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第二章
17お金が欲しい私
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「今日は少し早く出ねばならん」
「何かあるのですか?」
「新しい書記官が辺境地から来る」
「ああ、ザイード様の後任ですね」
「うむ」
「良い方だといいですね」
今は食堂で朝のティータイム、私はミルクティを飲んでいる。
レイジェス様はブラウンティを飲み干して玄関に向かった。
私も付いて行く。
「いってらっしゃいませ」
「うむ、行って来る」
私、今日もちゃんとお見送りできました。そしてセバスに声を掛ける。
「セバス、ちょっとお話があるのですけど、談話室に来てくださる?」
「はい?」
私が談話室に行くとセバスが付いてきた。
私はいつもの長椅子に座り、テーブルを挟んだ向かい側の個人椅子にセバスが座る。
「今日は真面目なお話があります」
「はい、なんでしょう?」
「わたくし、前から考えていたのですけど働こうと思ってます」
「え? 姫様がですか?」
セバスが目を丸くしている
「はい」
「なぜ働こうと思ったのですか?」
「だって、わたくしこれじゃぁレイジェス様に食べさせてもらってる、ただの愛妾ですわ。お金も欲しいですし」
「お金が欲しいなら旦那様に言えば出していただけますが?」
セバスが旦那様に言いましょうか? そうですね、毎月お小遣いを頂けるように致しましょう! と言いだしたので止めた。
それでは本当にお手当てを貰ってる愛人さんではないか。
「そういうのじゃダメなんです。自分で稼がないと」
「なぜ自分で稼がないとだめなのですか?」
「だって、プレゼントを上げるのに、貰ったお金で上げてしまうと、わたくしが上げた事にならないじゃないですか。それに、わたくしの食費がお高いって使用人達が話しているのを聞いたのです」
セバスの眼鏡がキラリと光る。
セバスは眼鏡のブリッジを中指で押さえて怒りを露にした。
「またかっ! その使用人はクビにします。誰ですか?」
「もうクビになっていません。でも、自分の食い扶持ぐらいなんとかしたいと思ったのです」
「姫様は8歳です。むしろ守られて、お小遣いを貰って暮らすのが普通ですよ?」
「働くといっても商会を作るんですのよ? 商会頭になりたいのです」
セバスが目を丸くした。
「どういったものを扱うのですか?」
「う~ん、しいて言うならわたくし?」
「はっ!? 姫様を売り物にするのですか!?」
「えっと、説明するのが難しいのですが、わたくしが出来るのって歌やピレーネじゃないですか?」
「はい」
「音楽業をして稼ぎたいと思ってます」
セバスは首を傾げた。
「音楽業ですか?」
「人前で歌ったり、ピレーネを弾いたり、あと、踊ったりもしたいですね。で、グッズを売ったり、握手会とかサイン会とかしてぼろ儲けする予定です」
「なるほど……」
「ここって娯楽が少ないじゃないですか。受けると思うんですよね」
「音楽家になりたいってことなのでしょうかね?」
「そうです。音楽家になりたいのです!」
一応音楽家って職業あるんだ。
セバスは少し呆れた様に私を見た。
「わたくし、そういえば他の貴族様の音楽の会をまだ聞いたことがありません。他の人がどういう風に演奏会をしてるのか見てみたいですわ」
「ふむ、じゃあ、まず見学してみますか? たしかどこかの貴族から招待状が来ていたような」
「じゃ、見学してみます」
「あと、このことはきちんと旦那様に話してくださいませ? ちゃんとお話すれば分かってもらえると思いますよ?」
「……そうですね。ありがとう、セバス」
「ごきげんよう、ダイアナ先生」
「ごきげんよう、アリア様」
月、水、金は音楽の授業がある。今は学習室で先生に楽譜の書き方を教えてもらってる。
音符の呼び方や音階の呼び名が違うけど基本五線譜ってのは地球と変らないっぽい。小さな付加マークが多いのが気になる。それもそのうちやっていくとのこと。
「ダイアナ先生、わたくし、ピレーネの夕べを開けって言われているんですけど、少し趣向を変えたいのです。それで、先生に手伝って頂けないかと思っているのですが…」
「どういった事をやるのです?」
「歌を歌ったり、踊ったり、ピレーネを弾いたりとか?」
「踊るのですか? それは斬新ですね」
「はい、それでですね、弾き語りは自分でやれるのですが、踊ったりする時、自分で弾けないので、どうしようかな? と思ってまして、先生に演奏をお願いしようかと」
先生は暫く考えているようだった。
「音の出る魔道具で音源を作った方が良いと思うのですが」
「え? そんな事できるのですか?」
「ええ、歌手の方は楽器ができませんから。そういう方が使ってますわ」
「え? 歌手は楽器が出来ないのですか?」
「出来ないと言う訳ではないと思いますが、歌いながら楽器をする方は見たことがございません。私は初めて姫様がピレーネを弾きながら歌っているのを見て驚きましたもの」
「ああ……だからレイジェス様も弾き語りをすると言ったら驚いていたのかしら?」
「ええ、普通の方は驚くと思いますよ」
ダイアナ先生は微笑んだ。
「音源を作る他に、演奏隊を雇うという方法もありますよ?」
私はその演奏隊というのに心惹かれてしまった。
だってそれって、バンドだよね?
