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17 二人で出張

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 北の領地に来て約二週間程のことだった。もくの日の夜、タウンハウスのお屋敷からエドに通信が入った。
何でも創造神であるアズライル様が降臨するので、至急手伝いに来るようにとの事だった。創造神であるアズライル様は、アルフォード公爵様の婚約者であるアリア様のお父上だ。

 そう、私が仕える旦那様の婚約者は人では無い。『女神』だ。
それはアルフォード公爵家に仕える者全員が知っているが、お父上であるアズライル様を皆現実で見た事は無かった。
知っているのは神殿で飾られている、筋肉質の老齢の男性像のみだ。

 急な事だったので、風竜では間に合わないという事で、旦那様がゲートを開いて私とエドを迎えに来た。
タウンハウスのお屋敷にエドと一緒に行くと、皆が忙しく立ち働いていた。
久しぶりのお屋敷に懐かしく感じてしまった。

「あっ、オーティス君! 久しぶり!」
「リリーさん! お久しぶりです!」
「オーティス君、あの時何も持たずに出て行ったでしょ? あの時、あなたのお部屋にあった荷物、全てまとめて今日泊まる寮のお部屋に移動しておきました」
「それは凄く助かります、ありがとうございます!」
「でも、寮は個室しか無いから、エドアルドさんと部屋が別ですけどね」
「全然構いませんよ」

 私がにっこり言うと、エドは細い目で私を見下ろした。

「ふふっ、エドアルドさんは離れたくないみたいですね!」

 リリーはさんは笑って仕事に戻って行った。
早速客室係として、お客様が泊まられる部屋をチェックする。掃除は入念で綺麗だった。ただ、長く使われてないせいかリネン一式が少し埃っぽくてカビ臭い気がしたので、全部一式新しい物に取り替えさせた。花が無いのも寂しく感じ、全部の部屋に花を飾らせた。絨毯じゅうたんにシミがある部屋もあったので、綺麗な物と取替え、汚れていた絨毯は業者に洗濯するよう言い、持って行って貰った。暖炉の上に置いてある銀の燭台しょくだいも曇りがあるのが気になった。あとで磨いて置こう。
一通りチェックが終わるとセバスさんが来た。

「ああ、やっぱりオーティスがやる方が早いですね。君は細かいことにも気がつくし、仕事が繊細せんさいだ。ローレンスはやることやることが雑で困る」
「私も最初はそうでしたよ、セバスさん」
「う~ん、君は素直ですからね。ちゃんと言えば響く。ローレンスは少し注意するとねてしまってね」
「セバス、うちの嫁を口説くな!」

 いきなり腕を引っ張られて何事かと思ったらエドだった。

「仕事中に何言ってんですか、あんたはっ!?」
「ティスは私の嫁だからな」

 と言ってぎゅうぎゅうと抱きついて来る。セバスさんはその姿に呆れている。

「はいはい。真面目な話をしたいんだがいいか?」
「どうぞ」

 エドは存在を無視されて、私とセバスさんで話が進む。

「では分担の話から。部屋係だが、エドアルドの担当はアズライル様だ。私はアズライル様の義兄様を担当する。で、オーティスが大天使様の担当です」
「ローレンスに担当させないのですか?」
「彼はフットマンですし、経験が少ないですから。何か失礼な事があったら屋敷ごと滅ぼされるかも知れない恐れもありますし、担当させない方が無難でしょう」
「承知しました」

 エドが私にまだ引っ付いてると、セバスさんが耳を引っ張って連れて行った。

「エドアルド、貴方にはまだ料理のメニューや材料の調達を手伝って貰いたいんですけどねぇ? そんな色ボケしてる場合じゃないんですよ? 分かってますか?」
「分かった、分かったから耳を引っ張るな!」

 ぷっ。
思わず笑ってしまった。
何でだろう? 凄く幸せに感じた。



 アズライル神様降臨当日、姫様がお屋敷に帰ってきてすぐセバスさんに飛びついた。その後、アズライル様、アズライル様の義兄様、大天使様がいらっしゃった。
なまの神など初めてみる私は驚いた。光っていてお顔が見えない。見えるのは大天使様だけだった。頭に輪が付いていた。神殿に描かれている大天使の絵画と同じで、本当に神も大天使もこの世に存在するんだなと驚嘆した。



 何事も恙無つつがなく過ごしていたが数日経った頃、問題が起きた。
旦那様が事件を解決した際に、保護することになった被害者少女達の居場所が無かった。孤児院は空いてる部屋が無く、他にどうする事も出来なくなって、旦那様は急遽きゅきょ南の領地の城を開放することにした。
その管理運営に私達が抜擢され、南の城である『グレーロック城』へ行くことになった。急な事件であったので旦那様がゲートを開いて、私達だけでなく他の関係者の方達も城に連れて行った。

