魔術師長様はご機嫌ななめ

鷹月 檻

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第一章

1プロローグ

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 私は鈴木理亜すずきりあ22歳。職業はブラック企業の事務員。
今日も遅くまで残業でした。仕事の量が給料の割りに多すぎるんだよね~。
週末ともなるとへろへろです。

 とか考えながら小走りにスマホで時間を確認したら10時02分。

 大変!10分の終電に遅れる!
私はスマホをバッグの中にしまって小走りで道を急いだ。先が尖った形のパンプスなので小走りでもつま先がぎゅっと痛い。思わず顔を顰めてつま先をさする。

 するとあることに気付いた。
ここは横断歩道で赤信号だった。

 一台の大型トラックが突っ込んできて車内では私を発見した運転手が顔面蒼白で叫んでいるのがわかる。キキキーというけたたましいブレーキ音の後、ドスンと鈍い音が響き私の体は宙を舞った。

 私の中から暖かくて赤い液体が流れ、どんどんアスファルトを侵食していく。
大きかった周りのざわめきは次第にぼやけてゆく視界の中に消えて行き、無音と暗黒の世界が私を包んだ。

 思えば私の人生、両親が事故で亡くなったあの日から一気に急降下した。
私が中学二年の時のことだった、貿易会社を経営している両親が、仕事の取引でブラジルに向かった。その飛行機が原因不明のエンジントラブルで墜落、私の両親を含む乗客約200名が亡くなった悲惨な墜落事故だった。
私はひとりぼっちになった。

 けれど、父の会社の弁護士が財産管理をしてくれていて、私には両親が建てた大きな屋敷と保険金と現金、父の会社の株その他不動産などの巨額の遺産が残されていることがわかった。当時の私はまだ子どもで契約やお金のことなど何もわからず、財産を管理するので後見人になると言った母方の叔父夫婦を信じるしかなかった。

 結果、私は叔父夫婦に全財産を巻き上げられ家の権利まで失った。これには財産管理をしていた弁護士も叔父夫婦に加担していた。その弁護士が多額の謝礼を貰っていたのは後に知った。

 それからは地獄だった。叔母は私を家政婦代わりにこき使い、部活もさせて貰えなかった。叔父は酒を飲むと私を殴った。性的な虐待はないが暴力を振るうことに興奮するタイプらしく、痛みに耐えてじっと我慢している私は屈服させるべき下僕とでも思ったようだった。
体に痣を作っては、それが無くなればまた痣を作る。絶え間ない痛みの中で私の心は細い蜘蛛の糸のようになっていた。

 それだけではなく叔父夫婦の息子も頭のおかしい、いかれたヤツだった。私の胸やお尻を勝手に触る。やめてと言ってもやめない。セクハラ魔だった。強姦こそしてこなかったがヤツが大学に入って一人暮らしをするまで毎晩生きた心地がしなかった。
私の部屋は鍵がかからない、夜中に押し入られたら……そう考えたら恐怖で眠れなかったからだ。

 私は早くこの家を出たかったけれど家出は我慢した。高校へ行きたかったからだ。
中卒なんて今時雇ってもらえない。せめて高卒の資格が欲しかった。
私立は金が掛かると却下されたので、仕方ないから県立の高校に入った。
一応県内ではトップクラスだ。叔父夫婦の息子は高校は私立の馬鹿学校だし、大学は五流大学に大枚の寄付金をはたいて入ってる。あんなバカ息子に投資するなら私に投資したほうが利益率は高いだろうに、とつくづく思う。

 家事をするのにバイトはダメと言われたが、どうしてもお金が欲しかった私はバイト代の一部を叔母に渡すことでバイトを許可してもらえた。
どうせ大学も自分の金で行けと言われそうだと思い、大学は諦めた。
早く家を出たくて、高卒で働くことに決めた。
 なので中学時代は家事だけをやっていたが、高校時代は家事とバイトに明け暮れた。
そんな感じなので当然彼氏など作る余裕も無く(学校でいじめられていたというのもある)彼氏いない歴=年齢な、22歳という割りに枯れた人生を送っていた。
高校を卒業して、就職もブラック企業ではあるが一応決まった。
アパートも借りて引越しを済ませて、これから私の人生が始まるんだ!
そう思ってた。



 そのわずか2ヶ月後に自分が死ぬとは思わなかった。
私の人生一体なんだったんだろう……これで終わっちゃうのかな……。
なんだか悲しくなって泣きたくなってきた……。その時だった。
小さなささやき声が聞こえた。

「あなたの人生はこれから始まるのですよ……目覚めなさい……」

それは暖かみのある優しい女性の声だった。
私は誘われるままに重い瞼をゆっくりと開いた。
目が覚めると、私は少し大きめの白い長椅子に横たわっていた。

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