魔術師長様はご機嫌ななめ

鷹月 檻

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第四章

2 砕け散る日常

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「では行ってくる」
「いってらっしゃいませ!」

 タウンハウスのお屋敷に戻ってもう二日が経った。
レイジェス様もお仕事が始まり、お城に出仕している。
今日もレイジェス様をお見送りをした。いつもの日常が戻って来た感じがする。

「姫様、本日は10の刻からマナー教養のお時間です、忘れずに学習室にお願いしますよ?」
「ええ、分かっているわ。ねぇ、それが終わったら昼食を早めに取って、商会に行きたいの。馬車を出して下さる?」
「承知しました」

 セバスは玄関から早々に消えた。
私はお茶でも飲もうかしら? と思い食堂に行くとエドアルドとオーティスが話をしていた。

「そういう事でお願いしますね?」
「承知しました、エドアルド様」
「良い返事です」

 気のせいかな? エドアルドが微笑んでる様に見えるのは……。

「姫様、どうされました? ぼ~っとしているようですが?」
「あ、いえ、何でも無いの。お茶を飲みに来たのですけどいいかしら?」
「承知しました」

 エドアルドがそう言うと、オーティスが厨房に消えた。
実はタウンハウスのお屋敷に戻って来たと同時に新しい使用人が二名来た。
一人は北の領地の城で働いていた男の子でローレンス=クロフォード15歳、薄い黄緑の髪と青い目をしている、きりっとした顔つきの男らしい感じの少年だ。
ローレンスはフットマンとして働く事になって、オーティスは客室係となった。
これって一応レベルアップらしい。そうそう、リリーも【側仕え見習い】だったけど、いつの間にか【側仕え】になっていて、お給料も上がっているんだそうな。
そしてもう一人は意外な事にマドリードの町長の娘、キャロル=ファーナービーだ。
あの子は平民なので下働きとして働くらしい。
そして、エドアルドが何故この屋敷にいるのかと言うと……その北領地から来た子とキャロルの指導の為らしい。
一週間ほどで北の領地に戻ると言っていた。

 暫くするとオーティスがお茶セットをワゴンに乗せて持ってきた。エドアルドがオーティスに説明しながらお茶を入れている。オーティスは素直にうんうんと頷いて、エドアルドが注いだお茶を私に差し出した。一緒に小さく切ったトウミも小皿に乗せて置かれた。
熱くてすぐには飲めないので私は冷ますためにオーティスに話し掛ける。

「そういえば、オーティスは彼と旅行に行ったのよね? どうでした?」
「え? ……え~っと……実は言いにくいのですが、彼とは別れてしまいました」
「ええっ!? どうして?」
「まぁ、私が好きになった方は家庭持ちの方でしたから……奥様にばれてしまって、別れてくれと言われてしまって……」
「そんな事とは知らなくて……ごめんなさい、オーティス」
「いいんですよ! 結構時間が経って吹っ切れてきましたし、次はもっと良い人を探します!」

 オーティスが明るい笑顔で言うとエドアルドが言った。

「じゃあ、私と付き合えばいい」
「はぁっ!?」

 オーティスが驚いて変な声を出した。

「私はどうやらあなたの顔が気に入った様です。私でしたら家庭も持ってないですし、仕事も教えられますよ? あ、そうそう給料もそこそこ良いです。養って上げますよ?」

 そんな口説き文句を言ってる割に、エドアルドは相変わらず無表情だった。
そのせいかオーティスはエドアルドが冗談を言っているのか、本気で言っているのか分かりかねている。

「ねぇねぇ、エドアルド、それって本気なの?」

 私が聞くとエドアルドは言った。

「ええ、もちろん本気です。私は冗談が好きではありませんからね」

 うわ~本気だって、どうするんだぁ? と思ってオーティスを見ると凄く顔を真っ赤にしていた。

「わ、私は他にも仕事がありますので、し、失礼します!」

 走って食堂から出て行ってしまった。

「ねぇ、エドアルド?」
「どうしました? 姫様」
「二人が付き合うとしたら、エドアルドは北領地でしょ? オーティスはここになるし、遠くないですか? 遠距離恋愛ではないですか」
「ふむ、ではオーティスを北領地で貰い受けましょうか? そして別の者をこちらにするというのは?」
「トレードもいいのですけど、オーティスには私の魅了が効かないから安心してお話とか出来たんですけどね~」
「大丈夫ですよ、姫様。今回こちらで働く事になったローレンスも男色ですから」
「へ~……エドアルドはローレンスには手を出してないの?」
「姫様、失礼ですが、私をそんな手の早い男の様に言うのは止めて下さい?」

