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第三章
15君と私二人だけ
しおりを挟むユリウス様と食堂で話したあと、私は迎えに来たアーリン、アラン、ハンスと一緒に大広間へ向かった。扉に近づくとヴイオラの音色が響いていた。
綺麗なきちんとした粒のある音で、これを弾いているのがレイジェス様なんだと思うと嬉しくなった。
私は扉を開けて演奏の邪魔にならないように、抜き足差し足で壁際の長椅子に座った。アーリンとアランは普通に歩いて来ているけど、足音がとても静かだった。ハンスは普通に何も気にしない様子で歩いていた。
レイジェス様が一曲弾き終わったので私は拍手した。ぱちぱちぱち。
ふぃっとこちらを見る。
「あ、聞いていたのか」
「レイジェス様、凄くお上手です。わたくしびっくりいたしました」
「暫く振りすぎてうまく指が動かないがな」
「いいえ、音の粒が揃っていて素敵でしたよ」
私は微笑んだ。
「では、一緒に演奏するか」
「ええ、しましょしましょ!」
ギィッと大広間の扉が開いた。
「あ、やっぱりここにいたな! レイジェス」
「ごきげんよう、皆様」
コモン様とシエラ様が来た。
「ごきげんよう、シエラ様、コモン様」
私は軽く会釈をした。
「今のヴイオラはレイジェスが弾いていたのか?」
コモン様が目を丸くしている。
「貴族なのだから楽器の一つくらい弾けて当たり前だろ?」
「俺は楽器の練習はサボっていたからほぼ出来ないな!」
わっはっははと笑うコモン様。シエラ様は苦笑してそれを見ている。
「今からリアと演奏する、良かったら聞くか?」
「ああ、じゃあ、俺達は壁際の椅子に座って聴くよ」
コモン様は近くの長椅子を親指で指差した。
コモン様とシエラ様は二人仲良く長椅子に座り、アーリンとアランは二人して壁際で立ったままでいる。肖像画家のハンスも大広間にやってきて椅子に座っている。
「では、【アメシストの瞳】と【ラララ歌おう】を弾こうか?」
「えっ!? レイジェス様、いつ覚えたんですか?」
「まぁ、CDを何回も聴いたしな。あっという間に覚えた」
「あれ? CDは完売しましたけど、レイジェス様に売った記憶がないのですが……?」
「よく考えよ、あの曲を円盤CD化作業をしたのは私だぞ? 手間賃として誰よりも先に1枚貰っても罰は当たるまい?」
レイジェス様はそう言って、爽やかににっこりした。
私はくすりと笑った。
「では、アメシストの瞳から演奏しましょうか」
「承知した」
アメシストの瞳は前奏がヴィオラのソロパートから始まる。
レイジェス様が先に弾き始め、私は前奏の途中からピレーネで入る。
そして私の歌声が重なって空からプルメリアの花が舞い落ちる。白い花、薄い桃色の花、その中に薄い水色のプルメリアも混じっていた。その水色のプルメリアの花びらがレイジェス様の頭の上にふわりと舞い降りて光の泡になって消えた。
レイジェス様は音色に動かされながらも、私を見つめながらヴィオラを弾いている。私は嬉しくなって心の赴くままに鍵盤に指を走らせた。
すると光の粒の渦がレイジェス様に飛んで行き、彼の周りをくるくると廻って泡のように消えていく。
レイジェス様はその様子を楽しんでいる様で、微笑みながらヴィオラを弾いていた。
体ではひとつになれないけど、……音楽はそんなことなど関係なく、ひとつにしてくれる。音が交わり溶けて行く。
光の粒が花を包み、辺り一面きらきら輝いていた。
2曲目はヴィオラのソロパートで終わる。私は一足先に弾き終えてレイジェス様を見つめていた。レイジェス様が弾き終わると拍手の音が聞こえた。