「先生、わたくしその演奏隊というのに心惹かれてしまいましたわ?」
ダイアナ先生がふふっと笑う。
「でも、どっちにしろ楽譜が書けないとその人達にも曲を覚えてもらえませんよね?」
「耳のいい人達だと聞けばわかるのでは? たぶん姫様もわかりますよね?」
「たしかに、わたくしは聞けば分かりますけど……」
「わたくしでも分かりますから。きっと演奏を生業としている方達もわかるでしょう」
生演奏隊を雇いたいと思ったけど、それもお金がかかるじゃない。やっぱり稼がないとやってけない。それに人を雇うとなるとレイジェス様が男はダメだって絶対言う。私も知らない男の人は嫌だけど、女の人だけで集めれるかしら……。
「楽譜は結構個人の癖や書き込みを理解するのが大変で、書くより読むほうが難しかったりするのです。だから焦らずゆっくり覚えた方が良いと思いますわ」
「え、それじゃ、物販で楽譜は売れないということでしょうか?」
「新曲だと音楽関係者は欲しがるでしょうけど、一般人には読めないし興味がないかも知れません」
がーん。それじゃ、楽譜で儲けられない。
「あ! 先程音の出る魔道具で音源を作った方が良いとおっしゃってましたが、その音源を聞く魔道具というのは一般的なのでしょうか?」
「コンサート用のは音楽関係者のみですが、ダンスの練習に使う物は普通の貴族だったら持ってますね」
はっ! 私は気付いてしまった。
そういえばダンスの練習の時にセバスが音楽を掛けていた!!
「先生! 大変です! わたくし大広間で確認しなければ!!」
ダイアナ先生はちらっと時計を見てこくりと頷いた。
「もうお時間ですから大丈夫ですよ」
と微笑む。
「先生、本日もご指導ありがとうございました!」
と挨拶をして早速大広間に向かった。
走ったから鼓動がどくどく言う。
あまりにどくどく音がして苦しくなってしゃがんだ。
まだ中庭なのに。芝生の上にごろんと胸を押さえて横になった。
静まれ心臓。落ち着け。
目を閉じてじっとする。風が吹いて顔に当たる。それが心地よい。
そのままじっとしていると誰かに頭を撫でられた。
びっくりして飛び起きて後ずる。
レイジェス様だった。
「どうしてここにいるのです?」
「私の指輪が鳴った」
「あっ! ごめんなさい。もう大丈夫です、落ち着きました」
「ん、みたいだな。ではな」
そう言ってゲートでまた事務所に戻った。
そうだった、あんまり苦しくなっちゃうとレイジェス様の指輪が鳴るんだった。
でも私、天界でも相当倒れたり苦しくなったりしてたよね?
