大阪ディープサウスまほろば食堂始末記 /黎明にカムイ先生奮闘す、trapちゃんがアシスト

二市アキラ(フタツシ アキラ)

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第4章 危険地帯

20: 凶悪とtrap

    神無月がまほろば食堂に足を踏み入れた途端、店内に微妙な雰囲気が流れたのが判った。
 その雰囲気の源は直ぐに判った。
 この剣呑さは、店の奥まった壁際のテーブル席に座っている二人の男が醸し出している。

 神無月は出来るだけ、そちらの方を見ないようにしてカウンター席に進んだが、そういった気配こそ、逆に相手を刺激するものだったのかも知れない。

 二人組の男の若い方、いかにもいった風な派手なスカジャンを羽織った男と目があった。
 神無月は、一目でこの男とは馬が合わないのが判った。
 相手がどういう社会的立場であるとかないとかの理屈ではないのだ、世の中には、そういう男が一人や二人は必ずいる。
 そしてそれは、相手にしてもそうなのだろう。

 相手の男は神無月より一つか二つ年下のようだったが、もちろん、対等に、いや呑んでかかって神無月を睨み付けていた。
 典型的なやくざの眼だった。


「おや、今夜は少し早いね。悪いな、今日もキョウの奴は、どっかへ飛んでいっちまったきりだ。」
「あっ別に、俺は親父さんの作ったもの喰いたいだけだから。」
 神無月は、なんだか見透かされたような気になってドギマギした。  

 別に男同士でも、年齢が離れていても、気に入った相手は出来るもので、例えば相手がこの親父の小学生の息子であっても自分に懐いていればその子の相手をしてやりたいと思う事は、不自然じゃないと、神無月は無理矢理自分を納得させる。
    『別に俺はキョウ君に特別な感情を抱いているわけじゃない。そんな訳ない』と。
 神無月はキョウに、幼い頃見た"ハズキ姉ちゃん"の姿を重ねていたはずだが、彼の常識が無理矢理その記憶を封印していたのだ。

「こんなしけた親父の作ったもんが、そんなに有り難いのか?半分は、できあいの冷凍もんだぜ。」
 先ほど目と目があった男が、いつの間にか神無月の側に来ていて、カウンターの奥に首を突っ込みながら親父に注文をかけた。
 まだ面と向かって、神無月に因縁をふっかけてくるつもりはないようだった。

「キチやん。半分冷凍モンとは聞き捨てならないな。ウチは4分の1くらいしか使ってないぜ。そこらのママさんたちの作るものより、ずっとましな筈だ。で、注文は決まったのかい?」
 親父がのんびりと言った。
 腹が据わっている。
 それに親父はどうもこの男とは知り合いのようだった。

「片桐さんは、オムライスだ。俺は唐揚げ定食。先にオムライスを作ってくれ。オムライスの方は手ぇ抜くんじゃねえぞ。それとビール、もう一本追加だ。」
「あんたら、随分話し込んでたみたいだが、アテの追加はいいのかい?こっちは、レンジでチンしてるわけじゃないから、ちょっと時間がかかるよ。」
「、、、そうだな。別のはいい。さっきのどて焼き、もう少し貰おうか。」
「あいよ。」

 親父が厨房に引っ込んだタイミングで、男はカウンター席に座る神無月の真横にどっかり座り込んだ。
 無言の威圧だった。
 親父がビールと、小口切りのネギを散らしたどて焼きをカウンターの上に置くと、男がそれを大きなアクションで受け取り、男の肘が神無月の腕に当たりそうになった。
 神無月は意識的にそれを避けなかった。
 接触までほんの数センチだけの空振りだった。
 男は黙ったまま、ビールとどて焼きの入った中皿を持っていった。

「すまないね、お客さん。今度は、俺が向こうに運ぶからさ」と親父が小さく言った。
 親父は、全て見ていたのだ。

「あー、俺もどて焼きもらおうかな、それとなんだか、うどんが食べたくなってきた。」
 それから後、神無月は食事中にも、自分の背中に突き刺さるような視線を何度か感じた。
 それはキチと呼ばれた男の、細い眉の下で鈍く光る白目がちの目から放たれるものだった。
 だが神無月は、意地でも件の男達より先に、店を出ることはしまいと思い始めていた。

