5 / 48
第二章
#05 初体験・パイロキネシスとハイヒール
しおりを挟む
「初めての体験」って言葉を厳密に考えると、どれがソレに該当するのか難しい事柄もある。
自分では自覚していないけれど、実際にはそれが既に済んでしまっていたなんて事は、結構あるんじゃないかと思う。
ファーストキスはいつ?って聞かれても、キスって行為自体を厳密に決めて置かないと、小さい頃に、大好きなおじさんやおばさんにチュッとした事まで含めちゃうと何時がファーストなのか判らない。
自分史的には、それが「自覚を伴った」体験だったかどうか?が重要なのだと思う。
って事で今日は、僕が初めてハイヒールなるモノを履いた日の事を整理しておこうと思う。
多分、それは僕に取り憑いる曾祖母の千代さんの性向分析にも繋がる筈だ。多少こじつけもあるがハイヒールは「オーガズムシューズ」とも呼ばれている。
千代さんが布施巫女として生きていた時代には、ハイヒールなんてものは勿論なかったろうから、彼女がこう云うモノに興味をもつのは少し判る。
ただし母さんは、『アレ(千代)の歪な力の根源は霊性ではなく、強く抑圧された性欲だから気をつけなさい。』と言っていたが…。
今では所長のせいで、ハイヒールどころか、普通の女性なら一生足を通さないようなハイサイブーツだとか、ラバーブーツなんかも身につけるようになってしまったのだけど、初めてハイヒールに足を入れた時はさすがにドキドキした。
色は「この世にはこんな複雑な表情をした赤があるんや、、」と思わせる光沢のあるダークレッド。
そしてワイングラスの長いステムみたいなピンヒール。
足を飲み込む内側の皮の色は漆黒。
一目見ただけで相当高額な商品なのだろうという事が判った。
勿論、所長の自前じゃない。
趣味はマンウォッチングに民俗考古学、本物の変態、そして金は欲しいくせに、それを稼ぎ出す才能は全くない人なのだ。
「ヒアもそろそろヒールを履きこなさないと一人前とは言えないな。藤巻のを貸してやるから、一度履いてみろ。たしか足のサイズは一緒だったと思うぞ。」という流れだった。
所長が咥え込んでくる事案対象者は殆ど成人男性、あるいはその集団だ。
そして大分部の男達は、若くて可愛い女性に弱い。
で、女装した僕にお鉢が回って来る。
…なんでアンタが藤巻さんのヒールを持ってるんだ?おかしいだろ?とは聞けなかった。
折も折、僕の中の千代さんが、今の時代のヒール体験を望んでいたからだ。
この時点で、仕事上、少しヒール高のある女性用パンプスは経験済みだったけれど、基本的にボーイッシュな少女ぽいファッションがメインだったから、ハイヒールは未体験ゾーンで、履く必要性もなかったのだが、千代さんがそれを望むなら仕方なかった。
パンティストッキングを履いた足でヒールにつま先を潜り込ませて立ち上がると、足裏が「滑り台の上から滑り墜ちるような」感覚に見まわれ、立ち上がった瞬間に、頭の位置が後に高くなり背骨がズドンとした。
「これアカン!やばい!」と動悸が速まった。
僕は普段から、やや猫背気味だったから、ハイヒールの持つ姿勢矯正力(?)は強力だった違いない。
全身を映し出す姿見の中の自分を見て2度吃驚、スタイルが俄然優雅になっている。
一番際だって変わったのは、ふくらはぎの部分で、その形は自分で見てもほれぼれした。
でも、その喜びは束の間で、一旦、歩き始めると、折角手に入れた優雅なスタイルが台無しになるようなヨチヨチ歩きでしか前に進めない。
左右にゆれるヒップラインなんて夢の夢だ。
ようやく馴れて来た頃は、足の痛みと疲労がおそってくる。
よくもまあこんな代物を、女性は日常的に履きこなしているものだと、この時ばかりは、女性のすごさを思い知らされた。
現在の僕?
