ハイメくんに触れた

上本琥珀

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これってやっぱり

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 バイトのことを考えながら男子グループの様子を見ていると、赤髪の彼以外の二人も用事があったのか、ハイメくんだけがこの場に残って、二人きり(一人と一匹)になってしまう。
 どうしようかな、これ。どうやってここから抜け出せば良いんだろう。
 ハイメくんは、立ったまま私を抱きかかえている。今の私は猫だから飛び降りても怪我しないと思うけど、飛び降りるのは怖い。出来れば、地面に下ろして逃がして欲しい。
 さっきみたいに気持ち通じないかなって顔を見上げると、ハイメくんが笑った気がした。
 うん? なんだろう。
「俺、思うんだ。気が強い子が大人しくなっても可愛いけどさ、一番可愛いのは、灰色の毛で、茶色の目の、俺と仲良くしたいって言ってくれる子かなって」
 え、それって!
 ドキン! と今までで一番、心臓が跳ねた。
 あっ。
 ヤバいって思ったけど、ダメだった。動揺して、変身魔法が解けてしまう。
「おっと」
 ハイメくんは急に重くなったのを支えきれなくて、私は、地面に座った状態で人間に戻る。
 二人の間に沈黙が訪れる。
 先に喋ったのは、ハイメくんだった。
「盗み聞きは良くないよ。補習?」
「補習です」
 恥ずかしくてハイメくんの顔が見れないし、見られたくないから俯くのに、しゃがんでのぞき込んでくる。意地悪だ。
「変身魔法だよね。魔法が解けちゃって、怒られない?」
「怒られると思う」
「じゃ、一緒に怒られに行こうか?」
 ハイメくんは、座っている私に手を差し出した。
 触れるのはドキドキするけど、無視するのも感じ悪いから手を借りて立ち上がる。
「よっと」
 私が立ち上がったら手は離されちゃうから、一瞬で手の温かさはなくなる。手には寂しさが残った。
「一緒って言ったけど、なんでハイメくんが怒られるの?」
 ワンピースに付いた土を払いながら聞いてみると、彼は悪気無さそうに話す。
「サボったんだよね、変身魔法の補習」
「え? ハイメくんも補習だったの?」
 驚いた。ハイメくんって、魔法全部が優秀なイメージがあるのに、補習だったんだ。
「俺、雷狼憑きの影響で、狼以外に変身するの苦手なんだ。だから補習あったの。サボったけどね」
 へー、雷狼憑きって良いなって思っていたけど、そんなデメリットあったんだ。そういえば、獣人や鳥人、人魚の子は変身魔法が苦手な子が多い。それと同じなのかな。
「ハイメくん、補習サボったりするんだね。もっと真面目だと思ってた」
「箒術の試験だってしっかり受けてないじゃん。俺」
 そういえば、そっか。でもなんか、優秀だからかな、真面目な印象があった。
「変身だって、出来ないもんは出来ないからね。再補習になって、プリントか、筆記の試験だけになった方が楽だなって」
「悪い人だ」
「そうだよ。グラが思ってるより、俺悪い人なの」
 クスッと、いつもは見せない意地悪な笑い方にキュンとしてしまう。
 あ~、やっぱ格好良いよ。
 恥ずかしいから、本人には言えないけど。
「そういえば、ハイメくん、いつから猫が私だって分かっての?」
 最初は気づいてなさそうだったけど。
「灰色の毛に茶色の目で、グラを思い出したんだ」
「え、最初から? 分かってて抱き上げたの!?」
「触られて、困っていたみたいだから。俺に触られるのもイヤかと思ったけど、ごめんね」
「……いや」
 謝る彼に、ハイメくんなら良かったとは言えないので、困る。
「でも、ハイメくん。私の魔法を解きたかったのかも知れないけど、冗談いうのはよくないよ」
「冗談って?」
 これも、意地悪なのかな。
「……一番可愛いとか」
「一番可愛いって思ってるの、嘘じゃないよ」
 さらっと言ったハイメくんに、ギュッと心臓がわしづかみにされてしまう。
 なんで、そんな簡単に言うのかな。こっちは、ドキドキして死んじゃいそうなのに。
「グラが、一番可愛いよ」
 ……可愛いって言われて、こんなドキドキして、優しい時も意地悪な時も格好いいって沢山思って、ハイメくんの好みを気にして。
 たぶん、そうだよね。恋したことなかったから分からなかったけど。
 これってやっぱり、恋だ。
 私、ハイメくんのことが好きなんだ。
 自覚して、改めてハイメくんを見る。
「どうしたの?」
 笑いかけてくれるのが、嬉しくてしかたない。
 ハイメくんは、モテてるらしいし、別寮なので付き合うなんて無理だと思う。
 でも、今度のパーティーでパートナーになって欲しい、リボンの色を変えて欲しい、そう願っちゃうのは、我が儘かな。
 夢で終わらせないように、実現させるために、頑張らなきゃ。
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