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第一章
16家庭教師の面接と乗り物
しおりを挟む昼食を食べていると、ゼフィエルが今日は面接がありますと言った。
「面接?」
「ああ、すっかり忘れていたが君の家庭教師を募集してたんだ」
とレイジェス様。
そういえば学校は10歳から始まるけど、みんなその前に家庭教師とお勉強をして学校に備えると聞いていた。なので家庭教師を雇うぞ、と言っていたような。
「書類選考を経て3名にしぼっております。書類を拝見した所中々優秀な方達だと思われます」
「書類などいくらでも誤魔化すことができる。何の役にも立たん」
「だから面接するのでしょ? で、女性はいらっしゃるの?」
「申し訳ありませんが、どなたも男性でございます。女性の方のご応募はありませんでした」
「女性は結婚すると家庭へ入る方が多いですからね」
セレネが諦めた様な顔で言った。
「ふむ…男なら全員不採用でいいだろう?」
レイジェス様は面倒臭そうで眉間に皺を寄せていた。
「男性だからと言って、必ずしもアリア様の魅了に掛かるわけではございませんでしょう? 私自身アリア様の魅了に掛かってませんし」
「う~む……ゼフィエル、そなた誰か愛する者がいるのか?」
とレイジェス様がゼフィエルを見つめる。
「……い、いえ、私にはそんな者はおりません。未だに独り身でございます」
え! 私はこのやり取りでわかってしまった!!
私の腐女子の血が騒ぐ……!!
ゼフィエルってもしかしてレイジェス様が好きなんじゃ!?
うおおおおおおおおおおおお!!
生BLだあああああ! と思ってると私の背後からぐふぅ! ごちそうです!
と言う小さな声が聞こえた。
今日の給仕の仕事をしているサーシャだった。
もしかして…サーシャ、あなたも腐女子!? ナカーマ?
私がサーシャを見ると速攻で涎を拭いて取り繕っていたので小声で私も言った。
「サーシャ、私も同志です!」と。
サーシャは目をぱちぱちして冷や汗を拭いていた。
結局面接は、やることになって、魅了が掛かるか掛からないか調べるために私も面接官をすることになった。
面接官は私、レイジェス様、ゼフィエル、セレネですることになった。
まず、一番目の人が来る。速攻でレイジェス様が聞く。
「私は男が好きな者を雇いたいと思っている。君は男が好きか?」
「「「ぶっ!」」」
その質問で私とゼフィエル、セレネが噴いた。
何言っちゃってくれてんですか? この人!
「……いえ、男ではなく女性が好きです」
1番目さん、ハンカチを取り出して顔汗を拭き始める。
次にゼフィエルが質問する。
「幼女の体に性的魅力を感じたことはありますか?」
「「ぶっ!」」
私とセレネが噴く。何言ってんだ!! ゼフィエル!! 1番目さんが目を白黒させている。
次にセレネが聞く。
「あなたには今付き合っている方もしくは、恋人などいますか?」
「え? ……い、いません……あ、あなた様にはいるのでしょうかっ!?」
「わたくし? わたくしのことはどうでも良いのです。あなたの事を聞いているのです!」
「い、いません!!」
だめだこれ……面接になってないよ。
セレネの質問で1番目さんはセレネに思いを寄せたっぽい。
1番目さん、顔が真っ赤だ。めっちゃ顔汗拭いてる。
そして私は簡単な余剰定理の問題を書いた黒板を見せた。
「じゃ、最後にこの問題を解いてください」
しばらく待ったけど1番目さんは解けなかった。
面接は終了し、後日結果を送付することになっている。
「幼女に興味がないのはいいのだが、女が好きというのがなぁ……」
レイジェス様はそう言うけど、それが普通ですから!!
「好きな女性がいないというのも問題です! アリア様に変な気を起こすかもしれません! 不採用でいいでしょう」
セレネは好意を寄せられたことに全く気づいてない。
「不採用だな」
「不採用ですね」
「不採用ですわ」と私も言う。
3人の答えが一致した。
「高学歴って聞いていたのに嘘をおっしゃったのかしら?」
と私が一人愚痴っていると隣のレイジェス様が
「君の出した問題は学校ではやっていない。普通の者は解けないであろう」
「レイジェス様ならできます?」
「うむ」
ささっと、目の前にあったメモに答えを書いた。はやっ、合ってるし。
「合ってます、さすがですレイジェス様」
「でも、わたくしの先生をなさるなら、これ位の問題をさらっと解いてくださる方でないと話になりませんわ」
というと、ゼフィエルにそれでは皆さん不採用になってしまいます。と言われた。
あと二人だし一応面接しようということになった。
2番目さんが来て、レイジェス様が質問をする。
「私は男が好きな者を雇いたいと思っている。君は男が好きか?」
「え? ……公爵様みたいな素敵な方にそんな質問していただけるなんて! はい私は衆道でございます!」
と言ったので、レイジェス様が目をきらきらさせて
「この者にしよう!」と言い出した。
ちょ、とんでもない! レイジェス様、あなた狙われてますってば!
