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第六章
『男達の世界』 #21 海の見える街へ
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珍しいことにカーラジオからジェームス・ブラウンの『マンズ・マンズ・ワールド』が流れ出した。
1960年代の楽曲だ。原題は It's A Man's Man's Man's World。直に和訳すれば『男達の世界』だ。
内容はタイトルに反して意外に現代的である。
要するに「何のかんのいっても男は女からしか生まれない。その程度の存在だ。なのに男は女を泣かせる馬鹿ばかりをやらかして、そして結局最後には途方にくれるのさ」だ。
もちろんずっと昔の歌だから、そんな内容であっても男優位のセンチメンタリズムが抜けきらない。
だが俺は結構、こうものに反応する。バラードでさえも1拍目"On the One"に意識を置く曲に。
ウィスキーをショットグラスで一気に飲み干して胃から駆け上がる熱い酔いに自分を浸したい…みたいな…。
俺は助手席に座っているヒアの表情をチラリと盗み見る。
まるで今やった悪さが、母親か姉貴にバレないかどうかを確認するみたいに…。
ところであと一週間ほどで由岐神社の「鞍馬の火祭」だ。見たかった。
あれもまあいって見れば"男"の祭りだ。
神社から男達の神輿が勇ましく下る。参道が急なため、スピードが出過ぎないように「綱方」と呼ばれる女性達が綱を牽くのだ。
だが今、俺は神戸にいる。
俺は出来ることなら、ホームグランドである京都の新森欄を離れたくはなかった。
その理由の第一は、海が嫌いだからだ。
映画なんかに登場する人間達は、よく海に向かって旅をするようだが、俺にはその神経が判らない。
海は広過ぎ、そして何もない、俺が海から与えられるのものは「不安」だけだった。
それなのに、俺は海が近い神戸にやって来てしまった。
魔界都市京都などと、マスコミがブームに乗せて作り上げた京都の虚像はお笑い草だが、風水で京都が守られているのは本当だ。
何から守られているかって?
、、、それは「虚無」からだ、、「虚無」は恐ろしい。
みんなが恐れる死だって、虚無の別の顔にすぎないのだ。
第二の理由、今度の仕事は、龍さんの口利きだから、断りようがなかった。
いや別に、辰巳組の龍さんでなくとも、どの道、筋者繋がりの仕事なら断りようがなかったのだが、、。
俺はあちこちに、ロクでもない借りがある。
「ねぇ、後で海、見に行こうよ。こっからすぐだよ。」
ホテルのカウンターでチェックインしている俺の背後でヒアが甘えた声を出した。
俺達を見る受付の男の顔が一瞬、好奇と侮蔑で歪んだように見えた。
今日のヒアは、外見だけなら男と女のぎりぎりの境目という所だったが、こんな喋り方をしたら、誰が見ても立派な若いオカマだ。
というか、そういう自分をヒアは人前で演じてみせて、俺を困らせ喜んでいるのだ。
俺は受付の男から、ひったくるように部屋の鍵を2本受け取ると、ヒアをロビーに申し訳程度に設えてあるソファに座らせた。
貧乏探偵は、リッチなホテルには泊まれない。
俺はそのソファの端に腰を乗せた。
「いいか、俺の方は遊びじゃないんだ。今回は何のお楽しみもない…。俺はこれから直ぐに仕事だ。先方が、ここに俺を迎えにくる事になってる。鍵をやる。今日一日、俺が帰って来るまで、好きにしてればいい。多分、晩飯は一緒に食えるだろう、神戸牛がいいな。駄目なら、こちらからスマホに連絡する。間違っても、」
「間違っても、お前からは掛けてくるな。だろう。」
「ああ、よく判ってるじゃないか。俺はほとんどマナーモードにしないからな。俺に掛かってくるのは緊急ばっかだし、」
嘘だ、マナーモードにしないのは癖だし、掛かってくるのは、貸した金を返せが多い。
だがヤクザとの面談中に、着信音やブルブルが芳しくないのは本当だ。
もちろん電話に出るために、ヤクザものとの話を中断するなんて、あり得ない。
・・・いや、正直に言おう。
俺が出先で、ヒアからの電話を拒むのは、出先でヒアに対して最近目覚め始めた恋愛中毒症状が再発するからだ。
依頼なんか放り投げて、直ぐにでもヒアのもとにすっ飛んで帰りたくなる。
「やくざがらみじゃね。商談や交渉中に相手の気分を損ねると、いろいろと面倒だしね。」
「やくざって、、、、、何故、知ってる?」