私はレイジェス様の隣にとととっと近寄りドレスの端を持って皆様に向かって淑女のお辞儀をした。
「やっぱり君の曲はとても素敵だ」
レイジェス様が満面の笑みで言った。
私はレイジェス様の笑顔を見て嬉しくて顔がにまにましてしまった。
「とても素晴らしかったですわ!」
シエラ様がまだ拍手している。コモン様とアーリン、アランは呆然としていた。
ハンスは必死にデッサンを描いていて、ユリウス様は少し寂しそうに微笑んでいた。
昼食を一緒に食べ終えると、レイジェス様は昼の1の刻から仕事が入っていると言う。
「お仕事って?」
「終春節の終わりの週にやる【灯篭飛ばし】の祭りの打ち合わせで町長と会うことになっている」
「へ~そんなお祭りあるんですね」
「この【灯篭飛ばし】の祭りで灯篭を一緒に飛ばした恋人同士は永遠に結ばれるという言い伝えがあって、近隣の町からも若い恋人同士がこの祭りを目当てにマドリードにやってくる」
「へ~」
「私はその祭りで危険が無いように結界を張らねばならない、その打ち合わせだ」
「なんだかロマンティックなお祭りですね」
「確かにリアが好きそうだな、夜空に舞い上がる灯篭は綺麗だぞ」
「当日は灯篭を一緒に飛ばしましょう? レイジェス様?」
「ああ、当然そのつもりでいる」
私は笑って「いってらっしゃいませ」と言った。
私は秋桜の間にいた。そしてアーリンとアラン、肖像画家のハンスが部屋に立っている。
「ねぇ? 皆さん、わたくし暇なのでお城を探検します」
「「「え?」」」
「だから、皆さんわたくしから逸れない様に付いて来てくださいませ?」
私はにっこり笑ってダッシュした!
「ま、お待ち下さい! 姫様!!」
アーリンが叫んだ。
「あははっ! アーリンは足が速いから10数えてから来てね!」
「そんな訳には行きません!!」
アーリンが走って追いかけてきた。
私はキントーン!と叫んで雲に座って移動する。
これ、めっちゃ早いのです。
「姫様、それはずるいだろっ!!」
アランが追っかけてきて叫ぶ。
私はキントーンで3階から2階に一気に降りた。
ハンスがはぁはぁ言いながら階段を降りているのが見える。
私は2階の扉のある部屋を端から開けていく。最初の部屋は客室っぽかった。
使ってない家具に白い大きな布が掛けてある、入ってみてもなにもないのでつまらない。すぐに出て次の部屋の扉を開けた。
そこはさっきよりも広い部屋で、沢山の人物画が飾られていた。中でアーチ状の垂れ壁になって部屋が二つに分かれている。
奥の方の部屋にも行ってみると、やはり壁に沢山の絵が飾られている。どれも人物画だ。
そしてその部屋の一角の壁に、天鵞絨の柘榴色の大きなカーテンが掛けられていた。私はそこの場所が気になって、その両開きのカーテンを開いた。
そこには中央に濃藍色髪で真紅の瞳の美しい女性が椅子に座って、その左隣に伯林青色の貴族服を着た銀髪で青い目をした青年が立っている絵が隠されるように飾られていた。
その薄い蜂蜜色のドレスを纏った美しい女性の顔を見て私は驚いた。
レイジェス様にそっくりだったからだ。男の人もよく見るとレイジェス様に雰囲気が似ている。もしかして、この絵はレイジェス様のご両親なのかも知れない。
私はレイジェス様の髪色が黒いから、てっきり両親も黒髪なのかと思っていたけど、よくよくこの世界を考えてみると色取りどりの髪色があるのに、今まで見た黒髪の人はレイジェス様だけだったことに気付く。
もしかして、この世界では黒髪は珍しいのかな?