 じろりと睨まれた。

「オーティスを貰うつもりなら、もう一人欲しい所ですね、まぁ…オーティスが北に行きたいと言ったら許可するけど……」
「けど?」
「エドアルド、今の様子では無理っぽい気がしますわ?」
「まぁ……口説き落とすには時間がかかるでしょうね…」
「無理矢理なんてやめてね?」
「当たり前です、そんな事致しませんから。まったく、姫様は私の人間性を相当疑っていますね?」

 正直言うとエドアルドは無表情過ぎて、何考えているのか全く読めない上に、顔が整いすぎて無表情だと逆に怖い。サーシャは美麗だぁ、とか言ってたけどね。
悪い人では無いのは話せば分かるんだけどなぁ……。
私は紅茶を飲み終えると図書室に行ってマナー教養の時間になるまで本を読んだ。
そのあと久しぶりにハンナ先生に会って色々話しながら教えを受けた。
今日は姿勢の悪さから、背中に竹製の物差しを突っ込まれて、そのまま色々な所作をした。1刻位でマナー教養の講習は終わり、私は早めの昼食を取った。
そして今、アーリン、リリーと共に、馬車にいる。二人は護衛だ。
アランが諜報任務に戻ったのでリリーが付いて来てくれることになった。

「そういえば、姫様、商会に伺う時は男子になるとお約束していたのでは?」

 アーリンが言ったので、はっ! とした。私はまだ男の子になっていなかった。

「教えてくれてありがとう、忘れる所でしたわ?」

 私は神呪を唱えて男子になった。

「姫様は男子になっても可愛らしいですが、ドレスのままでよろしいのでしょうか? 男子用の服も作らせた方が良いと思うのですが?」

 リリーがそう言って上から下まで私をじ~っと見る。

「まだ、そんなに成長してないから、ドレスでも変に見えないわよね?」
「ええ、全然違和感が無いです」

 リリーが微笑んだ。

「洋服を作るとお金が掛かりますしね~神呪でちょちょっとすればタダなので、それでいいかな~? と思うのですけど……」
「きちんと作られた方が旦那様がお喜びになると思うのですけどねぇ…姫様の貧乏性には困ったものです……」

 リリーが頬に手を充て呆れていた。
話しているとアルマ通りの脇道まで来た。ここから先は馬車では行けない。
私達は馬車を降りて商会へ向かった。

「ん?」

 ふいにアーリンが声を出した。

「どうしたの? アーリン」
「……いえ、今、視線を感じたのですが……」

 辺りを見回すアーリン、リリーも警戒して一緒に辺りを見回す。

「怪しそうな者は誰もいませんね…」

 アーリンが納得いかなそうに言った。

「警戒するに越した事は無いわ」

 リリーも険しい顔で言った。
私は二人に手を繋がれて商会へ向かった。

「やっとこっちに戻って来たのね~!」

 ルイーズ様が私にガシッと抱きついて来て、大きな胸がぼよんぼよんと私に当たった。これは……アーリンより確実にでかい。
私はルイーズ様に応接室に通されて、砂糖工場の現地調査の日程調整や、流星祭のコンサートについて話していた。砂糖の現地調査はレイジェス様も付いて行くと言っていたので週末になるだろうと話をして、流星祭のコンサートについてはまだ考え中だと言うと6月半ばなのでさっさと返事を欲しいとルイーズ様に怒られた。
他にはリンス工場の新設の話しと工場見学の話しが出た。そっちは急ぎじゃないからいつでもいいと言われた。

