。、、あれは私よ、女が試合に参加して何か問題があるの?あの格好は、その主張の為だってさ。、、昔からやることが突拍子もなかったけど、こんな事までやるとはなぁ。しかも、彼女達はもう決勝戦まで勝ち上がってる。」
 ドナーが話の方向をレナードの件から試合へと変えた。

「見えてないな、ドナー。凄いのはアンジェラの我が儘を許して、この試合で聖剣を取りにかかったトレバーさんの方だ。それと、商人のくせに、今回、同じくこの争奪戦に参加した張だよ。今まで聖剣争奪戦に参加しなかった張と、リンカーン家がそれぞれの際だったやり方でこの戦いに参加した。他の豪族の長達はウチも含めてみんなピリピリしてる。いよいよ、このユミルで覇権争いが始まるんじゃないかってな。それに、我らが莞爾がリンカーン家の顔を立てて、この試合に参加しなかった事も大きい。」
 アドンにそう言われた莞爾は、試合が行われる円形ステージを見つめたまま黙っている。
 ドナーは、いつもは庇ってくれる莞爾が何も言ってくれないので、ふくれ面でアドンに言い返した。

「、、そんな事ぐらい判ってるさ。科学院の長達も最近はいつもそんな話をしてる。でも僕は、この試合の成り立ち自体に疑問を感じてるんだ。だって聖剣って言うけど、あれは本当に聖剣なのかな?聖剣が起こした奇蹟の話なんて僕は一度も聞いたことがない。豪族達が有り難がって、アレを利用してるだけだ。、、僕が言いたいのは、そういう中身のない洞窟みたいな世界に、今回アンジェラが無鉄砲にも飛び込んでいったって事だよ。」

 莞爾がようやく口を開いた。

「ドナー、俺は二本の聖剣を授けられた。兄貴がもぎ取ったのを入れると暮神家には聖剣が三本ある。七本の内、三本だ。俺も兄貴も剣は親父に渡したから、試合以降は剣に触れていない。剣自体は屋敷に保管してあるが、誰もそれを見に行かないし、さわりもしない。おそらく他の聖剣保持の家も同じような状態だろう。つまり奇蹟を起こすにも起こしようがないんだよ。というより、誰も奇蹟なんて望んでいないんだ。お前の言うように、持っているだけで箔が付くからな。それ以上の事は必要ない。だが母星神から、あの剣を授けられた俺には、はっきり判る。あれは間違いなく聖剣だ。」

 そこで口をつぐんだ莞爾の後をアドンが引き取った。

「ドナー。次ぎにお前はこう言いたいんだろう?かりにも母星神が、剣に力を与えたと宣言したんだ。それを実際に使おうとしなくても、聖剣である事は間違いない。それは認める。そしてそれを持つことが、この国の覇権争いの力の源泉になるのも。今までじっとしていたリンカーン家は、今回、意を決したようにそれを取りに来た。それはこの世界の覇権に向けて前に一歩踏み出そうとした現れだ。、、だがアンジェラは、父親のそんな思惑とは関係のない所で動いてる。だから僕は彼女を心配してるんだ、お前らだって、一緒だろう?ってな。、、、僕だって、彼女が自分の父親に良くない感情を抱いてる事や、あのフォージャリーの存在が、アンジェラが暴発する色んなきっかけになってる事に気づいてるさ。だがなドナー。彼女は何時までも、俺達の御姫様じゃないんだぞ。」
 アドンが冷ややかに釘を刺した。

「、、分かったよアドン。でもあのフォージャーが勝つとは限らないだろ?お前達が心配じゃないなら、僕だけでも、アンジェラに話をしてみる。棄権は認められているんだ。今のままじゃ、アンジェラは、自らを政争の具にして下さいと、その身を差し出しているようなもんだ。豪族同志の戦いに巻き込まれて揉みくちゃにされるんだぞ。結果は目に見えてる。」

「残念だがドナー、もう手遅れだ。それに俺はこの試合、あのフォージャリーが勝つと思う。」
 莞爾が静かに言った。

「どうしてだよ?アドンがそう言うなら判るが、なんで莞爾がそんな事言うんだ。それに、ずっと試合を見てきたけど、フォージャーの方は辛勝だったじゃないか。全部、審判の判定で勝ってる。それに対して、張の剣士は誰の目にも明らかな圧勝の連続だぜ。こういうのが苦手な僕だってあの剣士が凄いのがわかる。それにフォージャーは元から人間に対して色々な縛りがある。」

「、、たしかにな。張は凄い人間を見つけ出してきたもんだと思う。剣の腕前で言えば、奴はユミル一かも知れない。俺がもしこの試合に出ていたら、奴と当たっても勝てる気がしない。だがな。」
 暮神はそこまで言って、ドナーへの説明をやり直す事にした。
 この幼なじみは、理詰めでないと、物事を納得しない事を良く知っているのだ。

「、、この試合は剣でやる。だからこそ、フォージャリーが出ても、フォージャリーが剣を使ってやる限りには常識外れであってもルール違反にはならない。その上、フォージャリーは人間に手出しが出来ないように躾けられてる。だから試合をやっても、相手が人間だと、判定か相手の降参でしか勝てない。相手を打ち負かし、地面に跪かせるなんて勝ち方は元から無理なんだ。つまりフォージャリーは、聖剣争奪戦に出るには常識外れだが、相手の人間にとっては限りなくフェアな剣士であるってことだ。こうやって試合を見てみると、実際そういう試合内容だったんだから何処からも文句は出てない。リンカーン家はその穴を狙った。なっ、実際、最初の頃は不平や文句を言ってた皆もフォージャリーが試合に出る事をもう認めてる。、、でも素手で人間とフォージャリーがやり合えるんなら、人間がフォージャリーに敵うわけがない。そこだよ、そういうギリギリの所で、あのフォージャリーが勝機を見いだしたら、この試合どうなると思う?」
「全ては母星神の御心のままに!ってやつだな…。だが忘れるなよ。聖剣の背後にいる母星神は、本当の母星神じゃない…。ただの母星文明記憶の代行者だ。」
    アドンが二人の会話をまとめる。

 これらの会話にドナーは、フォージャリーにつま先を喰い千切られたレナードの姿を思い出した。
 フォージャリーは人間を傷つけられない筈だが、そのルールをアンジェラは自分の命令と態度で覆してしまっている。
    それにアドンが言ったように、この星には本当の母星神など存在してはいないのだ。
     だから、聖剣争奪戦では何が起こってもおかしくはないと…。

    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日露戦争の真実

蔵屋
歴史・時代
 私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。 日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。  日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。  帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。  日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。 ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。  ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。  深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。  この物語の始まりです。 『神知りて 人の幸せ 祈るのみ 神の伝えし 愛善の道』 この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。 作家 蔵屋日唱

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

花鳥見聞録

木野もくば
ファンタジー
花の妖精のルイは、メジロのモクの背中に乗って旅をしています。ルイは記憶喪失でした。自分が花の妖精だったことしか思い出せません。失くした記憶を探すため、さまざまな世界を冒険します。 記憶を取り戻して真実を知った時、ルイとモクの選ぶ道は?

処理中です...