そして、この絵が隠されるように飾られていることを不思議に思う。
レイジェス様のご両親なら先代の公爵様になるんだから、こんな風に隠さないで、お城の見栄えの良い所にドン! と飾るだろうと思ったからだ。
……何か理由があるのかなぁ? と考えていると私を探すハンスの声がした。
「姫様ぁ~? どこですか? 姫様がいないと私の絵が完成しないじゃないですかっ!」
ハンスの少し怒っているような声が聞こえて、私はこの部屋の扉に耳を付ける。
ハンスもアーリンもアランも皆の声が遠くなったので、そっと扉を開いて中庭沿いのベランダ廊下に出た。そして真っ直ぐ中庭ベランダ廊下を歩いてから左の角を曲がる。この位置は東の棟かな? 曲がった先にも扉があるのでがちゃがちゃドアノブを回しまくるけれど開いたのは奥の一ヶ所だけだった。
取りあえず開いたのでその部屋に入ってみる。
この部屋は図書室だった。タウンハウスのお屋敷の図書室より倍ぐらい広い。
どんな本があるんだろ? そう思ってざっと見て歩いた。この領地の郷土関係の歴史本が沢山あった。その他にも郷土関係の伝承、物語、料理本など。あとは鉱石とか採掘についての本や農作物の育て方やお酒の造り方の本もあった。そして私が気になったコーナー。
神様関係の本が置いてある。図書室の一番奥の棚でその棚上から下までが神様関係の本で埋められていた。神話の本が多い。その棚の中央にある一冊を何気なく取って見た。
【ファティマの懺悔】という題名の本だった。表紙張りは深緑の光沢のある紙で縁と背表紙に金の線が入っている。あちこち擦れて背表紙の角や表紙の角、裏の角も擦れて下地が剥げて見える個所が幾つもあった。私はその本を開きもせずにまた元の場所に戻そうとして気付いた。
棚の奥にオルゴールの螺子のようなつまみがあることに。
「……なんだろう?」
私は右手を棚の奥に突っ込んでその螺子を右に捻ってみた。するとゴゴゴゴゴッという重い音を立てて、本棚全体が右にずれて今まで棚が合った所に扉が現れた。
その扉は羽板の引き戸になっていた。私が好奇心に押されて、その引き戸を引いて開けるとそこには下に向かう細長い急な階段があった。大人一人分くらいの細い道なので私が通るには余裕だけれども、太っている人は通れないかも知れない。
私はその階段を降りることにした。
「……隠し扉から行ける、隠し部屋?」
長い階段を降りていくと、四方が石壁で出来ている、冷えた廊下の様な所に着いた。幅が1メートル位の細い廊下の前に扉があった。扉は鉄の扉で、窓には鉄棒が5本嵌っていた。
「もしかして、ここは牢屋? ……お城だから有ってもおかしくないか、昔はお城って戦争に使われていたのよね? 捕虜とかここに入れていたのかな?」
私は開くはずなんてないか、と思いつつもドアノブを握って回していた。
ガチャリと重たい扉の開く音が聞こえた。
「開いてる……」
中に入ってみるとそこには鉄パイプで出来た簡素な寝台と多分簡易トイレ、X字型の磔台があり、壁には鞭が何種類か掛けてあった。
「……これは捕虜収容所って言うよりSM部屋?」
よく見ると鉄パイプで出来た寝台には鎖が繋がっていて、その先には金属で出来た手枷が付いていた。それが二つ寝台に付いている。足用と手用かな?
なんでこんな部屋がお城にあるんだろう……?
私はなんだか見てはいけないものを見てしまったような気分になった。そして足早にこの石壁の部屋を出て階段を登った。
本棚の螺子を今度は左に回すとゴゴゴゴゴゴッと音を立てて本棚は元の位置にぴたりと戻った。私は抜いた本、【ファティマの懺悔】を元の位置に戻した。
この部屋の事は私の心の中に留めて置こう、そう思った。
「姫様発見!! アラン! ハンス! 見つけたわよ!!」
「あ!」
アーリンが私を見つけてぎゅうううっと抱きしめた。
「もう逃がしませんからね?」
ほっぺたをすりすりされる。アーリンてば、最近スキンシップが激しすぎる。
アーリンの呼びかけでアランとハンスも来てしまった。
「心の臓が弱いって聞いてたわりにちょこまか逃げるな? 姫様は」
アランが呆れている。ハンスは相変わらず一心不乱にデッサンをしている。
「えへへ~」
「えへへ~じゃないですよ? 姫様! あんな風に逃げられては護衛できません!レンブラント様が野放しなんですからね? お気をつけ下さい!!」
「はぁい、ごめんなさいアーリン、お城を探検したくなっちゃって」
「まぁ、こんな広い城だからな? 遊びたくもなるわな、姫様も」
「そぅそぅ」
と私が言うとアーリンがアランを睨んだ。
「アラン兄さん!? 納得してどうするんです! 何かあってからでは遅いんですよ!?」
「姫様、満足したか?」
「ええ、お部屋に戻って大人しくするわ?」
「その方が捗ります!」
ハンスがほっとした様に言った。
私は3人に連行されて秋桜の間に戻った。
部屋に戻るとセバスがいて、お茶を入れてくれた。
