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第三章
3南の領地への移動
しおりを挟むレイジェス様はゲートを玄関前の外階段の脇に開いた。
今日移動する人数は使用人を含めて22名だ。
アルフォード公爵家から使用人はセバス、サーシャ、護衛でアーリン、アラン、音楽隊の四姉妹も来る。北の家令のエドアルドも来る事になっているがエドアルドは北の領地にいるので、あとで迎えに行くそうだ。
リリーとオースティンは恋人と過ごすので領地には行かない。なので今は、領地にもって行く荷物運びを手伝っている。
終春節は働いてはいけない月なので使用人が休みたいと言ったら休ませないと罪になる。サーシャは彼と出かけないの? と聞くと
『二次元だけで十分です』
と言われた。
ユリウス様と妹さんの馬車が着いた。二人共馬車から降りてセバスに挨拶をしてるそして私の所に来て挨拶をした。妹さんもユリウス様と同じ銀髪で瞳はレイジェス様と同じ紫だった。レイジェス様より紫が濃いかもしれない。兄妹そろって美男美女だな~眼福! と思って見ていたらレイジェス様に呼ばれた。
「リア!」
「あ、失礼します、ユリウス様、クロエ様」
セバスがユリウス様の執事に話しかけ、ゲートの方へ案内する。私はレイジェス様の所に行った。
「どうしました?」
と聞くとレイジェス様がご機嫌ななめだ。
「リアが私の傍にいない」
私はレイジェス様の親指を握った。
「じゃあ、わたくしと一緒にセバスのお手伝いをします?」
親指を握ったまま連れて行こうとしたら握った親指を外されて抱き上げられた。
「リアは私といれば良い」
そう言って、玄関のゲートとは別にゲートを開いた。
それを見てユリウス様が驚いている。
「ゲート、北の城!」
レイジェス様と私はそのゲートを通って北の領地の城の中に出た。
そこには家令であるエドアルドが無表情で突っ立っている。
「迎えにきたぞ、エドアルド」
「ごきげんよう、旦那様、姫様」
「ごきげんよう、エドアルド」
私は挨拶をした。挨拶をしても能面のようにエドアルドは表情が変らない。
「今回は使用人が少なく、他の貴族家の執事達も来る。お前がそいつらを纏めろ」
「はっ」
胸に手を当ててお辞儀する。
「そういえば、リア」
「はい?」
「エリザベス様にも領地の城への招待状を出したのだが、父君であるカートラット侯爵様からお断りの手紙を頂いた。残念だったな」
レイジェス様が私の頭を撫でる。
いつのまにエリザベス様に? と私は目を丸くする。
「ありがとうございます、でも、シエラ様も来ますから楽しみです! うふっ」
私は笑った。エドアルドが荷物を持って来たのでゲートを3人で通った。
また公爵邸に戻るとコモン様の馬車が着いていたようで、中からコモン様とシエラ様が出てきた。
「レイジェス様、降ろして下さいませ」
レイジェス様は私を降ろしてからセバスを呼んで、エドアルドと3人で話を始めた。
「シエラ様~~! ごきげんよう!」
私は手を振った。ハンナ先生がいたら行儀が悪いと叱られるかも知れない。
走っていくとシエラ様が微笑んだ。
「ごきげんよう、アリア様」
きゃ~! と言ってお互いハイタッチで指を絡めあう。
そしてきゃあきゃあ言ってぴょんぴょん飛び廻る。
「シエラ、ここは危ないよ? あっちの広いところでね」
コモン様が馬車の傍から玄関のポーチの方に私達二人の背中を押し出した。
私とシエラ様は、きゃっきゃっしながら手をつないで玄関のポーチに行った。
「エリザベス様にもレイジェス様が招待状を出したのですけど、お父様がお断りになったそうです」
「あら、一緒にいらっしゃったら楽しかったでしょうに、残念ですわね」
シエラ様が残念そうに言った。