私とゼフィエルが全力で反対してレイジェス様が折れてくれたので2番目さんにはお帰りいただいた。
なんだか疲れてきたよ、まったく。
3番目さんが入ってきた。椅子に座って私を見つめた辺りからおかしい。なんか、はぁはぁしてる。
ガタンと音を立てて3番目さんの椅子が倒れた。
瞬間ダダっと私の方にダッシュしてきたので、私はとっさに自分の椅子を飛び降りてレイジェス様の後ろに隠れた。
ボン!と激しい爆発音がして、3番目さんが吹っ飛んだ。レイジェス様が魔法で吹き飛ばしたみたいだ。壁に頭を打ったのか失神してるっぽい。
「問題外でございます!」とセレネが怒ってる。
「ゼフィエルには配置転換が必要だな。今回の面接は時間の無駄であった。この場の後始末はゼフィエル、お前がやれ」
レイジェス様がむっとしている。
レイジェス様の後ろでぷるぷる縮こまっていると抱き上げられてぎゅっと抱きしめられた。
「怖かったぁ」
「あれは驚くな。魅了が掛かりすぎだ。近くで見たら確かに目の色が赤黒かったな。あのような状態になるのか」
そのまま抱っこされて談話室に行くと、レイジェス様は長椅子に座って、私は膝に乗せられた。
「レイジェス様、ゼフィエルを辞めさせちゃうのですか?」
「いや、領地の城での仕事を任そうかと思う。あちらにいる家令のセバスにこちらの方に来てもらおうかと思っている。セバスは有能だからな。ゼフィエルが決して無能と思ってるわけではない」
レイジェス様は私に言い聞かせるように頭を優しく撫でて言った。
「だが、多分君に嫉妬しているのもあるのか、無意識に君を危険に追い込むようなことをしているように感じる。ドレッサーの件にしても、やっていて当たり前の事をしていなかった。失念していたとか言うが、セバスなら有り得ん」
「レイジェス様はゼフィエルがご自分のことをお好きなのを知ってらっしゃったんですか?」
「なんとなく? 気に入られているか? ぐらいには。私に害があったなら即解雇だが、別に何かされるわけでもないし。放置していた」
ゼフィエルって、たまにレイジェス様のお背中流したり髪洗ったりしてたよね? ってことは…。
「裸を見られているではないですかっ!」
レイジェス様はキョトンとした顔をした。
「……そうだな? なにか問題か?」
「問題ですよ! わたくしだって見たことないのに!!」
レイジェス様は目をぱちぱちさせてから暫くして笑った。
「先程、領地にお城って言ってましたけど、ここは領地ではないのですか?」
「ああ、ここは違う。ここはタウンハウスだ」
「タウンハウス?」
「ここは貴族だけの家の街、貴族街だ。領地を持ってる貴族達が冬から夏にかけて貴族会議や社交界へ行くために利用する家で、その家の事をタウンハウスと呼ぶ。領地を持つ貴族は自分の領地にいるのは秋ぐらいか? その貴族の財政状況にもよるがな。私は城に勤めているからここにいる事が多い。上位貴族は城の近くにタウンハウスがある。だから私も運動がてら徒歩で出仕してるだろう? 歩いて5分程の所に城がある」
私は驚いた。だってこのお屋敷すっごく広いのだ。
私やレイジェス様の他に使用人の部屋もある本館、その他に分館があって、分館の中は大広間と小広間に分かれている。先日のピレーネは小広間の方でやった。大広間は舞踏会用らしい。
他にも下働きが生活する為の寮みたいな分館があるし、馬小屋とか馬車小屋とか温室もあるし、前庭にはどでかい噴水もある。中庭にも中くらいの噴水がある。中くらいと言っても私の背よりはるかに大きい。
ここの他に更に領地とお城まで持ってるなんて、凄い!
「レイジェス様ってお金持ちだったんですね」
「欲しい物があるなら言ってみなさい。買ってあげよう」
なんだか機嫌がいいレイジェス様が私の頬に軽くキスをした。
「う~ん……考えたけど、今欲しい物ないです」
「そうか? 何でも買ってやるぞ?」
と言うレイジェス様、私に甘すぎませんか?
