魔術師長様はご機嫌ななめ

鷹月 檻

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第四章

1 プロローグ 機械人形視点

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 私は機械人形オートマタ、名前は無い。
私はこの【混沌の狭間】と呼ばれる場所に90億年存在している。
ここは【神】と呼ばれる存在を作った創世神【 】様の御座おわす場所。
【 】様はその名前が発音出来ない。なので私は【ナナシ様】と呼んでいる。やはり名前が無いと不便だからだ。
この【混沌の狭間】には創世神ナナシ様と、夫婦神である運命の女神ノルン様、そして機械人形の私が住んでいる。
ギィと扉の開く音がして、私はそちらを振り向いた。
紫色の占い服を着た、腰を曲げた老婆がこちらへやって来た。

「ノルン様、どうしたんです? その格好は」
「あら、やっぱりすぐ分かっちゃうのね、貴方には」

 ノルン様は解除の呪文を唱えて元の姿に戻った。
床にまで届くほどの長い白い髪、色の白い細い腕、その顔は白い艶のある仮面を被り隠されている。

「今度は何処へ行って来たんだ?」

 男性の低く響く美しい声がして、振り向くとそこには黄金に輝く炎の様な光がふわりと浮いていた。
この光が【ナナシ様】だ。

「アズライル神の惑星に行っていたわ。天界では無くて、下界の方ね」
「…もしかして【あの子】に接触して来たのか?」
「ええ、会って来たわ。元気で可愛らしい子でしたわ」
「接触はまだ待てと言っただろう?」
「大丈夫よ。占い婆で会いましたから、私の本当の名前も姿も分からないわ」
「男の方はどうだった?」
「覚悟を決めた様だったわ?」
「そうか……あの男にはもっとしっかりして貰わねばならん」
「大丈夫、あの様子なら彼もきちんと成長するでしょう。ナナシ、あなたもアリアチャンネルを見てるのでしょ? なら分かるはずよ」
「私は……よ、夜は見ていないぞ!」

 ノルン様はくすくすと笑って言った。

「そんなの分かってるわよ。あんなあられも無い姿、見たく無いものね?」
「で、あの惑星の調査はどうだったのだ?」
「それが、……あちこちでシステムエラーが起きていたわ。それだもの、良き魔心核が増えないはずよね……私が行って調べなければ気付かなかったみたい。今はアズライルがシステムエラーの箇所を直しているけれど、復旧の見通しは立ってないわ。あの状態では緩やかに崩壊へ向かっているのと一緒だわ……」
「私達のいるこの場所も緩やかに崩壊へ向かっている。……原因は何なんだ? これは何かの暗号なのか?」

 ナナシ様にそう言われ、建物内をぐるっと見渡す。
四方の壁は大型テレビの様に宇宙空間が映し出されている。建物を支える柱は石製なのか所々ぼろぼろと崩れた様になっていた。
これが崩壊の影響なのだろう。この建物内の柱全てがそんな感じだ。

「私はこの混沌の狭間の管理人として90億年前に作られました。初代のナナシ様はこの機関は永遠であると言っていた記憶があります。機関とはナナシ様、ノルン様、私、そしてこの場所の事だと、私は思っています」
「だが、ノルンの魂は1つにならず2つに分かれた。これもエラーだと思うのだが?オートマタよどう思う?」

 光がゆらめきナナシ様が私に聞いた。

「私もナナシ様の言う通り、ノルン様の魂が2つに分かれたのはシステムエラーの影響だと思います。1つに出来ないのでしょうか?」
「オートマタ、私のもう1つの魂はアズライルの地で一人の人間として生きているわ。彼女を1つになど出来るはずもない。……機械の様には行かないのよ、人は」
「ああ、君の半身は何と言ったか?」
「……マリエッタと言うわ。……ギルス帝国で一人の人間として生活している。本当に普通の人間よ。ナナシが気にかける事もない」
「どうすれば……この混沌の狭間の崩壊は収まる? 原因は何だ?」

 ナナシ様が私に聞くが、私の脳内を検索してもその答えは検出されなかった。
ちなみに、答えが出ないのはデーターが足りないからだ。

「私には分かりかねます」

 突然くっくっとノルン様が笑い出した。

「こんな場所、崩壊しても誰も困らないわ? だって……誰もこんな場所がある事さえ知らないのよ? 地球の人間なんて私たちの存在さえ知らないし、それに私達はもうとっくに死んでいる存在よ? ここにいる事自体がおかしいのよ。もしかして、私達もバグかも知れない」

 私の脳内でそれは違うとノルン様の言っている事を否定する文字が浮かんだ。

「それは間違いです。10代目のナナシ様もノルン様も選ばれてこの地へいらっしゃったのです。決してバグなどではございません」
「もし……この場所が崩壊して失われるならば……その時まで、あの子の未来を見てから死にたい」

 ナナシ様は輝きを増しながら言った。
ノルン様も頷いた。

「私も、他のすべての事はどうでもいいわ……あの子の幸せな結末を見たい」

 私はこの混沌の狭間の管理人だ。
もう90億年もここを管理して、今まで9人のナナシ様にお仕えして来たが、この10人目のナナシ様はどこか今までのナナシ様達と違った。
光体という見かけは一緒なのだが、中味があまりにも人間臭い。本来人間であった者が死んで、魂となってナナシ様に相応しいものが10億年ごとに選ばれ、この地に来る。
でも、今まで此処へ来たナナシ様はどこか機械的で人間的な感情など無いに等しかった。

 ……いや、思えば先代のナナシ様もどこか人間臭かったかも知れない。死ぬのが嫌だと言っていた。……あの方は青白い炎の様な光体だった。
今代のナナシ様はアズライル神の惑星に転生されたアリアという半神に心を奪われている様に感じる。
それはノルン様も一緒だ。
お二人は彼女の未来を見てみたいと言っているが崩壊に無頓着すぎる。
此処が崩壊してしまっては彼女の未来など見れるはずもない。
もう少し崩壊に対して真剣に取り組んで欲しいものだと思う。

 私は崩れかけた柱の一部を手に取った。
あとで研究室でこの柱の欠片を分析しようと思ったからだ。
ナナシ様の事を人間臭いと言いながら、私も何処か人間臭くなっている様な気がした。
二人の為に此処を何とかしたいと思っているのだから。
こんな感情……今まであったか?
……いや、無かった。
私もどこかエラーが起きているのかも知れない。
しかし、この混沌の狭間の崩壊を阻止しなければ、此処だけではなく全ての世界が崩れていくのだ。
それだけは絶対に避けなければいけない。
私は此処を、世界を守るために作られたのだから。

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