「次にお茶会をしたら、またずるいですわ? って言われそうですね」
私は笑った。
馬の足音が聞こえて、そちらに目を向けるとまた馬車が一台来ていた。
それを見てレイジェス様と話をしていたコモン様がこちらに来た。
「レイジェスに、先にゲートに行ってろって言われた。シエラ、俺達も行くよ?」
コモン様がシエラ様を抱き上げたので、私はシエラ様に手を振った。
「また、後でね!」
「ええ、後で!」
たった今到着した馬車から降りてきたのはレンブラント様とヒューイット様だった。私はとても驚いた。
ヒューイット様は来ないと思っていたから。
だって、レイジェス様に領地に来るなら蜜花を散らせとまで言われたのだ。
婚約しても1年以上許さず蜜花を守り続けたヒューイット様が来たということは、相当の決心が必要だっただろう。私が驚いているといつの間にか私の後ろにレイジェス様が立っていた。
「ヒューイットは来ないと思っていたが……来たか」
顎に手をやっている。レンブラント様とヒューイット様が一緒にこちらにやってきた。
レンブラント様がお辞儀をする。
「ごきげんよう、師長様、アリア様」
「ごきげんよう、レンブラント様」
「よく来た、レンブラント。荷物は使用人に持たせろ、セバス!」
セバスがオーティスに指示をしている。オーティスと、エドモンド、セバスも荷物を持ってゲートへ向かった。
「ごきげんよう、レイジェス様、アリア様」
ヒューイット様は鋭い目で私を見つめた。
「ごきげんよう、ヒューイット様」
怖いので淡々と挨拶をしておく。
「ふん、お前は来ないと思っていた。まぁ、前に言ったが、領地にくるならレンブラントと致して仲直りしろ」
「ええ、そのように致しますわ」
ヒューイット様がレイジェス様に微笑んだ。
それをレンブラント様が苦い顔で見る。
こんな状態で蜜花を散らして仲直りなんて出来るんだろうか? 私は無理じゃない? と思ってレイジェス様を見たけれど、何処吹く風だった。
レイジェス様が鈍すぎる。まぁ、男女の付き合いで付き合ったのは、私が初めてだから仕方ないか……と思いつつ、あれ? 私だって初めてレイジェス様と付き合ったじゃない! と、そこに気付いた。
レイジェス様は単に元から鈍いだけの人なのかも知れない。
「もう、お前達で最後だから、さっさとゲートをくぐれ!」
レイジェス様は二人の背中を押す。そして二人がゲートをくぐると私を抱き上げて抱きしめた。
「はあ……やっと二人っきりになれた」
私は困ったように苦笑いした。
「レイジェス様は甘えん坊さんですね」
そう言ってレイジェス様のおでこにキスをした。
本当にダメな大人だなぁ……。
領地に着くと、目の前に灰色の石で建てられた大きなお城があった。建物の端や奥に丸い塔が見える。建物の中央にある玄関の扉の横、少し上の方に、アルフォード公爵家の公爵旗とプリストン王国の国旗が飾られている。
玄関前にはポーチと階段があり、階段の手すりには鉢植えに植えられた花が両脇に飾られている。前庭には植木の迷路が見え、その周りには季節の花が咲き乱れている。あとであそこで鬼ごっこでもやったら面白いかも知れない。
「この、私が治めている領地の地方名はサウス=リーベ=チェルシーだ。ここの城はグレーロック城と呼ばれている。灰色の岩で建てられているのが、そう呼ばれている由縁だ。城の廻りは湖の堀で囲まれていて、その湖の廻りに城下町がある。街の名前はマドリードだ」
「ここからでは湖は見えませんね」
「ああ、塔に登れば全景が見える」
「ではあとで、塔に登ってみます」
「うむ」
玄関の大きな扉を開けるとそこには市松模様の大理石の床が広がっていた。中央より少し左寄りに2階へ続く階段がある。私はその階段を登らず真っ直ぐ続く市松模様の廊下を走ろうとして滑って尻餅をついた。