それなりに「ヒール付き」は、履きこなせるようにはなったけれど、普段履きはメンズが多い。それも緩めのモノだ。
あまり大きな声では言えないけれど、素足を使っての変態な出番もある仕事なので「綺麗な素足」も大事だからだ。
勿論、ちゃんと自分の足に合った品質の良いハイヒールを用意すれば、随分足へのダメージが減らせるのだけれど、お値段が相当するので、自分ではその為だけにヒールを何足も買いそろえるワケにはいかないのだ。
それに、当たり前だが、なによりもメンズの方が圧倒的に「楽」だ。
所で、こんな苦しいハイヒールを何故、我慢して履くのか?って事なんだけど、これは答えが決まっている。
…『履けば、魅力的になれるからだ。』…と千代さんは思っている。すべからくオシャレとは「我慢」であると。
確かに自己主張の強いファッションは、その殆どが「身体」に悪い(笑)。
仕事上、色仕掛の為にエナメルやPVC・ラバークロスの衣装も着用するけれど、全て身体に悪い。
ラバーなどは普通の衣服の持つ身体保護機能とは正反対の機能を持っている。
レザーだけが使い道を誤らなければ有用だけれど、僕が使う(正確には着させられる)モノは、極端に生地面積が広いか狭いかで、防寒や防傷の意味はほとんど無い。
ハイヒールの歴史からして、ハイヒールが現在の目的を確立して世に普及しだしたのは、当時のファンションリーダーでもあったフランスの太陽王ことルイ14世が、これを愛したからで、その王としての発信力が自分の背の低さをカバーしようという試みに、別の価値を付加したのだ。
千利休の目利きだけで、茶器の値段が跳ね上がる事と、千利休の感性の鋭さの相関みたいなものがここでも働いたのだろう。
あり得ない事だけど、もし時代がナポレオン(戦い)を必要とせず、後にそのまま展開していったならば、現代都市では男も女もハイヒールを履いて、その街並みを闊歩していたに違いない。
北の金○日・○恩がシークレットブーツの愛好者であり、同時にそれをはき続けた事による身体のダメージを背負ったと噂される事を考え合わせてみると、とても興味深い歴史の側面も見えて来る。
…勿論、所長も千代さんもそんな事など一切興味を持ってはいないが。
ああ、初体験と云えば、僕にはもう一つ整理しておかなければならない重要な体験がある。
それは僕が初めてパイロキネシス能力を生き物に対して発動させた記憶だ。
これは千代さんに取り憑かれるずっと前の出来事で、今僕が持っている布施巫女の力とは何の関係もない。
そして所長は自分の事を、僕のパイロキネシスを制御出来る唯一の人間だと思っているようだが、実はそれ、千代さんの奸計なのだ。
所長は千代さんにとって、己の欲望を満たす為の、とても利用しやすく便利な男だ。
なので千代さんは、自分が受肉した僕と所長を繋ぎ止めて置く為に、そんな"思い込み"の精神操作を所長に施していたのだ。
パイロキネシス能力の制御は僕自身が途方もない努力を重ねて獲得したものだ…。
僕は今でも、牙を剥きだしで僕に飛びかかって来た土佐犬の顔をハッキリと覚えている。
そしてその土佐犬が燃え上がって灰になって行く様を…。
あれは僕がまだ小学校低学年の頃だった。
僕がよく遊びに行く公園内の砂場は、公園のフェンス近くの切れ目、つまり生活道路側に配置されていた。
積み上げていた砂山からふと目を上げると巨大な土佐犬に引き摺られている中年男の姿が目に入った。
土佐犬は飼い主の制御をなんなく振り解き、口から泡を吹きながら僕に向かって突進してくる。
まさに狂犬、何が土佐犬にそうさせたか、原因なんか判りようがない。
本当に突然の出来事だった。
幼心にも、"殺される"と感じた。
そして僕の心の中にある"スィッチ"が入った。
それを押したのは"恐怖"だったのか?"怒り"だったのか?