ヒアには、今回の用向きを喋っていない。
仕事のついでに、神戸に行かないかと誘っただけだ。
「所長が僕の機嫌を取る時は、大体何か思惑がある時だからね。何時もなら、アレしろコレしろ準備しろだろ?」
「それなら今だって、仕事先にお前を連れていく筈だろう?」
「どうだか、、。それに、なんで部屋を二つもとったんだい。お金がもったいないじゃんか。」
確かに余計な出費だったが、ヒアと同じ部屋に寝泊まりする事を考えると安いものだった。
それにホテルといっても、ここはビジネスホテルに毛の生えたような安っぽい観光ホテルに過ぎない。
今回の依頼がどれぐらいでカタが付くのか、正直判らなかったが、悪くしても宿泊費ぐらいの金は依頼者から回収出来る筈だった。
だが、それでも本当の所、俺がわざわざ2部屋とった理由は説明できていない。
ヒアにも、そして俺自身にもだ。
ヒアと俺はなんといっても男同士であり、しかも貧乏所帯の探偵事務所の所長とバイトの関係なのだ。
一般的には相部屋で安くあげる方がずっと自然な筈だ。
俺が即答を避ける為に、電子煙草を胸ポケットから出そうとした時、ヒアの細長くて華奢な手が、二人の前にあるテーブルに置かれた二本のルームキィを浚っていった。
絶妙のタイミングだった。
まるで長く連れ添った夫婦のような、、。
「おい。なにするんだ。もう一本は俺のだ。」
「所長、そんな情けない声を出してると、ホラ、相手の人に見くびられるよ。」
ヒアが形のいい顎を挙げて、俺の肩越しに見える「待ち人」を示した。
俺はその方向にゆっくりと振り返った。
俺の方に一直線に向かってくる男は、典型的な"ヤクザ服"をまったく身につけていなかった。
かといってサラリーマン風でもない。
男が醸し出すものに一番近い職業は、ファッションモデルだった。
ぎりぎりビジネスでも使えるような渋めのデザイナーズスーツを見事に着こなしている。
腕には一目でわかる高級時計が巻かれている。
ヤクザ丸出しの男が現れなかった事に、少し安心すると同時に緊張もした。
俺の経験上、スマートなやくざほど扱いにくいものは、なかったからだ。
「轟さんで、いらっしゃいますか?」
男は俺とヒアとの痴態とも映りかねるムードを無視して、慇懃無礼を形にしたような声で尋ねてきた。
俺は男の高さに合わせるつもりで、ソファから立ち上がった。
目の高さを相手に合わせてこそ、対等の会話が出来るというものだ。
だが相手は、俺より頭一つ背が高かった。
そのくせ、頭は小さく肩幅が広い。
俺だって、この世代の男にしてはまんざらでもないスタイルをしてると自惚れていたが、この相手は次元が違う。
そして極端に整った顔立ち、男はその顔立ちのお陰で、俺なんかには体験できない日常生活の極端な収支決算を日々強いられているに違いなかった。
それが男女関係なら、こいつは俺と違って黒字に決まっている。
だがそれは、この男にとっては大して面白くもない日常だろう。
危ない男とは、そんなものだ。
それに比べて、俺の顔程度では失う物も得る物もない。
だから求める。
そしてたまには、面白いことに突き当たる。
・・・この男はモテすぎるということだ。
もっともヒアに言わせると、「男」が好きになる男には、二通りあって、その内の一つに俺は分類されるんだそうだ。
確かに思い当たる節があって、俺は何度か「男」に言い寄られたことがある。
ちなみにヒアは、その二通りともオーケーなようで、普段のヒアを見ていると、時々この手の男をボーっと見つめて入る時があった。
「あんたみたいなファッションモデルの知り合いは、いないんだがな、、。」
「失礼しました。私は益増組会長の代理のもので廻戸(メグリド)と申します。会長が、今回あなた専用に付けた人間です。」
俺は、ちらりとソファに座ったままのヒアに視線を走らせた。
ヒアは好奇心一杯の顔で、廻戸と俺の顔を交互に見ている。
そこに俺が一瞬想像し期待したような、ヒアの廻戸に対する嫉妬の芽生えの感情は微塵もない。
自分の恋のライバルになりそうな男の登場に気を揉むヒアの姿が一瞬で瓦解した。
・・そうだった、俺という人間は、ヒアから見れば、難攻不落のノンケで間違っても男同士の愛などを感じ取れない男の筈だった。
、、と、するなら、ハンサム過ぎるこの男の登場で心を乱したのは俺自身という事になる。
俺は心の奥深い所で、この男にヒアを奪われるのではないかと一瞬考えてしまったのだろうか?