あっ。いくらなんでもレイジェス様は天界まで来れないか。
まあ迷惑かけないように気をつけなきゃ。
私は大広間へ行ってダンスの魔道具を奥の棚から引っ張り出した。
間道具はCDプレーヤーみたいな形をしていた。この魔道具の中のCDみたいな物を作れれば音楽が聴けるって事だよね?
よし、セバスに聞こう。
さっき走ってレイジェス様が来ちゃったからゆっくり歩く。
キントーンを使おうかなと思ったけど頼りっぱなしになりそうで止めた。
走っても大丈夫なようにちょっと鍛えないと、と思いゆっくり歩いた。
キントーンは使いすぎると足の筋肉がなくなる気がする。
ただでさえ運動しない私なのでそれは困るのだ。
中庭の回廊からお屋敷に入ってセバスを探しているとオーティスがいた。
もうお昼ですよ? と言われる。じゃ、セバスも食堂にいるかな?
と思って食堂へ。
色々やっていると時間が経つのが早く感じる。
食堂へ着くとセバスが使用人達に指示していた。セバスの近くまで行って指示が終わるのを待っているが、私が後ろにいるので気付かないっぽい。
なので自分の両手を握ってセバスの膝裏に【膝かっくん】をした。
がくっとなるセバス。
「おっと」
すぐに体勢を整えられてしまった。
「いたずらする子は抱っこの刑ですよ?」
と言って抱き上げられたけど、刑というからには嫌な事をしているつもりなのかな? セバスは。でも刑にまったくなってないと思うの。
「わたくし、セバスに抱かれるのは嫌じゃありませんわ?」
と言ったら目を丸くされて速攻で降ろされた。何か変なこと言った?
「何か用があったのではないのですか?」
「そうなんですの! ダンスで使う音楽を奏でる魔道具の中に入っている丸い物はどうやって作るのです? あれに音楽のデーターが入ってるんですよね?」
「お食事の用意が整いましたので、食事されながらでいかがですか?」
「はい」
今日のお昼のメニューは卵焼きだった。
「救冠鳥の卵焼き、お砂糖入りです」
おおおお砂糖! 砂糖はめったに使われない。貴重品でお高い。
ぱくっと一口食べると甘い。お口の中でとろけるようです。
「砂糖も神饌だそうです。まだ流通量が少なくて公爵家でもあまり手に入らないですが」
ですよね~。私がいつも飲んでいるミルクティもお砂糖入ってないもん。
あっという間にぺろっと食べた。
「セバス? ……おかわりはあるかしら?」
セバスは微笑んだ。
「大丈夫、ございますよ」
お持ちしますと厨房に消えた。
あ、お話しなきゃなのに食べ物に集中してて忘れてた!
セバスはおかわりのお皿を持って来てそれを私に差し出した。
「で、さっきの話の続きなのですけど、あの丸いCD部分はどうすれば作れますか?」
私は卵をむしゃむしゃ食べる。
「たしかあれを作る専門の魔術師がいると聞いたことがございます。旦那様の方が詳しいのではないでしょうか?」
私は卵を食べたあと、デザートでトウミを食べてご馳走様をした。
そして談話室に向かう。私のクッションを置いて欲しいとさっきオーティスに言ってあったのでちゃんと用意してあった。
これを枕に長椅子でごろりとする。半分うとうとしながら商売について考える。
正直ピレーネの夕べ自体はお金にならない。なぜかと言うと招待だからお金は全部こっち持ちだから。前に行ったリッツ伯爵の晩餐会もリッツ伯爵が全て負担している。だから伯爵のやる晩餐会は月一程で招待客も取引がある、もしくは取引したいと思う貴族ばっかりだそうな。
ピレーネの夕べで稼げないならどうすればいいか? って思って物販! と思ったけど、楽譜が読めない人が多くて、楽譜は売れないって聞いてがっかり。でも、音楽自体が売れるならそれに越した事はないんだよね。だからどうせならCDを売れるようになりたいけど……コストいくらかかるんだろう?