 その日の夜の事だった。
旦那様が急遽城にいらした。何やら苛立った様子でいた。
エドに旦那様を部屋に案内するように言われて、鍵を持って旦那様と部屋に行った。
何だか元気が無かったので失礼かな? とは思いつつも聞いてしまった。

「旦那様、急にこちらにいらっしゃるなんて、姫様と何かあったんですか?」

 旦那様はまじまじと私の顔を見て、申し訳なさそうな顔をした。

「……旦那様?」
「いや、すまなかったな、オーティス」
「えっ?」
「屋敷に居た頃、お前によくあたった」
「あ、仕方ありません、旦那様は姫様をとても大切に思ってらっしゃいましたから。まぁ、姫様は私のことを兄の様に慕っていただけですが」

 旦那様がムッとした。
あっ! これでは『旦那様は幼女趣味だから』と言ってるのと同じかも知れないと気付き、訂正した。

「あっ、ち、違いますよ? 旦那様のことを変な意味で言ったわけでは……。姫様は子供で、近くに家族の一人もいませんから、寂しくて私の様な者を兄の様に思ったんです、決して私に下心はございませんし、姫様も同じだと思います!」
「……恋人がいても、家族がいないという寂しさは消えないのか?」
「それは当たり前だと思います。恋人と家族は違いますから。特に姫様は、まだ子供ですから……」

 私は一礼して食堂に戻った。エドがいて、旦那様の様子を聞かれた。

「姫様と何かあったっぽいですよ? 何かあったとしても、旦那様は大人なんだから折れてあげればいいのに」

 と私が言うと、エドはフッと笑った。

「分かってても謝れない時があるでしょう? 貴方ほど世の中の人達は素直じゃないんですよ」
「そっか」

 ポフッと頭の上に手を乗せられて、なでなでされた。

「じゃあ、旦那様に食事を出して来ますね」
「ええ、頑張って」

 エドは厨房で料理を貰うとそのまま旦那様のお部屋へ向かった。
私はもう仕事上がりの時間だったので自分の部屋へ向かった。
南の城のグレーロック城は北の城と違って大きくて広い。城の周りに堀があってそれが川か湖かぐらいな大きさだ。お部屋の空気を良くする為に窓を開けた時は、景色が壮観だった。田舎の葡萄畑の風景も緑が多く長閑のどかでずっと居たくなってしまう。
北の城よりも温度が少し高いのか、過ごしやすい。これからの暑い季節はきっと北の方が良いんだろうけどね。そう思った。




 一週間後。結局、旦那様が捜査した事件は全て解決し、この城で保護されていた少女達はまた神殿に戻されることになった。それにともなって私達もタウンハウスのお屋敷に戻る事になった。まだ神様達がいらっしゃるので、失礼の無いよう対応しなくてはならない。ただ、セバスさんが言うには、ここ何日かアズライル様は用事があって出掛けている事が多いという。それは大天使様もだそうだ。
唯一、アズライル様の義兄のキール様が暇そうにしているとのことで、話し相手になって上げて下さいと言われたけれど、畏れ多くてそんなこと出来ない。
ちなみにエドは興味津々で『代わりに私が行きます!』と言って、セバスさんに不評を買っていた。

「エドアルドは好奇心が強くてダメです。失礼な事をやりかねないですからね」

 しょんぼりしてるエドの顔が可笑しかった。
滅多に見れないあの顔は!

 タウンハウスの屋敷に戻ってからアズライル様を見ると、眩しくて見られなかったあの光が、完全に消えていた。
その姿は神殿の老齢ろうれいの男性像とはかなりかけ離れていた。
線の細い中性的な身体に、輝くような金髪の長い髪、翡翠ひすいのような碧の瞳に金色のまつげが影を作る。鼻筋はすっと通って、唇は薔薇色だった。
目元と鼻筋が旦那様の婚約者である姫様に似ていた。
やっぱり親子なんだなと思った。




 その数日後に神々は天界へ帰られた。
私達も旦那様が開いてくれたゲートで北の城に帰った。ずっと置きっぱなしだった荷物も持ってきて、北の城へ帰ったけど、すぐ休みに入ってエドの屋敷に拉致された。

「はぁああああっ!」

 風竜の手綱たづなを持ちながら、私を抱きしめて変な声を上げるエド。

「もう我慢出来ません! 一緒に住みましょう!」
「えっ? まだ結婚してないでしょ?」
「来週のの日にギレス帝国に行きましょう! もう魔石列車の予約は取ってますから! ちなみにもくの日の仕事終わりから休暇の予定を取ってあるので、私に付いて来て下さい?」
「何処かに行くんですか?」
「まだ秘密です。行けばわかります」
「ふぅん?」

 どこに行くんだが分からないけど、興味も無かったし聞き流した。

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