「領地に帰るときは馬車で帰るのですか?」
「いや、一人だからなぁ、フェンリルを使ってる」
「フェンリル?」
「ああ、君にはまだ見せてなかったか」
レイジェス様が自分の足を軽く2回パンパンと叩くとレイジェス様の影からにゅっと銀色の大きな狼が現れた。談話室の半分位の大きさだ。
私はびびってレイジェス様の影に隠れた。
「私の召喚獣で、フェンリルのシリルだ」
そっと覗くと目が合った。
『食さぬからこっちへこい、ちっこいの』
「喋った!」
私は恐る恐る近くに行く。
「触ってもいいですか?」
フェンリルに聞くと頷いたので両腕でぎゅっとしてみる。もふっとしてる。
手で、もみもみわちゃわちゃしてみる。
「もふもふの宝箱やぁ!!」
『何だかわからんが…そなた歌は歌わないのか?』とシリル。
「歌?」
「フェンリルは歌や音楽が好きなのだ」
レイジェス様がシリルの頭を撫でながら言った。
『そなたのピレーネはとても良い。歌もさぞかし良かろうぞ?』
「え、歌? 恥ずかしい!」
「そういえば、君の歌を私も聴いたことがない。歌いなさい」
レイジェス様までシリルと一緒になって私に歌えと言う。
恥ずかしいじゃない。ここカラオケ店とかじゃないんだよ?
「え~! 今ここで!? いやですよ」
「君はピレーネの時も最初恥ずかしがっていたな? 何故だ?」
「何故って、だってそんなに上手くないですから…恥ずかしいじゃないですか」
「神話現象が起こるくらい上手だと思うのだが、私と君の認識は違うようだな」
「褒めていただけてうれしく存じます。でも、まだまだなのです。わたくしの中では…」
「あれでまだまだなのか?」
シリルは驚いて尻尾で私の顔をふさふさした。
ちょっとくすぐったい。
「嫌がった割にはそのあとピレーネを何回か弾いてるじゃないか」
レイジェス様は納得行かないようでむすっとしている。
「あれは大勢の前で弾いて一度恥ずかしい思いをしたから慣れちゃったのです」
「ふむ、では歌も慣れなさい」
「もぅ…わかりました! 歌えばいんでしょ! でも、音楽あったほうがいいので小広間に行きましょう」
「弾きながら歌うのか?」
とレイジェス様が言う。何故かちょっと驚いてる。
それを見て私は不思議に思う。
一人でいるときは弾きながら歌ったりしますよ? と言った。
談話室を移動する時に、シリルはまたレイジェス様の影に潜り込んだ。そして広間につくとにゅっと出てきた。
私は何を弾こうかな? と考える。
好きだったミュージシャンの歌を歌うことにした。
「私はバラードが好きなのでバラードを歌いますね」
「バラード?」
レイジェス様が聞くので説明した。
「スローテンポでストーリー性があって感傷的な感じの曲のことです。じゃ、恋のバラードを歌いますね」
とととっとピレーネに向かう。
最初アカペラのハミングから始まって、ピレーネの音がどんどん重なって歌詞がはじまる。語りかけるように優しく歌う。
吐息がまじるようにそっと、そっと声を出す。
だんだん、盛り上がって行って叫ぶように響くように心を込めて歌う。
そしてまたそっと囁くように。
歌って不思議だ。声なのに音を奏でて音楽にする事ができる。
歌っている私の心の中で何かがぞわっと動き出した。
ぶわっと鳥肌がたつ。
歌っている私の声は転生前の私の声より断然綺麗で普通に歌っているだけなのに自分の声が聞き心地が良すぎた。
一瞬ピレーネを弾く指が止まりそうになった。
ピレーネを弾く指にも注意する。集中して音を大事に鳴らす。高音部のきらきらした箇所を綺麗に出して、そこに声が重なる。
静かに開いた心の壁。恥ずかしさ。
それがどんどん何処かに行ってしまう。歌ってこんなに気持ち良かったんだ……。
夢の中にいるみたいにハミングをして、ピレーネの音がきらめく中で曲は終わる。
今日の花は白の他にうすい桃色の花も混じっている。
へぇ~歌を歌うとピンクの花が散るのか。
しーんとなってたのでちょっとどうしよう? 良くなかった? と思ったんだけど、レイジェス様が涙をぽろりと流してた。それにびっくりです。
「何だ今の歌は? あれが恋の歌? 私は感動した! こんなの初めてだ! 君には歌の才能もある! みんなにこの歌を聞かせるべきだ!」
めっちゃ熱くなってるレイジェス様。
普段の落ち着いた冷静なレイジェス様はどこへ?
シリルもうんうんと頷いている。
「え~……」
一人やる気のない私だった。
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