「はしゃぎすぎだ」
レイジェス様が渋い顔で言う。私は滑る靴を脱いで裸足になった。
「レイジェス様、これなら滑らないですよ?」
私は走り出した。初めてのお城、広い床、少し興奮してた。そういえば公爵家に初めて行った時もあちこち探検したっけ、と思い出す。
走っていると階段を降りてくるユリウス様と目が合った。
「こら! リア! 走ると心臓が!!」
「あははは! 捕まえてみて~! 鬼はレイジェス様ね!」
レイジェス様が追いかけて来て、ユリウス様も何故か一緒になって追いかけて来る。私はぱたぱたと裸足で走った。
長い廊下の右側に幾つもの外へ出る窓ガラスの扉があり、その一つが開いていた。窓ガラスからは芝生が見えていた。外に出て芝生の上を歩くと、ふわっとしていた足で踏むとじわっと湿った感じがする。その上をすたたたっと走る。中庭の真ん中に白い女神の像の噴水があって、そこの周りをくるりと走った。
「まて! リア! え?」
一緒に来たユリウス様が外に出る開いたドアの前で立ち止まった。
「なんだこれはっ!?」
二人が驚いたような声を出したのでどうしたのかと、そちらを見ると私の歩いた跡に花が生えていた。私の歩いた跡にそって薄桃色の芍薬に似た花が地面から生えている。
レイジェス様とユリウス様が一緒に中庭に入ってきて私の所に来た。
「リア、君は何をした!?」
レイジェス様が私を問い詰めるように言った。この花は歌ったり、ピレーネを弾いたときに出てくる花とは違うのかな? と思って指でつついた。
光の泡になって散る事は無かった。
と言うことは本物の花だ。
「何をやっている? どうしてこんなことになっている?」
レイジェス様が言うので困った。
「今、この花も消えるのかな? と思って触ってみたけど消えませんね」
「何を呑気な」
レイジェス様が少し怒った様に言う。
「これは多分、ユリウスの花だと思いますよ」
ユリウス様が言った。
「ユリウス様と同じ名前の花ですか?」
「ええ、薄い桃色の花で花びらが沢山あって地面から直接生えるんです」
「エリクサーの材料のうちの1つです」
「へ~物知りですね」
私は感心した。
エリクサーの材料だと聞いてレイジェス様の目の色が少し変わった。花を取って自分の空間収納に入れ始めた。それを見てユリウス様が私に聞く。
「アリア様を見ていましたが、ここを裸足で走っただけですよね? 他に何かしましたか?」
「いいえ? 何もしてないので、何をしたと言われて困っていた所です」
「ふむ、ではそこから一歩、歩いてください」
ユリウス様に言われたように歩いてみると足跡からユリウスの花が咲いた。
私は着衣の神呪でハイソックスとバレエシューズを履いた。
「これでもう一度歩いてみますね」
そう言ったあと、2歩、3歩と歩くが花は咲かない。ユリウス様がそれを見て言った。
「どうやら裸足で土の上を歩くとユリウスの花が咲くようですね」
「そうみたいですね、びっくりです」
そう言ったら少し驚いたようにユリウス様は言った。
「裸足で歩くとユリウスの花が咲く事を、知らなかったのですか?」
「ええ、だって、土の上を裸足で歩くとか、今まで考えてなかったですし、人前で裸足になるのも……ね?」
と言うとユリウス様は頷いた。
人前で裸足で歩くのは女性としてはブーな行為なのだ。ハンナ先生にばれたらお尻ぺんぺんされてしまう。
「まぁ、これからは裸足では歩きません。ついお城に興奮しちゃって」
「お城に興奮? お城が好きなんですか?」
ユリウス様が聞くので頷いた。
「お城で王子様とダンスとか、素敵ですよね~。あ、わたくしにはレイジェス様がいるので、王子様はレイジェス様ですけどね!」
そう話しているとレイジェス様がほくほく顔で戻ってきた。
「全部引っこ抜いてきた」