とにかく次の瞬間、土佐犬は燃えていた。
いや自ら発火した様に見えた。
それが僕のパイロキネシス発動の初体験だ。
ただし自分史的に、それが「自覚を伴った」体験だったかどうかはわからない。
だが勿論、初体験だから"続き"は、ある…のだった。
自分では自覚していないけれど、実際にはそれが既に済んでしまっていたなんて事は、結構あるんじゃないかと思う。
ファーストキスはいつ?って聞かれても、キスって行為自体を厳密に決めて置かないと、小さい頃に、大好きなおじさんやおばさんにチュッとした事まで含めちゃうと何時がファーストなのか判らない。
自分史的には、それが「自覚を伴った」体験だったかどうか?が重要なのだと思う。
って事で今日は、僕が初めてハイヒールなるモノを履いた日の事を整理しておこうと思う。
多分、それは僕に取り憑いる曾祖母の千代さんの性向分析にも繋がる筈だ。多少こじつけもあるがハイヒールは「オーガズムシューズ」とも呼ばれている。
千代さんが布施巫女として生きていた時代には、ハイヒールなんてものは勿論なかったろうから、彼女がこう云うモノに興味をもつのは少し判る。
ただし母さんは、『アレ(千代)の歪な力の根源は霊性ではなく、強く抑圧された性欲だから気をつけなさい。』と言っていたが…。
今では所長のせいで、ハイヒールどころか、普通の女性なら一生足を通さないようなハイサイブーツだとか、ラバーブーツなんかも身につけるようになってしまったのだけど、初めてハイヒールに足を入れた時はさすがにドキドキした。
色は「この世にはこんな複雑な表情をした赤があるんや、、」と思わせる光沢のあるダークレッド。
そしてワイングラスの長いステムみたいなピンヒール。
足を飲み込む内側の皮の色は漆黒。
一目見ただけで相当高額な商品なのだろうという事が判った。
勿論、所長の自前じゃない。
趣味はマンウォッチングに民俗考古学、本物の変態、そして金は欲しいくせに、それを稼ぎ出す才能は全くない人なのだ。
「ヒアもそろそろヒールを履きこなさないと一人前とは言えないな。藤巻のを貸してやるから、一度履いてみろ。たしか足のサイズは一緒だったと思うぞ。」という流れだった。
所長が咥え込んでくる事案対象者は殆ど成人男性、あるいはその集団だ。
そして大分部の男達は、若くて可愛い女性に弱い。
で、女装した僕にお鉢が回って来る。
…なんでアンタが藤巻さんのヒールを持ってるんだ?おかしいだろ?とは聞けなかった。
折も折、僕の中の千代さんが、今の時代のヒール体験を望んでいたからだ。
この時点で、仕事上、少しヒール高のある女性用パンプスは経験済みだったけれど、基本的にボーイッシュな少女ぽいファッションがメインだったから、ハイヒールは未体験ゾーンで、履く必要性もなかったのだが、千代さんがそれを望むなら仕方なかった。
パンティストッキングを履いた足でヒールにつま先を潜り込ませて立ち上がると、足裏が「滑り台の上から滑り墜ちるような」感覚に見まわれ、立ち上がった瞬間に、頭の位置が後に高くなり背骨がズドンとした。
「これアカン!やばい!」と動悸が速まった。
僕は普段から、やや猫背気味だったから、ハイヒールの持つ姿勢矯正力(?)は強力だった違いない。
全身を映し出す姿見の中の自分を見て2度吃驚、スタイルが俄然優雅になっている。
一番際だって変わったのは、ふくらはぎの部分で、その形は自分で見てもほれぼれした。
でも、その喜びは束の間で、一旦、歩き始めると、折角手に入れた優雅なスタイルが台無しになるようなヨチヨチ歩きでしか前に進めない。
左右にゆれるヒップラインなんて夢の夢だ。
ようやく馴れて来た頃は、足の痛みと疲労がおそってくる。
よくもまあこんな代物を、女性は日常的に履きこなしているものだと、この時ばかりは、女性のすごさを思い知らされた。
現在の僕?
