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第2話
【 伝説のブロンズメダル 】
しおりを挟む重力制御ベルトが及ぼした乱調気味の感覚をなだめるのに忙しいロックロウ。
その隣のスツールに高価なスーツを着込んだ男がドスンと座った。
ただし、そのド派手な縦の幅広ストライプ柄は、普通の人間なら大方は選ばないだろうというデザインだった。
ロックロウのジーンズパンツと黒の半袖Tシャツ、上にボマージャケットを羽織っただけのスタイルとは対照的だ。
席は幾つも空いている。
ここは退役軍人達を主な顧客にした酒場件ダイニングだ。
"まだ俺の古びた英雄談を聞きたがる間抜けがいるのか?"と、ロックロウはその男の顔を見た。
豊かな黒髪に大きなウェーブがかかっている。
長い睫毛に肉感的な唇をしているが、それらは肉食獣属性のものだ。
「あんた、あの伝説のブロンズメダルの人かい?」
ロックロウの髪は金髪で突っ立っているが、頭の正中線上だけが何故か赤毛になっていて、鶏の鶏冠のように見える。
故にロックロウのエピソードと、彼の容姿を結び付けて考える者には、目の前の人物の正体を確定する事は容易い筈だ。
いくらロックロウが、人々から忘れさられつつある英雄であってでもだ。
「どうだろうな、、それを知りたきゃ、俺の襟首を捲ってみりゃいい。」
ボマージャケットの襟首はボアだから簡単には捲れない。
勿論、ロックロウにそんな事をさせるつもりはない。
軍にいる時は、ブロンズメダル保持者は、任務以外では襟後ろにそれ用の穴の開いた軍服を常に身に着け、メダルを明示するのが規則だったが、退役した今はそんなルールなどクソ喰らえだった。
メダルを見せるのも嫌だったし、見られるのも嫌だった。
襟首を捲くってみろとは、単純に男への挑発の台詞だった。
第一、襟首に隠れている首筋のコネクタの穴は、リトルジーニーの作ったベルト用のケーブルで塞がれていて、それを見たところでコネクタカバーシャッターの色がブロンズかどうかは判らない。
ちなみに人々がコネクタカバーシャッターの事を「メダル」と呼ぶのは、その形が円形である事もあるが、表面に刻み込まれた識別バーが古代コインの模様のように見えるからだ。
「さすがに、軍の元英雄は勇ましいな。」と男は余裕を見せて苦笑する。
分厚い唇の間から牙が見えそうだった。
この男にしても、それなりに荒事には自信があるのだろう。
男が身に着けている高級そうなスーツからでも、身体の肉の厚みが分かった。
沢山の指輪が嵌っている指も太く関節にタコがあった。
年齢はロックロウとそれ程離れていないようだ。
そんな二人の様子を暫く見ていたバーテンダーが、男の顔に何か気付いた様で、ロックロウへ首を振りながら、絡むのはもうやめておけという合図を送って来た。
バーテンダーも古参の軍隊上がりだった。
勿論、そこまでされればロックロウも馴染みの店で暴れるつもりはなかった。
「で、俺になんのようだ?」
「依頼だよ。あんた、始末屋やってるんだろう?」
確かにロックロウは始末屋をやっているが、収入源としては彼に対して特別に支払われている退役軍人年金が別にあるし、始末屋の方もそれ程ガツガツとした仕事ぶりではない。
仕事先の大口のクライアントは、件のジェシー・ルー・リノ将軍で、彼からまわってくる仕事も、暗黒街に潜り込んだ脱走兵の捜索といった軍絡みのものが多かった。
ロックロウは、一応、「犯罪」とは縁のないところにいたのだ。
「身なりを見てると、それなりの顔のようだが、おたくみたいなのに頼まれる仕事ってあるのかな?俺は只のしがない始末屋だぜ。」
「あんた、軍では極めて腕の良い狙撃手だったんだろう?」
ロックロウは視線を落とした先のグラスの中に、砂塵の中でもがく昆爬虫類達の断末魔の姿を見る。
