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64 悪魔の囁き
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侯爵様のお屋敷に着くとセルジオさんが僕に駆け寄って来た。
「どうされたんです!? ずぶ濡れじゃないですか!」
側仕えが僕にタオルを持って来て、『失礼します』と頭を拭いた。
されるがままになっていると侯爵様が現れた。
「……ルイス」
「侯爵様!」
「話は後でだ。先に風呂に入れ、風邪を引く」
僕は側仕えに風呂に案内された。
脱衣所に連れて行かれると、濡れた服は洗濯すると言われて、代わりに着替えを置くからと言われた。
濡れた服を脱いで一人風呂に入っていると、湯船が広くて落ち着かなかった。
いつもは侯爵様と二人でこのお風呂に入ってたからだ。
『話は後で』と言われた。ちゃんと話してくれる。
でも、叔父さんの言ったことが全部本当だったら? 僕はどうすればいい?
いや、まだ話されたわけじゃないんだ、本人から話を聞くまで疑っちゃだめだ。
僕はお風呂で体を温めてまどろんだ。
着替えは、リネン生地のワンピースの寝巻きだった。ガウンは襟に綿が入ってもふっとしていてあったかい。
それを着て談話室に行った。
そこにはもう侯爵様が暖炉前の長椅子に座っていた。僕と同様にワンピースの寝巻きと少し厚手の濃紺のビロードのガウンを羽織っている。
「そこに座ってくれ」
テーブルの向かい側の長椅子を勧められた。僕はそこに座って、じっと侯爵様の言葉を待った。
「ベルンは君の所に逃げたんだろう? あいつから話を……全て聞いてしまったからここへ来たんだよな?」
侯爵様は酷く苦い表情でそれを言った。
「……聞きました。全て。でも、それが本当に真実なのか、僕には分からない。叔父さんの話だけ聞いてそれが全てだとは思いたくない。フォルカー、貴方の話も聞きたい」
「……何から話せばいい?」
「最初から」
「……私と君の叔父が知り合ったのは、彼がよく神殿に来るようになったからだ。まぁ、彼ははっきり言って良い人間では無い。神殿に来たのも、最初は金を持ってる老貴族夫人を騙すためだった。彼はギャンブルに嵌っていて始終お金が無かったからね、そうやって獲物を探しに神殿に来ていたんだが、彼の性格が歪んだ理由の一つはお兄さんにあった」
「……父上に?」
「元からの彼の性格もあるんだが、お兄さんの出来が良すぎて小さい頃から比べられて育ったんだよ、彼は。そのせいか、自己肯定感が低く、自信が無いくせに自分を大きく見せようと必死だった。私は彼が可哀想に見えて暫く話を聞いてやったりしていた。そんな時だった、君とお父上が神殿に来たのは」
僕は覚えてないけど、その時に侯爵様は僕を見初めたらしい。
「オレット子爵の事は知っていた。だけど、ベルンと兄弟だとは思わなかった。私は独り言で言ったんだ。『あの子が可愛い、あの子が欲しい、自分の物にしたい』とね。そして奴は私の言った言葉を本気にしてしまった。2000万もの借金をしていたハノーバー伯爵を殺し、借用書を君の父上に書き換え借金を踏み倒した」
「……ハノーバー伯爵を殺したあと、侯爵様の所へ報告に行ったと聞きました」
侯爵様は動揺していた。そして諦めたようにフッと笑った。
「あの日の夜、奴は興奮した様子で私の為にハノーバー伯爵を殺したと言ってきた。誰もそんな事を頼んじゃいないのにだ。もちろん、すぐに自首するように言ったら……私の耳元で奴は囁いた。『これで兄貴が貴族落ちになれば、ルイスは侯爵様がどうにでも出来ますよ』と。それは私にとって悪魔の囁きだった。黙っていれば君が私の物になるんだから」
「……そんな……っ!」
「私は何もかも知っていたのに、それを番所にも告げず、君を自分の物にする為にただ、黙って口を噤んでいた。神殿に仕える身でありながら、己の欲の為に罪を犯した。聖職者だなどと間違っても言えない。……自分に呆れるばかりだ」
「ダイアナさんを殺させるために……諜報の者に僕が調べてる事を話させたの?」
「それは誤解だ。私は諜報の者には君の監視だけ頼むと言っていた。しかし、諜報の者であるフィル=フィッシャーは私に傾倒している。もしかして、私がそう望んでいると思ってベルンに言ったのかも知れない」
「そうなんだ……」
「……私が憎いか? 君の人生を壊したのは……私だ」
「それは……」
「どうされたんです!? ずぶ濡れじゃないですか!」
側仕えが僕にタオルを持って来て、『失礼します』と頭を拭いた。
されるがままになっていると侯爵様が現れた。
「……ルイス」
「侯爵様!」
「話は後でだ。先に風呂に入れ、風邪を引く」
僕は側仕えに風呂に案内された。
脱衣所に連れて行かれると、濡れた服は洗濯すると言われて、代わりに着替えを置くからと言われた。
濡れた服を脱いで一人風呂に入っていると、湯船が広くて落ち着かなかった。
いつもは侯爵様と二人でこのお風呂に入ってたからだ。
『話は後で』と言われた。ちゃんと話してくれる。
でも、叔父さんの言ったことが全部本当だったら? 僕はどうすればいい?