あと、キャラクターグッズも売ろうかと思う。
私の3頭身キャラクターを作ってハンカチとかバッグとか、キーホルダーとかにもつけれるマスコット的なのもいいかもしれない。売れるかどうかわからないけど。
今回のピレーネの夕べは招待にして、コンサートは王都新聞で募集してチケット発売すればいいのじゃなかろうか。
それから、音楽関係はそれでいいとして、食料品関係も手をつけたいと思ってる。だって醤油とか父神様にちょっとわけてもらったけど、天界でも少ないのだ。
大豆さえあれば作れると思ったんだけど。醤油とか造りたい。マヨネーズはすぐ出来るからそれを売るのもいいかもしれない。資金繰りに助かるはず。
トウミも干して食べれるようになったらおやつとして手軽に食べれるし。
せっかくトウミ園があるんだから私が食べるだけでなく利益にしたいもんだ。
と考えてたらうつらうつらしてきた。
うつらうつらしていると口の中にぬるっとした物が入ってきた。すぐわかった。レイジェス様の舌だこれ。でもまだ眠くて目を開けることができない。
そのままされるがままになっていたら頭を撫でられた。そしてドレスの裾から手が入ってきて目を覚ました。
「お、おかえりなさいませ。お出迎えしないで申し訳ありません!!」
「よいよい、目覚めていたのか?」
「うとうとしてて眠りが浅かったので」
「セレネが言うには子供は昼寝をするそうだ。君も昼寝をしたらいいのでは? ただでさえ私に付き合って夜が遅いのだから」
うっ。閨事してて寝るのが遅いんだから、昼間寝てて構わないよって言ってくれてるけど……それじゃあ、私ダメ人間じゃない? って気が。
まじ、愛妾道まっしぐらな気がする……。
レイジェス様は私を抱き上げて長椅子に座った。私が働きたいって言ったらどんな顔するんだろう?
「レイジェス様?」
「ん?」
「わたくし、働きたいです」
「はっ?」
「働きたいのです」
レイジェス様は目が点になっていた。そんなにおかしい事を言ったの? 私。
レイジェス様は顎に手をやりしばらく考え込んでいる。
「私は君に不自由をさせていないつもりだったが……何か欲しいのか? 金ならあるぞ? 心配するな。何が欲しいか言ってみなさい」
「そうじゃなくて、欲しいのはお金なんです。何かを買うって目的があるわけじゃなくて、目的がある使い方もしたいのですけど……」
「その、目的がある使い方とは?」
「わたくし、いつもレイジェス様に贈り物をして頂いてます。ドレスとか、家具一式とか、アクセサリーもそうですし、お食事だって神饌は高いのに毎日美味しく食べさせてもらっています」
「うむ。満足してるなら良いのでは?」
「でも、わたくしは何もお返しできてません」
私はレイジェス様のローブをぎゅっと握った。
レイジェス様は困った目で私を見る。
「君はただそこにいればいい、それで私が満足する」
「それではただの愛妾と変らないではないですか!」
「君は愛妾ではない。私の妻となる者だ」
「でも使用人達はそうは思いませんわ?」
「またかっ! どいつだ? クビにする!」
レイジェス様は怒りのこもった声を上げた。
私は落ち着いて欲しくてその腕に触れた。
「もうクビにされて、ここにはいらっしゃらないですわ? でも、その方が言った事はあながち間違っていないのです。わたくしは愛妾ではないのです。自分の誇りも守りたいですし、いつも色々してくれるレイジェス様に贈り物やプレゼントをしたいと思っています。そのお金をレイジェス様から頂くなんて本末転倒でしょ?」
「君はまだ8歳なのだから、本来は親に守られて暮らしている年齢だ。働く年齢ではないと思うが?」
私は苦笑いをした。こんな時、私が大人だったらなって思う。
でも子供だし仕方ない。
「働きたいと思う気持ちは尊いです。年齢は関係ないと思います。だって、レイジェス様だって働かなくても収入はあるのに、お城に出仕しているではないですか? 本来なら働かなくても生活できるって前に言ってましたよね?」
「ん~私の場合はうちの公爵家が代々城で働く事を推奨していたからな。今は亡き父上も魔術師団で働いていた」
へ~そうだったんだ。
