婚約破棄されるまで黙っていればいいのね?

東山りえる

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アレクシス殿下の、真摯な申し出。
その言葉は、私の心に、大きな波紋を広げていた。

「……殿下」

私は、何と答えて良いか分からず、ただ彼の顔を見つめることしかできなかった。
私の返事を、彼は静かに待ってくれている。
その優しい眼差しが、かえって私の心を乱した。

「あなたの心が、まだ癒えていないことは、分かっています。急がせるつもりは、ありません」

アレクシス殿下は、私の戸惑いを察して、そう言ってくれた。

「ですが、私の気持ちだけは、はっきりと伝えておきたかったのです」

庭に咲く、白い花が、風に揺れている。
その花のように、私の心も、揺れていた。

(私に、その資格があるのだろうか)

アイゼン様との偽りの婚約。
多くの人を欺き、陥れた、私の過去。
そんな私が、隣国の王子である、彼の隣に立つ資格があるのだろうか。

「ローズ嬢」

アレクシス殿下が、私の手を、より一層強く握った。

「あなたは、何も間違ったことはしていない。あなたは、ただ、愛するものを守るために戦っただけだ。その手を、汚したなどと、決して思わないでください」

まるで、私の心の中を、全て見透かされているかのようだった。
私の不安も、ためらいも、彼は全て包み込んでくれるというのだろうか。

「私は、あなたの全てを、受け入れたい。あなたの過去も、その心の痛みも、全て含めて、あなたという人間を愛したいのです」

その言葉に、私の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
それは、悲しみの涙ではなかった。
長年、心の奥に溜まっていた、氷の塊が溶け出すような、温かい涙だった。

「もしよろしければ、我が国との友好の証として……そして、私個人の願いとして、私の妃になることを、考えてはいただけませんか」

交際の申し込みの、さらに先。
それは、明確な、求婚の言葉だった。

「……」

私は、言葉を失う。
予想もしていなかった展開に、頭が追いつかない。
だが、不思議と、嫌な気持ちはしなかった。
それどころか、心のどこかで、それを望んでいた自分に気づかされる。

彼の隣でなら、私は、新しい人生を歩めるのかもしれない。
偽りの仮面を被るのではなく、ありのままの私で、笑うことができるのかもしれない。
そんな、新しい予感が、私の胸に芽生え始めていた。
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