馬鹿な、、。俺はそこまで。
何はともあれ、今の俺には全てを忘れて没頭する仕事が必要なのかも知れない。
暇は妄想を生む。
「、、、時間通りにここに来た。しかもドンピシャリだ。あんた、ファッションで付けた高級アナログ腕時計の時刻を、デジタル時報で合わせるタイプだよな。、、いやそこは仕事柄、目を瞑って高級電波時計か。それが、あんたの主義なんだろう?さっそく会長に会いに行こうじゃないか。余計な社交辞令で時間を潰すつもりは俺にもない。」
俺の観察眼を強調するつもりだったが、我ながら挨拶代わりの下らないご託を述べた。
俺はいつもこうだ、、。
そんな俺を無視して、廻戸がちらりとヒアの方を見た。
俺は、その時のヒアが、どんな顔をするのか見たくなかったので、出口に向かって一歩を踏み出した。
ちょうどその時、新しい客がやって来て、ホテルのスライドドアが開いた。
そこからは、車の排気ガスと潮の香りが入り交じった微かな匂いが微風とともに吹き込んで来た。
それは京都にはない「匂い」だった。
………………………………………………………………………………………………………?
廻戸が壁際に直立不動の姿勢で立っている。
部屋の中にいたその他の組員達が人払いで退室させられたことを考えると、この男、よほど会長に信用があるのだろう。
「尚澄(ナオズミ)、あれをこの探偵さんに見せてやってくれ。」
赤い袈裟を着せれば、太った達磨にしか見えない益増会長が、分厚い唇だけを動かして廻戸に指示を出した。
これだけ太ってしまえば、ちょっと動くのも大儀だろう。
とにかくこれで、廻戸(メグリド)の下の名が尚澄だという事が判った。
それと、その尚澄という呼びかけ方が、妙に生暖かかったのが気になった。
ややあって廻戸が戻ってきて、古びた大学ノートを四冊、俺と会長の間にある応接テーブルの上に扇状に並べた。
腕を伸ばした廻戸のスーツの袖が上がり、代わりに白いドレスシャツの袖口が見えた。
この野郎、高級そうなカフスをしてやがる。
俺のカフスボタンなんて、何処へいっちまったままだ。
そう思った時に、会長の声がした。
「どれか一冊、読んでみたまえ。」
俺は右端に置かれたノートを手に取った。
几帳面で気が回る廻戸の事だ。
きっと書かれた時期の古い順番にノートを並べて置いてある筈だった。
ノートを開いた途端、俺は悪い予感を感じた。
まるでタイプで打ったような、細かで正確無比な文字が、びっしりとノートに埋まっていた。
きっとプリンターでプリントアウトしたものの方が人間味があるに違いない。
それにパソコンなんかを使わないのは、いざという時に燃やせるからだろう。
こいつは神経を病んでいる頭の良い人間の書いたものだ。
俺には匂いで判った。
内容を読み進めていく内に動悸が激しくなった。
化学の専門用語が山のように出てきて内容は皆目、分からなかったが、「書いてある事」は直ぐに読みとれた。
世の中には簡単な言葉で、深い内容を相手に伝える事の出来る賢人がいるが、どんなに複雑に言葉の意匠を懲らしても、その人間の下劣な品性が透けてしまう書き手もいるものだ。
一言で言えば、それは「破壊と苦痛を喜ぶ凶人の書」だった。
俺は途中で読むのを放棄して、ノートをテーブルの上に置いた。
依頼概要を先に聞いておくべきだと判断したのだ。
益増会長の依頼が、このノートと関係があるなら、早い目に依頼のアウトラインを聞いておくべきだ。
もちろん、それは断りの理由を探す為だ。
やりかたによっては、相手に協力をするふりをして、やんわりと依頼に断りを入れられる可能性だってある。
他に適切な専門家を紹介してやるとか、、、まあそれは、微々たる可能性だが。
どちらにしてもこの場で、ノートを読み進めば進むほど、深入りをしてしまうのは確かだった。
後戻りするなら、今が残されたぎりぎりのチャンスだろう。
「どうしたね。その一冊の半分も読んどらんだろう。儂ならかまわんよ。いつまでも待っておる。」
「用件を先におっしゃってもらえませんか?もし会長の用向きが、このノートと関係があるなら、正直言って私はこれ以上深入りしたくない。」
誰が、ナチの変態科学者にかぶれた凶人と関わりたいなどと思うものか、、。
俺は確かに萬請け負いオカルト探偵と呼ばれるが、人間の皮膚で造ったランプシェードや、脂肪で造った石鹸に興味はない。
いやそれどころか、俺から言わせれば、オカルトとは人の生や死に必要以上の意味や意義を見いだす行為とその産物であって、人の皮膚を動物の毛皮のように扱って平気でおられる現実主義とはまったく異なるものだ。
「、、多くはいわんでいい。それにあんたは、仕事を選べる立場にはない。あんたが、誰と口をきいているかを思い出せば済むことだ。」
その口調には、己の権勢を侮った相手への怒りさえもなかった。
この老人の力は、あまりにも絶対的だったのだ。
「そのノートに書かれてある事は、本当に実現可能かね?」
益増組は地方の一ヤクザではない。
西日本を代表する程の勢力を持った組織で、国政にも裏で関与する事があると言われている。
そして当然、俺は益増に意見を述べられる立場にはなかった。
俺は一瞬でも後戻り出来ると考えた己の未熟さを恥じた。
「俺は専門家じゃないですから断言は出来ませんがね、、金と設備と技術があれば、充分可能なのではありませんか。発想やこれに近い行為は、ナチが既にやっていて、科学技術の方もあれから数段進んでいますからね。要は道徳観の問題だ。」
益増会長の瞼が閉じられ、懊悩の表情を浮かべた。
強い眼光にシャッターを下ろしたその顔は、年相応の老人のものになっていた。
「聞き方が悪かった。儂がいいたいのは、こんな事をする人間が、あり得るのかという事だ。あんた、この手の事件を沢山手がけてきたのだろう?その経験に照らし合わせて、聞いておるのだ。」
「この手の事件」か、、俺は、いよいよ逃げられない事を覚悟した。
思えば神戸にヒアを伴ったのも、この予感が働いたからなのかも知れない。
俺一人では手に負えない、倒錯した欲望がとぐろを巻く猟奇な事件、、。
俺は今までヒアに、彼の機転と、口に出すのは恥ずかしいが彼の「勇気」と「能力」によって何度も助けられて来たのだ。
ヒアは、俺の事を無責任な男で、何でも厄介ごとを自分に押しつけてくる奴だと思っているようだがそれは違う。
俺は無責任なのではなく、本当に「弱い」人間なのだ。
「、、ありえるでしょうね。外から見ると、とんでもなく猟奇的に見えるが、本人はしごく当たり前のようにこれらのことをやってのける筈だ。特別な事ではありませんよ。戦時中などでは、いくらでも常軌を逸した人間に対する残虐行為が普通に行われて来た。戦時下では愛国心や正義の名の下にそれらが当たり前になりますからね。人の価値観とは、その程度のものだ。特に、このノートを書いた人間なら、実行に至るまでの障害は、金銭面などの物理的なものだけの筈だ。」
「、、その書き手は儂の孫だ。金の面倒は儂が見てやった、、。」
会見が終わった後、俺は図書館に立ち寄り、益増組会長の孫「零」が、あの忌むべき妄執に取り付かれ始めた時期から現在までの、若い女性の失踪や死亡事件を検索してみた。
(零と書いてレイと読む。ゼロと読まさないのは、まだましだった。益増零。エキマスゼロ、どんな神経の持ち主が、そんなふざけた名を付けたのだろうか。命名者といえば、通常は父親だろうが、我が子への配慮が足りないのか、それとも何かへの当てつけだったのだろうか、、。)
絞り込みの条件として、近畿一円に地域を限定した。
気が遠くなるようなヒット数になると予想していたが、それ程でもなかった。
晩飯を約束したヒアの待つホテルに帰るまでの残った時間を潰せば、何とかなる量だ。
第一、この作業を通じて、零の犯して来た犯罪を、ほじくり返そうというわけではないのだ。
それは警察の仕事だった。
しかし俺は、この洗い出しを続けながら、自分は探偵として何か大切な忘れ物をしているのではないかという気持ちに取り憑かれ始めていた。
そう、俺は昔から、新たな依頼を受ける度に、「何かの重大な調査依頼を既に受けているのにそれを忘れ去っている」という、探偵としてはあるまじき強い妄想を抱いて生きて来たのだ。
その強迫観念は、俺の意識の奥底で「若い女性のレイプ事件」の形を取って具現化していた、、。
被害者は、年の頃ならヒアと同学年だった筈だ。
その依頼者は、彼女の父親で確か、、駄目だ、思い出せない。
その毎度お馴染みの強迫観念に、付きまとわれ始め俺は妙に落ち着きのない気分になっていた。
それはもしかすると、俺がどうしても「思い出せない依頼」に登場するレイプ犯が、この「零」ではないかという妙な気持ちから来るものだった。もちろん時制的に考えて、そんな筈はなかった。
1960年代の楽曲だ。原題は It's A Man's Man's Man's World。直に和訳すれば『男達の世界』だ。
内容はタイトルに反して意外に現代的である。
要するに「何のかんのいっても男は女からしか生まれない。その程度の存在だ。なのに男は女を泣かせる馬鹿ばかりをやらかして、そして結局最後には途方にくれるのさ」だ。
もちろんずっと昔の歌だから、そんな内容であっても男優位のセンチメンタリズムが抜けきらない。
だが俺は結構、こうものに反応する。バラードでさえも1拍目"On the One"に意識を置く曲に。
ウィスキーをショットグラスで一気に飲み干して胃から駆け上がる熱い酔いに自分を浸したい…みたいな…。
俺は助手席に座っているヒアの表情をチラリと盗み見る。
まるで今やった悪さが、母親か姉貴にバレないかどうかを確認するみたいに…。
ところであと一週間ほどで由岐神社の「鞍馬の火祭」だ。見たかった。
あれもまあいって見れば"男"の祭りだ。
神社から男達の神輿が勇ましく下る。参道が急なため、スピードが出過ぎないように「綱方」と呼ばれる女性達が綱を牽くのだ。
だが今、俺は神戸にいる。
俺は出来ることなら、ホームグランドである京都の新森欄を離れたくはなかった。
その理由の第一は、海が嫌いだからだ。
映画なんかに登場する人間達は、よく海に向かって旅をするようだが、俺にはその神経が判らない。
海は広過ぎ、そして何もない、俺が海から与えられるのものは「不安」だけだった。
それなのに、俺は海が近い神戸にやって来てしまった。
魔界都市京都などと、マスコミがブームに乗せて作り上げた京都の虚像はお笑い草だが、風水で京都が守られているのは本当だ。
何から守られているかって?
、、、それは「虚無」からだ、、「虚無」は恐ろしい。
みんなが恐れる死だって、虚無の別の顔にすぎないのだ。
第二の理由、今度の仕事は、龍さんの口利きだから、断りようがなかった。
いや別に、辰巳組の龍さんでなくとも、どの道、筋者繋がりの仕事なら断りようがなかったのだが、、。
俺はあちこちに、ロクでもない借りがある。
「ねぇ、後で海、見に行こうよ。こっからすぐだよ。」
ホテルのカウンターでチェックインしている俺の背後でヒアが甘えた声を出した。
俺達を見る受付の男の顔が一瞬、好奇と侮蔑で歪んだように見えた。
今日のヒアは、外見だけなら男と女のぎりぎりの境目という所だったが、こんな喋り方をしたら、誰が見ても立派な若いオカマだ。
というか、そういう自分をヒアは人前で演じてみせて、俺を困らせ喜んでいるのだ。
俺は受付の男から、ひったくるように部屋の鍵を2本受け取ると、ヒアをロビーに申し訳程度に設えてあるソファに座らせた。
貧乏探偵は、リッチなホテルには泊まれない。
俺はそのソファの端に腰を乗せた。
「いいか、俺の方は遊びじゃないんだ。今回は何のお楽しみもない…。俺はこれから直ぐに仕事だ。先方が、ここに俺を迎えにくる事になってる。鍵をやる。今日一日、俺が帰って来るまで、好きにしてればいい。多分、晩飯は一緒に食えるだろう、神戸牛がいいな。駄目なら、こちらからスマホに連絡する。間違っても、」
「間違っても、お前からは掛けてくるな。だろう。」
「ああ、よく判ってるじゃないか。俺はほとんどマナーモードにしないからな。俺に掛かってくるのは緊急ばっかだし、」
嘘だ、マナーモードにしないのは癖だし、掛かってくるのは、貸した金を返せが多い。
だがヤクザとの面談中に、着信音やブルブルが芳しくないのは本当だ。
もちろん電話に出るために、ヤクザものとの話を中断するなんて、あり得ない。
・・・いや、正直に言おう。
俺が出先で、ヒアからの電話を拒むのは、出先でヒアに対して最近目覚め始めた恋愛中毒症状が再発するからだ。
依頼なんか放り投げて、直ぐにでもヒアのもとにすっ飛んで帰りたくなる。
「やくざがらみじゃね。商談や交渉中に相手の気分を損ねると、いろいろと面倒だしね。」
「やくざって、、、、、何故、知ってる?」
ヒアには、今回の用向きを喋っていない。
仕事のついでに、神戸に行かないかと誘っただけだ。
「所長が僕の機嫌を取る時は、大体何か思惑がある時だからね。何時もなら、アレしろコレしろ準備しろだろ?」
「それなら今だって、仕事先にお前を連れていく筈だろう?」
「どうだか、、。それに、なんで部屋を二つもとったんだい。お金がもったいないじゃんか。」
確かに余計な出費だったが、ヒアと同じ部屋に寝泊まりする事を考えると安いものだった。
それにホテルといっても、ここはビジネスホテルに毛の生えたような安っぽい観光ホテルに過ぎない。
今回の依頼がどれぐらいでカタが付くのか、正直判らなかったが、悪くしても宿泊費ぐらいの金は依頼者から回収出来る筈だった。
だが、それでも本当の所、俺がわざわざ2部屋とった理由は説明できていない。
ヒアにも、そして俺自身にもだ。
ヒアと俺はなんといっても男同士であり、しかも貧乏所帯の探偵事務所の所長とバイトの関係なのだ。
一般的には相部屋で安くあげる方がずっと自然な筈だ。
俺が即答を避ける為に、電子煙草を胸ポケットから出そうとした時、ヒアの細長くて華奢な手が、二人の前にあるテーブルに置かれた二本のルームキィを浚っていった。
絶妙のタイミングだった。
まるで長く連れ添った夫婦のような、、。
「おい。なにするんだ。もう一本は俺のだ。」
「所長、そんな情けない声を出してると、ホラ、相手の人に見くびられるよ。」
ヒアが形のいい顎を挙げて、俺の肩越しに見える「待ち人」を示した。
俺はその方向にゆっくりと振り返った。
俺の方に一直線に向かってくる男は、典型的な"ヤクザ服"をまったく身につけていなかった。
かといってサラリーマン風でもない。
男が醸し出すものに一番近い職業は、ファッションモデルだった。
ぎりぎりビジネスでも使えるような渋めのデザイナーズスーツを見事に着こなしている。
腕には一目でわかる高級時計が巻かれている。
ヤクザ丸出しの男が現れなかった事に、少し安心すると同時に緊張もした。
俺の経験上、スマートなやくざほど扱いにくいものは、なかったからだ。
「轟さんで、いらっしゃいますか?」
男は俺とヒアとの痴態とも映りかねるムードを無視して、慇懃無礼を形にしたような声で尋ねてきた。
俺は男の高さに合わせるつもりで、ソファから立ち上がった。
目の高さを相手に合わせてこそ、対等の会話が出来るというものだ。
だが相手は、俺より頭一つ背が高かった。
そのくせ、頭は小さく肩幅が広い。
俺だって、この世代の男にしてはまんざらでもないスタイルをしてると自惚れていたが、この相手は次元が違う。
そして極端に整った顔立ち、男はその顔立ちのお陰で、俺なんかには体験できない日常生活の極端な収支決算を日々強いられているに違いなかった。
それが男女関係なら、こいつは俺と違って黒字に決まっている。
だがそれは、この男にとっては大して面白くもない日常だろう。
危ない男とは、そんなものだ。
それに比べて、俺の顔程度では失う物も得る物もない。
だから求める。
そしてたまには、面白いことに突き当たる。
・・・この男はモテすぎるということだ。
もっともヒアに言わせると、「男」が好きになる男には、二通りあって、その内の一つに俺は分類されるんだそうだ。
確かに思い当たる節があって、俺は何度か「男」に言い寄られたことがある。
ちなみにヒアは、その二通りともオーケーなようで、普段のヒアを見ていると、時々この手の男をボーっと見つめて入る時があった。
「あんたみたいなファッションモデルの知り合いは、いないんだがな、、。」
「失礼しました。私は益増組会長の代理のもので廻戸(メグリド)と申します。会長が、今回あなた専用に付けた人間です。」
俺は、ちらりとソファに座ったままのヒアに視線を走らせた。
ヒアは好奇心一杯の顔で、廻戸と俺の顔を交互に見ている。
そこに俺が一瞬想像し期待したような、ヒアの廻戸に対する嫉妬の芽生えの感情は微塵もない。
自分の恋のライバルになりそうな男の登場に気を揉むヒアの姿が一瞬で瓦解した。
・・そうだった、俺という人間は、ヒアから見れば、難攻不落のノンケで間違っても男同士の愛などを感じ取れない男の筈だった。
、、と、するなら、ハンサム過ぎるこの男の登場で心を乱したのは俺自身という事になる。
俺は心の奥深い所で、この男にヒアを奪われるのではないかと一瞬考えてしまったのだろうか?
馬鹿な、、。俺はそこまで。
何はともあれ、今の俺には全てを忘れて没頭する仕事が必要なのかも知れない。
暇は妄想を生む。
「、、、時間通りにここに来た。しかもドンピシャリだ。あんた、ファッションで付けた高級アナログ腕時計の時刻を、デジタル時報で合わせるタイプだよな。、、いやそこは仕事柄、目を瞑って高級電波時計か。それが、あんたの主義なんだろう?さっそく会長に会いに行こうじゃないか。余計な社交辞令で時間を潰すつもりは俺にもない。」
俺の観察眼を強調するつもりだったが、我ながら挨拶代わりの下らないご託を述べた。
俺はいつもこうだ、、。
そんな俺を無視して、廻戸がちらりとヒアの方を見た。
俺は、その時のヒアが、どんな顔をするのか見たくなかったので、出口に向かって一歩を踏み出した。
ちょうどその時、新しい客がやって来て、ホテルのスライドドアが開いた。
そこからは、車の排気ガスと潮の香りが入り交じった微かな匂いが微風とともに吹き込んで来た。
それは京都にはない「匂い」だった。
………………………………………………………………………………………………………?
廻戸が壁際に直立不動の姿勢で立っている。
部屋の中にいたその他の組員達が人払いで退室させられたことを考えると、この男、よほど会長に信用があるのだろう。
「尚澄(ナオズミ)、あれをこの探偵さんに見せてやってくれ。」
赤い袈裟を着せれば、太った達磨にしか見えない益増会長が、分厚い唇だけを動かして廻戸に指示を出した。
これだけ太ってしまえば、ちょっと動くのも大儀だろう。
とにかくこれで、廻戸(メグリド)の下の名が尚澄だという事が判った。
それと、その尚澄という呼びかけ方が、妙に生暖かかったのが気になった。
ややあって廻戸が戻ってきて、古びた大学ノートを四冊、俺と会長の間にある応接テーブルの上に扇状に並べた。
腕を伸ばした廻戸のスーツの袖が上がり、代わりに白いドレスシャツの袖口が見えた。
この野郎、高級そうなカフスをしてやがる。
俺のカフスボタンなんて、何処へいっちまったままだ。
そう思った時に、会長の声がした。
「どれか一冊、読んでみたまえ。」
俺は右端に置かれたノートを手に取った。
几帳面で気が回る廻戸の事だ。
きっと書かれた時期の古い順番にノートを並べて置いてある筈だった。
ノートを開いた途端、俺は悪い予感を感じた。
まるでタイプで打ったような、細かで正確無比な文字が、びっしりとノートに埋まっていた。
きっとプリンターでプリントアウトしたものの方が人間味があるに違いない。
それにパソコンなんかを使わないのは、いざという時に燃やせるからだろう。
こいつは神経を病んでいる頭の良い人間の書いたものだ。
俺には匂いで判った。
内容を読み進めていく内に動悸が激しくなった。
化学の専門用語が山のように出てきて内容は皆目、分からなかったが、「書いてある事」は直ぐに読みとれた。
世の中には簡単な言葉で、深い内容を相手に伝える事の出来る賢人がいるが、どんなに複雑に言葉の意匠を懲らしても、その人間の下劣な品性が透けてしまう書き手もいるものだ。
一言で言えば、それは「破壊と苦痛を喜ぶ凶人の書」だった。
俺は途中で読むのを放棄して、ノートをテーブルの上に置いた。
依頼概要を先に聞いておくべきだと判断したのだ。
益増会長の依頼が、このノートと関係があるなら、早い目に依頼のアウトラインを聞いておくべきだ。
もちろん、それは断りの理由を探す為だ。
やりかたによっては、相手に協力をするふりをして、やんわりと依頼に断りを入れられる可能性だってある。
他に適切な専門家を紹介してやるとか、、、まあそれは、微々たる可能性だが。
どちらにしてもこの場で、ノートを読み進めば進むほど、深入りをしてしまうのは確かだった。
後戻りするなら、今が残されたぎりぎりのチャンスだろう。
「どうしたね。その一冊の半分も読んどらんだろう。儂ならかまわんよ。いつまでも待っておる。」
「用件を先におっしゃってもらえませんか?もし会長の用向きが、このノートと関係があるなら、正直言って私はこれ以上深入りしたくない。」
誰が、ナチの変態科学者にかぶれた凶人と関わりたいなどと思うものか、、。
俺は確かに萬請け負いオカルト探偵と呼ばれるが、人間の皮膚で造ったランプシェードや、脂肪で造った石鹸に興味はない。
