ミルキル!

上本琥珀

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13・初めての使い

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「あの右の女の人が依頼者な」

 円地くんが指さす先には、三人の中学生が図書館の自習室で勉強している。
 男子一人と、向かい側に女子二人。
 依頼者と言われた人は、ぱっと見の印象だと、活発って感じ。
 あの人が恋愛成就の依頼をしたんだ。
 依頼者の人は、ペンを動かしながらも、ちらちらと男の人を見ていた。

(健気だなぁ。応援したい!)

 三人は、毎日自習室に通って勉強をしているらしい。
 そうやって、仲を深めているんだな。

「あのお姉さんの心を読めば良いの?」

 隣で、宿題を机に出して勉強しているフリの円地くんに聞いた。
 わたしがする恋のお手伝い(神の使い)は、今、どんな感じなのかを確認する役目らしい。

「分かっているやつを見てどうするんだよ。好きな人を見ろ」
「あ、そっか」

 初仕事をこなそう。
 手でハートを作って、間違えて男の人以外をいれないようにして、覗いてみる。
 ハートに顔が近かったら、覗いている感が有りすぎるので、作ったハートを見てますよって感じで、自然にね。

『数学むず』『焦り』『聞くのはなぁ、情けないとこ見せたくない』『高揚』『一緒に入られて嬉しいから、いいけど』

 情けないとこ見せたくないとか、一緒にいられたら嬉しいとか、これは良い感じに思える。

『同じ高校行きたいから頑張らなきゃ』『取られちゃったら嫌なんだよ』『こんな可愛いから、絶対彼氏出来ちゃう』

(好感度は高そう、というか好きそうだけど、これ、どっちへの気持ちなんだろう)

 心の声だから、目の前の人のどっちかだとは思うけど、絞れない。
 好感度が見れたらいいのに、中々出てこない。

(あ、きた)

『秋那:80』『葉月:85』

(85ってあるけど、どっちが葉月さん⁉︎)

 いや、これは後でプロフィールを見ればいい。
 それよりも、二人とも好感度高いのが困る。
 どっちが恋愛感情で、どっちが友情感情だ?
 高い方が、恋愛? 高い方が友情?

(二人とも恋愛感情ってこともあり得るのかな?)

『勉強頑張らなくちゃな』

 もっとこの人の心を見たいのに、勉強を頑張り始めちゃって、心の声が勉強一色になってしまう。

「どうしよう、思ったよりこの能力使えないかも知れない」
「他のやつ試してみれば」
「あ、そっか」

 円地くんにアドバイスされ、四角を作り、男の人の過去や未来を覗いてみる。
 四角の中にジジっとノイズが走り、映し出される。

『男の人と、依頼者の女の人が一緒にいて、幸せそうに笑っている』

(うーん、どうしよう。過去か未来か分かんない!)

 制服が今と違ったら、高校だなって分かっていたかも知れないけど、二人とも私服だし、見た目に今とあまり違いが無い。
 また、ジジっとノイズが走る。

『小学生の男の子が、女の子と一緒に帰っている』

 たぶん、子供の頃だ。一緒にいる女の子は、依頼者かな。
 二人が、子供の時から一緒にいるのは分った。
 でも、恋愛かは分らない。
 ジジッとノイズが走る。

『今より大人になった、男の人と依頼者の人。同じ制服を着ている』

 一緒に高校に通っているみたいだけど、恋愛なのだろうか。友情でも通る映像だ。

(これ、いつになったら見たいものが見えるか分らないな。思ったより使えないかも)

「駄目そう」
「手がかりがないか、別の人見たら?」
「うん」

 依頼者じゃない女の人をハートで見る。

『ここは、これであっているっけ』『あっている。じゃあ、次』『集中』

 真面目に勉強している。

(好感度、見たいなぁ)

『明那:85』『志築:80』

 こっちもどっちも好感度高い。
 でも、この人が葉月さんってことは、分かった。この女の人の方が好感度高いんだ。
 過去も未来も一緒に居たのは、依頼者の方なのに、こっちの人が好きなのかな。