 私は話を終えて挨拶をして商会を出た。ここから馬車の所まで200メートル位か、アーリンとリリーと一緒にてくてく歩いていると前からクロエ様が歩いて来た。

「アリア様~!」

 私に手を振るクロエ様に、私はぺこりと会釈をした。クロエ様が走って近づいて来て、お久しぶりね、と言って私の手を取ろうとした。
握手? と思って私も手を出そうとしたら、アーリンがクロエ様の手首をがっちり掴んだ。

「姫様に触れるな!」

 アーリンが凄い大きな声で怒鳴って、空気がビリビリとした。
私が驚いているとリリーが私の手を掴んで後方に下がった。
クロエ様はアーリンを振りほどき、自分の両手を合わせてゆっくり引き離し、掌からレイピアを出した。
その柄をぎゅっと握って、アーリンに素早く刺突した。
それをサッと避けるアーリン。

「あら、貴方意外と動きが早いのね?」

 クロエ様がふふふふっと笑いながら滑らかに細い剣をアーリンに打ち込む。

「リリー! 姫様を連れて商会へ入れっ!!」

 リリーが私の手を引いて商会に行こうと後ろを向くとそこにはオリオンがいた。

「おっと、ここを通す訳には行きません」

 オリオンが胸ポケットから小さな杖を出し呪文を唱え始めた。
リリーが自分のスカートを勢い良く捲りあげると太ももに皮のベルトが仕込んであり、そこには短銃が携えられていた。
それを素早く取って、オリオンをパン!パン!と打つ。

「そうそう魔術師野郎にやられてたまるかああああっ! マジックプロテクト! エアシールド!」

 リリーが銃を打ちながら叫んで術式を展開する。
オリオンもエアシールドを展開してリリーの銃を防いだ。

「なかなかやるな……?」

 私はただおろおろしてリリーに手を握られている。
アーリンと戦っているクロエ様に私は叫んだ。

「どうして! ……クロエ様!」

 クロエ様とアーリンは激しく剣の打ち合いをしている。
私の言葉を聞いているのか分からない。
リリーが弾切れを起こしていた時だった。ひゅっとオリオンがその身一つで踏み込んできた。ゴッ! と鈍い音がしてリリーが地べたに倒れた。
左の頬を殴られた様だった。
私の手はリリーと離れて、私がリリーの所へ寄ろうとした時だった。
後ろから私の手が握られて、私は振り向いた。
そこにはユリウス様が私の手を握って立っていた。

「……ユリウス様?」

 ユリウス様はしゃがんで私の両肩を掴んだ。

『貴方を迎えに来ました。アリア様』

 アーリンがリリーが倒された事に気付いて私に駆け寄ってきた。

『止まれ、アーリン』

「……!? ……貴様! 私に何をした!?」

『お前はそこでじっとしていろ。リリーもな』

 何? どうしちゃったの? アーリンが急にじっとして動かなくなった。
悔しそうな顔をしたまま……。それはリリーも同じで、地べたにうずくまったまま私を見ている。私は不安になってユリウス様を見上げた。

『大丈夫ですよ、あなたは私の花嫁になるのです。ほら、私の手を取って? 私の国へ行きましょう?』

 花嫁!? ユリウス様は何を言っているの!?

「姫様! 行ってはダメですっ!!」

 リリーが地べたに這いつくばって私に手を伸ばそうとして、でもできなくて歯を食いしばって何かに抗っていた。
私は行きたくない! リリーの手を取りたいのに、体は言う事を聞かなくて、ユリウス様の手に私は手を乗せた。

『ゲート! ワイアット皇国へ!』

 ユリウス様が手を掲げるとそこには暗い空間がゆらめいた。レイジェス様と同じ、無属性空間魔法をユリウス様も使えたのだ。
アーリンとリリーが驚愕している。

「姫様ぁああっ!!」

 アーリンが叫んだ。

「目を覚ましてえええっ!!」

 リリーの叫び声も聞こえた。
私がぴくりと肩を震わせると、ユリウス様は私を抱き上げた。

「行くぞ! オリオン、クロエ!」
「「はっ」」

 私はユリウス様に抱き上げられ、連れて行かれた。

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