貴重な素材を採れたせいか機嫌がいい。
「ユリウスもいるか? まだそこに生えているのがあるから、持って行けばいい」
「ええ、じゃあここに咲いているのは頂きますね」
先程の一歩動いた時の花をユリウス様は優しく根ごと引き抜いた。
「アイテムバッグか収納袋はあるのか?」
「部屋にアイテムバッグがあるので一度部屋に置いてきますね」
「ああ、ではもう昼だから食堂に来るといい。中央階段の左下を通ってすぐ手前の部屋だ」
「はい、ではあとで」
ユリウス様は行った。そしてレイジェス様は顔を顰めて
「何を話していた?」
と聞いてくる。まぁ、いつもの事だけど。
殿方とお話しているとセバス相手にまで私に何を話していたか聞いてくる。
「裸足で歩いたのが原因で花が咲いたらしいです。なので、わたくしは、もう裸足で歩かないと決めました。という事を話しておりました」
「ふむ、それが良い。金の卵を沢山産むガチョウだと知られれば危険なだけだ」
「あのお花もお高いのですか?」
「エリクサーの材料だぞ? 1つ1億ギルくらいじゃないか?」
「はっ!? じゃあ、お花を4つ売ってレイジェス様に借金をお返します!」
「借金て……あの商会の箱の金は別に君に借金を負わせたわけではない、私の心配りだ。だから返さなくても良い」
「だって……」
「ではこう考えるといい。私はリアに箱を贈った。リアは私にユリウスの花を贈った。おあいこであろう?」
私は目を丸くして笑った。レイジェス様はそんな私を抱き上げた。
「食堂に行くぞ? もうみんな着ているかも知れぬ」
「はい」
私はレイジェス様の首に腕を絡めて抱きしめた。
中央階段左下の道を少し進むとドアがあり、そのドアを開けて更に進むと、空間があった。
ここは食堂に入る扉に続く空間で、右の方には小さな待合室があり、料理やお茶を待たなければいけない時、ここで待つためのスペースだった。4畳位の小さなスペースで、据え置き型の木製のL字型長椅子が置いてあり、薄い座布団の様なクッションが木製の長椅子に乗せてあった。落ち着いて話し合いをする為か、衝立代わりに大きな観葉植物が置いて有るので、ここで話をしていても観葉植物の陰になって食堂の扉の方からは見えない。
待合室から食堂への扉に向かい、その扉を開けると、そこは食堂だった。
食堂に行くとみんな揃って席に着いていた。
薄いグレーの壁に市松模様の大理石の床。テーブルは白い大理石で食堂の椅子は鮮やかなピンク色だった。端に金の縁取りがしてある。天井には大きなシャンデリアが2つ釣り下がっていた。
テーブルの奥、右からユリウス様、妹のクロエ様、ヒューイット様、レンブラント様となっていて、テーブルを挟んだ手前の席は一番右の席が2つあいていてその隣がシエラ様、コモン様が座っている。私はシエラ様の隣に座り、レイジェス様が一番右に座った。
席順はエドアルドが決めたとレイジェス様が小声で言った。
みんなが席についたところでカツカツと音を立ててエドアルドがやってきた。
「皆様、初めましての方もいるのでご挨拶致します。ごきげんよう、私はアルフォード公爵様の北の領地の城を管理している家令のエドアルド=ゼーゼマンでございます」
エドアルドは胸に手を充て優雅にお辞儀をした。
「皆様にこの城で楽しく過ごして頂く為に注意点をお話したいと思います。終春節ということもあり、使用人が大変少ないです。お客様である皆様にも負担をかけてしまうこともあるかも知れません。誠に申し訳ございません。では食事の事から。朝食は朝の6の刻から8の刻までに済ませて下さいませ。昼食は昼の12の刻から2の刻までに。夕食は夜の6の刻から8の刻までに」
エドアルドはクリップボードに挟んであるメモを確認しながら話していた。