「まぁ、私は魔術合成が好きで、魔術師団に入ると討伐があるから、貴重な素材も手に入るし、それでずっと師団にいる」
「結局レイジェス様だって師団で働くのが好きだから続けてるのではないですか。わたくしも働くのが好きなのです」
レイジェス様がこめかみを押さえる。
「で、どこで働くつもりでいる? 商会か? どこかの貴族の家で側仕えか? 公爵家の婚約者である君がそんな所に行っても皆気を使うだけだろうが……」
「わたくし、ここで働きます!」
「は? うちで? 下働きでもするつもりか?」
「いえ、商会を作ります。そして商会頭になります」
「は? う~ん……まぁ、それも有りか……」
「何かあるのですか?」
「新しい書記官が辺境地から来る」
「ああ、ザイード様の後任ですね」
「うむ」
「良い方だといいですね」
今は食堂で朝のティータイム、私はミルクティを飲んでいる。
レイジェス様はブラウンティを飲み干して玄関に向かった。
私も付いて行く。
「いってらっしゃいませ」
「うむ、行って来る」
私、今日もちゃんとお見送りできました。そしてセバスに声を掛ける。
「セバス、ちょっとお話があるのですけど、談話室に来てくださる?」
「はい?」
私が談話室に行くとセバスが付いてきた。
私はいつもの長椅子に座り、テーブルを挟んだ向かい側の個人椅子にセバスが座る。
「今日は真面目なお話があります」
「はい、なんでしょう?」
「わたくし、前から考えていたのですけど働こうと思ってます」
「え? 姫様がですか?」
セバスが目を丸くしている
「はい」
「なぜ働こうと思ったのですか?」
「だって、わたくしこれじゃぁレイジェス様に食べさせてもらってる、ただの愛妾ですわ。お金も欲しいですし」
「お金が欲しいなら旦那様に言えば出していただけますが?」
セバスが旦那様に言いましょうか? そうですね、毎月お小遣いを頂けるように致しましょう! と言いだしたので止めた。
それでは本当にお手当てを貰ってる愛人さんではないか。
「そういうのじゃダメなんです。自分で稼がないと」
「なぜ自分で稼がないとだめなのですか?」
「だって、プレゼントを上げるのに、貰ったお金で上げてしまうと、わたくしが上げた事にならないじゃないですか。それに、わたくしの食費がお高いって使用人達が話しているのを聞いたのです」
セバスの眼鏡がキラリと光る。
セバスは眼鏡のブリッジを中指で押さえて怒りを露にした。
「またかっ! その使用人はクビにします。誰ですか?」
「もうクビになっていません。でも、自分の食い扶持ぐらいなんとかしたいと思ったのです」
「姫様は8歳です。むしろ守られて、お小遣いを貰って暮らすのが普通ですよ?」
「働くといっても商会を作るんですのよ? 商会頭になりたいのです」
セバスが目を丸くした。
「どういったものを扱うのですか?」
「う~ん、しいて言うならわたくし?」
「はっ!? 姫様を売り物にするのですか!?」
「えっと、説明するのが難しいのですが、わたくしが出来るのって歌やピレーネじゃないですか?」
「はい」
「音楽業をして稼ぎたいと思ってます」
セバスは首を傾げた。
「音楽業ですか?」
「人前で歌ったり、ピレーネを弾いたり、あと、踊ったりもしたいですね。で、グッズを売ったり、握手会とかサイン会とかしてぼろ儲けする予定です」
「なるほど……」
「ここって娯楽が少ないじゃないですか。受けると思うんですよね」
「音楽家になりたいってことなのでしょうかね?」
「そうです。音楽家になりたいのです!」
一応音楽家って職業あるんだ。
セバスは少し呆れた様に私を見た。
「わたくし、そういえば他の貴族様の音楽の会をまだ聞いたことがありません。他の人がどういう風に演奏会をしてるのか見てみたいですわ」
「ふむ、じゃあ、まず見学してみますか? たしかどこかの貴族から招待状が来ていたような」
「じゃ、見学してみます」
「あと、このことはきちんと旦那様に話してくださいませ? ちゃんとお話すれば分かってもらえると思いますよ?」
「……そうですね。ありがとう、セバス」
「ごきげんよう、ダイアナ先生」
「ごきげんよう、アリア様」
