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第69話 活気
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どすんと勢い良く抱き着かれた。
何事かと思ったが、ヤタちゃんだった。
「おはようございます」
ひとまず挨拶することにした。
「おはよう」
返事は素っ気ないが、抱きついたままぐりぐりする様に身体をすりつけ、力を込めてくる。
えっと、これは?
とっさに近くに居たハチクマさんに目線を送ると、わかりませんという感じに首を振られたので、自分で考える時間か。
抱き着かれているだけでもアレなので、ちょんちょんと緩めてと二回つつくと手が緩んだので、ちょっと体勢をずらして、こちらからも抱きしめる形にした。
浴衣の薄い生地越しにも、ヤタちゃんの高い体温が伝わってくる。
じゃあ大丈夫かという感じに、ヤタちゃん側からも抱き返してくる。
何だか子供をあやすつもりになって、背中をゆっくりぽんぽんと撫でる。
だんだんとリラックスした様子で手が緩んできたが、ここで離してもちょっと寂しいので、ゆっくり抱きしめる事にした。
「で、朝からどうしたんです?」
落ち着いた様子なので、聞いてみる。
「ちょっと寂しい気分じゃったのでな? ちょっとマーキングじゃ」
ヤタちゃんにしては、ちょっと弱気な様子だった。自分で言える当たり強いが。
「そりゃまたどうして?」
「夢見が悪かっただけじゃ」
「そりゃ大変だ」
思わず軽く返す。
「ところで、今抱き着くと臭くありませんか?」
とても今さらなアレだった。
朝から盛ったおかげで、自分自身から汗の匂いと、塩素っぽい匂いを纏っている事を自覚している。
言うまでもない、アレの匂いだ。栗の花と言うよりはプールっぽい、塩素系漂白剤とかの様な匂い、イカ臭いのは腐ってからだ。
「まだ新鮮な匂いじゃから平気じゃな?」
ヤタちゃんは、すんすんと匂いを嗅いでから、特に困った様子も無く即答して来た。
「それは良かったと言いたい所ですが、自分自身が平気じゃないので、一旦お風呂行ってきます」
肯定されてもという奴だ。
「じゃあ、儂も行くとするか」
特に迷った様子も無く、風呂メンバーにヤタちゃんが追加された。
「ところで、人多くありません?」
通り過ぎたロビーの辺りから、既に人が多かった、旅館全体に、昨日までは無かった活気が満ちていた。
「お主の存在がネット経由で耳が早い連中にバレたからな? お陰で一晩の内に二か月先まで予約が埋まったわい」
のんびりと通路を歩きながらヤタちゃんが笑う、ハチクマさんがギョッと目を見開いて驚いていた。
「そりゃ早い」
昨日の今日だと思うのだが。
「で、耳が早くて足の速い連中が真っ先に駆け付けたわけじゃ」
早すぎやしないだろうか?
「ソレは大丈夫なんですか?」
既に何だか視線が痛い。気圧されるまでは行かないが。
「何をするとは明言しとらん、何故か宿泊料金が値上がりしつつ、予約が埋まっただけじゃ、何の影響もありゃせんわい」
「そりゃまた……」
良いのだろうか?
「正式発表前に来る物好きは、顔を見る程度で十分じゃ、ちょっと触れ合う機会があったら大喜びするから、多少サービスすれば万々歳じゃな?」
「さーびす………」
どれぐらいだろうか?
「昨日やってたハグあるじゃろ? アレぐらいじゃな?」
先回りして具体例が出る、相変わらず話が早い。
「成る程?」
対価の料金的に釣り合っているのだろうか?
「そもそもお主、こちらの世界、免疫系の適応反応と、予防接種終わっとらんからな、トキからもドクターストップじゃ、気に病む必要は一切無いわい」
「成る程………」
外からのブレーキが有る事によって、選択肢が狭まる。安心した半面、ちょっと残念ではある。
「風呂と飯終わったら、風邪の経過観察と予防接種で医者行って来い、トキの奴はもう出とる」
「結構寝坊してますからね」
働いている人を見ると若干心苦しいのは、染みついた社畜の精神だろうか?
何だかんだ、次々と予定が決まっていく。
「しょうがなかろう、お主は病人じゃ、病人は自分の身体を治すのが仕事じゃ、気に病む必要はないし……」
ヤタちゃんの視線と身振り手振りがぐるっと回る。
「お主の存在がコレだけ客を呼んでおる以上、営業部長的な客寄せパンダとしては上々じゃから、既にわし等としては元が取れておるな?」
ヤタちゃんがニヤリと笑みを浮かべた。
「ソレは何よりです」
そんな会話をしつつ、大浴場の脱衣所に到着した。
脱衣所に入った瞬間、先客たちの目線が、ギョッと言う感じにこちらを向いていた。
「なかなか気後れするもんですね?」
向こうの世界で混浴温泉ワニの群れの中にうっかり紛れ込んだ女性のアレの図と同じである、こちらが捕食される側と考えると、なるほどの圧迫感であった。
追申
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何事かと思ったが、ヤタちゃんだった。
「おはようございます」
ひとまず挨拶することにした。
「おはよう」
返事は素っ気ないが、抱きついたままぐりぐりする様に身体をすりつけ、力を込めてくる。
えっと、これは?