いや、まだ話されたわけじゃないんだ、本人から話を聞くまで疑っちゃだめだ。
僕はお風呂で体を温めてまどろんだ。
着替えは、リネン生地のワンピースの寝巻きだった。ガウンは襟に綿が入ってもふっとしていてあったかい。
それを着て談話室に行った。
そこにはもう侯爵様が暖炉前の長椅子に座っていた。僕と同様にワンピースの寝巻きと少し厚手の濃紺のビロードのガウンを羽織っている。
「そこに座ってくれ」
テーブルの向かい側の長椅子を勧められた。僕はそこに座って、じっと侯爵様の言葉を待った。
「ベルンは君の所に逃げたんだろう? あいつから話を……全て聞いてしまったからここへ来たんだよな?」
侯爵様は酷く苦い表情でそれを言った。
「……聞きました。全て。でも、それが本当に真実なのか、僕には分からない。叔父さんの話だけ聞いてそれが全てだとは思いたくない。フォルカー、貴方の話も聞きたい」
「……何から話せばいい?」
「最初から」
「……私と君の叔父が知り合ったのは、彼がよく神殿に来るようになったからだ。まぁ、彼ははっきり言って良い人間では無い。神殿に来たのも、最初は金を持ってる老貴族夫人を騙すためだった。彼はギャンブルに嵌っていて始終お金が無かったからね、そうやって獲物を探しに神殿に来ていたんだが、彼の性格が歪んだ理由の一つはお兄さんにあった」
「……父上に?」
「元からの彼の性格もあるんだが、お兄さんの出来が良すぎて小さい頃から比べられて育ったんだよ、彼は。そのせいか、自己肯定感が低く、自信が無いくせに自分を大きく見せようと必死だった。私は彼が可哀想に見えて暫く話を聞いてやったりしていた。そんな時だった、君とお父上が神殿に来たのは」
僕は覚えてないけど、その時に侯爵様は僕を見初めたらしい。
「オレット子爵の事は知っていた。だけど、ベルンと兄弟だとは思わなかった。私は独り言で言ったんだ。『あの子が可愛い、あの子が欲しい、自分の物にしたい』とね。そして奴は私の言った言葉を本気にしてしまった。2000万もの借金をしていたハノーバー伯爵を殺し、借用書を君の父上に書き換え借金を踏み倒した」
「……ハノーバー伯爵を殺したあと、侯爵様の所へ報告に行ったと聞きました」
侯爵様は動揺していた。そして諦めたようにフッと笑った。
「あの日の夜、奴は興奮した様子で私の為にハノーバー伯爵を殺したと言ってきた。誰もそんな事を頼んじゃいないのにだ。もちろん、すぐに自首するように言ったら……私の耳元で奴は囁いた。『これで兄貴が貴族落ちになれば、ルイスは侯爵様がどうにでも出来ますよ』と。それは私にとって悪魔の囁きだった。黙っていれば君が私の物になるんだから」
「……そんな……っ!」
「私は何もかも知っていたのに、それを番所にも告げず、君を自分の物にする為にただ、黙って口を噤んでいた。神殿に仕える身でありながら、己の欲の為に罪を犯した。聖職者だなどと間違っても言えない。……自分に呆れるばかりだ」
「ダイアナさんを殺させるために……諜報の者に僕が調べてる事を話させたの?」
「それは誤解だ。私は諜報の者には君の監視だけ頼むと言っていた。しかし、諜報の者であるフィル=フィッシャーは私に傾倒している。もしかして、私がそう望んでいると思ってベルンに言ったのかも知れない」
「そうなんだ……」
「……私が憎いか? 君の人生を壊したのは……私だ」
「それは……」
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