月、水、金は音楽の授業がある。今は学習室で先生に楽譜の書き方を教えてもらってる。
音符の呼び方や音階の呼び名が違うけど基本五線譜ってのは地球と変らないっぽい。小さな付加マークが多いのが気になる。それもそのうちやっていくとのこと。
「ダイアナ先生、わたくし、ピレーネの夕べを開けって言われているんですけど、少し趣向を変えたいのです。それで、先生に手伝って頂けないかと思っているのですが…」
「どういった事をやるのです?」
「歌を歌ったり、踊ったり、ピレーネを弾いたりとか?」
「踊るのですか? それは斬新ですね」
「はい、それでですね、弾き語りは自分でやれるのですが、踊ったりする時、自分で弾けないので、どうしようかな? と思ってまして、先生に演奏をお願いしようかと」
先生は暫く考えているようだった。
「音の出る魔道具で音源を作った方が良いと思うのですが」
「え? そんな事できるのですか?」
「ええ、歌手の方は楽器ができませんから。そういう方が使ってますわ」
「え? 歌手は楽器が出来ないのですか?」
「出来ないと言う訳ではないと思いますが、歌いながら楽器をする方は見たことがございません。私は初めて姫様がピレーネを弾きながら歌っているのを見て驚きましたもの」
「ああ……だからレイジェス様も弾き語りをすると言ったら驚いていたのかしら?」
「ええ、普通の方は驚くと思いますよ」
ダイアナ先生は微笑んだ。
「音源を作る他に、演奏隊を雇うという方法もありますよ?」
私はその演奏隊というのに心惹かれてしまった。
だってそれって、バンドだよね?
「先生、わたくしその演奏隊というのに心惹かれてしまいましたわ?」
ダイアナ先生がふふっと笑う。
「でも、どっちにしろ楽譜が書けないとその人達にも曲を覚えてもらえませんよね?」
「耳のいい人達だと聞けばわかるのでは? たぶん姫様もわかりますよね?」
「たしかに、わたくしは聞けば分かりますけど……」
「わたくしでも分かりますから。きっと演奏を生業としている方達もわかるでしょう」
生演奏隊を雇いたいと思ったけど、それもお金がかかるじゃない。やっぱり稼がないとやってけない。それに人を雇うとなるとレイジェス様が男はダメだって絶対言う。私も知らない男の人は嫌だけど、女の人だけで集めれるかしら……。
「楽譜は結構個人の癖や書き込みを理解するのが大変で、書くより読むほうが難しかったりするのです。だから焦らずゆっくり覚えた方が良いと思いますわ」
「え、それじゃ、物販で楽譜は売れないということでしょうか?」
「新曲だと音楽関係者は欲しがるでしょうけど、一般人には読めないし興味がないかも知れません」
がーん。それじゃ、楽譜で儲けられない。
「あ! 先程音の出る魔道具で音源を作った方が良いとおっしゃってましたが、その音源を聞く魔道具というのは一般的なのでしょうか?」
「コンサート用のは音楽関係者のみですが、ダンスの練習に使う物は普通の貴族だったら持ってますね」
はっ! 私は気付いてしまった。
そういえばダンスの練習の時にセバスが音楽を掛けていた!!
「先生! 大変です! わたくし大広間で確認しなければ!!」
ダイアナ先生はちらっと時計を見てこくりと頷いた。
「もうお時間ですから大丈夫ですよ」
と微笑む。
「先生、本日もご指導ありがとうございました!」
と挨拶をして早速大広間に向かった。
走ったから鼓動がどくどく言う。
あまりにどくどく音がして苦しくなってしゃがんだ。
まだ中庭なのに。芝生の上にごろんと胸を押さえて横になった。
静まれ心臓。落ち着け。
目を閉じてじっとする。風が吹いて顔に当たる。それが心地よい。
そのままじっとしていると誰かに頭を撫でられた。
びっくりして飛び起きて後ずる。
レイジェス様だった。
「どうしてここにいるのです?」
「私の指輪が鳴った」
「あっ! ごめんなさい。もう大丈夫です、落ち着きました」
「ん、みたいだな。ではな」
そう言ってゲートでまた事務所に戻った。
そうだった、あんまり苦しくなっちゃうとレイジェス様の指輪が鳴るんだった。
でも私、天界でも相当倒れたり苦しくなったりしてたよね?
