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しおりを挟む辺境で穏やかな日々を過ごし始めてから、一月ほどが経った頃。
屋敷に、一人の客人が訪れた。
隣国の王子、アレクシス・フォン・ヴァイス殿下だった。
「ようこそお越しくださいました、アレクシス殿下。辺境の地まで、はるばると」
父が、丁重に出迎える。
アレクシス殿下は、友好国の王子として、正式にティール辺境伯家を訪問したのだ。
「こちらこそ、突然の訪問をお許しいただきたい。どうしても、改めてお礼を申し上げたくて」
そう言って、アレクシス殿下は、私のことを見つめた。
その真っ直ぐな視線に、私の心臓が、少しだけ速く脈打つ。
応接間で、お茶を飲みながら、私たちは言葉を交わした。
ヴォルグ家から没収された賠償金の一部が、隣国であるヴァイス王国にも渡り、被害を受けた地域の復興に役立てられているという。
「全ては、ローズ嬢の勇気のおかげです」
アレクシス殿下は、改めて私に深く頭を下げた。
「滅相もございません。殿下のご協力がなければ、成し遂げられませんでした」
私も、慌てて頭を下げる。
そんな私たちを見て、父と兄は、意味ありげな笑みを浮かべていた。
やがて、父が「少し、庭を散策されてはいかがかな」と提案した。
それは、私たち二人に、話す時間を与えようという、親心なのだろう。
二人きりで、屋敷の庭を歩く。
辺境の庭は、王都のそれのように、計算され尽くした美しさはない。
だが、力強く咲き誇る、生命力に溢れた花々が、私には何よりも美しく思えた。
「ローズ嬢」
アレクシス殿下が、私の名前を呼んだ。
「はい、殿下」
「以前、お話ししたことを、覚えていらっしゃいますか?」
「……ええ」
この戦いが終わったら、個人的な関係を築きたい、と。
あの言葉を、忘れるはずがなかった。
「私は、今も、その気持ちに変わりはありません」
アレクシス殿下は、立ち止まると、私の手を取った。
その手は、温かくて、少しだけ震えているように感じられた。
「ローズ・ティール嬢。私は、あなたという女性を、心からお慕いしております。あなたの強さも、聡明さも、そして、時折見せる、その優しい笑顔も。全てを、愛おしく思います」
それは、あまりにも真摯で、心のこもった告白だった。
「もし、あなたさえよろしければ、私と、国と国との関係としてではなく……正式に、交際をしていただけませんか」
アイゼン様からの、偽りの愛の言葉とは、全く違う。
アレクシス殿下の言葉は、私の心の奥深くまで、温かく響き渡った。
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