『志築くん、困っているみたいだけど口だして良いかな。うざがられない?』『一緒の高校に行きたいけど、無理はさせたくない』

(この人も男の人が好きなの? じゃあ、三角関係だ)

 男の人は、どっちが好きなんだろう。
 好感度は高そうだから、こっち人だろうか。でも、確証はない。

(うーーん、……依頼者を見てみるか)

 何かわからないかと、作ったままのハートを動かし、依頼者の心を覗いてみる。

『うざい』

「え?」

 依頼者に浮かんだ文字を見て、声が出た。円地くんがわたしを見た気がする。

『なんで、お前もいるの』『わたしが先だったのに』『ひどい、ずるい』『嫌な女』『怒り、憎悪』『いなくなって』

 文字だけなのに、見ているだけなのに、声が乗ったみたいに深く、重く、響くみたいに、わたしに伝わる。

『大嫌い』『裏切り者』『高校コイツだけ落ちれば良い』『友達だと思っている馬鹿な女』

(あ……)

『志築:100』『葉月:5』

「うっ」

 苦しくなって、胸を押さえる。ハートが崩れたから、もう何も見えない。
 それでも、依頼者のどす黒い感情がわたしの胸に残っていて、気持ち悪くなった。

「おい、大丈夫か」
「うん……」

 円地くんに尋ねられるけど、目を閉じ、心を落ち着ける。

(あんなこと考えているんだ。友達だと思ってないんだ。そっかぁ)

 健気に恋していると思った彼女の心の声に、強くダメージを受けて、中々もやもやした気持ちが収まらないでいると、声をかけられた。

「大丈夫? 具合悪そうだけど」
「え、あ……」

 声をかけてくれたのは、依頼者の人だった。
 心配そうにわたしを見ている。返事をしなきゃと思うのに、彼女の黒い心の声が頭に浮かんで、声が出ない。

『いなくなって』『裏切り者』『友達だと思っている馬鹿な女』

「大丈夫じゃ無さそうなんで、帰ります。行くぞ」

 円地くんが代わりに受け答えしてくれる。

「二人だけで帰れる?」
「家すぐ近くなんで」

 出していた宿題や文房具を円地くんは片付けてくれる。

「心配してくれて、ありがとうございました」
「ありがとう……ございました」

 わたしもお礼を言って、自習室を出た。
 依頼者の人は最後まで心配そうに見ていた。

「……人の心を覗くってこういうことなんだね」

 わたしの呟きに、円地くんは何も言わない。
 淡々と見たものを聞いてくる。

「あの三人から、何を見れた?」
「女の人はどっちも男の人が好きで、男の人はどっちかが好きだけど、依頼者じゃない方が好感度高い。過去と未来、一緒にいたのは依頼者だったよ」

 自分の感情を乗せないで、見たものだけを言う。

「そうか。お前、最後何を見て、嫌な気分になったんだ?」
「……依頼してた人の心の声を見て、応援したくないって思っちゃった」

(思っちゃったなぁ)

 その事実に胸が苦しくなる。

(応援したいって、思ってたのに)

「心見たけど、これで終わりなの?」

 これだけじゃ、恋愛成就の手助けをしたとは言えない気がするけど。

「お前はな。でも神様は願いを叶えると決めたんだ オレらは、その手助けをしなきゃいけない」

(嫌だな)

 それがしなくちゃいけない事でも嫌だった。
 あんな感情を持っている人を手伝うなんて。

「……次は、どうするの?」
「巫女の指示を待つが、お前は終わり。オレは、たぶん縁を切る事になるだろうな。依頼者じゃない女の人と、男の人を」

 縁を切る。
 それは、円地くんのなんでも切れる能力を使ってだろう。

「その二人を?」
「当たり前だろ。恋愛成就するのに邪魔になるなら、切る」
「その女の人と男の人が、両思いの可能性もあるし、ただの仲のいい友達かもしれない。……円地くんは、嫌じゃないの?」

 二人の好感度は高かった。

(そんな、二人の間を切るなんて)

「そういう仕事だ」

 淡々と言った円地くんの顔に、表情はなかった。
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