あっ。いくらなんでもレイジェス様は天界まで来れないか。
まあ迷惑かけないように気をつけなきゃ。
私は大広間へ行ってダンスの魔道具を奥の棚から引っ張り出した。
間道具はCDプレーヤーみたいな形をしていた。この魔道具の中のCDみたいな物を作れれば音楽が聴けるって事だよね?
よし、セバスに聞こう。
さっき走ってレイジェス様が来ちゃったからゆっくり歩く。
キントーンを使おうかなと思ったけど頼りっぱなしになりそうで止めた。
走っても大丈夫なようにちょっと鍛えないと、と思いゆっくり歩いた。
キントーンは使いすぎると足の筋肉がなくなる気がする。
ただでさえ運動しない私なのでそれは困るのだ。
中庭の回廊からお屋敷に入ってセバスを探しているとオーティスがいた。
もうお昼ですよ? と言われる。じゃ、セバスも食堂にいるかな?
と思って食堂へ。
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「おっと」
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「わたくし、セバスに抱かれるのは嫌じゃありませんわ?」
と言ったら目を丸くされて速攻で降ろされた。何か変なこと言った?
「何か用があったのではないのですか?」
「そうなんですの! ダンスで使う音楽を奏でる魔道具の中に入っている丸い物はどうやって作るのです? あれに音楽のデーターが入ってるんですよね?」
「お食事の用意が整いましたので、食事されながらでいかがですか?」
「はい」
今日のお昼のメニューは卵焼きだった。
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おおおお砂糖! 砂糖はめったに使われない。貴重品でお高い。
ぱくっと一口食べると甘い。お口の中でとろけるようです。
「砂糖も神饌だそうです。まだ流通量が少なくて公爵家でもあまり手に入らないですが」
ですよね~。私がいつも飲んでいるミルクティもお砂糖入ってないもん。
あっという間にぺろっと食べた。
「セバス? ……おかわりはあるかしら?」
セバスは微笑んだ。
「大丈夫、ございますよ」
お持ちしますと厨房に消えた。
あ、お話しなきゃなのに食べ物に集中してて忘れてた!
セバスはおかわりのお皿を持って来てそれを私に差し出した。
「で、さっきの話の続きなのですけど、あの丸いCD部分はどうすれば作れますか?」
私は卵をむしゃむしゃ食べる。
「たしかあれを作る専門の魔術師がいると聞いたことがございます。旦那様の方が詳しいのではないでしょうか?」
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そして談話室に向かう。私のクッションを置いて欲しいとさっきオーティスに言ってあったのでちゃんと用意してあった。
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ピレーネの夕べで稼げないならどうすればいいか? って思って物販! と思ったけど、楽譜が読めない人が多くて、楽譜は売れないって聞いてがっかり。でも、音楽自体が売れるならそれに越した事はないんだよね。だからどうせならCDを売れるようになりたいけど……コストいくらかかるんだろう?