それなりに「ヒール付き」は、履きこなせるようにはなったけれど、普段履きはメンズが多い。それも緩めのモノだ。
あまり大きな声では言えないけれど、素足を使っての変態な出番もある仕事なので「綺麗な素足」も大事だからだ。
勿論、ちゃんと自分の足に合った品質の良いハイヒールを用意すれば、随分足へのダメージが減らせるのだけれど、お値段が相当するので、自分ではその為だけにヒールを何足も買いそろえるワケにはいかないのだ。
それに、当たり前だが、なによりもメンズの方が圧倒的に「楽」だ。
所で、こんな苦しいハイヒールを何故、我慢して履くのか?って事なんだけど、これは答えが決まっている。
…『履けば、魅力的になれるからだ。』…と千代さんは思っている。すべからくオシャレとは「我慢」であると。
確かに自己主張の強いファッションは、その殆どが「身体」に悪い(笑)。
仕事上、色仕掛の為にエナメルやPVC・ラバークロスの衣装も着用するけれど、全て身体に悪い。
ラバーなどは普通の衣服の持つ身体保護機能とは正反対の機能を持っている。
レザーだけが使い道を誤らなければ有用だけれど、僕が使う(正確には着させられる)モノは、極端に生地面積が広いか狭いかで、防寒や防傷の意味はほとんど無い。
ハイヒールの歴史からして、ハイヒールが現在の目的を確立して世に普及しだしたのは、当時のファンションリーダーでもあったフランスの太陽王ことルイ14世が、これを愛したからで、その王としての発信力が自分の背の低さをカバーしようという試みに、別の価値を付加したのだ。
千利休の目利きだけで、茶器の値段が跳ね上がる事と、千利休の感性の鋭さの相関みたいなものがここでも働いたのだろう。
あり得ない事だけど、もし時代がナポレオン(戦い)を必要とせず、後にそのまま展開していったならば、現代都市では男も女もハイヒールを履いて、その街並みを闊歩していたに違いない。
北の金○日・○恩がシークレットブーツの愛好者であり、同時にそれをはき続けた事による身体のダメージを背負ったと噂される事を考え合わせてみると、とても興味深い歴史の側面も見えて来る。
…勿論、所長も千代さんもそんな事など一切興味を持ってはいないが。
ああ、初体験と云えば、僕にはもう一つ整理しておかなければならない重要な体験がある。
それは僕が初めてパイロキネシス能力を生き物に対して発動させた記憶だ。
これは千代さんに取り憑かれるずっと前の出来事で、今僕が持っている布施巫女の力とは何の関係もない。
そして所長は自分の事を、僕のパイロキネシスを制御出来る唯一の人間だと思っているようだが、実はそれ、千代さんの奸計なのだ。
所長は千代さんにとって、己の欲望を満たす為の、とても利用しやすく便利な男だ。
なので千代さんは、自分が受肉した僕と所長を繋ぎ止めて置く為に、そんな"思い込み"の精神操作を所長に施していたのだ。
パイロキネシス能力の制御は僕自身が途方もない努力を重ねて獲得したものだ…。
僕は今でも、牙を剥きだしで僕に飛びかかって来た土佐犬の顔をハッキリと覚えている。
そしてその土佐犬が燃え上がって灰になって行く様を…。
あれは僕がまだ小学校低学年の頃だった。
僕がよく遊びに行く公園内の砂場は、公園のフェンス近くの切れ目、つまり生活道路側に配置されていた。
積み上げていた砂山からふと目を上げると巨大な土佐犬に引き摺られている中年男の姿が目に入った。
土佐犬は飼い主の制御をなんなく振り解き、口から泡を吹きながら僕に向かって突進してくる。
まさに狂犬、何が土佐犬にそうさせたか、原因なんか判りようがない。
本当に突然の出来事だった。
幼心にも、"殺される"と感じた。
そして僕の心の中にある"スィッチ"が入った。
それを押したのは"恐怖"だったのか?"怒り"だったのか?
とにかく次の瞬間、土佐犬は燃えていた。
いや自ら発火した様に見えた。
それが僕のパイロキネシス発動の初体験だ。
ただし自分史的に、それが「自覚を伴った」体験だったかどうかはわからない。
だが勿論、初体験だから"続き"は、ある…のだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる