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第1章
空蝉編 1-1 「ケルベロスの首輪」 1: 鏡の中の顔
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その部屋は余り広くなく、舞台裏の楽屋のような印象ある部屋だった。
壁には大きな鏡が備えつけらえてあって、その鏡の前にたくさんの化粧品が並んでいる。
スツールの後方には、色とりどりのドレスがハンガーに掛けられている。
湛(しずか)は、狭い部屋に充満している香水と化粧品の濃厚な匂いに圧倒されていた。
その匂いは、馴染みの匂いだった。
だが、湛(しずか)が普段、女装している時に感じる香臭とはどこか異質だった。
女装者の体臭や、汗や垢臭といったものが染み込んでいて、ある種の糜爛が感じ取れたのだ。
もちろんそれは、湛にとって決して不快な匂いではなかった。
身体の芯がモヤモヤと煮立ってくるような刺激があったのだ。
「まずは、お化粧しましょうか。そんな野暮ったいジーンズとかは脱いでしまいなさい」
湛は、男の時の普段着を着たままだった。
夕貴さんが言う「野暮ったい」という感覚は湛(しずか)にもよくわかる。
今でこそ、ジーンズは曲線を魅せる為のスキニーやストレッチがあるが、当時は良くてスリム、しかも湛の場合はワザと男ぽく見せるためのストレートを履いていて、湛はその事に息苦しさや圧迫感を覚えていた。
もっと言うならそれは『自分は、なんでこんな格好をしてるの?』という苛立つような違和感だった。
デニムの上衣を脱いで幅広の革のベルトを緩めていると、夕貴さんがすぐそばまで近づいてきて、湛の顎のあたりを撫でた。
「朝、剃ったの?」
「はい」
「しずかちゃんはヒゲが凄く薄いわね。それでも男だから、生えてくるものはしようがないし」
夕貴は女性用の剃刀を湛に手渡して来て 「そこのドアを開けたら洗面所があるから剃ってらっしゃい」 と言った。
湛は言われたとおりに、鏡を見ながら自分の産毛みたいなヒゲを剃った。
そして夕貴さんの指示で、湛は上半身裸になり鏡の前のスツールに座った。
ヘアバンドで湛の髪を上げてから、夕貴さんはメイクにとりかかる。
湛は、父方の曽祖父が○○○○○○○人で、母方の曾祖母が□□□□人だった。
「ハーフ」という呼び方が片親が外国人を指し、「クォーター」が祖父母だとすると、 湛の場合は曽祖父母が外国人なので「ワンエイス」という事になる。
その顔は、周囲の人間いわく 「濃い」「顔の凹凸がはっきりしている」らしいが、実際の鼻は高くも低くもなくという感じだった。
だからメイクを工夫して上手くすると、外国人ぽく見える。
だがスッピンだと、個性に乏しい中途半端な美青年という風情だ。
目は、びっしりまつげが生えているせいもあってか確かに濃い印象を与える。
口は、大きく唇も薄くはない。そして元々色が赤っぽい。
顔は小さく、あごも華奢。
この顔で、ボーイの時は損をして、ガールの時はちょっと有利だった。
普段の性格は、自由奔放で楽天的な自分を演じていた。
写真での話だが、湛はよく「君は、ひいばあちゃんに似てるね」と言われる。
しかし曽祖父母の遺伝子設計図が、湛に遺伝してるかどうかは謎である。
湛自身は、その曾祖父母に会った事もない…家庭の事情があったのである。
自分の顔が見知らぬ美しい女の貌につくり変えられてゆくのを眺めていると、湛は浮き浮きして来た。
自分でやるのとは別の楽しさがあったし、何より夕貴さんは、メイクがずば抜けて上手かったのだ。
湛(しずか)は、自分を此処に連れて来た館岡という人物のことを良く知らないし、この女装美女が集まる怪しげな酒場も未知の世界なので、緊張と不安に押しつぶされそうになっているのだが、同時に気分が弾んでいたのも事実だった。
鏡のなかの顔が、くっきりと陰翳を持ってくる。
もともと目鼻立ちはしっかりしているので、化粧映えして美人顔になるのは何時もの事だった。
それでも出来上がりは、いつもとはレベルが違った。
完全に、ヨーロッパ人とのハーフに見える。
「さすがに館岡さんが見つけてきただけのことはあるわ。しずかちゃん、美人になったわねえ」
夕貴さんはお世辞ではなく、本気で言っているようすだった。
続いて、湛はトランクスを脱がされた。
今さら恥ずかしがっても仕方がないので、湛はペニスを手で隠して素っ裸になった。
壁には大きな鏡が備えつけらえてあって、その鏡の前にたくさんの化粧品が並んでいる。
スツールの後方には、色とりどりのドレスがハンガーに掛けられている。
湛(しずか)は、狭い部屋に充満している香水と化粧品の濃厚な匂いに圧倒されていた。
その匂いは、馴染みの匂いだった。
だが、湛(しずか)が普段、女装している時に感じる香臭とはどこか異質だった。
女装者の体臭や、汗や垢臭といったものが染み込んでいて、ある種の糜爛が感じ取れたのだ。
もちろんそれは、湛にとって決して不快な匂いではなかった。
身体の芯がモヤモヤと煮立ってくるような刺激があったのだ。
「まずは、お化粧しましょうか。そんな野暮ったいジーンズとかは脱いでしまいなさい」
湛は、男の時の普段着を着たままだった。
夕貴さんが言う「野暮ったい」という感覚は湛(しずか)にもよくわかる。
今でこそ、ジーンズは曲線を魅せる為のスキニーやストレッチがあるが、当時は良くてスリム、しかも湛の場合はワザと男ぽく見せるためのストレートを履いていて、湛はその事に息苦しさや圧迫感を覚えていた。
もっと言うならそれは『自分は、なんでこんな格好をしてるの?』という苛立つような違和感だった。
デニムの上衣を脱いで幅広の革のベルトを緩めていると、夕貴さんがすぐそばまで近づいてきて、湛の顎のあたりを撫でた。
「朝、剃ったの?」
「はい」
「しずかちゃんはヒゲが凄く薄いわね。それでも男だから、生えてくるものはしようがないし」
夕貴は女性用の剃刀を湛に手渡して来て 「そこのドアを開けたら洗面所があるから剃ってらっしゃい」 と言った。
湛は言われたとおりに、鏡を見ながら自分の産毛みたいなヒゲを剃った。
そして夕貴さんの指示で、湛は上半身裸になり鏡の前のスツールに座った。
ヘアバンドで湛の髪を上げてから、夕貴さんはメイクにとりかかる。
湛は、父方の曽祖父が○○○○○○○人で、母方の曾祖母が□□□□人だった。
「ハーフ」という呼び方が片親が外国人を指し、「クォーター」が祖父母だとすると、 湛の場合は曽祖父母が外国人なので「ワンエイス」という事になる。
その顔は、周囲の人間いわく 「濃い」「顔の凹凸がはっきりしている」らしいが、実際の鼻は高くも低くもなくという感じだった。
だからメイクを工夫して上手くすると、外国人ぽく見える。
だがスッピンだと、個性に乏しい中途半端な美青年という風情だ。
目は、びっしりまつげが生えているせいもあってか確かに濃い印象を与える。
口は、大きく唇も薄くはない。そして元々色が赤っぽい。
顔は小さく、あごも華奢。
この顔で、ボーイの時は損をして、ガールの時はちょっと有利だった。
普段の性格は、自由奔放で楽天的な自分を演じていた。
写真での話だが、湛はよく「君は、ひいばあちゃんに似てるね」と言われる。
しかし曽祖父母の遺伝子設計図が、湛に遺伝してるかどうかは謎である。
湛自身は、その曾祖父母に会った事もない…家庭の事情があったのである。
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