あと、キャラクターグッズも売ろうかと思う。
私の3頭身キャラクターを作ってハンカチとかバッグとか、キーホルダーとかにもつけれるマスコット的なのもいいかもしれない。売れるかどうかわからないけど。
今回のピレーネの夕べは招待にして、コンサートは王都新聞で募集してチケット発売すればいいのじゃなかろうか。
それから、音楽関係はそれでいいとして、食料品関係も手をつけたいと思ってる。だって醤油とか父神様にちょっとわけてもらったけど、天界でも少ないのだ。
大豆さえあれば作れると思ったんだけど。醤油とか造りたい。マヨネーズはすぐ出来るからそれを売るのもいいかもしれない。資金繰りに助かるはず。
トウミも干して食べれるようになったらおやつとして手軽に食べれるし。
せっかくトウミ園があるんだから私が食べるだけでなく利益にしたいもんだ。
と考えてたらうつらうつらしてきた。
うつらうつらしていると口の中にぬるっとした物が入ってきた。すぐわかった。レイジェス様の舌だこれ。でもまだ眠くて目を開けることができない。
そのままされるがままになっていたら頭を撫でられた。そしてドレスの裾から手が入ってきて目を覚ました。
「お、おかえりなさいませ。お出迎えしないで申し訳ありません!!」
「よいよい、目覚めていたのか?」
「うとうとしてて眠りが浅かったので」
「セレネが言うには子供は昼寝をするそうだ。君も昼寝をしたらいいのでは? ただでさえ私に付き合って夜が遅いのだから」
うっ。閨事してて寝るのが遅いんだから、昼間寝てて構わないよって言ってくれてるけど……それじゃあ、私ダメ人間じゃない? って気が。
まじ、愛妾道まっしぐらな気がする……。
レイジェス様は私を抱き上げて長椅子に座った。私が働きたいって言ったらどんな顔するんだろう?
「レイジェス様?」
「ん?」
「わたくし、働きたいです」
「はっ?」
「働きたいのです」
レイジェス様は目が点になっていた。そんなにおかしい事を言ったの? 私。
レイジェス様は顎に手をやりしばらく考え込んでいる。
「私は君に不自由をさせていないつもりだったが……何か欲しいのか? 金ならあるぞ? 心配するな。何が欲しいか言ってみなさい」
「そうじゃなくて、欲しいのはお金なんです。何かを買うって目的があるわけじゃなくて、目的がある使い方もしたいのですけど……」
「その、目的がある使い方とは?」
「わたくし、いつもレイジェス様に贈り物をして頂いてます。ドレスとか、家具一式とか、アクセサリーもそうですし、お食事だって神饌は高いのに毎日美味しく食べさせてもらっています」
「うむ。満足してるなら良いのでは?」
「でも、わたくしは何もお返しできてません」
私はレイジェス様のローブをぎゅっと握った。
レイジェス様は困った目で私を見る。
「君はただそこにいればいい、それで私が満足する」
「それではただの愛妾と変らないではないですか!」
「君は愛妾ではない。私の妻となる者だ」
「でも使用人達はそうは思いませんわ?」
「またかっ! どいつだ? クビにする!」
レイジェス様は怒りのこもった声を上げた。
私は落ち着いて欲しくてその腕に触れた。
「もうクビにされて、ここにはいらっしゃらないですわ? でも、その方が言った事はあながち間違っていないのです。わたくしは愛妾ではないのです。自分の誇りも守りたいですし、いつも色々してくれるレイジェス様に贈り物やプレゼントをしたいと思っています。そのお金をレイジェス様から頂くなんて本末転倒でしょ?」
「君はまだ8歳なのだから、本来は親に守られて暮らしている年齢だ。働く年齢ではないと思うが?」
私は苦笑いをした。こんな時、私が大人だったらなって思う。
でも子供だし仕方ない。
「働きたいと思う気持ちは尊いです。年齢は関係ないと思います。だって、レイジェス様だって働かなくても収入はあるのに、お城に出仕しているではないですか? 本来なら働かなくても生活できるって前に言ってましたよね?」
「ん~私の場合はうちの公爵家が代々城で働く事を推奨していたからな。今は亡き父上も魔術師団で働いていた」
へ~そうだったんだ。
「まぁ、私は魔術合成が好きで、魔術師団に入ると討伐があるから、貴重な素材も手に入るし、それでずっと師団にいる」
「結局レイジェス様だって師団で働くのが好きだから続けてるのではないですか。わたくしも働くのが好きなのです」
レイジェス様がこめかみを押さえる。
「で、どこで働くつもりでいる? 商会か? どこかの貴族の家で側仕えか? 公爵家の婚約者である君がそんな所に行っても皆気を使うだけだろうが……」
「わたくし、ここで働きます!」
「は? うちで? 下働きでもするつもりか?」
「いえ、商会を作ります。そして商会頭になります」
「は? う~ん……まぁ、それも有りか……」
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