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しおりを挟むアレクシス殿下からの、突然の求婚。
私は、すぐに返事をすることができなかった。
その日の夜、私は自室のベッドの中で、ずっと彼の言葉を反芻していた。
(妃に、なる……?私が?)
それは、まるで夢物語のようだった。
数ヶ月前まで、婚約破棄されることだけを望んでいた私が、隣国の王子から求婚されるなど。
翌日、私は兄のカイに相談した。
兄は、私の話を黙って聞いてくれた後、静かに言った。
「お前は、どうしたいんだ?ローズ」
「……分かりません」
「そうか。……なら、一つだけ、考えてみろ。アレクシス殿下の隣にいる自分を、想像できるか?そこで、お前は笑っていられるか?」
兄の言葉は、いつもシンプルで、的確だった。
(アレクシス殿下の、隣……)
私は、目を閉じて想像してみる。
彼の隣で、並んで歩く自分の姿。
彼と、他愛ない話をして、笑い合う自分の姿。
その光景は、不思議なほど、すんなりと心に浮かんだ。
そこには、何の偽りもない、心からの笑顔があった。
その時、私は、自分の本当の気持ちに気づいた。
私は、怖いのだ。
再び、誰かを信じ、愛することに、臆病になっている。
そして、幸せになることから、逃げようとしている。
(もう、逃げるのはやめましょう)
私は、強く決心した。
自分の幸せから、目を背けるのは、もうおしまい。
私は、私の人生を、私の足で歩いていくのだ。
その日の午後、私はアレクシス殿下を、辺境の丘が見える、見晴らしの良い場所へ案内した。
「殿下。先日のお話ですが」
私は、深呼吸をして、彼に向き直る。
アレクシス殿下は、緊張した面持ちで、私の言葉を待っていた。
「妃になる、というお話については、あまりにも大きなことで、今すぐにお答えすることはできません。ですが……」
私は、そこで一度言葉を切り、精一杯の勇気を出して、微笑んだ。
「あなたのことを、もっと知りたい、と。そう思っております。殿下さえよろしければ、少し、考えるお時間をいただけませんか?」
それは、肯定でも、否定でもない、曖昧な返事。
だが、その言葉に、私の前向きな気持ちを、全て込めた。
私の答えを聞いて、アレクシス殿下の顔が、ぱっと輝いた。
「……もちろんです!いくらでも、待ちますとも!」
彼は、子どものように、無邪気な笑顔を見せた。
その笑顔を見て、私の心も、晴れやかに澄み渡っていくのを感じた。
私の選択は、きっと間違ってはいない。
新しい未来への扉が、今、静かに開かれようとしていた。
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