「次はお風呂に関してです。こちらのお風呂の湯は全て温泉になっております。湯の質は美肌に良いと言われておりますので、美肌に興味のある女性はどうぞご利用くださいませ。このグレーロック城にはお風呂場が3つあります。小さい風呂が2つと大浴場が1つあります。小さい風呂は脱衣所は男女で分かれていません。カップルや親しい仲で入られるのに向いているお風呂です。こちらの方は大浴場の方と違って風呂水に消毒機能が付いていません。なので湯浴み着で入ったり、湯船にタオルを入れる等の行為は、ばい菌が増えるので止めて下さい」
皆うんうんと頷いている。
「大浴場は皆様が御利用するところなので湯浴み着か水着を着用して下さいませ。きちんと風呂水の消毒機能も付いてますので問題ありませんから。大浴場の脱衣所は男女別になっております」
エドアルドはまたクリップボードに目を通して続ける。
「小さい風呂は風呂の入り口に大きな立て札があります。その立て札に風呂の鍵が付いておりますので、入られる方は立て札を裏返して入浴中にし、脱衣所の内側から鍵を掛けてください。入浴後は鍵を元の位置に戻しておいてください。お風呂で緊急事態になったときは脱衣所にインターホンがあります。私とセバスに直通で繋がりますのでそちらをお使いください。次に、皆様のお泊りするお部屋の割り振りを言います。レイジェス様とアリア様は【北の棟、秋桜の間】、コモン様とシエラ様は【西の棟、薔薇の間】、ユリウス様とクロエ様は【北東の棟、百合の間】、レンブラント様とヒューイット様は【東の棟、牡丹の間】になります」
エドアルドは咳払いをした。
「使用人は南西の棟に男性の部屋があり、女性の部屋は南東になります。詳しくはセバスか私にまで問い合わせてくださいませ。あと、館内の服装についてですが、寝巻きでの館内の移動はおやめ下さい。せめて寝巻きの上にロングカーディガンやガウンなど羽織れるものをお願いします。部屋着はそのままでも大丈夫です。では説明は以上になります。食事が出来上がるまでまだ少し掛かる様ですので、自己紹介など始めると良いかも知れません」
エドアルドが言い終わると、セバスが皆にお茶を注いでいった。
普通の紅茶、みんな同じ紅茶だ。
「あ、いいですね~じゃあ自己紹介始めましょうよ? 誰からにします?」
ヒューイット様が楽しそうに言った。何故かあからさまにユリウス様が嫌な顔をした。苛立った様な顔をしたレンブラント様がヒューイット様に言った。
「師長様からに決まっているだろう? ささ、師長様、どうぞ」
「みんな私の事は知っているだろうが」
むすっとするレイジェス様にユリウス様の妹さんが言った。
「わたくしは公爵様のことを知りません。どうぞ自己紹介をして下さいませ?」
そう言って微笑む。めちゃめちゃ美人の笑顔だった……私負けた! 絶対この美人さんに顔で勝てる気がしない! 転生してから自分の顔を鏡で見て、ちょっと自分可愛いかも? なんて思っててすいません! 全然でした…。
てか、シエラ様にも見た目で負けてると思う。レイジェス様が可愛いというだけあって、シエラ様も見目が美しい。クリーム色の艶のある髪に水色の透き通った瞳。色素の薄い肌に薄桃に染まる健康的な頬や唇。目もぱっちりしていてお人形みたいだ。
そらコモン様も一目惚れするわ。
「そうか、君は私の事を知らなかったな。私はレイジェス=アルフォード公爵をしている、24歳だ。隣のリアは私の婚約者だ」
「趣味とか好きな食べ物とかも言ったほうがいいですよ? レイジェス様ぁ?」
ヒューイットが甘ったるい声を出して言うと、レイジェス様の眉間に皺が寄った。
「趣味は素材集め。たまにヴィオラも弾く。好きな食べ物はピレトスフロッグのから揚げだ」
と聞いて、私が今知った事実が1つ。
「レイジェス様ってヴィオラが弾けたんですか?」
