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3章 活躍する坊主

第87話 (閑話)髪型

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「髪が伸びすぎた、済まんがその後で切ってくれるか?」
 灯がエリスの髪をあみあみしながら遊んでいたので、そんな気になった。
「確かに結構伸びましたけど、切るほどですか?」
「短いと伸びた時の違和感が有るんだ、冬場に切ると風邪ひくから秋のうちに一回切っておくのさ。」
「何時切っても寒いと思いますが。」
「寒くなる前に切っておけば慣れるから大丈夫。」
 起きた時に寝癖が目立つので毎朝寝癖を直すのが手間なのである。
「そういえば、お坊さんの髪型がツルツルなのって意味有るんですか?」
「髪型を毎日整えるのが面倒だからだぞ?」
「まさかそんな理由で?」
「世の中とのしがらみを減らすってのが大義名分、悟りの修業中に毎日髪型整えるのが面倒だから、その面倒が無いように皆揃ってつるつるに剃ってるって言うだけの話。」
「こっちで逢った時には和尚さんの髪型ってツルツルでは無かったですよね?」
 確かに最初は1分刈り坊主であった。
「向こうでは坊主やって無かったし。」
「あれ?修行してましたよね?お坊さんじゃなかったんですか?」
「向こうで公園で托鉢坊主として立ってた時は、小僧って言う修業期間。高卒で2年、大卒なら1年、修行寺で色々修行するんだ。」
「あの時公園に居たのは1年でしたっけ。」
「そう、修行期間終えたら最初から決まってた寺に派遣されるんだ、基本的に前の住職がこの人に継がせるって言う指名制なんだが、最初から付き合いのある寺で跡取り居ないから継いでくれって話だったんだけど、その住職が年甲斐無く遅くの子供出来ちゃって、そろそろ引退予定だったんだけど、是非ともその子に継がせたいからもうちょっと頑張るって張り切っちゃったもんだから、修行後の就職口無くなっちゃって。」
「無くなるもんなんですね・・・」
「基本契約書無しの口約束だし、見ず知らずの人じゃないから、おめでとうございます以外の台詞が出て来なかった。」
「世知辛いですね・・・救済とか無いんですか?」
「そのまま小僧してるとどっかからお呼びかかったりするけど。宛てが無かったからマッサージ屋になったという流れで。」
「何故にマッサージ?」
「意外と時給悪くないから。」
 学生時期の近所のアルバイト、時給1500は美味しかった。
「即物的な・・・」
「世の中そんなもん。」
 あははと笑って見せる。
「結果として之なんだから、修行しておくもんだ。」
 この報われ方は予想外だが。仏門入りは明確に儀式が有るが抜ける時の儀式は無い、悟りを開けるなら、物食べてる時でもトイレに居る時でも何でも修行扱いで良いと言う、結局坊主は生涯修行なので、抜けると言う概念は無いのかもしれない。
「それじゃあ、あの髪型の意味は?」
「寝癖が付かない程よい長さ。ツルツルスキンヘッドだと職業坊主意外は結構威圧感与えるから、髪は欲しい訳だ。」
「思ったより雑な理由なんですね。」
 エリスの髪が結び終わったらしい、三つ編みがぐるっと回って団子が出来て居る。
 灯がエリスの肩をポンと叩いて出来上がりましたと伝える。
 席を立ったエリスは定位置ですと言う様子で俺の膝の上にうつぶせで寝ころんだ。
「そゆこと、灯は?長いの似合ってるけど。」
 奇麗な黒のロングである。時々縛っているが、真っ直ぐな髪と言うのは維持が大変なはずだが。
「長いと自重で伸びて暴れなくなるんで、程よく伸ばして、邪魔な時は縛れば良いって感じですね、色々とウケも悪くありませんし。」
 灯が髪を全て前に垂らして手を前に突き出す。
「懐かしいな其れ・・・」
「S子さんです、流行りましたから、これでクラスの人気者です。」
 大分強い。
「エリスは?」
 呼びました?という様子で膝の上にうつぶせで寝そべっていたエリスが顔を上げる。エリスの髪は奇麗な金のロングである、冒険者として外に出るときは三つ編みに編んで服の中に入れている。解くと編み癖でウェーブのかかった髪が腰まで広がる。
 二人とも洗う時と乾燥の手間が凄そうだが、洗った後に乾燥させるための魔道具はあるのでそれほど苦労はしないらしい。
「髪には魔力が宿るって言われているので、魔法使える人は極力切らないんです、でも伸ばしっぱなしで外に出しておくと掴まれたり、引っかかったりして危ないのでこうなるわけです。」
 やむに已まれぬ理由らしい。
 二人ともなんだかんだで良く似合っているので良いと思う。
「そう言うのは口に出して言うのです。」
 灯に突っ込まれた、最早読まれている事には突っ込まない。
「二人とも良く似合ってる、奇麗だし可愛いと思う。」
「若干雑ですけど、二人一緒だとこうなるのはしょうがないですよね。」
 そんな事を言って居るが灯もエリスも嬉しそうだ。

「で、どれぐらい切るんです?」
 灯が鋏をジャキジャキ鳴らしながら構える。
「一分刈り坊主、3ミリ坊主が理想だけど、短ければ多少の虎刈りは問題無いよ。」
「スキンヘッドも有りですか?」
「俺は問題無い、その状態の俺の腕引いてそっちが平気だったら何でも。」
「じゃあ試して見ましょう、エリスちゃん、剃刀持って来て下さい。やっちゃいますよ。」
「はーい。」
 どうやら二人ともノリノリらしい。

 灯視点
 こうしてその気に成れば殺せる刃物持った状態で相手が無防備に目を閉じてるって何とも言えませんね。
 剃刀でゾリゾリと髪の毛を落としながら余計な事を考える。
 いや、そんな殺意なんて有りませんけど、気分的に。
「いや、流石にそう謎の殺気を出されると怖いんだが。」
 気付かれました?
「キノセイデスヨ。」
「流石に落ち着かないので。エリスに交代を願いする。」
 残念。まあしょうがないのでエリスちゃんに交代です。
 エリスちゃんは真面目な顔でゾリゾリと最後まで剃り上げ。
 結局、そのままツルツルのテカテカなスキンヘッドが出来上がりと。

「流石に寒いな・・」
 頭を撫でながら感想を言う。
「それだけ切ればそうなりますね。」
「んで、そっちから見て感想は?」
「違和感があんまり無いので普通。」
「あんまり変わりませんね。」
 二人ともほぼノーリアクションである、若干寂しい。
「まあ、剃髪のお楽しみは明日以降だな。」

 後日、若干伸びて来た髪のちょりちょりな感触が気に入ったらしく、暫く撫でられた。

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