    ・・・・・・・・・

 バイな恭司には朴 美有香というガールフレンドがいる。 
 美有香は同じ高校生の同級で、年齢は恭司よりひとつ年上だ。
 最近、彼女は自分のクラス内で、隠すような事じゃないからと、あっけからんに在日朝鮮人宣言をした。
 朴 美有香は性格がきつく、常に主導権を握らないと気がすまないタイプの女子でもある。
 それに年相応の恋愛感覚がない。
 在日を生きているから生活感覚がシビアなのだろうと恭司は思っている。

 朴 美有香には、お花畑的な要素はまったくない。
 恭司は基本的は性格がおっとりしているから、そんな美有香に、二人の付き合いをリードされても苦にはならなかった。
 それに美有香は恭司と一緒ではない時は、まったく彼のやる事に干渉しようとは思わないようだ。
 だから美有香は、恭司が時々、女装をするのを知っているが、その事については何も言わない。

 若い男にとって、いつでもスポーツ的なセックスをさせてくれる女性は有り難かった。
 彼女もそれを楽しんでいて、肉体関係を理由にネチネチと、あれやこれやと束縛しては来ない。
 だから美有香とのつきあいが続いているのかも知れない。

「いかへん、かったんやね?」 
 恭司が美有香の身体から離れると、美有香がいつになく不満げに言った。
 ここは恭司の部屋だ、というより父親が帰ってこないから、自分以外は誰もいない恭司の家といってよかった。 

「安全日なんやから、なかで出してもよかったのに」 
 恭司のペニスはもうすでに力を失っている。
 いつもなら元気に射精して終わるのに、今日はどういうわけかフィニッシュを迎えられなかった。
 自分はどちらかというと、ヘテロに近いバイセクシャルだと思っていたがそうではないようだった。 

「ストレスかなんかなん?キョウ君の場合、馬鹿だからガッコさぼってる訳じゃないもんね、意外とナイーブだし、ま、仕方ないか。」 
 美有香はそそくさと衣服を身につけはじめた。 
「ほんとは泊まっていきたいんやけど、用事があってアカへん、ゴメンね、」 
 美有香は恭司の口唇に軽くキスしてから、恭司の家から去っていった。 

 "……いかなかったけど、ほら、やっぱり女の子とセックスしたほうが気持ちいいじゃないか"と、恭司はベッドに仰向けに寝そべったまま、自分に言い聞かせた。 
 ……だが、美有香とのセックスが途中から、だんだんと気乗りしなくなってしまった理由は、恭司自身、よくわかっていた。 

 つい、あの夜の王との間に生まれた沸騰するような昂奮を思い出してしまう。
 あのとき、恭司のペニスは今までに経験したことがないほど硬く勃起していた。
 もうあと何回か、手指で擦りあげてやっていれば、恭司は自分自身でめくるめくような射精のエクスタシーに到達したはずだ。
 王と寝ている、、たったそれだけの事で、、。 

 ……知らず知らずのうちに、恭司は自分の下腹部に手を伸ばしてペニスを握りしめていた。
 萎えていたものが再び勃立してきていた。
 恭司はペニスから手を離し、鼻先に指を持ってきてその匂いを嗅いでみた。 
 女の子の匂いがする……、この匂いに興奮しなくなった自分はやっぱりノーマルな男じゃないんだ……美有香の女性器を思い浮かべてみたが、オスの本能が起動する気配はなかった。 

 再び、恭司は自分のペニスを握りしめた。 
 するとついつい王の事を考えてしまう。 
 「キョウのお尻は最高だ」と、王にほめてもらい、抱いて貰う。
 そう想像した。 
 ああっ! 
 その瞬間、あろうことか恭司は瞬く間に頂点に昇りつめ、射精してしまっていた。

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