いやそれどころか、俺から言わせれば、オカルトとは人の生や死に必要以上の意味や意義を見いだす行為とその産物であって、人の皮膚を動物の毛皮のように扱って平気でおられる現実主義とはまったく異なるものだ。
「、、多くはいわんでいい。それにあんたは、仕事を選べる立場にはない。あんたが、誰と口をきいているかを思い出せば済むことだ。」
その口調には、己の権勢を侮った相手への怒りさえもなかった。
この老人の力は、あまりにも絶対的だったのだ。
「そのノートに書かれてある事は、本当に実現可能かね?」
益増組は地方の一ヤクザではない。
西日本を代表する程の勢力を持った組織で、国政にも裏で関与する事があると言われている。
そして当然、俺は益増に意見を述べられる立場にはなかった。
俺は一瞬でも後戻り出来ると考えた己の未熟さを恥じた。
「俺は専門家じゃないですから断言は出来ませんがね、、金と設備と技術があれば、充分可能なのではありませんか。発想やこれに近い行為は、ナチが既にやっていて、科学技術の方もあれから数段進んでいますからね。要は道徳観の問題だ。」
益増会長の瞼が閉じられ、懊悩の表情を浮かべた。
強い眼光にシャッターを下ろしたその顔は、年相応の老人のものになっていた。
「聞き方が悪かった。儂がいいたいのは、こんな事をする人間が、あり得るのかという事だ。あんた、この手の事件を沢山手がけてきたのだろう?その経験に照らし合わせて、聞いておるのだ。」
「この手の事件」か、、俺は、いよいよ逃げられない事を覚悟した。
思えば神戸にヒアを伴ったのも、この予感が働いたからなのかも知れない。
俺一人では手に負えない、倒錯した欲望がとぐろを巻く猟奇な事件、、。
俺は今までヒアに、彼の機転と、口に出すのは恥ずかしいが彼の「勇気」と「能力」によって何度も助けられて来たのだ。
ヒアは、俺の事を無責任な男で、何でも厄介ごとを自分に押しつけてくる奴だと思っているようだがそれは違う。
俺は無責任なのではなく、本当に「弱い」人間なのだ。
「、、ありえるでしょうね。外から見ると、とんでもなく猟奇的に見えるが、本人はしごく当たり前のようにこれらのことをやってのける筈だ。特別な事ではありませんよ。戦時中などでは、いくらでも常軌を逸した人間に対する残虐行為が普通に行われて来た。戦時下では愛国心や正義の名の下にそれらが当たり前になりますからね。人の価値観とは、その程度のものだ。特に、このノートを書いた人間なら、実行に至るまでの障害は、金銭面などの物理的なものだけの筈だ。」
「、、その書き手は儂の孫だ。金の面倒は儂が見てやった、、。」
会見が終わった後、俺は図書館に立ち寄り、益増組会長の孫「零」が、あの忌むべき妄執に取り付かれ始めた時期から現在までの、若い女性の失踪や死亡事件を検索してみた。
(零と書いてレイと読む。ゼロと読まさないのは、まだましだった。益増零。エキマスゼロ、どんな神経の持ち主が、そんなふざけた名を付けたのだろうか。命名者といえば、通常は父親だろうが、我が子への配慮が足りないのか、それとも何かへの当てつけだったのだろうか、、。)
絞り込みの条件として、近畿一円に地域を限定した。
気が遠くなるようなヒット数になると予想していたが、それ程でもなかった。
晩飯を約束したヒアの待つホテルに帰るまでの残った時間を潰せば、何とかなる量だ。
第一、この作業を通じて、零の犯して来た犯罪を、ほじくり返そうというわけではないのだ。
それは警察の仕事だった。
しかし俺は、この洗い出しを続けながら、自分は探偵として何か大切な忘れ物をしているのではないかという気持ちに取り憑かれ始めていた。
そう、俺は昔から、新たな依頼を受ける度に、「何かの重大な調査依頼を既に受けているのにそれを忘れ去っている」という、探偵としてはあるまじき強い妄想を抱いて生きて来たのだ。
その強迫観念は、俺の意識の奥底で「若い女性のレイプ事件」の形を取って具現化していた、、。
被害者は、年の頃ならヒアと同学年だった筈だ。
その依頼者は、彼女の父親で確か、、駄目だ、思い出せない。
その毎度お馴染みの強迫観念に、付きまとわれ始め俺は妙に落ち着きのない気分になっていた。
それはもしかすると、俺がどうしても「思い出せない依頼」に登場するレイプ犯が、この「零」ではないかという妙な気持ちから来るものだった。もちろん時制的に考えて、そんな筈はなかった。
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