「なんだか先程アーリンの叫び声が庭から聞こえましたが?」
お茶を入れながら眼鏡の端をくいっと上げるセバス。
私はセバスにじろりと睨まれ縮こまった。
「まさか、護衛から離れたりなんて致してませんよね? 姫様」
セバスの顔が笑ってるのに怖い。
「ううぅ、だ、大丈夫ですよ? いい子にしていましたよ?」
笑って誤魔化すが一緒にいた3人に薄い目で見られる。
「え、っとあ、そうそう、レイジェス様はまだまだお帰りにならないのですか?」
時間はもう夜の6の刻になろうとしていた。
「夕食は城で取るとおっしゃってましたから、そろそろ戻られると思いますよ?」
「ではそろそろ、わたくしも食堂に行きますね」
おほほほと食堂へ向かう私。その後ろにぴったりとセバスと3人が付いて来る。
なんだか常に人が付いて来るのって落ち着かない。
食堂で紅茶を飲んでいるとレイジェス様が食堂に入って来た。
「部屋に直接帰ったが君がいなかった、やはりここか」
「お帰りなさいませ!」
私は笑顔でレイジェス様を迎えた。
ハンスは私の左隣に丸椅子を置いてずっとデッサンをしていて、アーリンとアランは私の後ろで立っている。
「これからは私がリアに付く、アランとアーリンは夕食を済ませてくるといい」
「え、ハンスはこのままなのですか?」
私が聞くとレイジェス様は困った顔をした。
「こいつは夕食に行けと言っても行かない。創作活動に入るといつもこんな感じだ。エドアルド、何か手に持って食べれる物を用意してやってくれ」
エドアルドが厨房に消えてレイジェス様が私の右隣に座った。
「わたくしもこれから夕食なのです。打ち合わせはどうでしたか?」
「毎年そんなに変らない、人数も去年と同じで近隣の町から来るのは千人前後だ」
「えっ、そんなに来るのですか?」
「ああ、こんな田舎にしては集まる人数が多い、街の人口が4千人と少しだから全部合わせると五千個前後位の灯篭が夜空を飛ぶ事になる。圧巻だぞ?」
「凄そうですね! 今から楽しみです!」
話しているとエドアルドとサーシャが料理を持って来て、レイジェス様と私に出した。ハンスには袋入りのサンドイッチが渡されてそのままむしゃむしゃ食べながら絵を描いている。
「レイジェス様、あの……」
話しかけた所でコモン様とシエラ様が食堂に入って来た。
あの絵画の部屋にあったご両親? の絵の事を聞こうとしていたけど言葉が途切れた。
「やぁ、レイジェス」
「うむ、どうしたコモン、機嫌がいいな?」
「え? ああ、そりゃシエラがずっと俺の傍にいるからね。毎日目覚めたら隣にいるなんて最高だ!」
爽やかな笑顔で言っているのをシエラ様が聞いて顔を真っ赤にしている。
私は食事を終えてごちそうさまをした。食後のお茶を飲んでいるとコモン様がシエラ様をお風呂に誘っていて二人で一緒に行く事になっていた。
内心少し驚いていた私だけど、シエラ様は隣に座っているのでそのお顔を見た所、全然問題無さそうだった。楽しそうにしていた。
「コモン達はどちらの風呂に入るんだ? 西か東か?」
「ああ、俺達の部屋の薔薇の間は西の棟だから西の棟の風呂に入るつもりでいる」
「そうか、では私達は東の棟の風呂に入るか?」
「そうですね、東のお風呂はまだ入ってませんし、そちらに行きましょう」
私は席を立って部屋に戻った。その後ろをレイジェス様が付いて来る。
部屋に戻ってお風呂の準備をしているとレイジェス様が私に言った。
「リアの様子がおかしいと思うのは私の気のせいか?」
「……わたくしおかしいですか?」
「うまく言えないがなんとなく?」
私は引っかかっていた絵画の事を言った。
「……今日お城を探検していて絵画の部屋に入り込んだのですけど、カーテンに隠されていた絵画があって、それに描かれている人達がレイジェス様にそっくりだったのです」
レイジェス様は思ってもみなかった事を言われたようで少し戸惑った顔をした。
そして長椅子に座り私を呼んだ。私がレイジェス様の所に行くとひょいっと抱き上げられて膝に乗せられた。
「……あの絵画をカーテンの下に隠したのは私だ」
私は目を見開いた。
「……あれは御両親の絵画なのですよね?」
「ああ、……リアには話しておいた方がいいのかも知れないな。聞いてくれるか?」
「ええ」
「……ある所に愛し合う二人の男女がいた、二人は惹かれ合い結婚した。男の方は公爵家の跡継ぎで、男の両親は嫁いできた女に早く【跡継ぎを】と迫った。女は次第に男に愛し合うことではなく【子作り】を要求するようになった。それを男は負担に思った。男は愛し合った女から逃げて別に女を作った。そして別の女との間に子供が出来た。男はその女を放って置くことが出来ず、その女を第二夫人として屋敷に迎えた」
ん? これってレイジェス様の話だよね? レイジェス様がまだ生まれて無いのに、第二夫人に子供? じゃあ、レイジェス様には異母兄がいるって事?