とっさに近くに居たハチクマさんに目線を送ると、わかりませんという感じに首を振られたので、自分で考える時間か。
抱き着かれているだけでもアレなので、ちょんちょんと緩めてと二回つつくと手が緩んだので、ちょっと体勢をずらして、こちらからも抱きしめる形にした。
浴衣の薄い生地越しにも、ヤタちゃんの高い体温が伝わってくる。
じゃあ大丈夫かという感じに、ヤタちゃん側からも抱き返してくる。
何だか子供をあやすつもりになって、背中をゆっくりぽんぽんと撫でる。
だんだんとリラックスした様子で手が緩んできたが、ここで離してもちょっと寂しいので、ゆっくり抱きしめる事にした。
「で、朝からどうしたんです?」
落ち着いた様子なので、聞いてみる。
「ちょっと寂しい気分じゃったのでな? ちょっとマーキングじゃ」
ヤタちゃんにしては、ちょっと弱気な様子だった。自分で言える当たり強いが。
「そりゃまたどうして?」
「夢見が悪かっただけじゃ」
「そりゃ大変だ」
思わず軽く返す。
「ところで、今抱き着くと臭くありませんか?」
とても今さらなアレだった。
朝から盛ったおかげで、自分自身から汗の匂いと、塩素っぽい匂いを纏っている事を自覚している。
言うまでもない、アレの匂いだ。栗の花と言うよりはプールっぽい、塩素系漂白剤とかの様な匂い、イカ臭いのは腐ってからだ。
「まだ新鮮な匂いじゃから平気じゃな?」
ヤタちゃんは、すんすんと匂いを嗅いでから、特に困った様子も無く即答して来た。
「それは良かったと言いたい所ですが、自分自身が平気じゃないので、一旦お風呂行ってきます」
肯定されてもという奴だ。
「じゃあ、儂も行くとするか」
特に迷った様子も無く、風呂メンバーにヤタちゃんが追加された。
「ところで、人多くありません?」
通り過ぎたロビーの辺りから、既に人が多かった、旅館全体に、昨日までは無かった活気が満ちていた。
「お主の存在がネット経由で耳が早い連中にバレたからな? お陰で一晩の内に二か月先まで予約が埋まったわい」
のんびりと通路を歩きながらヤタちゃんが笑う、ハチクマさんがギョッと目を見開いて驚いていた。
「そりゃ早い」
昨日の今日だと思うのだが。
「で、耳が早くて足の速い連中が真っ先に駆け付けたわけじゃ」
早すぎやしないだろうか?
「ソレは大丈夫なんですか?」
既に何だか視線が痛い。気圧されるまでは行かないが。
「何をするとは明言しとらん、何故か宿泊料金が値上がりしつつ、予約が埋まっただけじゃ、何の影響もありゃせんわい」
「そりゃまた……」
良いのだろうか?
「正式発表前に来る物好きは、顔を見る程度で十分じゃ、ちょっと触れ合う機会があったら大喜びするから、多少サービスすれば万々歳じゃな?」
「さーびす………」
どれぐらいだろうか?
「昨日やってたハグあるじゃろ? アレぐらいじゃな?」
先回りして具体例が出る、相変わらず話が早い。
「成る程?」
対価の料金的に釣り合っているのだろうか?
「そもそもお主、こちらの世界、免疫系の適応反応と、予防接種終わっとらんからな、トキからもドクターストップじゃ、気に病む必要は一切無いわい」
「成る程………」
外からのブレーキが有る事によって、選択肢が狭まる。安心した半面、ちょっと残念ではある。
「風呂と飯終わったら、風邪の経過観察と予防接種で医者行って来い、トキの奴はもう出とる」
「結構寝坊してますからね」
働いている人を見ると若干心苦しいのは、染みついた社畜の精神だろうか?
何だかんだ、次々と予定が決まっていく。
「しょうがなかろう、お主は病人じゃ、病人は自分の身体を治すのが仕事じゃ、気に病む必要はないし……」
ヤタちゃんの視線と身振り手振りがぐるっと回る。
「お主の存在がコレだけ客を呼んでおる以上、営業部長的な客寄せパンダとしては上々じゃから、既にわし等としては元が取れておるな?」
ヤタちゃんがニヤリと笑みを浮かべた。
「ソレは何よりです」
そんな会話をしつつ、大浴場の脱衣所に到着した。
脱衣所に入った瞬間、先客たちの目線が、ギョッと言う感じにこちらを向いていた。
「なかなか気後れするもんですね?」
向こうの世界で混浴温泉ワニの群れの中にうっかり紛れ込んだ女性のアレの図と同じである、こちらが捕食される側と考えると、なるほどの圧迫感であった。
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