鱗模様の甲冑で覆われた長い首を打ち振りながら地響きを立てて倒れ込む大型昆爬、まるで解けたゼンマイバネの様に、激しく身体を回転させて死んで行く痩せた鰐の様な中型の昆爬、、、。
その大小に関わらず、昆虫と大型爬虫類のハイブリッドの様な姿をした昆爬達が死ぬ時には、奇妙な鳴き声を上げる。
生物学者たちは、この昆爬と人間との関係をどう位置づけてよいのか未だに迷っているようだ。
かなり高度な知性を持っているから先住昆爬人と呼んでも構わない、いやその獰猛さは当に獣だから昆爬獣と割り切って処すべき、と様々だ。
しかし昆爬の死に際を知っている兵士達は、その死に畏怖心を抱いている。
あの死に直面した時の声は、当に巨大な魂を持つモノの悲鳴だ。
そしてその、胸がざわつく様な音色を思い出す。
……未だに何の気なしに現れる強烈な記憶と光景だ。
その存在を何十匹、俺のライフルで殺して来たか、、。
もしかしたら片腕老人の腕を食い千切ったフェアリーだって始末しているかも知れない。
「コロニーの中に住んでいて昆爬は関係ないだろ。奴らの侵攻もコロニー周辺の土地からは軍が押し返した。今更、俺になんだ?。」
「今度の相手は昆爬じゃない。同じ狙撃手だ。相手の名前はスネーク・クロス、あんたも知ってるんだろう?」
スネーク・クロス、両腕に、それぞれ蛇の入れ墨がある軍の伝説上のスパイナーだ。
ロックロウは、両腕を揃え合わせ拳を上に前に突き出し、その腕にある二匹の蛇が絡み合っている様を得意げに見せている若き日のスネーク・クロスのグラビア写真を思い出した。
彼も又、遠い日には一般大衆の英雄だったのだ。
第2期世代と呼ばれる兵士達にとって、スネーク・クロスは憧れの的で、ロックロウもその例外ではなかった。
スネーク・クロスが活躍したのは、まだ昆爬虫類への根本的な対抗策も発見されていない時期で、先住生物である昆爬虫類に対して信仰心のようなものを持つ人間達や小規模コロニーが沢山あった。
スパイナーの任務も、対昆爬虫類ではなく人間に対するものが多かった筈だ。
噂では、スネーク・クロスは、自主退役後、裏の仕事に転身したと言われている。
つまり暗殺専門のプロだ。
依頼されて狙った相手は絶対に仕留める凄腕。
そして対抗狙撃の為に放たれた人間が何人も殺されているという噂も聞く。
ちなみにスネーク・クロスは、メダル保持者ではない。
時期的には、彼も志願をすればコネクタを取り付ける事が可能性だった筈だから、それを望まなかった彼は自分の狙撃手としての腕に相当な誇りを抱いていたのだろう。
そしてロックロウの見聞によると、スネーククロスは、コネクタを付けた時のロックロウと互角か、あるいはそれ以上の能力を持っていたようである。
「、、対抗狙撃は難しい。一撃必殺、先手必勝の世界だからな。それにあんた、裏の世界では相当顔が利きそうな感じだ。その力を使って、先にスネーク・クロスとやらを取り押さえる方が利口じゃないのか?」
「そんな事は重々承知だ。それが判った上で、こうやって頭を下げに来てる。どうだ、俺の話を本気で聞いてくれるか?」
依頼を受ければ、それなりの金になるのだろう。
だが今は、それ程、金には困っていない。
報酬金意外に特異点テクノロジーのガラクタがオマケについてくれば話は別だが。
それに、受ける立場の対抗狙撃だ、どう考えても分が悪い。
仕事を上手くやりこなせる目処もつかない、こんな話に乗ってどうする。
そう思ったロックロウだったが、スネーク・クロスの名前が彼の心の中で妙に引っ掛かっていた。
「何もライフル同士で直接対決をしてくれって訳じゃない。あんたがやりやすい様にこっちも色々と段取りを組むつもりだ。なんと言えばいいかな…、まあある重要人物の身体警護の切り札的存在、いや、滑り止めみたいなもんかな…。」
男が少し首を傾げたせいで、彼の前髪がハラリと額に落ちた。
そこには街の女達が放っておかない色気があった。
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