「第一夫人になった最初の女は跡継ぎが出来た事で精神的負担が減ったのか優しい雰囲気に戻り、男はその女との愛を思い出した。二人の愛は再燃した。そしてやっと子供が生まれた。けれどその子は誰とも遺伝子が違う【黒髪】の持ち主だった……男は女の浮気を疑った。女は疑われた事と何故そのような子供が生まれたのかわからず、精神の病に罹った。その女は子供を愛さなかった。自分の子を悪魔だと思っていた。父親である男も生まれた子供を自分の子と信じる事が出来なかった。そして、ある日女は毒を飲んで死んだ……母上が亡くなったのは私が10歳の時だった」
レイジェス様はゆっくり、淡々とその話しをした。
その顔は辛そうで、私はこんな話をするんじゃ無かったと、少し後悔していた。
「……生まれた黒髪の子供は私だ」
「……でも、レイジェス様はお母様にそっくりでしたし、お父様とも雰囲気が似てましたよ……そんな浮気をして出来た子供とは思えません、お二人の子ですよ」
レイジェス様は私を見て寂しそうに笑った。
「私が16の時に父が亡くなった。その時、父上に謝られた。そして【お前は間違いなく私の子だフォスティーヌには悪い事をした】と言って亡くなったのが最後の言葉だった。父も母も愛し合っていたはずなのに、お互いを信じられず傷つけ合ってその人生を終えた。私も長い事傷ついていた。母に疎まれ、父にも疎まれていたからな……」
「レイジェス様……」
「だから、あの二人の姿を見たくなかったから、私がカーテンで隠した。誰にも愛されていず、必要とされていなかった事を思い出したくなかった」
「そんな……」
私はレイジェス様の両脇に手を入れて、ぎゅっと抱きしめた。
そんなに悲しいことを言わないで欲しい。
「ここに、わたくしがいますよ」
レイジェス様は私の頭を撫でた。
「私が18の時、母上の浮気は父上の誤解だと、母方の伯母上はずっと調べていてくれたらしく、伯母上がある日、古い小さな肖像画を持ってきた。そこには黒髪の男が描かれていた。調べると母方のかなり昔の代の公爵様本人の肖像画だということが分かった。黒髪の系図は母方からだと分かって親戚筋皆が安心した。私もな。それからは親戚筋の嫌がらせも無くなった」
「嫌がらせ?」
「黒髪は嫌われる。昔、……と言っても千年も昔の話だが、イニアスという残酷な黒髪の魔王がいて、世界を恐怖に陥れた。殺戮を繰り返し、人族は二桁台まで人口が減ったそうだ。その話は物語にもなっていて、実際、黒髪は魔力が通常よりも強いせいもあり、忌み嫌われる存在になった。魔王イニアスの再来と呼ばれてな」
「そんなのレイジェス様に全然関係ないじゃないですか!」
「親戚筋にそういった者がいるというだけで恐ろしかったんだろう」
黒髪にそんな因縁があるとは想ってもみなかった。
私が黒髪なのにそんな酷い扱いを受けないのは何でだろう? あ、もしかして半神で神籍を持っているからかも知れない。
世間の人が黒髪に偏見があるのは分かった。
「この世界では黒髪って珍しいのですか?」
私は思っていた疑問をぶつけてみた。
まだレイジェス様以外に黒髪の人を見た事がないからだ。
レイジェス様は目を見開いてから優しく微笑んだ。
「たぶん、この世に君と私、二人だけだろうな」
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