「貴族は教養を持つようにと楽器を小さい頃から習わせられる。私はそれがヴィオラだった。ピレーネは弾けないぞ?」
「もう! 早く言ってくれたら一緒に演奏できたじゃないですか! 馬鹿馬鹿!」
レイジェス様の肩をぽこぽこ叩いた。
「こら」
レイジェス様がむっとする。その雰囲気を見たからか和らげようとユリウス様が言った。
「では次はアリア様ですね、どうぞ」
「アリア=アズライル8歳です、神籍です。今は歌とピレーネの女神の任に就いています。趣味は音楽で好きな食べ物はお寿司とトウミです」
と言った後に、じゃ、次はシエラ様どうぞ、とバトンタッチをする。
「わたくしはシエラ=リッツ8歳です。リッツ伯爵家の四女で、コモン様の婚約者でございます。趣味はレース編みと刺繍で好きな食べ物はオムライスとマシュマロです」
オムライス美味しいですよね~と私も言う。
シエラ様もバトンタッチでコモン様にどうぞ、と言った。
「俺はコモン=エルサレム25歳、次期伯爵だ。師長様であるレイジェスとは学生時代からの付き合いで、今は婚約者であるシエラ様に夢中だ。シエラ様を傷つける者は何人たりとも許さない! 趣味は魔道具作りで特許を幾つか持っている。好きな食べ物はロールキャベチってところかな」
コモン様は目の前に座っているレンブラント様にどうぞ、とその手を促すように出した。
そして咳払いを1つしてレンブラント様が自己紹介をする。
「私はレンブラント=フロンティーニ20歳だ。次期男爵である。隣にいるヒューイットは私の婚約者だ。もう1年も婚約状態なのでそろそろ身を固めたいと思っている。この旅行を機会にヒューイットともっと良い関係になりたい」
ユリウス様もクロエ様も何故か渋い顔をする。
まぁ、私はレイジェス様が言ってた蜜花を散らせよ! って言うのを聞いていたから、レンブラント様の言葉のもっと良い関係になりたいっていうのが、閨事系の話に聞こえてしまう。
う、大人の様に穢れた考えだ。
「趣味はダンス、踊るのが好きでよく舞踏会に行く。好きな食べ物は…食べ物ではないが酒が好きだ」
そして隣のヒューイット様にどうぞ、と手で促す。誰もヒューイット様の話を聞きたくないのかな? レイジェス様は無関心そうにテーブルの下で私の膝をなでなでしているし、ユリウス様とクロエ様は小声で二人で何やら話をしている、コモン様とシエラ様も二人でお話しているのでヒューイット様がイラ付いた。
「わたくしはヒューイット=アルフレッドソン16歳、男爵家の次女です。1年前に魔術師団に入りコモン様の補佐をしてまいりました。レンブラント様とはその際に親しくなり婚約を交わす事になりました。けれどわたくしは蜜花を許す気にはなれず、ずっとその花を守り続けました。ですが今回レイジェス様の命令でわたくしはこの蜜花を散らすのです! ああ……なんと酷い仕打ちでしょうか。ここまで守ってきたというのに……」
皆呆れていた。
そんなに嫌なら来なけりゃいいのにと、その場にいた全員が思っていたと思う。
レイジェス様は呆れて口が開いたままだ。
「仕方ないです、レイジェス様の命令ですから!」
ヒューイット様は健気に笑った……。なんか納得が行かない。
「ちなみに趣味は料理と手芸です。好きな食べ物はぁ……」
とレイジェス様を見る。って言うか、レイジェス様は食べ物じゃありません! 趣味が料理と手芸とかって絶対嘘だ。
貴族の女は料理なんてしないもの。
家庭的女のアピールですよね? これ? と突っ込みを入れたい私。
「うん、食べ物は内緒! ね」
とか言ってる。
ユリウス様が吐き気を催してるみたいだ。
クロエ様も何言ってんの? って顔をしてる。
レンブラント様はこめかみを押さえていた。
レイジェス様は相変わらず私の膝をなでなでしていてヒューイット様の話なんてまったく聞いてないようだ。ほんとにダメな大人だ。
