ミルキル!

上本琥珀

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1・お願い神様

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「はぁーあ」

 下校中、思わずため息が出たのは、今日学校であったことで、ゆううつな気分になっているからだ。

「また、人を見る目ないって言われちゃったな」

 今日、親友だと思っていた女の子に、みんなの前で「友達だと思ってない!」って、強く言われた。
 その後、クラスの女の子に、「あの子を信頼してたの? 人を見る目ないんだね」って言われた。
 クラスの子曰く、親友だと思っていたあの子は、性格が悪いって噂だったらしい。全然知らなかった。

『人を見る目が無い』

 わたしはよく、その言葉を言われる。
 例えば、好きな男の子にお金をせびられたり、罵倒されたり。
 友達に秘密を話したらみんなに話されちゃったり、好きな人と取られたり。
 仲良くしていた先輩がいじめの首謀者だったり、信頼していた先生に馬鹿にされたり。
 好きな芸能人は、良くない話題でニュースになって、いつしかテレビから居なくなるし、いい人だって思った人には大体騙され、利用される。
 そういった事があって、小学五年生にして、もう二十回は『人を見る目が無い』って言われたと思う。

 確かに、わたしって人を見る目がないのかも知れないけど、そう言われるのは嫌だ。
 だってわたしは、また見る目が無いって言われるかもって考えることも有るけど、それでも、いい人だって、仲良くしたいって思って、仲良くしているもん。
 ……これ、わたしの見る目が無いのが駄目なんだろうな。
 見る目があれば、見る目ないって言われないだろうし、そもそも騙されたり裏切られたりする事も無かったはずだから。

(……友達、また一人居なくなっちゃったな)

 親友だと思っていたあの子とは、もう話せるような雰囲気じゃなかった。
 明日のことを考えている内に、自然と俯いてしまっていたみたい。甘い匂いが漂って来て、わたしは顔を上げた。

「なんの匂い?」

 それを感じたのは一瞬だから、どこから来たか、なんの匂いだったかは、顔を上げた時には分らなかった。
 それよりも、気になる事があった。

「こんな所に神社って在ったっけ?」

 なんの変哲も無いいつもの帰り道のはずなのに、わたしの立ち止まった場所の横に、見慣れない森と、真っ赤な鳥居が有る。そして、鳥居の先には、社の様なものが見えた。

(あれ、道間違った?)

 振り返ってみるけど、そこに在るのは、いつも通りのアスファルトの道。これから歩みを進める方だって、いつも通りのアスファルトの道。
 社を囲うように存在する森は結構大きそうなのに、なんで今まで気づかなかったんだろう?
 不思議に思いながら、神社を眺める。
 教室一つ分の大きさもなさそうな、白とグレー、二色の質素な社。

(不思議……だけどなんか、心惹かれるかも)

 真ん中は神様の通り道だっていうから、端を通って鳥居をくぐった。



 鳥居から神社までは、舗装された道はない。じゃり、じゃりと、音を響かせながら砂利の上を歩いて、社へ向う。
 神社に有る様な、狛犬や手を洗う所などはなく、森の中にポツンと社だけが存在する。

(お願いしたいこと……人の見る目が無い事?)

 社の元に辿り着き、帽子を取る。
 見上げてみると、頻繁に手入れがされているのか、傷や汚れがなく綺麗だ。
 社の正面にはふすまみたいな縦横が区切られている扉があり、その内の一区画だけが曇りガラスがはまっておらず、そこからお金を入れられそうだった。ランドセルのもしもの為にと入れてあるお金から十円玉を一つ取り出し、穴に入れる。
 社の前に、鳴らせる鈴のような物はなかった。

――パン、パン

 静かな森に音を響かせながら、拍手する。

「人を見る目が欲しいです!」

 そして、しっかり頭を下げたところ、頭の上に声が降ってきた。

『その願い、叶えてやろう』

 映画館で聞くような、迫力の有る声だった。

(何?)

 不思議に思って顔を上げようとして、目が熱くなった。
 熱を持ったってレベルじゃない。眼球に直接熱湯をかけられたような熱さと痛みを感じる。

「あついあつい、いたい! あつい、いたいいたいいたいいたい」

 手で目元を覆っても、瞼を閉じても開いても、その痛みも熱さもなくならない。
 脳みそが混乱して、ぎゅーっと強く目を瞑ってしまう。

(痛いの痛いの治まって!)

 願ったって痛みはなくならないどころか、熱かったはずの目が、氷になったみたいな冷たさまで感じてきた。
 熱さと冷たさ、不思議な事に、二つの感覚が同時に襲ってきている。

「ああっぁあ!」

 眼球から作り替えられているみたいな感覚だ。

「ううっうーー」

(なんでなんで、なに! 痛い冷たい熱い!)

 訳もわからず、立っていられず、膝を付く。
 ボロボロと涙がこぼれ落ちていく。
 いつこの苦しみが終わるのだろうと思っていると、

「おい、何してる!」

 声が聞こえた。
 後ろの方から聞こえた声に振り向くと、鳥居の方から走ってくる人の姿が見えた。

(ぅあ、あの人って、たしかって……)

 同じクラスの男の子だ。
 あまり喋ったことは無い。……たしか、円地えんじくん。

「何を祈った!」

 膝をつき、わたしの肩を掴んで必死な様子の彼に答える。

「人、人を見る目が欲しいって」
「チッ!」

 間髪言わず、舌打ちが返される。
 彼はきっと苛ついているんだろう。その顔を見て確かめたいけど、それはムリだった。
 目が熱くて、冷たくて、痛いのは、治ってきた。ちょっと違和感があるってくらい。だから、目が辛くて見れないわけじゃない。
 それなのに彼の顔を確認できないのは、彼の顔を、彼の体を覆うように、文字が浮かんで来るのだ。

『八月八日誕生』『四歳の時、実父が』『友達は作らない主義』『こいつ』『一三〇㎝』『何でも切る事が出来るのは、神に』『円地繋』『痩せ型』『運動神経そこそこ』『ああ、もうどうしよう』『破壊衝動の訳は』『十三歳の誕生日に』『趣味は庭いじり』『先生からは手のかからない子だと』『O型』『怒り、焦り』『潔癖症』『母が量販店で買った服』『霊力は少なめ』『腰の火傷、六年前。今はもう薄い』『母の事を大事に思っている』『十一歳』『なんで!』『深爪』『小型犬を二匹飼っている』

 円地くんとはあんまり喋った事無いから、こんなに個人的な事は知らない。それなのに、生配信のコメント欄みたいに、滝が流れるみたいに、沢山の情報が彼を覆うように浮かんでいく。
 それは、どんどんと視界を埋め尽くしていくから、頭の中で処理するスピードが追いつかない。頭の中が熱を持ち、ぎゅるぎゅるとうるさい耳鳴りが脳みそを支配する。

「あっ、あ」

 ふっと、脳みそが軽くなったような気がして、そのまま全てが消えた。
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