そしてヒューイット様はクロエ様につぎどうぞ、と勧めない。美人過ぎて気に入らなかったか? どうしてだろ。しーんとしてたから、私が言った。
「次、クロエ様どうぞ」
と手を出して促す。そうするとレイジェス様がクロエ様を見た。レイジェス様を見るとちゃんと見ているようだ。やっぱり美人は目の保養だよね。
「皆様初めましてごきげんよう。いつもお兄様がお世話になっております、わたくしはクロエ=レーヴェン16歳、辺境伯爵家の長女でございます。田舎から王都に移って間もなく親しい方もおりません。皆様どうぞよろしく。趣味は読書で好きな食べ物は卵焼きです」
そしてユリウス様にどうぞと手を出し促す。
「私はユリウス=レーヴェン23歳、辺境伯爵です。最近ようやく王都での生活にも慣れてきました。趣味は狩りで、食べれる肉の獣を狙います。好きな食べ物は特にないですが、好きな歌手はアリア様です。コンサート、実に素晴らしかったですよ」
ユリウス様は微笑んだ。私は彼にぺこりとお辞儀をした。
みんなが挨拶をするとエドアルドがそれではお食事をお持ちいたします、と言って8人の使用人達で一気に食事を運んだ。
食事を終えたレイジェス様が着替えると部屋へ行った。私もまだ部屋に行ってないので部屋に行く事にしたら、皆さんもまだ部屋に行ってなかったようでそれぞれ自分の部屋にいく事になった。
私とレイジェス様のお部屋は北の棟なので食堂のある南西の棟からは結構遠い。お城が広すぎて歩いているときつい。はぁはぁ言ってるとレイジェス様が抱き上げてくれた。
「まったく君は、元気に走っていたかと思えば、ちょっと歩くのもやっとになったり……まったく目が離せないじゃないか」
「わざとじゃないですよ、何故着替えるのです?」
「アランと剣の稽古をしようかと、ローブでは動きにくいし、体が鈍っているからな」
「では、わたくしもアーリンと練習しようかしら?」
「無理して倒れるなよ?」
「大丈夫です」
北の棟の秋桜の間に着いた私は、その部屋の豪華さに驚いた。室内の壁は白い腰壁と廻縁が張られ壁紙は薄い桃色で統一されていた。そして床は白い床石を使っていて、絨毯はワインレッドで部屋の中央にあり、家具はみんな白い色だった。寝台は天蓋つきで薄い模様の無いレースの天蓋が寝台の4隅の柱に括り付けられている。
私がお部屋チェックをしているといつの間にかレイジェス様は着替えが終わっていた。
私はレイジェス様にドレスを脱がせて貰ってから神呪で冒険服に着替えをした。
下着も神呪で着衣した。
ドレスの上に神呪をかけると解除したときに元のドレスになるので、またドレスを脱ぐのが面倒だったからだ。解除すれば裸になるので、寝る時に楽ができると思ったわけだ。
私の冒険服は、白いスキッパー襟のシャツにベージュのチノパンツ。皮ベルトと薄いベージュのスカートが一体型になった巻きスカート。ベルトには木剣が携えられている。靴は編み上げが脱ぎ履き面倒なのでサイドゴアブーツを神呪で履いた。
「ドレスを着ていた場合、神呪をかけるとそのドレスはどうなるのだ?」
レイジェス様が腕を組んで言った。
「着ていたドレスがどこに消えているのかは分かりませんが、解除の呪文で元のドレス姿になります。だから解除した時に面倒じゃないようにドレスを脱いでから神呪をかけているのです」
「こうすれば解除した時にすっぽんぽんですからね、楽です」
「ほぉ」
「ちなみに解除しなければ二日目に元のドレス姿に戻ります」
「ふむ」
じゃあ、行きましょう、と言って私はレイジェス様の親指を握った。
手を繋ぐより握りやすいからだ。
0
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